「すべてTHE BOOMの新曲と言ってもいいような、
14枚目の“オリジナルアルバム”になりました」(宮沢)
オリジナルの新曲から沖縄民謡のカバーまで
“沖縄”をコンセプトに据えたニューアルバム
『世界でいちばん美しい島』についてインタビュー
6月に14枚目のオリジナルアルバム『世界でいちばん美しい島』をリリースしたTHE BOOM。彼らの音楽に多大なる影響を与え続けている「沖縄」をコンセプトに据えた本作は、新曲や沖縄民謡のカバーなど多岐にわたるラインナップで新たなるTHE BOOMサウンドを作り出している。
また、アルバムリリースに先立って4月から5月にかけて全国10都市を巡るツアー『THE BOOM CONCERT TOUR 2013「24」』を開催。アルバムをリリースした後にツアーを行うことが多い中で、その順序を逆にしたことで見えたことも多々あったと口にするメンバーたち。
来年はデビューから25年。この間、足を止めることなく、全国各地に最新の音を届けている彼らが今、見ているものとは? アルバムへ込められた思いを聞きながら、その眼差しの先を追った。
――ぴあ関西版WEBです。今日はよろしくお願いします。14枚目のオリジナルアルバム『世界でいちばん美しい島』をリリース、おめでとうございます。まずは今の心境をお聞きかせください。
小林孝至(以下、小林):今回、ツアーを経てからの発売だったので、ツアーで演奏した時に反応とか見ることができてよかったです。そして無事、発売できてうれしいです。
山川浩正(以下、山川):シングルの『島唄』(3月20日リリース)から数えると、去年の11月から3月くらいまで、ずっとレコーディングしてたから、発売までがすごく長く感じました。ライブでやっと皆さんに聴いてもらったり、ラジオなんかでいっぱい曲をかけてもらって、「いいアルバムですね」なんて言ってもらって、うれしいですね。
栃木孝夫(以下、栃木):単純にうれしいですね。早く皆さんに聴いてもらいたい曲がいっぱいあったので。気に入ってもらえる曲があったらいいなぁと思います。
宮沢和史(以下、宮沢):料理を作って、さあ召し上がれと言ったところで皆さんがどんな反応を示してくれるのか、いつも楽しみで。お手紙をいただいたり、ラジオ番組(JFN系列『MIYA THE WORLD!!』)にメッセージが届いたり、今はそれらを一つ一つ、かみ締めているところです。
――今回はリリースの前にツアーをされて、アルバムからも『世界でいちばん美しい島』や『愛より』などを披露されました。ツアーを経たことで楽曲への受け止め方に変化などありましたか?
宮沢:歌っていうのはレコーディングしたぐらいではまだ途中というかね、始まったばかりなんですよね。ライブで何回も演奏して、お客さんと共有するようになって。さらに言えば、聴いてくれた人が違う人に届けてくれたりすることで、だんだん生育していくと思うんです。歌のスケール感とか、レコーディングの段階では僕らも分かっていないところがあって。今回、アルバムをリリースする前にみんなの前で演奏できたことで、“こんなふうに聴いてくれるんだ”とか、“こんなに力強い曲なのか”とか、お客さんと一緒に同時に体験していくことが僕らも初めてのことでした。
山川:そういう、曲の持っているポテンシャルみたいなものはライブでやってみないと分かんないことは今までも経験があって。『世界でいちばん美しい島』も、最初の段階でもう、すごいスケール感のあるいい曲だなと思ってレコーディングしましたが、人前で演奏するとそれを本当に実感できて。どこの街でもその街の歌みたいに響くんですよね。一番、手ごたえを感じました。これからもTHE BOOMでやっていく代表曲がまた一つ、できたかなという感じで。きっと『島唄』みたいに、この歌もどんどん育っていくというかね。また、やるたびに変わっていくんです。場所によって表情を変えるので、いつも新鮮な気持ちで演奏できる曲だなぁって。ミュージックビデオもできて、それもライブバージョンで。(ミュージックビデオでは)もうすでに少し成長した感じにもなっていたりして、そちらの方も機会があったらぜひ、観ていただきたいです。
栃木:“24”ツアーでは新曲を3曲、アルバムの中から演奏したのですが、ツアーが進むにしたがってお客さんが一緒に歌ってくれるようになったりして。愛される曲になっていきそうな感じがすごくしていたので、こうやって音源として手元に届けられるようになって、さらにいろんな人に聴いてもらって、気に入ってもらえたらいいなって、ツアーを回っていて感じました。
――アルバム『世界でいちばん美しい島』のコンセプトは“沖縄”ですが、そうされた動機や経緯を教えてください。
宮沢:今年は『島唄』が全国リリースから20周年ということで、アルバムも沖縄にちなんだものにしようということで内容を考え始めたんです。それで、一つは沖縄にまつわるTHE BOOMの曲。『島唄』とか『情ションガイネ』とか。あとはカバー、沖縄の名曲をみんなに知ってもらおうということ。そして新曲という3つの柱で作ろうと思って。カバーに関しては、今言ったとおりみんなに知ってもらえるチャンスでもあるので、有名な曲もありますが、隠れた名曲を紹介したいなということで自分の歌いたい曲を入れました。2002年にも同じように沖縄をテーマにしたアルバム『OKINAWA~ワタシノシマ~』を作って、『十九の春』などカバー曲を入れて、そういうこともあって今回も沖縄をテーマに作り始めましたね。
――沖縄民謡といってもアレンジがとても面白いなと思ったんですが、沖縄の音楽の懐の深さとか、演奏されていて何か再発見したようなことがあったら教えてください。
小林:素直に心を揺さぶれるというか、胸が熱くなるというか。レコーディングしていて、そういう瞬間がありましたね。
山川:カバーした曲はどれも本当に素晴らしい曲で、“オリジナルを越える”という言い方が合っているか分からないですが、オリジナルに負けないようなものを作ることは、ある種のプレッシャーとかもあるんですけど、どの曲もTHE BOOMのアルバムという感じにできたなぁって思いますね。トータルで聴くと統一感もあるし、本当にTHE BOOMのサウンドになった、カバーもちゃんとBOOM流に料理できたなぁって。少し時間を置いて聴くとなおさらそうで。いいアルバムになったなぁって単純にうれしいです。
宮沢:それは出来上がってから僕たちも気がついたことで。最初はどっちかというと企画的な感じで作り出したんですけど、この曲順で聴いてみるとTHE BOOMの新曲と言ってもいいような、14枚目の“オリジナルアルバム”になりましたね。
栃木:アルバムに収録したカバー曲に限らず、沖縄の音楽はメロディと歌詞の世界がすごく沁みるというか、何か心の深いところに沁みてくるものがありますね。沖縄の情景だったりとか、沖縄の出来事だったりを歌っている歌が多いし、その歌を聴きながら沖縄で生まれたわけでもないのに、何か心にぐっと来る。そういうものが沖縄音楽のメロディとか歌詞にはあって。今回、THE BOOMとしてちゃんとカバーするのは初めてだったので、とってもいい経験ができたなぁと思いました。自分の中でまた好きな曲ができましたね。
――宮沢さんは歌われてみてどうでしたか。
宮沢:ここで取り上げた歌以外にも、沖縄で生まれた歌には生まれるべくして生まれたような歌が多いんですね。マーケットとか、チャートとか、そういうことだけではなくて、本当に歌いたいこと、伝えたいことがあって生まれてくる、生まれるべくして生まれる曲が多い地域だと思うんです。土地柄もあると思いますが。ですから今、栃木さんが言ったみたいに、沖縄の名曲を聴くと、沖縄を思い浮かべると同時に自分の大切にしている場所を思い浮かべられるような気がするんです。『やいま』や『芭蕉布』もそうですが、歌っていると故郷を思い出す瞬間が何度もありますし、僕らに共通する郷愁であったり、原風景というか、そういったものを含む本物の歌が多いと思うんです。このアルバムは、そういう歌を集めて、沖縄を思い浮かべてほしいということだけじゃなくて、皆さんが大事にしている場所、故郷とか、そんな場所を思い浮かべてくれればいいなぁって。『世界でいちばん美しい島』も、“いちばん美しい島は、あなたの故郷じゃないですか”というメッセージを歌っているんです。
――本当に、どの曲も原風景が蘇るような感じでした。また、このアルバムには知名定男さん書き下ろしの『かりゆし』も収録されています。
宮沢:知名さんとはここ5年ぐらい、仲良くお付き合いさせてもらっていまして、「いつか曲を書いてみたいなぁ」なんて言ってくださっていたんです。で、今作が沖縄をテーマに作るという思いで作り始めましたから、この機会にぜひ書いていただこうと思い、連絡を差し上げたらすぐに取り掛かってくれました。
――THE BOOMからのリクエストは何かされたのですか?
宮沢:あえて何も言わなかったです。「かりゆし」は最近、「めでたい」という意味で使われる言葉ですが、本来は「船出」とか、そういう時に「無事も祈り、おめでたい」という意味を込めて使う言葉みたいで。その言葉を知名さんが大事にされたいということで、「こういう歌にしたいんだけど、いいだろうか」とご連絡が来て、「ぜひそれで(お願いします)」と。
――山川さんが編曲をされています。編曲するにあたってはどうでしたか?
山川:バンドでやるということでTHE BOOMらしいものになればいいなと思って、それはうまくいったなと思いました。「頑固な孫もがっこを出たら」という歌詞があって、その一行がとても印象的で。うまく言えないんですけど、何かそんなイメージの楽曲、「海人(うみんちゅ)になる」っていう歌詞もあって、そんな風景が見えるような音になればいいなって。
――話は前後しますが、先ほども故郷というキーワードが出ましたが、今回、ツアーで全国を回ってみて、そこに住む人々の顔といいますか、それぞれの街で見えた光景があれば教えてください。
小林:『シンカヌチャー』とかやると、どこもお客さんがすごく熱くなるというか。太鼓の音とか、やっぱり日本人だから感じるんだろうなって。そういう情熱的なところはどの街も素晴らしかったですね。
栃木:バンドで(全国を)回るのが久しぶりだったということもあって、そういう意味では皆さんが待っててくれたんだなって今回のツアーですごく感じて。やっぱり皆さんの前でライブをやることが大事なんだなぁってすごく思いましたね。アルバムを作って聴いてもらうことが第一段階としたら、今度はライブで時間を共有して、同じ場所で一つの曲をみんなで抱きしめ合うみたいな。そういう空間って僕らにとっても、ファンの人にとっても、大事な瞬間なんだなってすごく思いました。今回、懐かしい曲から新しい曲まで、いろんな曲を演奏して、それぞれの曲に皆さんが抱いている思いを記憶とともにかみ締める瞬間がいっぱいあって。そういうことをすごく感じましたね。
山川:ツアーでは新旧いろいろやりましたが、その中でも今回のアルバムに入っている曲が特にしっくり来て。届いたなぁっていう感じがすごくしました。『島唄』もそうですし、さっき小林が言った『シンカヌチャー』の盛り上がり方とか。あと『世界でいちばん美しい島』はアンコールでやったんですけど、その時の一体感もそうだし…。それぞれの街でちゃんと響いている音になったなって。『情ションガイネ』もやって、あれは音頭なんですけど、ある意味、THE BOOMがやろうとしている最先端のロックというか。あれは音楽のジャンルとは別の意味で「どうだ! これがTHE BOOMのロックだ!」っていう思いがちょっとあるんですよ。
――私は衝撃的でした(笑)。
山川:衝撃的でしたよね(笑)。一番、突き抜け感があると思うんですけど、『情ションガイネ』をやった時、みんな楽しそうなんですよね、笑顔で。その光景を見ると「間違ってなかったな」って。「みんな実は好きでしょ? こういうの」って(笑)。例えば、外国人に「日本のロックバンドで面白いバンド、面白い曲ない?」って聞かれた時、「こういうのがあるよ」ってなったら面白いと思うんです。日本独特でオリジナル、日本人だけのもので。それをTHE BOOM流にアレンジできて、ちゃんとお客さんにも伝わったっていう実感がすごくあって。僕、あの曲を演奏する前が一番、気合が入るんですよ(笑)。「よーし! やってやるぞ!」って(笑)。それが伝わっている感じがして、すごく楽しくて。でも歌詞の中には実は、隠れたメッセージもあったりとか、いろんな意味でやりがいのある曲ですね。
宮沢:曲を作っている時、どんな場所にでも合う、相応しい歌にしたいっていつも思うんです。現実から離れたものではなくて、生活に結びついた歌。お年寄りから子供まで楽しいなあって思えるようなものにしたいって。今回、それができたかなって思いますね。どこの会場でやっても『情ションガイネ』も『シンカヌチャー』も『島唄』もフィットするし、そういうバンドになれたと思います。
――では最後に、皆さんの故郷に対する思い、生まれ育った場所への思いを聞かせてください。
小林:生まれ育った街には、東京に出てきた頃はあんまり帰らなかったんですよね。すごく山梨から出たくて。でも時が経つと、どんどんどんどん大事になるというか、やっぱり親とか、兄弟とか、すごく会いたくなりますし、どうしてるのかなって思い起こすことが増えましたね。夜に帰ることが多いんですけど、東京からトンネルを越えると山梨の夜景が見えてくる場所があるんです。その光が見えたとき、ああ、帰ってきたなぁって思います。
山川:全都道府県でライブをやってきて、本当にいい国だと思うんです。『世界でいちばん美しい島』の歌詞じゃないですけど、自分の生まれ育ったところを誇りに思って、大事に、それぞれの田舎を守っていきたいなって思います。
栃木:僕は生まれてからずっと同じ場所で過ごしたという経験がなくて。埼玉で生まれて、東京に来て、小学校の時に千葉に行って、千葉で思春期を過ごして。で、東京に出てきてという暮らしをしていたので、生まれた土地で思春期を過ごして恋もしてと、長くいた土地はないんですけど、でも、THE BOOMで旅をさせていただいているおかげで、割りといろんなところを見れるようになって。そこにいるときっと「何にもないなぁ」って、東京に比べて、ほかの町に比べて思うかもしれないけど、でも僕らみたいに逆に出かけて行って、その土地の景色を見ると、「まだこんなに美しいところがあるんだ」とか、「こんなに緑が多いんだ」とかって思うんです。僕は釣りもするので川にも行くんですけど、きれいな川を見るだけでうれしくなるんですよね。日本もちょっとはみんなの気持ちも明るくなってきたかなっていう感じもするんですけど、そこで暮らしている一人ひとりが明るい未来を持てるようにならないと全体も明るくなっていかなって思うんです。明るくなるためには、自分が今暮らしている場所――それは自分が生まれた場所じゃないかもしれないけど、今暮らしている町、そこに関わっている人たちがその土地を愛することが大事なのかなって思います。日々、辛いこともあると思うんです。でも、みんなが「希望を持てるような明日が来るんじゃないか」って信じられるようになれたらいいなってすごく思います。『世界でいちばん美しい島』で歌われていることや気持ちとかも、いろんな人に伝わって行ったらいいなって思いますね。
宮沢:故郷が山梨ということで、他県の方が「富士山が世界遺産になってよかったね」とかよく言ってくれるんですけど、でも富士山って自分たちのものだって思ったことがなくて。日本のものですから。日本の故郷というか、誇りというか。そういう気持ちでいたいですし、逆に痛みも同じで。福島の痛みは福島の人だけのものかというと、そうじゃないですよね。みんなで考えなきゃいけない。沖縄の問題も、沖縄の人たちが解決すればいいじゃない?っていう、そういう次元じゃないですよね。でも、一つになれたときに、日本だけじゃなくて、もっと大きく言えば地球っていう島が見えたらいいなって思います。そんなこともこの『世界でいちばん美しい島』には込めています。
取材・文/岩本和子
撮影/高橋智子
(2013年8月26日更新)
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