違和感に対する責任を取っていく――クリープハイプの宣戦布告なる
確信と自信の2ndアルバム『吹き零れる程のI、哀、愛』!
音楽を諦められなかった男・尾崎世界観(vo&g)の
12年目の現在地に迫る撮り下ろしインタビュー&動画コメント
資生堂アネッサ2013CMソングとして大量オンエアされた最新シングル『憂、燦々(ゆう、さんさん)』をはじめ、『社会の窓』『おやすみ泣き声、さよなら歌姫』とメジャーデビュー以来リリースしてきたシングルは3作連続でオリコン・ウィークリーチャートTOP10入り。全国ツアーを行えば全公演ソールドアウト、全国各地のロックフェスにも参戦…なんて抜きん出た成果を聞けば、メジャーデビューから1年のロックバンドとしては、もはや申し分のない活動と言えるだろう。だが、この輝ける1年は、このバンドの歴史の僅か12分の1であり、バンドという天国と地獄のマラソンレースを走り続けた先に、ようやく見えた景色でもある。耳を貫くハイトーンボイスと、センセーショナルな言葉のチョイスが活きた巧みなソングライティングでオーディエンスをロックオンするクリープハイプの、1つの到達点となる2ndアルバム『吹き零れる程のI、哀、愛』。先日大阪で行われた『OTODAMA’13~音泉魂~』で、居並ぶ歴戦のライブバンドの中で会場を沸かせられたのは、決して一過性のバンドのそれではない。10月11日(金)横浜より、同作を引っ提げた全国ツアー『秋、零れる程のクリープハイプ』をスタートさせるバンドのフロントマン・尾崎世界観(vo&g)に問う。苛立ちも弱さもブレイクスルーして、オーディエンスの期待と大いなる違和感という名の武器を手に、闘争の季節へと向かう12年目の現在地に迫るインタビュー。
尾崎世界観(vo&g)がアルバムとライブを語る動画コメント!
バンドをやってても上手くいかなくて、イヤなことばっかりだったんですよ
――まずは振り返って、CMソングとしての『憂、燦々』(M-4)の反響は実際のところどうだったのかなと。
「今までは音楽好きだけを相手にしてたんですけど、そうじゃない人の耳にも勝手に飛び込んでいくということになって。でも、やっぱりそういう人たちを振り向かせるには、まだまだやることがあるなとも思ったんで、そう考えたら良かったかなって。もっと頑張らないとなって思えたんで。やっぱり上がドンドン見えてくるというか」
――でもそれって、自分たちが一段一段階段を登ってきたからこそ感じることというか。楽曲もCMありきで普段とは違う作り方をしたと思うんですけど。
「今までは自分のためだけに曲を作ってたんですけど、初めてそういう作り方をして。今後の自分の音楽活動においては大事なことだったと思いますね。やっぱり自分のためだけにしか作れないんじゃないかと思ってたんで。誰かのことを思うことはあっても、結局は自分のためにずっと曲を書いてきた中で、こういう大きな話を決めてくれた人に恩返しをしたいっていう気持ちで取り組んだのは初めてだったんで。この曲が出来たことによって、今後はいろいろやれるなぁと思いましたね」
――最初から“憂、燦々”というフレーズ指定だったらしいですけど、これはなかなかのお題ですよね。
「もう終わったと思いましたね(笑)」
――でもそれを乗り越えて(笑)。
「でもよくよく考えたら、今まではお客さんが入らないとか、お金が足りないとか、そういうことで悩んでたけど、CMソングの歌詞で悩めるなんてすごく幸せなことだなぁって。バンドをやってても上手くいかなくて、イヤなことばっかりだったんですよ。だから、苦しかったですけど楽しみながら、幸せだなぁと思いながら作ってました」
――CMソング云々は抜きにしても、この楽曲自体にスゴくパワーがあるというか。音像も立体的だし、心地よいテンポ感とか浮遊感があって、ちゃんと重さもある。大衆とバンドをつなぐスゴく親和性のある曲になりましたよね。
ヘンなモノを取り込んでも、ちゃんと吐き出して成立させる
――2ndアルバムの制作はいつから想定して動いてたんですか? まぁ全部同時進行みたいな感じやと思うけど。
「まさにそうなんですよね。もうグチャグチャ。『憂、燦々』を作った後に、もう1枚シングルを出そうって『社会の窓』(M-7)を作ったりとか。リリースの時間軸は逆ですけど」
――『憂、燦々』のカウンターとして作ったけど、出すのは先みたいなね。
「でも何か、常にアルバムは意識してましたね。シングル曲を作るのってすごく刺激的な作業なんですよ。シングルを出すっていうことに、ずっと憧れてたし。何となく目的地は決まってるけど、その途中にすごくいい景色とかがあったらそれを覚えておくような感じで曲を作っていった中で、アルバムが出来ていった感じですね」
――昔はやっぱりシングル、シングル、アルバム、ツアーみたいなサイクルが、ある種アーティストとしての全うな流れというかね。でも今って、なかなかシングルなんて出せない。音楽が元気な時代のスパンで活動出来ているのも、嬉しいですよね。
「嬉しいですよね。自分が好きだったアーティストは、そうやってシングル3枚ぐらい出してアルバムっていう」
――このカップリングはアルバムに入んのかな? 入んないのかな?みたいなね(笑)。
「そうです(笑)。今の時代にそれって珍しいケースかもしれないけど、自分の中では当たり前のことというか。でもメジャーに行くときは、アルバムしか出せないだろうなって内心思ってたんで、すごく嬉しいですね」
――しかもちゃんとそこに対してリアクションがあって。クリープハイプって100人聴いて100人がYesと言うバンドじゃないかもしれないけど、そういう自分たちがちゃんとシングルを切れて、それを支持する人がいて、シーンの中で戦える位置にいるというのは、とてもやり甲斐のあることというか。この1年は順風満帆に見えるけど、真っ只中にいて感じることはありました?
「常にそうですけど、リリースの直前ってすごく不安で。まだまだだとは思ってますけど、『社会の窓』に思った以上のリアクションが返ってきたときは、すごく楽になりましたね。1枚目のシングル『おやすみ泣き声、さよなら歌姫』('12)を出すぐらいまでは、毎回今まで聴いてくれてた人と新しく耳にする人との反応にギャップがあって、結構キツかった。僕は細かいことを気にするんで一気に全部しようとして、それで迷ったりはしましたけど、そういうモノがちゃんと作品になって、『社会の窓』になって…ヘンなモノを取り込んでも、ちゃんと吐き出して成立させる。この1年で、ちゃんとこれからもやっていけるやり方が見付けられましたね」
――そう考えたらやっぱり『社会の窓』は重要な曲ですね。そこでも明確に描かれてるけど、何ででしょうね、バンドが売れると寂しくなる感覚っていうのは。
「そうなんですよね。だから分からないモノを歌にしました(笑)」
――でも今までそれを歌にしたヤツはいなかったですよね。さっき言った手法じゃないですけど、自分たちが感じたこともイヤなことも全部、歌に還元出来るパワーがあれば何でも受け入れられるというか、立ち向かえますよね。
「そうなんですよね。もうこれをやったことによって…まぁ今でもやっぱり気にしますし、クソーッて思うことも引っ張ってますけど。そしたら『社会の窓2』を作ろうかな(笑)」
――アハハハハ!(笑) 最初に聴いたとき、この曲はある種の発明だなって思いましたもん。そうか、でもやっぱり、クソーッと思うことはまだまだあるわけですね。
「ありますね~。自分からそういうところに突っ掛かっていく性格なんで。しょうがないですね、これは」
辞められなかったんですよね、ずーっと
――前作『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』(‘12)は、結果も含めてみんなに支持されたアルバムだったと思うんですけど、今作の製作的に何か明確な指針はありました?
「やっぱりシングル曲という軸があるのが初めてだったので、やりやすかったですね。もう柱が立っている状態に足していけばいいんで、落ち着いて作れましたね。前作はそれがない分、手探りで必死にやってる感じがよかったと思うんですけど、どこかで自分たちが今まで探してきたものを一回落ち着かせたい気持ちはあって。今回はやっと地に足付けて作れたので。安心してこれからダメになっていくかもしれないですけど(笑)、ホントに充実して作れた。そういう風に活動出来たことが今までなかったんですよ。12年ぐらいこのバンドやってるんですけど、やっぱり常に不安だったし、もうそろそろいいだろうと(笑)。12年ってちょっと区切りがいいというか、あれだけ苦しんだから、まぁ製作期間の3ヵ月ぐらいはこういう気持ちでやれてもいいよなぁって。だからと言って尖っていないわけじゃなくて、安心しながらスゴい尖ってる。今までは何にもない中でとりあえず突っ込んでいってたんですけど、相手を倒せる確信があってそこに向かっていったのは初めてだった。音楽っていうものの首根っこをしっかり捕まえながらやってた感じがする」
――好きな音楽をやってるはずなのに、常に不安がつきまとうっていうところから、初めて不安云々じゃなくて自分の音楽で勝負するところに来れたのかもしれないね。
「それはやっぱり、嬉しかったですね」
――よく辞めなかったね。
「辞められなかったんですよね、ずーっと。何回も辞めようと思ってたし、やってたってしょうがないってずっと思ってたんですけど。信念を貫いて続けてきたとかそんなカッコいいものでもなくて、辞められなかったっていうのがすごいありましたね。他に何かやること、出来ることもないし…結構面倒くさがりなんで、またイチからやるのがっていう(笑)。本とかを読んでて途中でこれつまんないなぁって思っても、せっかくここまで読んだからなぁっていう感じにちょっと似てますね。でも辞められない。ここで辞めたら全部無駄になるから、もうちょっとやってみようみたいな。すごく苦しんでましたし、周りに辞めていく人もいっぱいいたけど、逆にすごいなぁって尊敬するというか。やっぱり辞めるっていうこともすごく大変だなって思ってたんで」
――バンドマンって案外、俺らみたいに音楽に関わる仕事をギリギリ出来てるヤツらより、スパッとちゃんとした仕事に就いたりするもんね。それで言ったら尾崎くんは、辞められなかったというか、辞めなかったというか。でも、辞めてたら今の景色もなかったし、音楽やったって別に報われないんだって思ってたかもしれないけど、続けてたら万が一でもこういうことが起きる。これを知らずに終わってたかもしれないと思うと。
「でもそれぐらい今は満たされています。やっててよかったなぁって僕は思ってます。でもまた、なよった意識が来ると思いますけど。それの繰り返しだと思うんです」
――ちょっとずつ報われてきて、大事なものが出来てきた1年だったんじゃない?
「今までは戦って穫っていくだけでよかったんですけど、この1年で守るべきもの、手放したくないものがやっぱり増えてきましたね。具体的な数字も、人とのつながりもそうだし、常にこの位置にいないとつながっていけない人も増えてきてる。仕事でつながってるわけだから。そういうのも含めて、手放したくないものが多くなりましたね」
――歌詞を見ていても、素晴らしい出会いがありつつ、同時にそれをなくす怖さみたいなものを感じますね。
「それはすごくありますね。今までは持ってない怖さだったんですけど、あればあったでそれがなくなる怖さが。結局怖いんであんまり変わんないんですけど(笑)」
冷めてる自分を、僕はすごく信頼してる
――今回収録されている楽曲が出来た時期はここ1年? 『NE-TAXI』(M-8)とか昔の曲も収録されていますが。
「『マルコ』(M-5)も昔からありました。でも、あとはもうほとんどが去年から今年ですね」
――でも、『マルコ』なんかは昔からあったと言いながら、スゴく新鮮に響きますね。これは尾崎家の飼い犬の歌ということで。
「これはバンドでなかなかまとまらなかった曲で、今回やっとレコーディング出来て。それはバンドがちょっと成長したというか、懐が深くなったから出来たと思ってるんで、もう新曲みたいなもんですね」
――『さっきはごめんね、ありがとう』(M-10)とかも、この明るさは新しいなって。この曲なんかも戻ってくる場所というか、大切なものを感じさせる曲ですよね。ただ、大事なものってなくならないと結構分かんなかったり。
「今まではなくなって気付いた、遅かったみたいなことばっか歌ってましたけど、なくなる前のことをちょっと歌い始めたかもしれない。ちょっとずつ照れずに言えるようになってきたのかもしれないですね、そういうことが」
――バンドの成長という発言がさっきもありましたけど、小川くんのギターのフレージングがすごくいいですね。やっぱいいロックバンドにはいいギタリストがいるんだなって。
「ま、そこはカットしといてください(笑)」
(一同笑)
――何でや!(笑) 載せたんねん!(笑)
「アハハハハ(笑)」
――だから『憂、燦々』もギターが肝というか、楽曲の奥行きを出すのに役立ってる。ただのポップソングでは終わらせないというか。
「いろんなフレーズを考えるんですけど、やっぱりやり過ぎちゃったりして、僕はいつもうるさいって怒るんですけど(笑)。プロデューサーの浅田信一(ex.SMILE)さんがそういうのをちゃんと整理してくれたりしてたんで。シングルでそういうことをやっていく中で、彼も何となくいい場所が分かったのかもしれないですね」
――あと、そもそも尾崎くんの歌詞ってフィクション/ノンフィクションで言うとどっちが多いんですか? 自分が体験したことしか書けないみたいなタイプもいるし。
「曲が少しでも面白くなるなら、いくらでもあることないこと書くし、どっちもありますね。自分が書いてる言葉だから、そんなに気にしてはなくて」
――尾崎くんは渦中にいてもちょっと自分を引いて見てしまうとのことだけど、何でなんでしょうね、その感覚は。
「それは常にありますね。すごく冷めてるところがあるんです。自分をバカにしてるというか。人に、社会でもそうですけど、知らないヤツに言われるんなら自分で言う、バカにされるんだったら自分で笑うというか。今でも常に、“実際こんなこと思ってるかなぁ? 何言ってるんだよ”って思う自分もいるんですよ。口から出てくる言葉だけど、正直よく分かんないです。でも、自分から出てくるものをやっぱり信用していくしかない。何か不思議な感覚でやってますね。でも、そういう冷めてる自分を、僕はすごく信頼してるんで。それがある内は大丈夫だなぁと思ってるんですよね」
この世になくて自分が聴きたい曲を作ってる
――尾崎くんって違和感を含めてその曲がいかに残るかを常に注視してるけど、そこへの並々ならぬ執着はどこからきてるんかな?
「何ですかねぇ…やっぱり、自分がそういう音楽が好きだからと思います。自分でいいと思う曲はそういう曲だから、やっぱり自然とそういう曲を作りたくなるし。どうせやるなら、何かヘンなものじゃなきゃ、うわぁ~って思わせないと意味がないなっていうのはありますね。でも、優しい曲というか、さっき言ってもらったような、そうじゃない曲も出てきてる。守るべきものがあるとか…ちょっと変わってきてるとは思いますね」
――今までの話を聞いてたら、レコーディングも苦労というよりは充実感の方が勝る感じですね。
「そうですね。ホント早かったんですよね、レコーディングは。ホントは苦労したとか言いたいんですけど(笑)、今回に関しては全くないです」
――今作が出来上がったときは何か思いました?
「単純にスゴくいいなぁって。やっぱりこの世になくて自分が聴きたい曲を作ってるんで。何回も聴きましたね」
――アーティストによっては、レコーディングが終わったらもう聴きたくないって人もいるもんね。あとで、“あ、こうしたらよかった”って思っちゃうみたいなね。
「それもありますね。あるんですけど、そう思うところを何回も聴きましたね。それすら好きになるように(笑)。もう直りはしないんですけど何回も聴いて、それがいいと思えるようにしようっていうぐらい、100%好きになりたいと思ったCDだったんで。やっぱり作ってから発売日まで時間があるじゃないですか。それってしょうがないことなんですけど、やっぱり邪魔な期間なんですよ。タダで一気に配信する人も最近いたりしますけど」
――タイムラグなしでね。
「そういう気持ちはすごく分かる。でもそれはする気はないし。でも、発売日を楽しみに待っててくれた人と同じぐらい、自分で聴いていいなって思えるCDを作るのが目標なんですよ」
――なるほど。そこに関しては同じ感覚でいたいってことやね。
「同じ感動をね。だからそれぐらいの作品を作りたい。やっぱり自分が好きじゃなきゃ、人に伝わらないと思うんで。今回は今まで以上にそれを思いましたね」
チャートの中にも違和感みたいなものを与えたい
――あと、『吹き零れる程のI、哀、愛』っていうのも、これまたどういうことや?っていうタイトルですけど(笑)。
「ふと思い浮かんだことなんですけど、お鍋が吹きこぼれるイメージというか、そのお鍋の中にあるのが、自分っていうものと、哀しみと、愛。この3つが自分の中ではやっぱり大きいんで。だいぶ前に思い付いた言葉なんですけど、これは絶対に2ndアルバムのタイトルにしようと思ってて。今までリリースした作品は完成してからタイトルを決めてたんで、初めてですね。先に決まっていたのは」
――そう考えたら生まれるべくして生まれた感じはしますね。
「最初に言った目的地が分かってたっていうのは、アルバムのタイトルが決まってたことも何か関係してるのかもしれないなぁって思いましたね、今」
――ライブに関しても各地でソールドアウトが続いて、スゴくいい状況にあってね。何か近しい目標はあります?
「うーん…やっぱりいつかチャートのTOP3とかに入りたいですね。ここまで来たらロックバンドとしてどこまで掻き回せるかっていう。そういう勝負を挑める権利があるんだなぁって思うと、やっぱりすごく嬉しいですね。自分でもドキドキするし、“何だコイツら? 何でこんなバンドがここにいるんだ?”って思われたいんですよ。何でいるのかは後から分からせていけばいいことなので。チャートの中にもさっき言った違和感みたいなものを与えたいし。それに対する責任をちゃんと取っていくのが、ライブとかリリースだと思うんで。ここからちょっと頑張っていきたいなと思ってます」
――なるほど。インタビューでもよく話すんですけど、10年続くことは、その人に向いているらしいですよ。
「へぇ~」
――人間って何をしても、趣味でも友達関係でも仕事でも、なかなか10年は続かない。だからそれが続くということは、何かしらの縁とか適正があるってことみたいで。クリープハイプはもう、十分に超えてますからね。
「超えてますね」
――クリープハイプの行く末を楽しみにしていますよ。本日はありがとうございました!
「ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
Photo by 渡邉一生(SLOT PHOTOGRAPHIC)
(2013年9月15日更新)
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