轟音渦巻くサウンドスケープに潜む絶対零度のエモーション
きのこ帝国の1stフルアルバム『eurika』が導き出した
自身のルーツとうごめく感情、神の声
バンドの心臓・佐藤(vo&g)が語るインタビュー&動画コメント
ポストロック/シューゲイザー/オルタナティヴetcを再構築し、神々しいまでに美しく儚い歌声が異次元へと誘うバンドサウンドで、その中毒性の高い楽曲同様着実にリスナーを侵食するきのこ帝国。昨年5月に発表された『渦になる』で一躍注目を浴びたブライテストホープが、僅か9ヵ月のインターバルで1stフルアルバム『eurika』を完成させた。一発録りによりライブの躍動感を宿した今作は、研ぎ澄まされていくサウンドと同時進行で、虚無も狂気も憎悪も歓びもないまぜに、言葉が生々しいまでの血を通わせている。そこでバンドの心臓部となるソングライターの佐藤(vo&g)に、自身のルーツからうごめく感情、そして佐藤のボーカルの核となる実にフィジカルな衝動までをインタビュー。『eurika』(ユーリカ)=“見付けた”と名付けられたタイトルはむしろ、我々の言葉を代弁しているとも言えるだろう。音楽を愛し、音楽に導かれた佐藤の言葉の1つ1つに、ぜひ耳を傾けて欲しい。
佐藤(vo&g)からの何かいい感じの動画コメント!
――バンドの結成自体は’07年で、今年で6年と結構長いですよね。バンドにとってどんな時間だったと思います?
「結構あっという間だった気がしますね。大学の同級生で組んで、何となく毎週スタジオ入ってるみたいなバンドだったんですけど、いろんなライブハウスに出たり、お客さんの反応だったり出会いだったりがあって、毎年何かしらステップアップしていってる感覚があったんで、“自分たちの音楽は全然届かないんじゃないか?”みたいな葛藤は、実はそんなに抱いてなかったですね。やっぱりライブがスゴいバンドが好きなんで、そういう人たちの背中を見て育ってきたところもあるし、あんまりCD出すことに関しても執着してなかったというか。ある種マイペースにやってきた面はありますね」
――同級生から始まったという話がありましたけど、そもそも佐藤さんの音楽のルーツとしてR&Bから入ったっていうのも、今のアウトプットを聴いていると不思議です(笑)。
「兄弟の影響でよく聴いてましたね。しかも日本に入ってくるブラックミュージックとかって、やっぱり有名な人じゃないですか。アリシア・キースとかローリン・ヒルとか、中学生の頃はグラミー賞を穫るような人ばっかり聴いてましたね。あとは、兄がダニー・ハサウェイが大好きで、もう耳にタコが出来るぐらい聴かされてました(笑)」
――兄弟みんな音楽が好きなんですね。
「姉はミッシェル(ガンエレファント)とか黒夢とか結構ガツッとしたのが好きで、当時はうるさい音楽を聴いているなぁってイメージだったんですよ(笑)。でも高校に入ったぐらいから、そっちもカッコいいなって思い始めて(笑)、バンドも聴き始めたりもして」
――楽器を始めたのは?
「初めて触ったのは小学校で、そのときにはもう兄が高校か大学生ぐらいでギターを弾いて、コピーしたり曲を作ったりしてたんで、その影響もあってカッコいいなぁと思い始めて。“アコギはネックが太くて弾き辛いからまずエレキから始めたら?”って言われて、友達から借りた楽器で練習してましたね。とりあえず“ドレミファソラシドを弾けるようになったらちゃんと教えてあげる”と言われてたんで、ずっとドレミの歌を練習して。ドレミの歌だけスゴい速弾き出来ます(笑)」
――楽器に触れたのは結構早かったんですね。歌うことととか、曲を書くことは?
「歌に興味を持ったのも同じ時期で、当時は宇多田ヒカルさんが丁度デビューして、“何だ? あのPVは!?”みたいにメディアが騒然としてた時期で(笑)。世代的にはSPEEDとかモー娘。が流行ってたんですけど、やっぱり兄弟の影響なのかさっき言った宇多田ヒカルさんとか山崎まさよしさんとか、シンガーソングライターばっかり聴いてましたね。歌に関しては、いろんな人の歌を別に誰に聴かせるでもなくこっそり部屋で真似して歌ってたぐらいで(笑)。曲を作り出したのは中学3年生ぐらいのときですね」
――歌うだけじゃなくて、オリジナルでやりたいとなったんですね。
「聴いてきた人がやっぱり自分で曲を書いてる人ばっかりだったので。あとちょっと頑固な面があるので、人に作ってもらった曲を素直に受け入れて歌うのが難しそうだなって思ったんですよ」
――その年齢ですでにそういう予感があったんや(笑)。
「(笑)。“自分はこんな風に思ったことないな”って思うと、もう集中出来なくなっちゃう。だったら自分が思ったことを書いて、歌えばいいんじゃないかなって」
――よく歌を始めるキッカケで、何かの機会でみんなの前で歌ったら誉められて、それが気持ちよかったのがずっと忘れられなくて…とかがありますけど、そういう感じではないんですね。
「初めはそうですね。家に誰もいないときにこっそり、“今日は大声で歌えるぜ!”みたいな感じだったんで(笑)。友達にも歌が好きだと言うこともなく。でも、その当時の選択授業の音楽の発表会でたまたまメインボーカルをやることになったとき、スゴく恥ずかしかったんですけど歌ったら、先生に“あなたいい声じゃない、ずっとフザけてる子だと思ってたわ”みたいに言われて(笑)。でも、やっぱり嬉しかったのもあって、もうちょっと人前で歌ってみてもいいかなって思うキッカケにはなりましたね」
――兄の影響でギターを持ち、自分の言葉で、自分の曲を歌い始めて。あと、きのこ帝国は初めて組んだバンドなんですよね。大学では音楽サークルで結成みたいな感じですか?
「自分の籍は一応あったんですけど、ギターのあーちゃんとベースのシゲ(=谷口滋昭)は、元々もうライブハウスとかでやってた子たちだったんで、サークルで、学祭でやるとかっていうよりは、普通に外でやっていこうみたいなイメージでメンバーを探してたみたいで。たまたま友達同士が知り合いで紹介してくれて、ドラムは1回変わってるんですけど、そこからですね」
――俗に言うポストロックとかシューゲイザー周辺の、今のきのこ帝国のサウンドになっていったのにはどういう流れで?
「まず最初に友達にtoeをオススメされてライブを観に行ってみたら“何じゃこのバンドは!”ってハマって(笑)。そこからINO hidefumiとか、mouse on the keysはメンバーみんな好きですし。そしたら徐々にモグワイとかに流れていくじゃないですか。で、マイブラ(マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン)とかライド、最近はポーティスヘッドとかも好きなんですけど、そんな感じで日本のインストから洋楽に流れていって今に至る、みたいな。個人的に20歳前後にそういう音楽がスゴい好きで聴いてたんですけど、当時のきのこ帝国はそういう音楽性でもなくて。まあ音がデカきゃいいと思ってたんで、普通に何かよく分かんない曲をやってたんですけど(笑)、徐々に自分の音楽の嗜好を入れていきたいなと思い始めて。メンバーはポストロックとかシューゲイザーにあんまり興味がなかったと思うんですけど、布教していってですね(笑)」
――ベースの谷口さんのルーツに“アニソン”ってどこかに書いてましたからね(笑)。
「ホントですよ(笑)。スカとかアニソンとかが好きみたいで。あーちゃんは邦楽ロックとかが好きで、ナンバーガールとか、それこそサンボマスターとかをインディー時代から聴いてたりしたような子で。ドラムはベン・フォールズとか、スティーリー・ダンとか」
――バラバラやな(笑)。
「個人的には、同じレーベルのCONDOR44のアルバムも擦り切れるぐらい聴きましたね。あと、自分の声とサウンド的にもしっくりくるのかなっていうので、シガーロスとかはいまだにスゴい好きですし。あとフィッシュマンズも好き。やっぱりスゴいなぁって思うバンドはライブが圧倒的だし、自分たちもああいう風になりたいと思ってましたね。なので試行錯誤して照明とかも考えますし、トータルで武器になりそうな部分があったら全部伸ばそうっていう感じで。一時期から楽曲とか声の聴こえ方を徐々に気にし出して、今の音になったという感じですね」
“きのこ帝国の軸はライブなんだ”って
――前作『渦になる』('12)を経て、今回はどういったアルバムにしようというビジョンは何かありました?
「やっぱりあのCDを出すまではずっとライブ中心の生活をしていて、CDはCDの良さがあるのは分かるんですけど、リスナーとしての自分はライブを観に行くことが主流だったので、あのライブの一体感みたいなものを出せなかったのがちょっと心残りな部分もあって。その分キレイな音というかコーティングしてもらった感じの音になったので、それは自分たちだけでは作れなかった世界観だなって。でも今回は、ちゃんと音源でも“きのこ帝国の軸はライブなんだ”って表現出来たらいいなって。そこはこだわりましたね」
――今回のレコーディングはそういうことからも一発録りということで。
「逆に一発録りの方が楽なんですよね。ライブでは5~10曲ぐらいはぶっ続けで演奏するわけで、バラバラに録っていくことの方が自分たち的に難易度が高くて。今回は広いスタジオで録れるのもあったんで、4人で一気に録っちゃった方が自分たちのやりたいようにやれるんじゃないかって。ある程度の荒ぶり感は残したいのもあったし、あんまり気負いもなく自然にやれましたね」
――前作『渦になる』から、状況的にも明確な変化があるじゃないですか。それは作品にもハネ返ってきました?
「ライブ自体はあんまり変わってないんですけど、制作への考え方はちょっと変わって。前作は結構てんてこまいで、とにかく今までやってきた曲を入れようみたいな感じだったんですけど、今回は聴き手がある程度飽きずに最後まで聴けるものがとにかく作りたいなって。なので音は耳にシンプルに入ってくるように、曲順も練って。そのこだわりが、1枚目とは違う風に聴こえるかもしれないですね」
――あと、きのこ帝国はサウンドについて触れられることが多いと思うんですけど、今作は歌詞がめちゃくちゃいいですね。言葉で世界観が広がった気がしました。
「ホントですか? 嬉しいです。とっても恥ずかしいことばっかり書いてるんですけど(笑)」
――おおよそ歌詞にはしづらい感情にも多く触れてますが、やっぱりこれを面と向かって人に伝えるのと、メロディに乗せて伝えるのとでは全然意義が違うじゃないですか。そういう意味でも“歌詞”としてスゴく響くなぁと。まぁこんな歌詞を書いたら絶対聞かれる話ですけど、それこそ『春と修羅』(M-3)に出てくる“あいつをどうやって殺してやろうか 2009年春、どしゃぶりの夜に そんなことばかり考えてた”って、この2009年に何があったのかと(笑)。
「(笑)。そうですね…バンドが自分たちの意志じゃないところで、もうこのままじゃ続けられないんじゃないかみたいな時期があって、結構みんなガクンと落ちてたんです。けど、4人全員が音楽に向かう気持ちがあったので何とか乗り越えて。もっと大きく構えて冷静でいたら、ドン底にハマるようなことではなかったのかもしれないなとも思うんですけど、今はいろんな人が応援してくれてるいい状況があるからこそ、そう思えるのかもしれない」
――やっぱりここまで強い感情を持つことって、頻繁にあることではないと思うんで。自分も今までに殺したいと思ったヤツが何人いるか考えてみたんですけど(笑)、それって一時的なものではあっても続く気持ちではないというか。でも、生きているとそういう強い感情を喚起させられることはやっぱりある。強烈な歌詞ではありますけど、ある意味みんなが共有出来る想いだなと。
「何か譲れないことが1つドカン!とあると、折り合いをつけられないこともありますよね。でも、そんなこと思ったことがない人ももちろんいるかもしれないですから、その場合は悪影響ですけど(笑)」
とにかく人の声の振動が好きなんです
――今回のアルバムの中の1つのテーマとして“忘れる”っていうのもありますよね。
「そうですね。今回は前作以降に作った曲が半分以上で、あとは5~6年ライブでやってるような昔からの曲も入ってて。その“忘れていく”みたいなニュアンスが含まれているのはだいたいここ数年で書いた曲ですね。2009年がどうっていうのはやっぱり2009年周辺の話であって、一生の話じゃない。何かそこに足を引っ張られてるのがバカらしくなったことがあって、一生こういうことを歌っていくのかよって自分でも思ったんです。もっと人生はいろいろあったし、そうやって派生した出来事よりも、根本的に自分がなぜ音楽が好きなのかを見つめ直したいなと徐々に思い始めて。元々そんなに要領もよくなかったりするので、やっぱ勘違いとか誤解もされることも多かった。音楽を聴いている時間だけが唯一何も考えなくてよかったんで、やっぱり音楽には何か特別な気持ちがあるんです。そういう嫌な思い出みたいなものからちょっと脱して、もっと遡ったり、もっと最近の身近なフラットなことを歌いたいって最近は思うんですよね。それが多分、今回のアルバムにはちょっとずつ出てるのかなって思います」
――最近、吉井和哉さんもインタビューで、“時間っていうものはホントに薬になるんだ”って言ってて。
「ホントそう思います。それはもう結構実感した時期があって。ホントそう思う」
――それこそ初めて組んだバンドで、そういうしんどい時期があって、それでもやっぱ音楽をやることを貫いてきたわけじゃないですか。さっき言ってたことともつながりますけど、そこまで音楽にこだわったのは何なんですかね。
「何でなんでしょうね…単純に喉が震えてる瞬間が個人的に一番興奮するのと、何か素直な感じでいられるんですよ。今の楽曲が自分の素直なところまで辿り着けてるかは分かんないんですけど、単純に誰かの曲を歌詞を見ながら口ずさんだりしてるときですら、素に戻れる感じがあって。小説が好きだったんで昔試しに書いたこともあったんですけど、向いてないなって断念したんです。けど、音楽は向いてるとか向いてないとか思ったわけじゃないのにやろうと思えた。やっぱ一番大事だったんじゃないですかね。ギターも好きですけど、多分声を出してるのが好きなんだと思います、メロディと一緒に。実際、素晴らしいメロディとリズムがあったら歌詞はあんまり要らなくて、“あー”とかでもいいと思ってて。とにかく人の声の振動が好きなんですよね」
――結構珍しい理由というか、音楽ってメンタルな要素がめちゃデカいけど、それってスゴくフィジカルな部分で。
「そうかもしれない。なかなか部屋とかお風呂で歌ってるような気持ちよさには辿り着かないですけど、歌に感情がちゃんと乗っかって出てるなっていうときは、ちょっと感動しますね。表層的なサウンドとかバンドがいいって言ってくれるのももちろん嬉しいんですけど、何より共感してくれる人がいたら、こっちとしては一生モンの出会いだなと思っていて。やっぱり人の考えに共感するのって簡単なようで難しい。1人1人のこだわりがあると思うんで。でもわざわざお金を出してCDを買ってくれたり、ライブに来てくれるほど好きでいてくれる人がいるのは、嬉しいです。音楽がなくても大丈夫な人だったら、多分ライブなんか来ないと思うんですよ。やっぱり音楽に何かを求めてるんだろうなっていうのは、たまに考えますね。音楽が好きな人って不器用な人が多いというか、変わり者だったり、対人関係がウマくいってなかったり。でもそこに自分たちの音楽が介入してくると、家族とか友達じゃないですけど、一瞬で愛しく感じるというか。そういう面でも音楽ってスゴいなぁって思いますね」
――いろんなモノを飛び越えて、人と人をつなぐことが出来る。
「昔からお喋りするときとかに、音楽とか本の話以外はウマく人と喋れなくて。音楽が好きだって言われたら“何聴くの?”みたいな話から広がる。この世に音楽があってよかったなって。会話が出来るんで(笑)」
――アハハハハ(笑)。
「最近人生が楽しいなぁって思えることが多いんですけど、それは多分周りに何かしら音楽に関わってる人しかいないからだと思うんです」
――音楽を介して会う人だから、何か合いそうだなっていうのはありますもんね。
「うん。同じ何かがあるんだろうなって」
――その『eureka』が2月にリリースされて、今の率直な気持ちはどうです?
「自分たち的には音とかを含めて納得のいく作品が出来たんで、出るまでちょっとウズウズしていたというか楽しみだったんですけど、実際に出たらスゴく反響が大きくて。やっと実感してきてる感じですね」
――今作に伴うツアーもあります。
「今までやってきた曲+今回の曲とか新曲も組み込んでいかなきゃいけないので、ある程度フォーマットとしてあったセットリストを崩していかなきゃいけないなと。次の段階のベストなセットリストを今探ってる段階ですね。流れはスゴく大事にはしたいなと思ってます。あと、結構各地のご飯とかもメンバーみんな楽しみにしてるんで。大阪ではたこ焼きを食べたりしてね(笑)」
――自分の音楽を持って、旅が出来るっていうのはいいですね。それではまたライブでお会いしましょう!
「ぜひ!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2013年4月17日更新)
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