苦悩と喜びを力に変えて――ネガとポジ、光と影が重なり合った
これが指田郁也のルーツ・ミュージック!
ツアーを前に2年越しの1stアルバム『しろくろ』を回顧する
インタビュー&動画コメントが到着
“100年に1人の癒しの声”を持つシンガーソングライター、指田郁也。これまでにデビュー曲『bird』をはじめ、ドラマ主題歌となった『花になれ』(NHK BS時代劇『陽だまりの樹』)や『バラッド』(TBS系金曜ドラマ『なるようになるさ。』)といった代表曲を世に送り出してきた彼が、'11年のデビューから約2年を経て、昨年10月には1stアルバム『しろくろ』をリリース。先のシングル曲によって印象づけたピアノを軸とした美メロとAORフレーバー香るナンバーはもちろん、涙腺を刺激する絶品バラード、ファンクテイストのアップチューン、一発録りで生々しく訴えかけるナンバーなどが収録され、指田郁也の意外性ある振り幅と心の深層部分に触れられる内容に驚かされる。ネガとポジ、光と影が重なり合った楽曲の世界観は、白と黒の月をモチーフとしたアルバムジャケットに象徴的だ。この1stアルバムを引っ提げ、1月13日(月・祝)より開催される初のバンド編成でのツアーも楽しみなところ。インタビューで「ステージから情念が溢れているようなボーカリストになるのが理想」と語った彼の本領は、ライブでさらに発揮されるだろう。
指田郁也が阪急電車etcについて熱く語る(笑)動画コメント!
――デビューから約2年になりますが、遂に1stアルバム『しろくろ』が完成しましたね。デビュー以降、心情の変化が大きかったそうですが、ここに至るまでにはどのような体験をされてきたのでしょうか?
「デビューするまでは自分の好きなように音楽を作って、それを淡々と歌う感じだったんですよ。ずっとライブハウスでピアノの弾き語りをしていたんですけど、デビューしたことによって人前で歌う機会が多くなったり、音楽番組に出させて頂くようになって、人目に触れたり、メディアの中でメジャーな音楽を作っていかなきゃいけないプレッシャーを一番感じました。ドラマの楽曲の書き下ろしもやったことがなかったし、テーマを与えられて書くなんて全然想像もしていなかったので、そういう“生み”の苦しさも感じました。タイアップ曲1つとってもいろんな方が関わってきて、いろんな意見が絡んでくる。そこに勝つためにはどうやってアプローチしていったらいいだろうとか。そういうことを通して戦い方を知ったし、だからこそ生まれてきた楽曲もあるので、いい経験になったかなと思います」
――音楽に向かう姿勢や、曲作りをする上で何か変わってきたことはありましたか。
「基本的な曲作りのやり方は変わってないですね。今も昔も、いろんな人の意見に流されてはいけないと思っているので、それはこれからも変わらないと思います。そういうところでちょっとでも妥協してしまったら、終わっちゃうと思うんです。自分から出てくる“これだ!”っていうものを信じて出すしかないので、そういう精神的な部分で強くなったと思います」
――ファンクやソウルのテイストを感じる楽曲もありますが、音楽的にはどういった種類のものを吸収されているんでしょうか。
「このアルバムに関しては僕のルーツになっている音楽を収録しているので。70~80年代のソウルやファンク、AORだったり、日本のシンガーソングライターたちからもすごく影響を受けているので、それを表現したつもりです。そういう意味で、僕のルーツ・ミュージックを感じてもらえるアルバムになっているんじゃないかなと思います」
万人に向けた歌より、その1人だけに向けた楽曲の方が
名曲が多い気がする
――『上り電車』(M-4)なんかは、“みんなのうた”に出てきそうなほど、ほのぼのとしたやさしい曲調ですよね。
「僕は電車がすごく好きなんですけど、この前の弾き語りツアーのセットリストに1曲も鉄道の曲がなかったので、ちょっと書いてみようかなって。これでいいのかなと思いつつも、意外と受けが良かったので。この曲は自分の実話ですね。元々おじいちゃんが電車が好きで、小さい頃は日曜になると電車でどこかに連れて行ってもらってたんです。僕はずっと下町に住んでいたので、ビルが見えるところに行くとすごくワクワクして、そういう原風景がこの曲の歌詞の元になっています」
――そうかと思えば、『真夜中のシンデレラ』(M-7)は恋愛依存症の女性のことを歌っているようなドキッとさせる内容ですが、こういった歌は以前から歌われていたんですか?
「いや、これが初めてですね。最近になって自分はこういうダークな歌詞が得意なんだって気付き始めておもしろくなってきたので、そこにエロ的な要素を合わせて作りました(笑)」
――歌詞に関しては自分自身のことを元に書くタイプですか?
「元々はそうだったんですけど、他人の話を聞いて歌詞を書くのが楽しくなっちゃって。『真夜中のシンデレラ』は知人に聞いた話を自分なりに解釈して作った楽曲です。最近は、知り合いのミュージシャンと飲みに行ったときも、おもしろいと思ったことをメモしたり、本を読んでインスピレーションを得たことを歌詞にすることもありますね。そういう方がリアルじゃない分、こういう発想もあるんだっていう言葉を歌詞で表せるので、ストーリーテラー風に書くことにハマってます。それと、自分が元々強く持っているダークなものとを、上手く融合して歌詞が書けたらなって。今後はそういう風になっていくんじゃないかと思います」
――『ロックスター☆』(M-10)みたいなアッパーな曲も書かれるんですね。この曲は特にハジけた明るい曲調で。
「ライブをやっていく内に、お客さんももっとノリの良い楽曲も聴きたいんじゃないかと思い始めて出来た曲です。ライブで盛り上がりたいとか、自分で作っていたリミッターをステージで破れるような楽曲を作りたいなって。暗い曲ばかり書いていたときのことを考えると、タイトルに☆を付けてしまうなんて…まずなかったですね(笑)。あとは『明日になれば』(M-11)や『music』(M-5)とかも、ライブを意識して作りましたね。逆に、本来の僕を反映してる曲は『嘘月』(M-12)です。自分が持っている暗い部分は良さでもあると思っているので、アルバムの最後には赤裸々な言葉で綴った、ピアノだけで歌った曲を入れたいなとずっと思っていたんですよ。でも、なかなか出来なくて、結局アルバムの最後のレコーディングになってしまいました」
――この『嘘月』は誰に向けて歌っているんですか。
「実は、僕が大学生のときに“歌手をやる!”と言ってからずっと応援してくれていた親友が亡くなったんです。でも、そういうエピソードを知らなくても“指田郁也ってこういう人間なんだ”とこの楽曲から感じ取ってもらえればいいなと思って、わざとアルバムの最後に持ってきました。亡くなった親友はこの曲を聴くことは出来ないけど、この曲を通して聴き手が何かを感じ取ってもらえたら、それが音楽の一番美しい形だと思います。万人に向けた歌より、アーティストがその1人だけに向けた楽曲の方が、名曲が多い気がするので」
――レコーディング時はどうでしたか?
「この楽曲だけ普通のレコーディングとは違って、プロデューサーにピアノを弾いてもらって、僕はボーカルだけに専念して、ワンテイクしか録っていないんです。だから、生々しさが伝わるんじゃないかと思います。こういう録り方をしたのは初めてですね。アルバムの最後に入れる楽曲は何曲か書いてたんですけど、なかなか納得いくものが出来なくて。他の曲は全曲録り終えてたんですけど、最後のレコーディング前日にやっと出来ました。その頃北海道にいて、よく行くお寺に夜に1人で歩いていったんです。その間にバーッと降りてきた曲ですね。僕は鼻歌で作曲するんですけど、ふとした瞬間に出来たりすることが本当に多くて…」
――鼻歌で作るのは意外な気もしますね。
「作り込むよりその方がいい曲になるんですよね。なので、想いを込めて出来た曲を最後に収録することによって1stアルバムの達成感を得られて、また1つ大事なものが出来たなって。自分の中ではかなり出し切ったと思っているので、いい感じに2nd、3rdアルバムに繋がってくれればと思います」
最初はみんなに“届ける”ことに必死だったんですけど
最近は相手の心に“残る”音楽を意識してライブをしています
――アルバム全曲を聴いて、こんなにも幅広いタイプの楽曲を書かれる方なんだなと驚かされました。
「昔だったらこういう楽曲たちは生まれていないと思います。デビューする前はネガティブで暗い楽曲のオンパレードというか、ライブも1曲目からものすごく暗く始まり、フィナーレまで暗いっていう(笑)。自分のそのときの精神状態を曲にぶつけていたようなところがあったので、言葉は悪いですが自慰行為というか、そういうライブを繰り返してて…。でもデビューしてからは僕自身のメンタルや性格が一番変わったと思います。いろんな人の意見を聞くようになったし、それを取り込んで曲を書くこともちょっと楽しめるようになった。ライブに来てくださるお客さんの顔が見えてきたので、この人たちに向かってこういう曲を書いたら楽しいんじゃないかとか…自分にお客さんが付いてくれたのはすごく大きい。“こういう曲が必要とされているんじゃないか?”と感じて出来た楽曲もあったりするので、ライブによってすごく成長出来たと思っています」
――指田さんはすごく澄んだ美しい声質ですが、曲の中には人間のダークな面や闇のような部分も入っていて、そういうところが『しろくろ』というタイトルに象徴されているようにも感じます。
「自分は、ポップスのように光のある楽曲は、影がないと書けないと思っているので、『しろくろ』というタイトルにはこだわりました。そもそも鍵盤にそういうイメージがあって。白鍵の場所は淀みのない音でレはレ、ミはミなんですけど、黒鍵の場所はその中間音が出る。その白と黒というハッキリとした分かれ方が、自分がピアノに惹かれる部分でもあるんです。黒鍵だけで作曲するとものすごく怪しい楽曲になるし、白鍵だけだと明るい楽曲になって。おもしろい楽器だなってずっと思ってますね。なので、鍵盤にちなんだタイトルにしたかったというのもあります」
――1月には、今回の1stアルバム『しろくろ』を引っさげての全国ツアー『指田郁也“しろくろ”しくよろ TOUR 2014』が始まりますね。今回はバンドでのツアーということですが。
「バンドでツアーをやるのは今回が初めてで、僕がボーカル&ピアノで、後はキーボード、ギター、ベース、ドラムという編成です。“バンドでの指田陏也ってこうなるんだ”っていうのをまず知ってもらえたらなと思います。やっぱり弾き語りだと動きが制限されてしまうんですけど、バンドになるとピアノから離れられるので、いろいろやってみようかなと。アルバムの曲を中心に収録していない曲も、原点でもある弾き語りもするので、今までライブに来てくださった方はもちろん、初めての人にもよかったと思ってもらえるライブにしたいですね。最初はみんなに“届ける”ことに必死だったんですけど、最近は相手の心に“残る”音楽を意識してライブをしています」
――ところで、“100年に1人の癒しの声”というキャッチコピーもありますが、指田さん自身は歌っているときに何かイメージしていることはありますか。
「1回1回出し切ることが、常に自分の中での目標です。元々歌が上手い人に惹かれないというか、どっちかと言うとその人の情念がステージから溢れてる人の方が好きなので。そういうボーカリストになるのが一番理想的ですね」
――ちなみに情念を出している人というと?
「昔からすごく好きで、尊敬しているのは尾崎豊さんです。リアルタイムで聴いたことははないですが、ライブ映像を見たときに、すごく言葉が刺さってきて。ライブを生で観たかったなと思いましたね。実は尾崎豊さんに関してあるエピソードがあるんですけど、僕が指田家のお墓参りに行ったとき、隣のお墓にたくさんお花が供えられているのを見てお父さんに聞いたら、なんと尾崎豊さんのお墓だったんですよ。住んでいたところも同じなので、そういった共通点があったなんて、おもしろいなと思います」
――それはすごい偶然というか、指田さんがデビューして音楽活動しているのは、ある種の宿命かもしれないですね。では最後に、今後に向けての抱負をお願いします。
「自分がそのときに思ったことを曲にして、今後もいろんな楽曲が生まれていくと思うので楽しみにしていて欲しいです。まずは生の歌声、パフォーマンスに触れて欲しいので、とにかくライブに来てください!」
Text by エイミー野中
(2014年1月10日更新)
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