雅楽×クラシックが生み出す夢幻のファンタジー
2人の革命児による恒例の全国ツアー、今年のゲストはcoba!
感性の爆発を繰り返すK点越えツアー真っ最中の
東儀秀樹×古澤巌がその醍醐味を語るインタビュー&動画コメント
奈良時代から今日まで1400年間雅楽を世襲してきた楽家に生まれ、ロック、クラッシック、ジャズ等あらゆるジャンルを篳篥(ひちりき)を手にクロスオーバーする雅楽師・東儀秀樹。べストドレッサー賞の受賞歴もあるクール・ジェントルな佇まいに、確かな技術と熱い情熱を秘めたヴァイオリニスト・古澤巌。異なるフィールドで活躍する2人の“革命児”が運命的な邂逅を遂げ’09年よりスタートした全国ツアーは、その2人の研ぎ澄まされた感性と高度なテクニックが時にぶつかり合い、時に寄り添い合い、夢限の音世界を作り出してきた。そして、昨年は津軽三味線奏者の上妻宏光をゲストに迎え、新たな刺激と発見をツアーにもたらした彼らが、今年のゲストに選んだのは、世界を股に駆ける情熱のアコーディオニスト・coba! 各地で奇跡の共演を繰り返すツアーの首謀者である東儀秀樹と古澤巌に、長年の戦友であるお互いへの率直な想いや、今回のツアーへと至る道のりを訊いた。
リラックスした東儀&古澤の2人からの動画コメントはコチラ!
――まずはですね、この2人で全国規模のコンサートを’09年から重ねてきた成熟度であったり、この2人ならではの面白さをどう感じられてます?
東儀「全国ツアーが’09年からというだけで、古澤さんとはもう16~17年前から一緒にやってるんで、阿吽の呼吸とはまさにこういうことなんだなって僕には感じられていて。篳篥(ひちりき)とヴァイオリンとか、雅楽とクラシックって全然違うジャンルのモノだけど、何の違和感もなくいられるのはかなり珍しいと思うんですね。“篳篥とヴァイオリンって合うんですね”ってコンサートに来る人みんなが言うんだけれど、そうじゃなくて。篳篥とヴァイオリンが合ってるんじゃなくて、東儀秀樹と古澤巌が合ってる。この2人だからそう聴こえるんだと思いますね。自分でも“こんな篳篥、普通は吹かないぞ”っていうぐらいフレーズが引き出されたりするのは、やっぱりコラボレーションの醍醐味だと思います。僕は元々予定を立ててああしようこうしようって何にも考えないタイプなので。練習をまずしないから。本番にいきなり臨んでそのときに集中して出てくるモノがベストだと思っているし、それをいつもベストにするぞという意気込みなので。だから毎回楽しみですね。どうなるのかな?っていう不安じゃなくて、どうなるのかな?っていう期待だらけで」
――ツアーとなると、もう何十本とそれの連続ですもんね。
東儀「だから毎回違うことをやる自分を、自分が一番面白がってますね」
古澤「東儀秀樹という人を雅楽を通じて知ってはいるんだけども、雅楽自体が非常に宇宙的なサウンドで、歴史も千何百年ってちょっとケタ違いの話で。あまりの大きさにそのバックグラウンドがもうよく分からない(笑)。その中でも東儀秀樹というのは、“宮内庁始まって以来の天才”みたいなね。雅楽を通して彼が演奏しているものは実は単なる入口で、東儀秀樹という人間が、ある意味宇宙を見せてくれるんですね。僕がそれに接する機会っは、やっぱりこのツアーしかないんですよ。1年経ってこうやってまたセッション出来る。それでも、僕にとってはホントに未知の世界のままなんですよ」
――これだけ回を重ねても。
古澤「重ねれば重ねるほどそうなってくる。普通コラボってだいたい相手が読めるというか、そういうケースは僕も体験したことがあるんだけど、まるでそうではない相手だからこそ、逆に続いてるのかもしれない。オマケに僕はたまたま小さい頃から、自分が好む好まざるに関わらずお勤めのようにクラシックを学ぶハメになっていて。ある意味、歌舞伎の家の子に生まれてしまったみたいな(笑)。まぁそうでもないと続けられないものでもあって。葉加瀬(太郎)みたいに子供の頃から好きでやってた人もいたんだけどね、アレは相当稀なケース。で、僕は日本人なのに自分の国の音楽については全く触れるチャンスもなく、ここにきて初めてなわけですよね。よくよく考えてみると、古事記が書かれるよりもさらに昔に大陸から渡ってきたような音楽が、ずーっと日本に残ってるって世界的に見てもありえないだろうと。とにかくその音楽の資料は他の国にはもう何も残ってないわけですよ。ありがたいことに日本には残ってくれてるから、僕らもそうやって勉強出来てる。こういうことをしながらだんだん考えが変わってきて、音楽、楽器、そういうモノがホントに身近に感じられるようになってきたのは、やっぱり雅楽の、東儀秀樹のおかげなんですね。あとは毎年ツアーの中に僕が作曲した曲を発表しているんですけど、それは相当彼の影響を受けていて。とにかく日本的な曲が書きたいんですよね。やっぱり東儀秀樹の音が、篳篥と鐘の音が鳴って初めて、そんな感じになるんですけどね。それが出来るのもこういうコンビネーションを長いこと続けてきたおかげだなぁって」
――そう考えたらもう必然性のあるツアーというか、気付きの連続ですよね。2人でやるだけでお互いに返ってくるモノがスゴい。
東儀「僕はとにかく安心して好きなことをやっていられる。古澤さんが僕のことをスゴく研究してくれてるんで」
――今の話を聞いていてもそうですよね(笑)。
東儀「僕の生き方とか、今日の東儀くんの調子だったらこっちだろうとか、全部を読みとってくれているような安心感があるから、僕が自由でいられるのはスゴく感じますね。さっき言ったように僕は構築して予定を立てていくタイプじゃないから、ホントに本番でどうなるかを渡り歩いちゃうタイプ。それがそのまま出来るのは、スゴく恵まれていると思いますね。コラボレーションだと本番で相手がどう出るかを気にしなきゃいけない場面が普通は多いんだけれど、古澤さんの場合はそれがスゴく少ないんですよね」
今回も何が起こるのか? 何をやらされるんだろう? (笑)
――去年はそれこそ上妻宏光さんと一緒に廻って、その経験があっての今年はcobaさんということですけど、前回の感想と今年に向けては何かありますか?
東儀「もう完全に阿吽の呼吸が出来上がっているところに違うモノが入ってくると、やっぱり刺激があって。去年はそれがまたいい形でお客さんに届いたと思うんですね。リピーターの人もいったいどうなるのか期待感もあったと思うし。この2人だけでもまだまだ未知数で刺激し合えるところにもう1人入れるっていうところで、今年もまた新鮮な刺激をダイレクトにもらえる気がしますね」
古澤「(cobaは)普段あんまり一緒にやらない相手なんですよね。ホントに数えるぐらいしかない。おまけに僕たちと同じ歳だし、ずーっと相手の大活躍ぶりを見てきて、滅多に一緒にステージに立てない相手だったから。なので僕にとっては勝負所でね。今回も何が起こるのか? 何をやらされるんだろう? みたいな感じはあるけれども(笑)、それぞれのフィールドで違う生き方をしてきた3人だから。それが集まる、それだけで面白いんじゃないかなって」
東儀「自分で言うのもおかしいけど、周りから“革命児”と言われるような扱いをされてきた3人が一堂に集まるっていうのは、稀なことだと思いますよ」
――しかもそれが一夜限りじゃないってことですもんね。
古澤「そうやって何度も出来るのってスゴくいいことでね。本当に思いもしないことが熟成されていく。それが楽しみですね。1回2回で分からないことって、実はたくさんある」
東儀「僕はcobaとは何回か共演したことがあって、お客さんの反応とか、その感触がスゴくよかったんで。僕もその場じゃなきゃ出てこないものが発せられるような瞬間を味わったし。あとcobaのアコーディオンの一般的なイメージとはまた違う、“そんなことも出来るのか”みたいな質感とかも、いろんな人に聴いてもらいたいというのがあって」
――それこそ先ほどそれぞれのジャンル、それぞれの楽器で革命児と呼ばれる3人の道が1つに重なったのも不思議な縁というか。しかも皆さん同じ歳っていうね。相当な経験と場数を踏んでおおよそ予見出来てもおかしくないところが、一緒にやることでまだまだ刺激と発見がある。でも、終わった後に何だかどっと疲れそうな気もしますね、刺激があり過ぎて(笑)。
(一同笑)
古澤「何が起こるのかなって。何か半分怖いけどね(笑)」
もう命を懸けて出てくる音なんですよ
――ツアーに向けてのリハーサルでの感触はどうでしたか?
東儀「もちろん決め事がいっぱいあるからやらなければならないんだけど、まぁでも1日出来たかぐらいですよね。僕はその1日もやりたくなかったんですけど(笑)」
――アハハハハ!(笑) さっきの話だとそういうことになりますよね(笑)。
古澤「ま、バンドの練習はあるからね(笑)。そっちは何日かとって」
東儀「古澤さんはマメだから、バンド練習の日にちゃんと全体を見て指導したりとか、僕のいないところでいろいろ構築してくれてるんで、今回も楽ちんです(笑)」
――そういう意味もいいバランスですね。東儀さんタイプが2人いても、なかなか成立しない。
東儀「性格が全然違うところが、ものスゴくいいところにハマってるんじゃないかと」
――そもそも一番最初の接点というか、第一印象はお互いどうだったんですか?
東儀「17年ぐらい前にとあるイベントでコラボレーションしたときに、僕の曲を弾いてもらったんですよ。それは二胡と篳篥の曲なんだけれど、他のヴァイオリンの方だとこう簡単にはいかないなっていうところも、スゴく気持ちよく出来ていて、。二胡の真似をするのではなくて、ヴァイオリンが活きていて、曲が活きていて、篳篥も活きている。そんな理想的な形になることはなかなかないと。だから僕は古澤さんに、単にクラシック畑のスゴいヴァイオリニストというだけじゃない何かを感じていて。そうしたら古澤さんは古澤さんで、自分のコンサートに僕をゲストに呼んでくれて、それがもうずっと続いていて。制作会社がこの人とこの人をぶつけて面白いコンサートを打とうとかじゃなくて、古澤さんが自ら呼んでくれたから、ホントにアーティストがアーティストを面白がってくれてる図式が成り立ってるんだと思う」
――それはピュアな気持ちで嬉しいですね。古澤さんはどうでした?
古澤「とにかく不思議でしかないわけですよ。もうフレーズの取り方から音の出し方から全然違うでしょ。雅楽以前の問題として音楽家として、この訳の分からない音楽をもうちょっと理解する方法はないんだろうか?と(笑)。そのためにも続けて会ったり、彼が書いたモノを読んだり、いろいろと話をする機会をもらったり。今でもそんなに分かってないかもしれないけど(笑)、まずはただ、ヴァイオリンで和の曲を弾くチャンスが欲しくて。僕が先にバンド練習に参加しているのも、誰かが自分のパートを作ってくれるわけじゃないので、自分の音の居場所を探さなきゃいけない。東儀秀樹とコラボすることは、僕にとっては大きなチャレンジなんですよね。今まで弾いたことのないヴァイオリンを弾かなきゃいけなくなるんじゃないか、それによって自分のヴァイオリンで違う音が出せるようなるんじゃないか。そうすると広がるでしょ? 一緒にコラボしていく内に、だんだんと自分の中にもそういう器が出来てくるんですよね。スキルが上がるだけではなくて、知らない内に自分の固定観念の中にあったちっぽけなモノが緩んで広がっていく。それがある意味経験なんでしょうけど、それって習って出来るものでもないし、そうやって一緒に過ごしながら自分が溶け出していくみたいな」
――なるほど。出会ったときからもう宇宙は始まっていて、セッションを重ねていって、自分も広がりながらもまだ未知の部分もあり続ける。やり甲斐がありますね。
古澤「そうなんですよ。毎年毎年そのツアーを続けていく中で、自分がまだ知らない何かを見付けて、それが形になっていく瞬間があるんですよね。そういう楽しみ、宝探しがあるし、ましてやそこにcobaが来るとなればね」
東儀「東儀秀樹を研究しまくってそれを消化したところで、音として表現出来る人はなかなかいないんですよ。古澤さんだからこそ、研究の成果がちゃんと音として伝わるから、安心していられる。“あ、そうやっちゃうのか…”っていうのがない(笑)。“こっちがこう吹いてるのに、そうなっちゃうわけ?”っていうのはコラボレーションでもよくあることだけど、この人の場合はそれがない。それがね、古澤さんの“持っている”モノなんだと思う。ヴァイオリンを弾く人っていうんじゃなくて、音をコントロール出来る人。それが、僕らの続く一番のポイントじゃないかな」
――ホントに今となっては毎年欠かせなツアーですね。寂しいですよね、なかったら(笑)。
東儀「そうですよね」
古澤「僕にとってホントに大切な時間なんですよね」
――来年はツアーがありませんとなったら、“えー!?”って心に穴がポッカリ(笑)。
東儀「でも時々ね、もう二度とコイツとやるかって(笑)」
(一同爆笑)
――いや~そういうことがないとオモシロくないですよね(笑)。
東儀「いやでもね、すっごく安心感があるのにアグレッシブっていう。まだまだ続くと思いますよ、この感覚は」
古澤「彼は気楽に吹いているわけではないので、やっぱり命懸けなんですよ。僕らの楽器と違って構造自体が、“そんなことしたら血管切れるんじゃないの?”っていう楽器でしょ?(笑) だからハラハラドキドキしてるんですよ。もう命を懸けて出てくる音なんですよ」
――今までの話を聞いているだけでも、このツアーの凄みと醍醐味が分かりますね、。いったい当日はどうなるのか楽しみです。本日はありがとうございました!
東儀&古澤「ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2013年8月29日更新)
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