あまちゃんスペシャル・ビッグバンド
大友良英インタビュー&動画コメントも!
間違いなく2013年のテレビ番組で一番の話題となった、NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」。このドラマに欠かせないあの音楽を手がけたのが、ミュージシャン大友良英。そして実際にドラマの楽曲の録音に参加したメンバーで構成される“大友良英あまちゃんスペシャル・ビッグバンド”が、現在、最初で最後の全国ツアーを敢行中だ。残すところは12月の東名阪3公演のみで、大阪は12月3日(火)グランキューブ大阪となる。このライブを控える大友良英に話を聞いた。
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ーーちょうど「あまちゃん」放映終了からツアーがはじまって、現在8公演を終えていますが、レコーディングと違ってライブを重ねてきてどう感じていますか。
大友良英(以下大友)「まずお客さんがいるだけでも全然違うんだけど、実際にライブで演奏してきて、改めてサントラのCDを聴いてみると、全然印象が違うんだよね。ライブ用に意図的にアレンジを変えてるわけでもないし、音源のほうもほぼ一発録りなんだけど、楽曲もライブのテンションになっていくっていうか。録音のときはほとんどその場ではじめて譜面を見て録音する感じだったしね。やっぱりライブを重ねることで演奏がこなれてくる部分もありますね」
ーー大友さんはこれまでも映画やドラマの劇伴を数多く手がけていますが、「あまちゃん」と他の劇伴との違いはなんでしたか。
大友「「あまちゃん」はとにかく人数が多いことと、生音にこだわったことですね。かつ、一発録りになるべく近い形でやりたいと。そして、個性の強い出演者が集まってドラマができていくように、バンドもたくさんの個性が集まった感じにしたかったんです。あと、普通の映画やドラマって、映像がほぼ出来上がってから音をつけるんだけど、今回のように半年も毎日続くものははじめてだったから、結構、同時進行なんですよ。脚本も完全にない状態で音をつくらなきゃいけなかったりして、ドラマの出演者と同じペースで走ってる感じが面白かったし、今までにない経験でした。映像に音楽をつける人って、なんというか一緒に作ってる感が薄いんだけど(笑)、今回はがっつり参加してドラマの一部になれた感じが嬉しかったなあ」
ーーあのオープニング曲などは、北三陸鉄道の列車が走っていく映像とリズムがピッタリで、映像ありきで曲を作ったような印象でしたが…
大友「そう見えるでしょ? でもこれは逆なんだよね。完全に曲が先で。あと、あの列車の感じっていうのは意識してて、僕は2012年の夏に実際に三陸鉄道(ドラマの北鉄のモデルとなった岩手県の鉄道)に乗ったんだけど、そこでこういう、のんびり田舎の列車が走っているようなビートにしようって思ったんです。それでこの曲は結構すんなり出来ましたね。しかもあのオープニングはね、最初はアニメーションになるって話もあったの。僕はアニメの絵が動いていくイメージで作ったから、この曲は結構“間”を残してるんですよ。でも結果的には実写になって、列車が走っている映像が出来たんです」
ーーそう思うとオープニング曲に導かれるようにドラマが出来ていったのかも知れないですね。
大友「そうだったら嬉しいですけどね。でも、実際に演出のスタッフから言われたのは、まずあの曲があったので、そこからドラマ作りのイメージが広がっていったって。レコーディングしたのはもっと後なんだけど、この曲のデモバージョンをみんなが聴きながら撮影に入っていったんだよね。あとスタッフ曰く、いろいろ企画書とか読んでもらっていろんな交渉をするよりも、いきなりこの曲を聴かせちゃったほうが、なんとなくどんなドラマになるかイメージしてもらえたみたいです」
ーー毎朝決まった時間に聴くという反復性とあのリズム感は、朝ドラのオープニング曲の重要性を示しているようにも思いました。ここ最近の朝ドラとしてはインストというのも新鮮でしたし。
大友「そうなんだよね。昔はずっとインストだったんだけど。やっぱ、言葉ってすごく強いじゃない。毎日観るドラマの冒頭で、あまり言葉でイメージを限定しすぎるのはよくないから、僕は最初からインストでやるつもりだったんです。このドラマは劇中でたくさん歌が出てくるし、スタッフもオープニングは歌じゃないほうがいいって言ってくれたんです。それですごくホっとしましたね。もし歌モノにしてくれって言われてたら…それでもなんとか説得してオープニングはインストでいったと思うな(笑)。「潮騒のメモリー」が出てくることも最初から決まってたからね。だから音楽の面でいうと、ちょうど去年の秋ごろの時点で“オープニング曲をどうするか”“潮騒のメモリーをどうするか”が一番の重要課題でした」
ーーすんなり出来たオープニング曲に対して「潮騒のメモリー」はどうでしたか。
大友「これはかなり難航しましたね。歌詞がまず宮藤(官九郎)さんからあがってきたんだけど、それを見て演出スタッフ全員ザワつきましたね。この歌詞で半年引っ張るのか…?って(笑)。で、この曲は86年に大ヒットした設定で薬師丸ひろ子さんが歌うってことで、80年代の角川映画の音楽を久々に聴き返しました。それで最初に書いたときはメジャー感のある明るいメロディだったんです。山下達郎さんとか、竹内まりやさんの曲に近い感じ。そしたら宮藤さんから「イメージ的にはもっと暗い感じで、高田みづえとか研ナオコみたいな…」って言われて。わりとスタッフ間でも意見が分かれて二転三転しましたね。結局締切りがズレ込んじゃって、今でもはっきり覚えてるんだけど、年末の紅白歌合戦やってる時間にデモ録って、年明けの真夜中に出来上がったんです。それをNHKで待機してくれてたスタッフに渡して…俺もそのスタッフも結局里帰りできなかった(笑)。すごくたいへんだったんだけど、「潮騒のメモリー」がうまくいったせいか、だんだん宮藤さんが調子乗ってきちゃって、どんどん急な注文が来るんですよ(笑)。そこから「暦の上ではディセンバー」「地元へ帰ろう」と次々に…」
ーー改めて「あまちゃん」というドラマの音楽を担当して、最後まで見終えて大友さん自身どんな感想を持ちましたか。
大友「やっぱり朝ドラは親孝行になると思ったよ(笑)。俺の音楽活動なんて親の世代には意味不明だろうし、名刺代わりに「あまちゃんの大友です」って言えば通じるしね。ライブでも各会場でメンバーの親や親戚が来てて、ああ朝ドラのパワーはやっぱ凄いなあって。あと、ドラマを見終えた感想としては、俺はあのラストシーンが大好きでね。2人が堤防を走るシーンは、オープニングの映像とも繋がっているよね。それがすごく嬉しかったし、ドラマとしてもすべて繋がって希望を感じられるものだったと思う。やっぱり震災のことは事実として観ているみんなの頭の中にも当然あるわけで、避けることはできなかったわけだから」
ーー震災を描いたドラマといえば、NHKドラマ「その街のこども」(※1)も大友さんが音楽担当で、演出は「あまちゃん」でも演出チーフを務められた井上(剛)さんですよね。
大友「そう、実は井上さんとは「その街のこども」の後も一緒に震災についてずっといろいろ考えてたんです。もちろんその時点で東日本大震災が起こるなんて想像もしなかったけどね。俺が「プロジェクトFUKUSHIMA!」(※2)の活動で福島にいるときも何度も来てくれて。実はそこであまちゃんのアイデアははじまってるんですよ。震災の年の夏ごろには、「宮藤さんの脚本と、大友さんの音楽で、東北を舞台にした朝ドラをやりたい」って言ってたんです。だから彼とこういう形でまた仕事ができたのは感慨深いですね」
ーーこういった様々な話を聞いてからだと、あまちゃんスペシャル・ビッグバンドのライブもより楽しめるかもしれませんね。
大友「このライブ、というか、あまちゃんスペシャル・ビッグバンドってもの自体、ツアーをやるのはこれが最初で最後だし、あと残り3公演ですからね。これでバンドも解散ということになるので、皆さんたっぷり楽しんで欲しいと思います」
※1
森山未來と佐藤江梨子主演で、阪神・淡路大震災15年特集ドラマとして2010年1月に放送された。大きな反響を得て映画版も製作された。第36回放送文化基金賞テレビドラマ番組部門本賞ほか多数受賞。
※2
福島出身/在住の音楽家と詩人を代表とし立ち上げられたプロジェクト。大友良英も代表のひとり。2012年にはこの活動が評価され、芸術選奨文部科学大臣賞芸術振興部門を受賞。
(2013年11月11日更新)
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