ホーム > インタビュー&レポート > 北国の空気を音に変えるロックバンドsleepy.ab メンバーの脱退という大きな転換期を経て 2年ぶりにリリースした新作『neuron』について フロントマン・成山剛(vo&g)インタビュー!
――ニューアルバム発売に至るまで、いろんな紆余曲折があったかと思います。そのひとつが、津波秀樹さん(ds)の脱退だったかと思いますが。
「もともと、昨年の7月には5曲ほど録ってあったんですが、そこから4ヵ月後くらいに津波の脱退が決まって。その後の半年くらいは休止状態だったんです。正直バンドの存続自体も危ぶまれたりする感じで」
――その空白だった半年は、バンドにとって今までにない時期だったのでは?
「まあ、その休止状態の間も各々は何かしらやっていたとは思うんですが、バンドとしてはなかなか動かなくて。そんな中で既に録ってあった5曲のうち、最初にできた『アンドロメダ』という曲がありまして。ふと、その曲の続きを作りたいなと思ったんですよね」
――『アンドロメダ』が突破口を開いてくれたと。今作において、すごく核になる曲だったんですね。
「そうですね。何て言ったらいいのか、sleepy.abの中では新しいし強い曲だなと。ピタッとハマりましたね。ギターの山内(憲介)がオケをバーッと作ってきて、それを家で聴きながら軽く歌入れをしてたんですけど、歌詞自体も、その1回目で歌った時のままなんですよ、ほぼ。(詞の中の)“アンドロメダみたい”という言葉もその時出てきて。まぁ“アンドロメダみたい”って何だろう…とは自分でも思ったんですけど(笑)。そういう不思議な感覚で“できちゃった”感じですね。すごくおもしろい曲になりました」
――メロディやサウンドそのものにも物語がある感覚ですね。
「そうですね。結構、珍しいことなんです。メロディはすぐ書けるんですけど、いつも詞に時間がかかっていたので。それが『アンドロメダ』は同時にスッと出てきたんですよね。この曲がアルバムの出発点だなと」
――そもそも、アンドロメダに関して何か思いなどもあったんでしょうか。スッと言葉が出るくらいなので…。
「アンドロメダ星雲にですか?(笑) いや、全然ですし知識もないし。だから“アンドロメダみたい”っていう言葉がなぜ出てきたのか…。音を聴いた時に、宇宙っぽさを感じたんでしょうね。それがリンクして。宇宙からひとりで地球の様子を見ているような、どこか寂しい雰囲気を感じたのかな」
――なるほど。ちなみに、最初にできた曲は、『アンドロメダ』の他にどれだったんですか?
「『darkness』、『lump』、『torus』、『Lost』ですね。実はこの最初の5曲ができて津波が抜けることが決まるまでの間も、なかなか曲ができなくて。ダラダラになっていた時期だったんです。そういうところに、津波が脱退という形で警鐘を鳴らしてくれたんだと思うんですよね」
――それによって、危機感を持ったということ?
「なんとなく続いていくことが怖くなったんですね。例えばアルバムを出しました、じゃあ次はツアーへ行って…みたいな。それが何年も続いていて、当たり前になっていたりする。その“なんとなく”が怖くなった時、何でこのバンドがいるのかって意味がないとだめだなと思って。例えば、誰かにとってsleepy.abはどうしたら必要になるんだろうとかはメンバーで話しましたね。アルバムなりその世界観なりを作ることで、聴いている人がひとりになれるというか。ホッとするとかでもいい。俺たちはそういう作り込んだものが好きだし、改めて“作ること”へ専念していこうと。それに、東日本大震災以降って選択肢が狭まったと思うんですよ。…何だろうな。それまでは、みんな浅く広く好きなものが多かったと思うんです。でもそういう感覚じゃなくて、必要なものを選び取っているなぁって。音楽に限らずね。でもそういうものじゃなきゃ、続いていかないだろうなと」
――ニーズとの折り合いみたいなところでしょうか。ただ、sleepy.abが世間に媚びているとも思わないし、そういうところを狙っているとも思わないですが。
「狙っても、大体見当違いですしね(笑)」
――うまくいかない(笑)。
「だから、狙うのはやめようっていうね」
――あっ、らしさの追求みたいな。
「それしかない。らしさを追求することしか意味も成さないし、続けて行く意味もない。好きにやって存続できればいいやっていう、開き直りみたいな境地というか」
――それもやっぱり、このタイミングでわかったことという感じですか?
「3年くらいメジャー・レーベルにいたんですけど、勝手にイメージしてたんでしょうね、メジャーに行って“垢抜ける自分たち”みたいな(笑)。こんな風にならなきゃいけない、とか思ってたんですけど…うーん。別に、メジャーのスタッフさんは明るくしてくれ、ポップにしてくれなんて一言も言わないし、ただそのままやってほしいって言ってもらってたんですけど。勝手にこっちが利口になって、ポップなことしようとしていたんですよね。そこで何かこう、違ったんでしょうね。気負って。その時はそんなに意識もしてなかったんですけど、今思えばそういうところもあったなと。だからその分、今は好きにやりたいんですよね」
――そういった中で、サポートドラマーに鈴木浩之さん(ex.ART-SCHOOL)を迎え、再発進していくわけですが。
「津波のドラムはすごくsleepy.abに合っていたし、もちろん好きな音だった。だから彼の音を追っても他のドラマーは見つけられないだろうなとは思ってて。だったら、まったく違うタイプのドラマーに入ってもらって、新しい刺激が生まれないかなぁと。鈴木くんとは、ART-SCHOOL時代に札幌で対バンもしていて、すごくいいドラマーだなと思っていたので、彼だ!と」
――実際、鈴木さんとの化学反応はどうでしたか?
「結局、このアルバムはふたりのドラマーが叩いていることになるんですけど、それぞれのクセとか色が本当に違うんですよね。この曲は誰々だなとかわかる。スネアの音の長さが全然違うんですよ。津波はバーンッと沈む感じですごく長い。逆に鈴木くんはタンッと軽快な感じ。そうなると、歌に影響が出てきて。引っ掛けが違うんですよ、メリハリがつき過ぎるというか。もともとバラードの曲が多かったりするので、何かしら歌に対しての引っ掛かる箇所がないとうまく聴こえないというか。それに慣れるのは大変でしたね。でも“ここはあんな風に叩いて”とかも、あんまり言わないようにしていて。結局(津波を)追うことになっちゃうので。割と自由にやってもらって、ツアーで廻っていく中ですり合わせていった感じですね。今もその途中段階だと思うんですけど」
――そういった新鮮さを求めておられたわけですが、逆に言うと今までのよさを壊してしまう可能性もありますよね。そこへの恐怖感などはありましたか?
「そうですね。新メンバーでやる1回目のライブが新宿LOFTだったんです。『新譜録音経過報告行脚』という新作を出す前に廻る恒例のツアーで。そのライブでお客さんの顔を見る時が一番緊張しましたね。なんならお客さんみんなもすごく強張った顔なんですよ。(メンバーチェンジした)現実をあまり見たくないというか。溝みたいなものが客席との間にバーッとできていて」
――お客さん側としても、新しいsleepy.abへの期待と恐怖が入り混じっていたわけですね。
「ただ、途中で新曲をやったりすると、徐々にいい感じになっていきましたね。新曲はそもそもが鈴木くんだったのもあったし、新しい音を聴いてもらった時にはすごく納得してもらえたなと」
――メンバーチェンジを経て、新たに進んでいくsleepy.abの姿にお客さんも共感を持てたんでしょうね。では、そのアルバムについても伺っていきます。まず『prologue』を挟んで2曲目、これまでのイメージとはひと味違って“踊れるsleepy.ab”をテーマにした『euphoria』ですが、これも『アンドロメダ』同様、アルバムの核になる曲なんじゃないかなと。
「今までも激しい曲はアルバムの後半とかにはあったんですよ。それを今作では頭に持ってきているので、以前とは違った提示をしたかったというか、ちょっとギラついてみたというか。よくTwitterとかで“これsleepy.abなの?”、“いいじゃん!”とか、“今まで苦手だったけど好きかも?”とか(笑)、言ってもらえて。うれしいですね。…苦手だったんだ~、まぁいいやっつって(笑)」
――それは結果オーライということで(笑)。それにしても、この『euphoria』のタイトルは“多幸感”という意味ですよね。曲全体を包むきれいなメロディから受ける幸福感とは違って、タイトルの意味を加味するとちょっと怖い側面も感じます。
「多幸感って怖い言葉ですもんね」
――そういう陰影というか、怖さとかも曲作りの上では意識されているんですか?
「そうですね、アルバムの後半に行けば行くほど、逃避行的な歌詞になっていくんですよ。現状から逃げたいような。(メロディの美しさなどは)そういう現実からのトリップ、というと直接的ですけどね」
――続いて『ハーメルン』についてもお訊きしたいのですが、取材資料に書かれているライナーノーツで、“原曲の雰囲気をどうバンド・サウンドに落とし込むか”ということに苦心された楽曲だったんですね。
「そうなんです。普通に作っちゃうと柔らかくなっちゃって。わざと汚して作っていきましたね。全体的にはすごくきれいな楽曲なんですけど、よく聴くとジャンクな音も入っていて。そういう違和感とかが印象に残ればいいなと。イメージは雪解け。学生の頃、登校中の寒い感じとか」
――また、7曲目の『パラベル』は、インタールードとして曲同士をつなぐために作られたと。
「そうですね、1stアルバムの時から毎回『みんなのうた』シリーズとして、ひとつ遊びの曲を作ってまして。NHKの『みんなのうた』でかけてもらいたいっていう夢を込めてるんですけど。今回はいろんな音を録ってきて、それをコラージュして作りました。雪を踏む音や焚き火のパチパチする音とか、そういうものをサンプリングして」
――なんだか音楽の原点に返っているような作り方ですね。パッチワークな感じ。
「タイトルの『パラベル』はパラレルワールド+タイムトラベルから。この曲から違う世界へ行くイメージですね。ここからまた深みが増していく感じです」
――そこから『cradle song』へ続いていきますが、こちらも『ハーメルン』同様アレンジに苦労されたそうで。2009年には原曲があったんですよね。
「前々作『paratroop』の時から作ってましたね。毎回アレンジに悩んで、ちょっと待ったを繰り返していたので今回は形にしたいなと。何かダサくなっちゃうんですよね。ちょっと間違えると…。すごくダサくなるんですよ(笑)。今までいろんなアレンジがあったんですけど、80年代的な雰囲気が失敗したというか…。ギリギリじゃないですか、80年代のかっこよさって。それがどこかマイナスに働く感じが出て、完成できなかったんですね」
――なるほど(笑)。それも一期一会じゃないですけど、できるべきタイミングがやっと来た感じですね。他にも制作についてエピソードはありますか?
「『around』は結構難しかったですね。フォーキーな曲だったので、どういう風にスペーシーに寄るかを考えた時、悩んじゃって。もともと、俺と山内にはすごく溝があるんですよ。俺は根底にフォークの影響があるのでアコギで曲を作るんですが、山内はエレクトロニカなんかがルーツ。それをどう混ぜるかをすごく考えて、成功した楽曲ですね。形にならない可能性の方が高いバランスだったんです」
――キワキワのところだったと。多分違うルーツがあるからこそだったんでしょうね。
「そうですね。各々の感性がちゃんと出せてますよね」
――そして、新作を携えての大阪公演が4月に控えています。会場の心斎橋JANUSのステージはどうですか?
「JANUSは一度だけ出たことがあるかな。その時はアコースティック・セットのライブで、バンドは今回のツアーが初めてなんです。雰囲気のあるハコだったので、どういう風になるかも楽しみですね」
――最後に大阪のファンに向けて意気込みをお願いします。
「今回、ライブ感のある曲とかも多いので、新しいsleepy.abも、今までのsleepy.abも見せられるライブだと思います。ぜひ、ライブに遊びにきてほしいですね」
――楽しみにしております。今日はありがとうございました!
取材・文 後藤愛
(2013年3月27日更新)
Album
『neuron』
【通常流通盤 紙ジャケ仕様】
発売中 2500円
musica allegra
SLP-1002
【オフィシャルweb shop限定販売 BOX入りアートブック仕様盤 ※DVD付き】
発売中 4000円
musica allegra
SLP-1003/1004
<収録曲>
01. prologue
02. euphoria
03. ハーメルン
04. undo
05. darkness
06. earth
07. パラベル
08. cradle song
09. lump
10. around
11. アンドロメダ
12. torus
スリーピー…写真左から山内憲介(g)、成山剛 (v&g)、田中秀幸(b)。札幌在住の3ピースバンド。接尾語の“ab”が示す通りabstract=抽象的で曖昧な世界がトラック、リリックに浮遊している。シンプルに美しいメロディ、声、内に向かったリリック、空間を飛び交うサウンド・スケープが3人の“absolute”な音世界をすでに確立している。数多くの大型フェスにも出演。
sleepy.ab オフィシャルサイト
http://www.musicaallegra.com/sleepy/