リスナーを心地よく翻弄する新鮮にして大胆不敵なアップデート
2年3ヵ月ぶりのオトナなミニアルバム『Hot Number』!
結成10周年のアニバーサリーイヤーに大躍進を遂げた
オレスカバンドiCas(vo&g)&tae(ds)インタビュー&動画コメント
いやはや驚いた。オレスカバンドから届いた久々の新作『Hot Number』は、リリースまでの2年3ヵ月という年月の意味を、明確なアウトプットで提示した変化の1枚だ。17歳でメジャーデビューした彼女たちも、今や24歳。国内外を問わぬライブをバンドの血肉に変え、ミュージシャンとして、1人の女性として、様々な景色を見たメンバーに訪れた成長と経験は、元来のスカやブラスロックの範疇を軽々と飛び越え、エレクトロ、レゲエ、ジャズ、ファンクetc大胆不敵にジャンルを横断する、自由で瑞々しい表現をオレスカバンドにもたらした。そこで、シンセやサンプリングも入り乱れ、タフでスウィート、ポップでエネルギッシュな新作について、ソングライティングの核を担うiCas(vo&g)とtae(ds)にインタビュー。24歳にして今年で結成10周年!(末恐ろしや) 今、彼女たちは音楽を楽しんでいる。実力派ガールズバンドがたどり着いた現在地に迫る。
iCas(vo&g)&tae(ds)からのええ感じにたっぷり動画コメント!
――前作『COLOR』('10)から2年3ヵ月ぶりと、日本の音楽シーンにおいては長いと言っていい時間だったと思いますけど、ここまで時間がかかったのか、かけたのか。この2年3ヵ月はオレスカバンドにとってどんな時間でした?
tae(ds)「上京して環境が変わったのがまず1つあるし、ツアー中に震災が起こって…。でも、その間もずーっと曲は作ってたんですよ。っていうか今までにないぐらい作ってたし、イベントにも出たり、活動自体は止まらずにやってきたんですけど。でもまぁ震災と一人暮らしは結構デカいですね。1番変わったところです」
――前作のときはまだ大阪?
tae「そうです。むしろ大阪で録音したんです」
iCas(vo&g)「中津の三和レコーディングスタジオっていうところで、『街を出るよ』っていう曲を録って」
tae「街を出たんです(笑)」
(一同笑)
――環境も変わったし、自分自身が落ち着くまでにもそれなりに時間がかかるしね。
tae「自分の中の“当たり前”がグジャグジャ~って潰れていって、その年に震災があったというか。そこから何かを探すかのようにiCasもずっと曲を書いてたし、うちも何かフラフラしてたし…いやしてないしてない!(笑) フラフラはしてないですけど(笑)」
(一同笑)
iCas「taeちゃんはtaeちゃんで、自分は何を1番発信したいんだろう?みたいに、歌詞のことをずっと考えながら生きてたよな」
――生まれ育った街を離れて東京に行っただけでも刺激やのに、その後にまた震災が起きて。今回の作品ではスゴく変化も感じられますね。
tae「結成してもう10年なんですけど、“オレスカはこういうモノ”みたいな考えが結構固まってきてるから、それを1回取っ払おうと。今回はホントに、今自分が個人的に“このCDを買いたいって思うCDを作ろう”ってところから始まってるんですよ。だから今までのオレスカのルールみたいなもの、当たり前みたいなことも1回なし!みたいな」
iCas「Twitterとかで買ったよ~みたいなメッセージをくれる人もいて何か単純にスゴく嬉しいし、こうやってキャンペーンに廻っても“大人になったねぇ~”みたいに(笑)言ってもらえることもスゴいあって。自分たちはとにかく作りたいモノを作った感じなんですけど、それが形になったらこんなにみんなにビックリされるモノやったんやって」
――バンドとしても変わるタイミングやったんですね。でも、今でもう結成10周年ってスゴいですね。
iCas「意外と長くて、自分たちがビックリしてるんですけど(笑)」
――バンドの危機とかなかったんですか?
iCas「もちろんありましたね。良いときもあれば悪いときもあるし」
tae「年に1回、絶対に辞めるって言うメンバーがおったり(笑)」
(一同笑)
――今年はコイツか、みたいな?(笑)
tae「いや、決まってるんですよ(笑)」
――毎年同じ人(笑)。
tae「でもこっちも慣れてくると、“あ、そろそろかな? あたたかくなってきたし、あの娘が言ってくるやろうな”みたいな(笑)」
iCas「アハハハ!(笑)」
――花粉か!(笑)
tae「そうそうそうそう!(笑)」
iCas「いつも花粉ぐらいのタイミング(笑)」
歌詞もメンバーそれぞれのプレイも、今までと全然違う
――久しぶりのレコーディングでは、メンバーそれぞれの成長を感じたんじゃないですか?
tae「前まではやっぱりライブ感を重視してたから、“いっせーのーで”でみんなで録るのが普通だったんですけど、今回は敢えて顔を合わさない、みたいな(笑)」
iCas「だから、やりながら“え? こんなんやってたん!?”みたいな発見があったりとか。今までとは全然違いますね。めちゃオモシロかったです、今回は特に」
――コイツは変わった、っていう人いました?
tae「ライブとかでいろんな人にインスパイアされたのもあったと思うんですけど、SAXのmoricoのテンションがスゴく上がって、ソロにエフェクトをかけ出したりしたときは、おぉ~!って思った(笑)」
――バンドが長くなると、要は慣れてくるじゃないですか。そんな中でちゃんと新しさが出てきたのはいいなぁと。
tae「ふと気付くことが多かったんですよね。普段自分が聴いてる音楽はこんな感じじゃないし、うちらは1発録りみたいな音楽がめちゃ好きなわけでもないなって(笑)」
iCas「そういう部分が自分たちの活動には反映されてないなぁって。今まではバンドも曲もそうやけど、自然と出来てきたことがスゴく多くて。こういうモノが作りたいっていうよりは、そのときのフィーリングで楽しいところにとりあえずいく、みたいな。今回はもう“こういう作品が作りたい、こういう曲が欲しい”みたいな、結構明確なゴールがあったから。それは今までと全然違います」
――その明確なゴールって具体的に言うと?
iCas「とりあえず1番最初にあったコンセプトは、世界に通用する“日本のガールズバンドのアルバム”。だからホントにいろんなジャンルを織り交ぜて、電子音みたいなものも含めて、もっともっと音楽的にカラフルでもいいんじゃないかと思ったり。あと、今まではそこまで明確な恋の歌を作ったことがなかったんですけど、今回はそういう気持ちを音楽にしようとか」
――逆に今までは何でしなかったの? 恥ずかしかったとか?
tae「いや、あんまり経験がなかったから(笑)」
(一同笑)
――そうやんね(笑)。まだね、若いから。
tae「そうなんですよ(笑)」
――24歳となると、ようやくいろいろあり始めたかなって。これがまた5年後とかなったら、スゴいことになってるよ(笑)。
iCas&tae「アハハハハ!(笑)」
――修羅場がイッパイ出てくる(笑)。
tae「しかも同い年が6人おるから話も6種類。うちもメンバーの話を聞きながら、なるほどなぁと思いながら歌詞書いてたり(笑)」
iCas「ドンドン変わっていくのがスゴく楽しいですね。歌詞もメンバーそれぞれのプレイも、今までと全然違うから」
――さっき世界に通用する“ガールズバンド”っていう話があって。確かにこのアルバムを聴いたときに、オレスカバンドにおけるホーンはもちろん1つの強烈な個性なんですけど、そこがなくても成立する曲と、声と、みんなのプレイで。尚且つちゃんとオレスカバンドやなっていうのはスゴく感じましたね。
iCas「あぁ~嬉しいです!」
――アレンジャーも、この曲数の割には多くの方が参加してますよね。
tae「そうなんですよ。ここまでアレンジャーさんとガッツリ一緒にやったことがなかったし、それがまたレコーディングするときの刺激でもあって。それもアルバム1枚通してじゃなくて曲によって1人1人チョイスしていった感じやったから、“この人とこの人全然違う!”みたいなのも勉強になったし、素直に楽しかったよな?」
iCas「そうそう。自分自身のメロディもアレンジャーさんによってスゴい具体的になったり。人の手を借りて自分たちがやりたかったことが明確に届けられるようになった感覚も、スゴく新しくて」
――絡む人が多くなるほど元の音楽が薄くなっていくことも多いけど、今作ではちゃんと関われば関わるほど濃くなっていく。
iCas「そう! スゴかったですね、それは」
ちゃんと音楽だけで勝負出来るモノにしたくて
――ライブですでに聴いていた曲も何曲かありますけど、この2年3ヵ月の間のどの時期に作られたんですか?
tae「もう去年の9月とかから作ってた」
――え? 去年の9月!? ホンマに最近やん(笑)。
tae「フフフフ(笑)」
iCas「ちゃんとアルバムに向かっていったのが、去年の9月頭ぐらいだったから。そこから作った曲がほとんどで」
tae「コンセプトが“世界で戦おう”みたいになってから、じゃあ書こうよ!って本格的に進んでいった感じで」
――アレンジのイメージも最初からあったんですか? コレぐらい大きく変えていくぞって。
iCas「最初は誰か分からへんってスゴい言われました(笑)」
tae「でもそう思ってもらいたかったんですよね。結構オレスカって、うちらが出しゃばり過ぎじゃないけど(笑)」
――音より前にキャラが出過ぎ(笑)。
tae「そうそうそう!(笑) “どうも、オレスカバンドです!”みたいな感じでちょっとやって来過ぎたから(笑)」
――やっぱり6人の若い娘たちが集まって元気にやってます、みたいな先入観はあるやろうからね。
iCas「今まではそういう“存在”的な見え方で広まっていった部分もあったと思うんです。それでアメリカとかも廻ったし。だからこそ今回は、ちゃんと音楽だけで勝負出来るモノにしたくて。なのでライブ感というよりは、CDとして楽しめるところを目指して」
――でも、その“存在として”認められることも、ホントはなかなかないことで。最近のライブを観ていたら、その存在感とかライブで積み上げてきたことがある程度自分たちの自信になったからこそ、作品で純粋に勝負出来たのかもしれないですね。
今までの曲は今までの曲でよかったけど
今打ち出したいモノはもうちょっと先にある
――アルバムの中身に触れていくと、それこそ今までのオレスカの血を踏襲した『夜明けのファシズム』(M-1)『ブルーバード』(M-4)とかは、今までやってきたことが熟成されるとこうなるというタフでワイルドな部分を持ち続けているけど、2曲目の『Tokyo Magical Wonder City』へと聴き進めて、みんな絶対に“あれ!?”ってなると思うよね。このシンセが効いたアーバンポップに続く『それは勝手な理論』(M-3)も、ここまでエレクトロなダンスナンバーになるとは思わなかったし。で、次の『ブルーバード』でちょっと安心したのに…。
tae「また行く~!?みたいな(笑)」
――『ラブ・ラ・ラバーズ』(M-5)もこれまたシンセベースでね。
iCas&tae「そうなんです」
――レゲエなテイストとかも含めて、メンバーみんなの趣向がいろいろと顔を出している感じですよね。あと、『Orion Night Move』(M-6)のボーカルもダブリングで独特やし、続く『Walk』(M-7)にもさっきの“ガールズバンド”論をスゴく感じて。ホーンとかブラスじゃなくて、“ガールズバンドとして”今どういう音を発信するか。そら、ちょっと大人になったなぁと言われますよね(笑)。
iCas「スゴい言われます(笑)。でも、その大人っぽさを意識していたわけではなかったんです。単純に昔の曲をずっとライブでやってきて、だんだん違和感を感じてきた時期があって。今までの曲は今までの曲でよかったけど、今打ち出したいモノはもうちょっと先にあるのかなぁって。そういう自然な流れで作ったから」
――そう考えると、女性としての成長と、ミュージシャンとしての成長が、ただ音に出たのかもしれない。みんな“大人になった大人になった”ってワーワー言うけど(笑)。
iCas「ワーワー(笑)」
tae「(笑)。でもね、逆に17歳のときからうちらを知ってくれてるからこそ、24歳の今のうちら、30歳のときにはどうなってるの?みたいに、驚いてもらえるモノをドンドン作っていきたいし」
――早くリリースしたい気持ちもあっただろうし、悶々とすることもあったんじゃないですか?
iCas「ありましたね~。リリースがずっと出来なかったのは正直スゴい辛かった」
tae「でも最初は気付かんかったよね?」
iCas「気付かんかった(笑)。前作の『COLOR』を出してから、もう次のアルバムが出来るぐらいの曲を作ってたんやけど、リリースがなかなか出来なくて。じゃあもうちょっと違う方向性でまたアルバムを作れるぐらいの曲を作って。でもこれでもない。最初は作っても作ってもリリース出来ないのが、何でか分かんなかったですね」
tae「そんな感じで1年ぐらい経ってしまって。それまでは何やかんや1年に1枚は出してたから、そこで発信出来ないフラストレーションを初めて感じて。お客さんに何も言えてないし発信出来てない。そう思ったとき、もう2度とこうはなりたくないって、そこで学んだ部分がスゴく大きいよね。それまでは何となくポカーンとやってきたけど」
iCas「曲を作ったら出せるんちゃうんか?ぐらいの、ちょっと甘い感じというか」
――まぁでも、それを越えられてよかったですよね。自分たち的にも成長を感じられ、聴いた人もそう思う。この2年間がちゃんと形になったというか。レコーディングはめっちゃ楽しかったんですよね?
tae「楽しかったぁ~! 2ヵ月ぐらいでギュッとやったよね」
iCas「しかもライブしながら、まだカケラしか出来てない曲もあったりして。とにかく作って作ってみたいな感じやったけど、出せる嬉しさが勝ってたし、何かスゴい楽しかった。興奮した感覚はずっとありましたね」
tae「いい意味でこの2年間が素振りになってる、みたいな。ライブもずっとやってきたからグルーヴも大事に出来たし。作曲も最終的にめっちゃ早かったよな」
iCas「でも詞も早かったよね」
――じゃあもう迷いがあんまりなかったんですね。
tae「決まってからはもう、待ってました!って感じで(笑)」
――今作が出来上がったとき、スゴい達成感があったんちゃいます?
iCas「全部が狙い通りというか、アーティスト写真もオーッ!ってなったし。もうコレ最高!って思えるモノが、全部組み合わさった感じだから」
――でもそれってやっぱり、自分がこうしたいというイメージがあるから出来るわけで。そういう意味では、アーティストとしてやっぱり成長してきたと思うんですよね。思い描いたモノを形にするのって、やっぱりムズカシイから。聴く人にもいい裏切りが出来たんじゃないですか?
tae「ねぇ」
iCas「そうなってて欲しいですねぇ」
オレスカ史上最高にカッコ良かったなって言わせるライブがしたい
――そして、今回のタイトルは『Hot Number』ということで。
tae「ガンガン出来上がってくる曲を聴きながら、“今のうちらをどう人に伝えればいいんやろう?”って考えて。これからも頑張りまーす!みたいな新人でも、音楽業界は今後どうなるんだろなぁみたいなベテランでもない。飛び立って、着地点目掛けてまだ飛び続けてる感じ、無我夢中でもがいたり葛藤してる姿って、“HOT”なんじゃないかなって思ったんです。単純に“シンセ入れたらオモシロくない!?”“やろうやろう!”みたいになれてる今のうちらの熱をとにかく伝えたくて。デビュー当時はガーン!とアメリカ行ったりしてたのに、最近のオレスカ何してんやろ? どこ行ったんやろ?みたいに(笑)思ってる人もいると思う。でもうちらは今でも全然ライブしてるし、もっともっとオモシロいことをしてやろうって思ってる。そういうところもあって、ですね」
――やっぱ“熱さ”って何年経っても大事ですよね。そこがなくなったら自分で分かるし、なくさずにいられる自分でいることもスゴく大事で。今でもこのメンバーで音を出すときに、楽しいとか嬉しいとかオモシロいって思えること、ワクワク出来るのはスゴくいいことですよね。そして、このアルバムが出てツアーもあって、ワンマンはそれこそ2年ぶりで。ライブに向けては何かありますか? 大阪では地元のみんなも集まってくれるでしょうし。オレスカも、今は言うてもみんな東京にいますもんね。
iCas「もう何かね、住んでるところは(笑)」
tae「でも、そこから出てこんなことになってるよ!みたいな気持ちはめっちゃあるし、大阪あってのうちらやし。報告ではないけど、観て欲しいですね、この進化具合(笑)」
iCas「1番最初に観に来てくれてた人とかにも、今こんなことになってんるんや!って驚いて欲しいのもあるし」
tae「うちらって時期によってお客さんが割と移り変わってる方だと思うんですけど、どの人に観せても、オレスカ史上最高にカッコ良かったなって言わせるライブがしたいから」
――それはやり甲斐があるツアーになりますね。
iCas「ワンマンはホンマに久しぶりやし、大阪の人ってちょっと“ソウルメイト”みたいな感じというか。地元が大阪って分かるとすぐ仲良くなれる(笑)。スゴく会いたいですね」
――じゃあまたライブで是非お会いしましょう!
iCas&tae「是非!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2013年4月26日更新)
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