“夢は二度目から”。活動休止~ソロ活動を経た風味堂が贈る
4年8ヵ月ぶりの復活と再生のアルバム『風味堂5~ぼくらのイス~』
長きにわたるバンド人生の素晴らしきリスタートを告げる
メンバー全員インタビュー&動画コメントが到着
『夢は二度目から』。アルバムの幕を開けるこのタイトルが、このバンドの今を全て物語っている。風味堂から4 年8ヵ月ぶりとなるアルバム、『風味堂5 ~ぼくらのイス~』が届いた。メンバーそれぞれがアーティストとして、プレイヤーとして、コンポーザーとして、そして、1人の人間として過ごした時間を経て生まれた今作に付けられたサブタイトルは、BEGIN の比嘉栄昇(vo&g)よりかけられた「アーティストにはそれぞれ他の誰にも座れない自分だけのイスがあって、そこに座り続けることがとても大切だ」という言葉に基づいている。メンバーも30代も半ば、毎年何百もの新人がデビューするこの世界において、若くはないのかもしれない。だが、この3人は再び夢を見ている。夢の形は変わっても、夢はなくならない。変わらずにいること、変わっていくこと、大切な痛みを抱いて、3人の長きにわたるバンド人生がリスタートした。
自分たちの中ではこうやってまた3人に戻ることは自然な形だった
――前作『風味堂4』(‘09)は、振り幅しかり、クオリティしかり、遊び心しかり、素晴らしいバランスで成り立つ意欲作だったと思うんですが、あれだけの作品が出来たにも関わらず、活動休止したところからまずは聞きたいなと。
渡(vo&p)「フルアルバムを4枚メジャーで出して、自分たちの持ってる引き出しとかアイデアを一度全部出し切った感じになって、このままだとマンネリ化してしまうというか。それで一度みんなソロになって、風味堂のメンバー以外の人と接して、新しいチャンネルを増やしていく期間を設けましょうと」
――『風味堂4』以前にもリリースがない年があって、中富(ds)さんは畑仕事をしたりと音楽自体から離れた時間があったにも関わらず、それでは足りなかった?
中富「そうですね。次に風味堂をやるときは、ちゃんと何かしらの成果を得た状態で戻るというプレッシャーがそれぞれあった中で離れるのとそうでないのとでは、やっぱりちょっと違うので」
――なるほど。1回目は風味堂ありきの休みで、今回はそれぞれがこの期間中に何かを得られなければその休みが長引くかもしれないし、もしかしたら二度と動かないかもしれない危険性もはらんでる。最初は、これはもしかして活動休止と言いながら事実上の…という“バンドあるある”のパターンかもって(笑)。
中富「あ~ありますよね(笑)」
――だからヘンな話、復活したときに“あ、本当の休止だったんだ”って(笑)。
渡「逆に意外な感じが(笑)。バンドって見せ方を時期によってちょっとずつ変えていったりとかしますけど、ソロもある意味その1つだったのかなと。でも、ソロを観に来るお客さんは基本的に風味堂のお客さんだったりするし、自分たちの中ではこうやってまた3人に戻ることは自然な形だったというか」
鳥口(b)「僕はこの間に主に力を入れたのは制作だったんですけど、自分もいちミュージシャンとして音楽を作りたい想いがあって。修行期間というか、すごくいい時間だったなと」
――離れたことで分かった風味堂みたいなことってありました?
鳥口「僕は風味堂がずっと頭の中にいるというよりかは、結構切り替わったんですよ。“自分のことをやらなきゃ”みたいなモードになったので」
中富「俺は実はソロになることを最後まで反対したんですよね。でも、みんながやるっていうその流れに乗ってみようって、どんどんサポートを始めたんですけど、蓋を開けてみたら、風味堂で得た経験が活きることもあれば、逆に全く使えないこともあって。今まではバンドだから許されてたけど、いちミュージシャンとしてはまだまだだったのに気付けたので。それをバンドに還元出来るのは、今となっては非常によかったなと」
渡「普通は弾き語りをマスターした後にバンドを組んだりすると思うんですけど、俺の場合はバンドが先でその後初めて弾き語りをしたので、極端な引き算だったというか(笑)。どうやって左手のフレーズを弾いていいか分からないとか、そういう基本的な部分からちゃんと勉強し直して。勉強って言ってもYouTube見たくらいですけど(笑)。そういうやっていろいろ研究していくと、1人でライブするのってすごく負担がかかるのに気付いて。MCもそうだし、アンサンブルもそう。その代わり歌はすぐ届く。なので、自分の個人的な想いを出していこうと。ただ、徐々に弾き語りのスタイルを作り上げていったとき、そう言えば風味堂の頃の自分ってどんな感じだったんだろう?って振り返るようになったというか。ソロ名義で出したアルバムは、技術的には申し分のないスタジオ・ミュージシャンとやらせてもらったんですけど、風味堂みたいなクセは出ないですよね。バンドっていうのはこういうことかと。技術とかそれだけではなくて、3人の音が混ざって、それは誰か他の人でもダメで。風味堂は、3人がいることによって生まれる化学変化がすごくうまく絡み合って成立していたんだなって、ソロになってようやく分かったというか」
――さっき中富さんが言っていたように、風味堂だから許されていたことがあったのと同時に、風味堂だからこそ鳴っていた音があったっていうことですよね。
やっぱり風味堂って、ライブでみんなが笑顔になるというか
暖かい空気でその場を包み込むというか
そこが自分たちの一番の持ち味なんじゃないかって
――それぞれの経験を経て再始動したとき、パッと感覚は戻ったもんですか?
渡「俺はソロの癖が抜けなくて。“あれ? どんな感じだっけな~”って思いながら徐々にって感じですね」
中富「確かに。久しぶりのライブのときに、ちょっとペースが違ったのを感じたんですね。入るタイミングとかって何となくの空気感で分かるもんなんですけど、そのペース配分が最初は掴めなかったというか。でも、それは渡さんが1人で背負ってきたからこその変化だと思うし」
――タイム感とかが変わるもんなんですね。
鳥口「やたらライブで喋るようになってましたね(笑)」
中富「そうそうそう(笑)」
渡「最初はMCが好きじゃなかったんですけど、1人でやってるとそうやって間を持たせなきゃいけなくなって(笑)」
中富「でも、逆に緩急の付け方というか、MCで砕けて、さっとバラード入るみたいな、そういうバランスは前よりは取りやすくなってきて」
鳥口「お客さんと一体になりやすくなったというか。セットリスト以上のことが出来るようになった感じですね」
――そう考えたら、みんながちゃんといろんなものを風味堂に持って帰って来れたんだなって実感しますよね。そして、アルバムとしては4年ぶりってなかなかの時間だと思いますけど。
鳥口「まずは’13年の正月明けの打ち合わせに、5曲ずつ書いてこいっていう指令があって。その5曲を元に打ち合わせを重ねる内に、アルバムの全体像とかテーマが徐々に決まっていった感じですね。そのやりとりがずっと続いて、気が付くと曲がたまっていたっていう」
――たどり着いたテーマって何だったんですか?
渡「やっぱり風味堂って、ライブでみんなが笑顔になるというか、暖かい空気でその場を包み込むというか…そこが自分たちの一番の持ち味なんじゃないかって。ものすごくアッパーに盛り上げるっていうことでもなく、ちょうどいいリズムで、みんなで手を叩きながら、一体感が生まれていくような。そういったイメージが何となく浮かんだというか。ライブに繋がる感じが大きいですね」
――みんなが求める風味堂じゃないですけど、そういうものが頭の片隅にあって応えようと思うのは、バンドが一周回ったからっていうのはありますよね。
渡「今までは自分たちがやりたいことだけやってきたと思うんですけど、お客さんも俺たちと同じように歳を取っていくから、歌詞の内容とかサウンドの好みも似てくるというか。誰もが聴いたことのないような実験的な曲というよりは、この曲だったら共有出来るんじゃないかっていう感覚。確かに一周して音楽への考え方が結構変わったというか、スッキリした気持ちですね」
出てくるフレーズにグッとくる。これがやっぱり風味堂だなって
――年月を重ねてきたことが歌詞からもすごく伝わってきて、30代ならではの詞の世界観がありますよね。『夢は二度目から』(M-1)『光の道』(M-3)『足跡の彼方へ』(M-10)とかは共通する想いというか、今の風味堂そのものだなという感じがしたんですけど。
渡「今回はアルバム単位でコンセプトを決めたので、何となくどのメッセージも重なってくるというか。今まではあるテーマで1曲歌詞を書いたら、次に書く曲は全然違うテーマでっていう衝動に駆られてたんですけど、そういうことが自分でもあまり気にならなくなっていて。同じテーマで違う曲調の曲を書くことが自分の中でだんだんOKになってくると、もっと細かいところに目がいくようになったんですね。例えば、同じテーマなんだけどこの部分を切り取ってますとか、ちょっと冷たいエッジのある部分を描きたいからこのオケでいこうみたいな。大ざっぱに書き過ぎていた部分を、もうちょっとだけクローズアップして書くようにはなりましたね」
――余分なこだわりがなくなってどんどんシンプルになっていくと同時に、大事なものが分かっていくというか。
渡「昔レコーディングの現場で苦労してたのって、例えばBメロからサビにいくときの間のフィルをどうしようとか、結構細かい部分が大きかったんですけど、今はもう少し音楽の全体像を見てる。それって同時に、“こういうフィルが欲しい”って言ったときに対応出来る引き出しが増えたおかげだなとも思います。昔よりもっとレベルの高い会話が出来るようになった分、曲はシンプルにまとまることが叶ったというか」
鳥口「今回は細かいことを要求されたイメージがないんですよ。好きにやって欲しいっていうシーンが結構多かった。それがすごく嬉しかったし、気持ちよく弾いたフレーズが採用されると愛着も沸くし、いろんなこだわりが取れているのが、渡さんと接していてもすごく伝わってきて。かっちゃん(中富)も、思いつくフレーズが前より面白いんですよね。それもレコーディングの楽しみの1つだったし」
中富「レコーディングのときもそうだし、スタジオでセッティングして、ウォーミングアップで5~10分くらい適当にセッションしてるときもそうなんですけど、出てくるフレーズにグッとくる。これがやっぱり風味堂だなって」
風味堂のエフェクターがかかるというか、ちゃんとバンドになるんですよね
――今回は『銀河鉄道』(M-4)『静かな夜の向こうへ』(M-7)と鳥口曲が2曲入っていて、そのどっちも夜の匂いがするのが面白いなと思ったんですけど。
鳥口「初の試みで手探りな状態ではあったんですけど、ちゃんと風味堂のサウンドになるもんだなって(笑)。それが不思議でもあったし。やっぱり渡さんの声が軸になって、さらに渡さんの手癖が入ればピアノも変わるし、かっちゃんにはかっちゃんの叩き方があって。風味堂のエフェクターがかかるというか、ちゃんとバンドになるんですよね」
中富「渡さんのソロって、渡さんが歌っているけどやっぱり風味堂っぽくはないんですよ」
渡「ソロ期間中もラジオ番組で週1くらいで顔は合わせていて、そこでいろんな人のカバーを生演奏でやってたんですけど、僕のソロの曲を3人でやってみたことがあって。そしたら、“この曲、風味堂で普通に出来るね”って(笑)」
――じゃあなんだこの期間は?っていう話ですよね(笑)。
渡「でもその時期にどんどんカバーをしたり、逆に僕のソロの曲に2人に入ってもらったりして、アレンジ力がすごく身に付いて。鳥くんの書いた曲が望んでるものも、アレンジでちゃんと示せるようになったのはあると思います」
――さっき話に出た『銀河鉄道』なんかはすごくアダルトで、風味堂がこれからいい歳のとり方をする、この先が見える曲のような気がして。
鳥口「ある鉄道会社のCMが流れたとき、頭の中にサビのメロディがふわっと浮かんだんですよね。それで“銀河鉄道”っていうワードが頭の中に入っちゃって。その夜空を飛んでいく感じが、人に伝えるときに想いが飛んでいくとか、メールを打つときに電波になって飛んでいく風景と重なって。だからすごくSFチックな曲なんです(笑)」
――“銀河鉄道”っていうワードを最初に考えた人って、すごいですよね。
渡「確かにロマンチック。いい言葉ですよね」
風味堂というスタイルに、もっともっとニーズが高まるように
――あとすごいなと思ったのが、『泣きたくなる夜に』(M-5)みたいな曲って、普通は何年かに1回生まれるかどうかのレベルの名曲なのに、風味堂って毎回これくらいの曲がアルバムに入ってる(笑)。
渡「あまりこういう曲を書き過ぎると軽くなっちゃう感じだよね(笑)」
――これだけスタンダードな曲を毎回書けるって、すごいことだと思いましたけどね。
渡「今回のアルバムの候補曲が全部揃ったとき、“もう1曲何か書いてみたら?”ってスタッフに言われて、出来ればやりますぐらいだったのに書けたんですよ(笑)。『めんたいぴりり』っていう福岡のドラマのタイアップもあって、地元への感謝の気持ちとか、故郷を静かに思い出して」
――これくらいの曲が毎回出てくるし、しかも多分苦もなく書いてる。すげぇな~って。
渡「いやいや(笑)。もう空っぽでしたよ」
――そこにこのバンドの息の長さみたいなものを感じましたね。風味堂もスタレビ(スターダスト・レビュー)先輩とかBEGIN先輩と同じような道のりに、もう片足突っ込んでるなって思いましたよ(笑)。
渡「俺らは大ブレイクするバンドっていうタイプじゃなくて、何かずっといるよね?みたいな感じが合ってるかなって思いますね(笑)。フェスでワーッと盛り上がってひと段落して、ちょうどいいリズムで現れる感じというか…風味堂というスタイルに、もっともっとニーズが高まるように頑張っていかなきゃなっていう気持ちですね」
――~ぼくらのイス~っていうサブタイトルは、BEGINの(比嘉)栄昇さんとの会話の中でもらった、「アーティストにはそれぞれ他の誰にも座れない自分だけのイスがあって、そこに座り続けることがとても大切だ」という言葉からきたということですよね。
渡「BEGINさんとは渋谷のBYGっていうお店でよく会ったりもしてたし、ちょうどこのお話を栄昇さんからしてもらったのは、BEGINさんの『うたの日コンサート』の打ち上げで。確かあの頃は、楽曲制作とかアルバムの準備でちょっと不安があったときで、“これからどういう風にやっていけばいいか、時々分からなくなるんですよね”って話して。 そしたら、“風味堂は風味堂にしか出来ないことをやってるんだから、それに自信を持って。ただ他のバンドにその席を奪われるなよ”って。以前も、“バンドっていうのは塊だけど、バンドの中で埋もれちゃうと、その世界の中でなぁなぁになるから。ボーカリストはどこか孤独じゃないとダメだよ”って言われて。すごくストイックで、追求出来ることをずっと探してる人なんだなっていうのを感じましたね」
――そうやって作り上げていった今回のアルバムが、出来上がったときはどう思いました?
中富「今回は嬉しかったよね」
渡「嬉しかった。ジャケットも全部出来上がって手渡されたとき、ちょっとグッときたというか。CDを出すことをどこかで当たり前に感じていたのかも。今までの中で一番嬉しかったな~。大事なものが出来たぞって。鳥くんの目なんて光ってたよね!」
鳥口「アハハ(笑)」
中富「この話になるよね、やっぱり(笑)」
鳥口「そう、涙が止まらなくなって。みんなで僕の家に集まって制作して…新しい試みおもしたけど、すごくバンドらしいというか。そうやって生まれたアルバムだったので、すごいグッときました」
――ブログにも“本当にいろいろあったけど、夢が1つ実現出来た”とありましたけど、これは何だったんです?
鳥口「それが、バンドでアルバムを出せたことなんです」
――まさに今言ったことですね…いろいろあったわけですね。
中富「ありましたね~」
渡「やっぱり不安もすごくあって、次にアルバムが出せるのはいつ頃になるんだろうっていう、現実的な裏側の事情がすごく大きくあって。ちゃんと形になってよかったなって」
中富「5年近くリリースも開いて、お客さんも期待してるし、バンドとしてもこれでクオリティが低かったらっていうプレッシャーもそれぞれにあった。メインで作る渡さんは特にあったと思うし、そういうものを乗り越えて、本当に自分たちがいいと思えるものがちゃんと出来た喜び。それもあって、すごく嬉しかったですね」
――そうか~そりゃあ泣きますね(笑)。
鳥口「アハハハハ(笑)」
中富「しかも渡さんがさらに泣かせようとするんですよね(笑)。いっぱい言葉をかけてね」
渡「やっと出来たね~って(笑)」
中富「鳥くんの曲が2曲入っとるね~って(笑)」
鳥口「その前にもう泣いてますから(笑)」
――今作に伴うツアーもあって。ここでまたお客さんにいい顔されたら泣きそう(笑)。
中富「そうですね。ファイナルとかはヤバい(笑)」
――これからの長いバンド人生を予感させる作品だったので、ライブも楽しみで。本日はありがとうございました!
渡&中富&鳥口「ありがとうございました~!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2014年2月21日更新)
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