平凡な暮らしに息づく光と影を切り取ったキャリア初の2枚組
オリジナルアルバム『馬場俊英 LP1~キャンディー工場』
シンガーソングライターとしての底力と遊び心溢れる新作を
我らが工場長が語る、馬場俊英インタビュー&動画コメント
等身大のリアルな想い、苦悩、メッセージを託した世界観で、多くの共感を呼ぶシンガーソングライターの馬場俊英。あたたかな人柄がにじみ出る歌声、そして力強いサウンドは、デビューから17年を経ても変わらない。'11年から、尾崎豊ら多くのアーティストを手掛け、「言葉を大事にする」という名プロデューサー須藤晃と創作活動を行い、より共感度の高い楽曲を制作している。出来上がった曲を随時リリースするEPシリーズに続き、この10月には2枚組の大作となったニューアルバム『馬場俊英 LP1~キャンディー工場』をリリース。文字通り汗と涙の結晶とも言えるこの新作への思い入れ、そして現在挑んでいるアコースティックツアーを経て、12月21日(土)フェスティバルホールではバンドスタイルによるツアーファイナルが控えている彼に、ライブに対する想いも聞いてみた。
馬場俊英のええ声に聞き惚れる動画コメント!
――'13年はライブツアーの他に、春にベスト盤、10月にニューアルバム『馬場俊英LP1~キャンディー工場』とリリースも続きましたが、まず、今年1年を振り返っていかがでしたか?
「ベスト盤でひと区切りがありながら、ライブも春と秋と2回やって、夏はいろんなアーティストの方との出会いもあって。そういう面でも新しい試みがあって、チャレンジも出来た、折り返しポイントみたいな1年だったなと」
――そういうときに須藤晃さんとの制作が重なるわけですが、改めて須藤さんとの出会い、制作はいかがでした?
「出会いは'11年ですね。そこから一緒にやり始めて、そのときに、“自由にやった方がいい”って言われたんですよね。自由って言ってもまあ、誰に言われるわけでもなく今までも自分で曲を作ってきたし…なかなかどうすればいいのかなって。2年ぐらい一緒にやってきて、やりながらようやく分かってきたというか。それをまとめたのが今回のアルバムなんです。2年半ぐらいかけて『馬場俊英 LP1~キャンディー工場』を作ってきた中で、また新しい気持ちで曲作りが出来た。それが、ひと区切りで新たなスタートっていうことでもあるんですね」
――自由に作っていったというEPシリーズは、実際ご自身にとってどんな作品になったと思いますか?
「思ったことをすぐ曲にして、すぐリリースする…ホントにそうやってきたんですよ(笑)。でもね、須藤さん曰く、なるべく僕に時間を与えたくないんだって。時間を与えると作戦を練るだろ?って。失敗しないようにとか、ヘンにならないようにとか、恥をかかないようにとか、体裁を整えるような丁寧なものを作って出そうとする。それはそれでいいんだけど、散々やってきたと思うからって。ずっと1人で曲を作ってきて、自分の意見として発表して…大げさかもしれないですけど、言ったら責任を取るみたいなところがあって、ちょっと重圧感みたいなものがあったんです。でも、2人で作ったりすると、何となくその重圧感みたいなものが和らぐ感じもありましたね」
――テーマ的には、EPシリーズが『馬場俊英 LP1~キャンディー工場』につながっているということですよね?
「ええ。そして暮らしの中で感じること、思ったこと、見たり聴いたりしたことが、歌作り、モノ作りの出発点になっていると思うんですよね。自然に暮らしている中で歌が生まれてきて、景色が歌われている。そういう中にある感動とか、喜怒哀楽だったり」
――曲作りのアプローチ自体には変化がありましたか?
「レコーディングの作業は、基本的にはライブなんですね。その場で生まれるものをすごく大事にするし、練習とか準備はしっかりするんですけれども、“よし、やろう!”っていうときには、パッと録る。そうじゃないと、初期衝動みたいなものがだんだん薄れていくと須藤さんがおっしゃって。デモテープだって、例えば音程が良くないとか、何かが足りなくても、歌いたい、伝えたい想いでバっと録ったときの方が、そこには“何か”があるわけだから、そういうものがなるべく残るようにしていこうよって。僕はついしっかりやりたくなるんですよね(笑)。でも、須藤さんの言うことも確かにそうで、そういうセオリーみたいなものに囚われてしまうこともあるなって。それでね、何だか高校生の頃の気持ちに戻れたんですよ。例えば夜1人で曲を作って、翌朝8時くらいに“昨日の曲いいよね、最高だよね!”って興奮する。大人になるとそういうことってないですよね(笑)。なんか…ちょっとそういうのっていいなって思ったんですよね。そういうところでも、すごく影響を受けましたね」
僕も17年くらいやってきて、
いつも使う熱い部分と、使わなくなった冷たい部分、
そういうものをかき混ぜて出来たようなアルバムだから
――今回は2枚組ですが、SIDE 1、2の割り振り、選曲の基準は?
「まず、“平凡な街”というイメージがあって、1枚がそこから見える空、そしてもう1枚がそこにある大地ということで分けたんですけれども、そういう空とか大地とか大きな存在に対して、我々1人1人は小さな存在だっていうのがあって。大きな存在と人っていう対比で、SIDE 1には“この街の石ころ”、SIDE 2には“この街の青空”というサブタイトルを付けて、ストーリーを考えましたね。曲調もいろいろ混じっていますが、“この街の石ころ”の方がストリートっぽいかな。“この街の青空”の方はちょっと精神的というか」
――基本は須藤さんとのセッション形式の制作の中で、KANさんや佐藤竹善さんらとのコラボも実現しています。
「“デュエットもの”に憧れがあって。男同士だと、ジェームス・テイラーとJ.D.サウザーみたいなことが、やりたかったんですよね。今回は2人とも先輩なんで、レコーディングに来て頂いたときには緊張しましたね。竹善さんとはライブでもよくご一緒してますけど、いろいろアイデアを出して頂いて、“どうしましょう?”って聞くと、“そりゃ、馬場っちのCDなんだから、自分で決めなよ”って(笑)。そんなやりとりをしながらだったんですが、楽しかったですね。KANさんは、ずっと僕がファンだったんですよね。こちらもいろいろやって頂いて楽しかったですね。楽器と絡むことはありましたけど、声が絡むことが今までなかったので、曲を表現していく中で、声ってやっぱり全然違うなと思いましたね。次は、女性ともアリかな(笑)」
――そうやって出来上がったアルバムは、改めてご自身でどんな作品集になったと思いますか?
「作ったときは自分でも一歩踏み出した感じなんですけれども、出来上がった後もちょっと試練が待っていて…。もっとこうしておけばよかったかなっていうことが、結果として今まで以上にあるんですよね(笑)。ただ、そういう自分を“見せられるようになった”ことも確かで、嬉しい反面、ドキドキする(笑)。作品自体は本当に、“かき混ぜた”っていう感じですね。僕らの子供の頃のお風呂って沸かしてたじゃないですか。下の方は冷たくって、上の方が熱かったりしたでしょ。あんな感じで、僕も17年くらいやってきて、いつも使う熱い部分と、使わなくなった冷たい部分、そういうものをかき混ぜて出来たようなアルバムだから。通るべくして通った感じがして、今後がまた楽しみですよね。僕らは今40代ですけれども、上の世代が50代に突入してきて、一番上だと小田和正さんとかそういう世代で60代ですよね。もっともっとポップスやロックミュージシャンが年齢を重ねていくでしょう。少年性みたいなものは永遠だと思うんですけれども、50代くらいのロックンロールがまた生まれてくるんじゃないかと思うんですよね。僕も自分なりのスタンスでいろんなことを歌にしていって、そこがちゃんと作品になるのか。今回のアルバムを作ったことで、これからもそうやっていければいいなと思えたんです」
――そういうことで言えば、今回のアルバム自体は、その名の通り、いろんな味のキャンディーが詰まってますね。
「そうですね、まさにそんな感じです。いろんな曲調の曲があるので、一気に聴くと時間が掛かるんで、うまく聴いて欲しいなと(笑)」
ライブは…同じことを毎回やってるようで、1回1回違うもの
――そして、このアルバムをリリースして“工場見学”と銘打ったライブツアーも始まりました。アコースティックスタイルと、バンドスタイルとの2パターンですね。
「必然的に新しいアルバムを中心としたライブにはなるんですが、“工場見学”と名付けているのは、音楽が生まれるファクトリーに見学に来てくださいってことで。弾き語りを中心としたアコースティックスタイルはフットワーク軽くいろんなところへ行けるので、なるべく新規開拓をと思って臨んでます。皆さんにライブに来てもらうことも考え方としてはあるんですが、住んでいる街に行ってライブをするのはまた違いますからね。バンドスタイルに関しては、実は今回から新しいバンドになって、久しぶりに20代の子がいるんですよ。気が付いたら40~50代で固まってたなって(笑)。20代がいるとね、やっぱりいいですよね(笑)。新しいメンバーなんで、同じ曲でもやっぱり全然感覚が違うんで。年末のツアーでもありますし、1年の締め括りとして、みんなで楽しめたらいいなと思います」
――改めてお聞きしますが、キャリアを重ねてきて、ライブの魅力をどう捉えていますか?
「ライブは…同じことを毎回やってるようで、1回1回違うもの。音楽活動ということでいうと、曲を作ったり、CDを作っても、自分のやってることが何かまだよく分からないことがあるんですよ。それがライブをして、実際に歌って、反響みたいなものを聞くと、“ああ、こういうことなのか”って…自分の職業を理解出来るというか。曲自体の良いか悪いかっていうのは自分では分からないけど、意義のある曲だとか、力のある曲だっていうのはやっぱり、お客さんが教えてくれることだなと」
――それでは最後に、ぴあ関西版WEBの読者の方々にぜひメッセージをお願いします。
「今回も僕が暮らしの中で思ったこと、感じたことから曲が出来ているので。久しぶりに友達から電話が掛かってきて、“最近こんなことがあったよ”って、中には青臭かったり、くだらなかったり、いろんな話をしたときに、何となく力をもらったとか、元気になったとか…そういう会話みたいなものが今回のアルバムになっていると思ったんですね。友だちと電話するような気持ちで聴いてもらえればと思います。そして、ライブ。何をやっても自由な場所ですし、ぜひ遊びに来てください!!」
Text by 金本真一
(2013年11月 8日更新)
Check