曲目、曲順は客席からのリクエスト!
何が飛び出すか本人すらわからない前代未聞のコンサート!!
昨年デビュー40周年、そして今年7月ついにソロコンサート4000回を迎えた、さだまさし。開演前の記者会見で彼はこう語った。
「プロ野球で4000試合出場を果たすには高校生で入団してから
山本昌の歳(※)になるまで現役で、野手で、毎試合出続けないと出来ない記録なので、そういう意味ではお客様に恵まれたなぁと感謝をしております」「今日はやったことのないコンサートでプレッシャーに襲われておりますが、どうにか最後までステージに立っていたいと思います」
(※) 2013年現在、日本プロ野球における現役選手で最年長の48歳
日本人アーティストとしては前人未踏の4000回。開演前、家族で来場していた母親が、小学生の娘に語っていた言葉が印象的だった。「さださんはね、40年で4000回コンサートをやってきたのよ。1年で100回ってことになるよね。つまり3日に1回は日本のどこかでコンサートをやっていたのよ、40年ずっと」
武道館を埋め尽くした7500の客席には老若男女、実に様々なオーディエンスが開演を待っている。そんな本人も、観客も特別な思いをもった記念コンサート──全客席にはアンケート用紙が置かれていた。
「今夜さだまさしが、あなたのリクエストにおこたえします。お手元のリクエスト用紙にご記入いただき、17:50までにお近くのスタッフか各入口に設置してある投票箱へ投票してください」
「ははあ、今回はリクエストのコーナーを設けるのだな」と思ったら、大間違いだった。このコンサートは、開演終演の数曲以外は“すべて来場者のリクエストにこたえる”ものなのだ。
開演。舞台中央から出囃子で現れたのは、さだまさしと親交の深い落語家の立川談春、THE ALFEEの坂崎幸之助、そしてツアーメンバーであり、今回の音楽監督も務める倉田信雄の3人。「今夜はほぼオールリクエスト。さだまさしが、あなたのために、選んだ順で歌います」と告げられると武道館にどよめきと歓声が。しかも抽選はステージ上で本人自らが行うというのだから、驚きはさらに大きくなる。
そんな前説(?)があってから、満を持して本人が登場。一曲目は4月より実施していた「あなたが選ぶ さだまさし国民投票」で第1位となった『主人公』。白い衣装で登場したまさしが、客席に向けて手を振る。歌い終えると談春たちが投票箱をステージ中央へ運んでくる。ダブる曲もあるから、と30票近いリクエスト用紙を目隠しして選んでいくまさしは「4曲でいいって、オレにはトークがあるんだから」「こんなにリハーサルをしなかったコンサートって初めてだよ。だって何を演奏するかわからないんだもん」と笑いを誘う。
選び終えたあと、ダブったリクエストを精査するために談春らがステージ脇に戻る。その間に今夜の二曲目。ゲストで吉田政美が呼び込まれる。グレープの再結成『精霊流し』だ。ファンにはお馴染みの、飄々と、寡黙な吉田にまさしがツッコミを入れると「まちゃみ~」と往年の(?)ファンから温かい声援があがる。しっぽりと不朽の名作が演奏されたあと、いよいよリクエストコーナーが始まった。
選ばれた曲、曲順は右記のとおりである。“やらせ”一切なしのガチンコ勝負であることは、順番でわかるだろうし、コアなファンなら「あの曲!」があることでおわかりいただけるだろう。
話題になったあの曲、久しぶりに聞いた懐かしい曲……しかも本人が選んだ順に歌われる。一曲一曲、次のリクエスト用紙が談春から手渡されるときの、まさしの反応が面白い。「あ、余裕ぅ~」と言ったと思えば、「えーっ……」と絶句したり…。それでも彼は逃げずに歌う、歌い切る。ファンである談春が「『償い』を歌ったあとで、『雨やどり』で、ませませ~♪ってねえ」と苦笑するように、曲順の流れに無理があるが、それも「選んだ順のリクエスト」だから。
このコンサート、歌う本人も凄いが、実はバックミュージシャンや裏方も凄いということがわかってくる。一曲ごとに楽譜が渡され、初見で演奏するミュージシャンもいる。リクエストによってPA、照明も変わる。
客席の空気もいつもとは違う。次は何を歌うのか──の期待感が渦巻いているのだ。まさしがリクエストした人の名前、エピソードを読み上げると「あの曲かな?」と考えをめぐらし、曲目が告げられると「あ~っ!」という納得と期待に満ちた声があがる。
そして何と言っても、4000回を祝うためにやってきたゲストが豪華だった。
7月17日(水)の4000回では、ももいろクローバーZの佐々木彩夏、司会も務めた坂崎幸之助、三代目 JSoul Brothersの登坂広臣と今市隆二。7月18日(木)の4001回は森山直太朗(彼は司会も担当)、ナオト・インティライミ、山崎まさよし──と単独でもホールコンサートが観客で埋まる面々が次々と現れ、その度に場内から歓声が沸き上がる。7月17日(水)では、ひいたリクエスト順にゲストが登場するなど、まさしの「くじ運」が話題になった。(曲が選ばれなければ、リクエスト曲が終わったのちに登場する段取りだったのだ)
圧巻なのは初日、『いのちの理由』を歌うとき、「客席にいるんだよ」とまさしが突然呼び込んでコラボすることになった岩崎宏美だ。呼ばれるとは思っていなかったようで、驚きながらステージに上がった彼女だったが、この曲をカバーしていることもあって手話付きでじっくりと美しい歌声を聞かせてくれた。
かくして7月17日(水)の4000回、7月18日(木)の4001回ともに、“何を歌うのか本人すらわからない”というハプニング必至のコンサートで客席を楽しませてくれた。彼は、終演前のトークでこう語る。
「4000回……何でこんなに歌ってきたのか。28歳で28億円の借金を抱えたから……それもあるかも知れない。でも、あなたがそこに座ってくれたから、続けてこられたのです」
40年、4000回続けられたコンサートの主役は、ずっと足を運んでくれたファンでもあったのだ。お礼の言葉で締めくくり、名曲『風に立つライオン』を歌い上げた彼は、客席に向かって何度も頭を下げ、深く感謝を示し、記念すべきコンサートの幕を下ろしたのだった。
取材・文/佐々木 克雄
(2013年8月16日更新)
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