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ホーム > インタビュー&レポート > ceroの存在をシーンに明示した決定打 2012年を代表する傑作2ndアルバム『My Lost City』! フィクションとノンフィクションを行き来する 驚異の名盤の構造を高城晶平(vo&b&g)が語る


ceroの存在をシーンに明示した決定打
2012年を代表する傑作2ndアルバム『My Lost City』!
フィクションとノンフィクションを行き来する
驚異の名盤の構造を高城晶平(vo&b&g)が語る

 '11年にリリースした1stアルバム『WORLD RECORD』が音楽ファンのハートを鷲掴み、YOUR SONG IS GOODやSAKEROCK、キセルらを擁する東京のインディペンデントレーベル、カクバリズムの次世代を担う逸材として注目を浴びる3人組、cero。エキゾチカにポストロックにヒップホップに…と様々な音楽を下敷きにしたインディーポップは多方面に浸透中だ。そんな中、昨年10月に発表した2ndアルバム『My Lost City』は、「テン年代を象徴する1枚!」と言ってしまいたいほどの名盤に。“今”の気分を見事に反映した鮮度と鮮烈さ、尚且つ普遍さも獲得した、極上のポップミュージックなのだ。パラレルワールドを舞台にしたストーリーが1枚を通底し、そのフィクションのなかからリアルを立ち上がらせるというその世界観を含めて、フロントマンの高城晶平(vo&b&g)に話を訊いた。

高城晶平(vo&b&g)からのほわあんとした動画コメント

――アルバム『My Lost City』は、雨が降って、洪水になって、呑み込まれそうになった街が丸ごと船に乗って浮上して、船上パーティーが始まって…というストーリーになっています。3.11以前に作られた曲がほとんどだったにも関わらず、架空だったはずの歌詞の世界観が3.11後の現実に酷似してきた、という。

 
「この作品に入ってる曲の6~7割くらいは、1stアルバム『WORLD RECORD』が出たときにはもうライブでやっていたんですね。現実に寄った云々の話だと、今回のアルバムに入っている『大洪水時代』(M-5)もまさにそうなんですけど、1stアルバムに入ってた『大停電の夜に』が一番振り幅があった。元々ファンタジックな曲だったのが、急にリアリティのある曲にシフトしちゃった。ツイッターに“震災後、計画停電があったときに『大停電の夜に』を聴いてた”っていうのがあったり、“それ以来、聴けなくなった”っていう人もいたり。自分の中のファンタジックで魔術的な世界で、自分の砂場で遊んでる感覚だったんですけど、急にそれが現実としてやってきてしまったと」
 
――自分の中でのファンタジックな世界って、どの曲でも共通した世界なんですか?
 
「そうですね。1stと2ndも、全く同じ舞台のつもりで書いてるようなところがあって。同じ砂場というか、子供が砂場のお城に水をぶっかけたりするような感覚ですよね。作っては壊し、みたいに遊んでいたら、砂場の外の世界があんなことになってたっていう。で、慌ててその砂場をユートピア的な方向に寄せるというか。それによって砂場の外の世界も変化するんじゃないか、っていう子供じみた発想なんですけど。そういう気持ちは働きましたね。今までの曲も無下にはしたくなかったし、ネガティブな意味で作ったわけじゃなかったんで。全てがそういう方向に昇華されるようなまとまり方になればいいなって」
 
――そのユートピアというのは、どういったイメージなんですか?
 
「“ユートピアとは何か?”って言われたときにぱっと思い付くのがジブリなんですけど。『千と千尋の神隠し』に、すっごい雨が降って海になっちゃうシーンがあって。それにも関わらず、その水の中を電車が通ったり、日常生活が何も変わらず営まれていて、“雨が降れば海になるんだね”、“雨が降れば海くらい出来るでしょ”みたいな感じで(笑)。そのシーンがすごい好きで。端的に言うと、そういうものに救いを感じたというか。アルバムの中で言うと、街が浮上して、ノアの方舟に丸ごと乗っている…子供じみた、異形のハッピーエンドですよね。楳図かずおさんの漫画みたいな、グランギニョルな絶望を描くんだけど、急に救済しちゃう、ズルみたいな形のハッピーエンドが必要なんじゃないかなって。このアルバムにそういうハッピーエンドを与えてるかっていうとそうでもないんですけど。その中道を行くようなものになればいいなって。現実も透けて見えるし、突飛な世界も二重化して見えるようなものになればいいかなって」
 
――アルバムの中ジャケットもまさに“ノアの方舟に街が丸ごと乗っている”ものになっています。元メンバーの柳智之さんによる絵ですが、そういったイメージを指定して描いてもらったんですか?
 
「音源を聴かせただけですね。これは、ヤナが完全にキャッチしてくれた。やっぱヤナも完全に世界観を共有してくれてる。イルリメさんがこのジャケットを見て、えらい感動して。“めっちゃいいジャケやん。完全にceroの船出を祝福してるで、これ”って言ってくれて。自分たちの世界観をそのまま絵にしてくれたんだなっていうだけで十分感動してたんですけど、そういう意味もあったのかなって思ったりして余計感動した、っていういい話なんですけど(笑)」
 
 
『My Lost City』ってアルバムは都市のことを歌ってるし
パラレルワールド的な世界を歌ってるけど
結局現実の世界の不穏さや不気味さが入り込んでる
 
 
――アルバムタイトルの『My Lost City』は、スコット・フィッツジェラルドの短編から、ですよね。
 
「短編自体は地味な話なんですけどね。元は’11年のクリスマスにワンマンライブをしたときに、イベントタイトルの候補に『My Lost City』っていうのもあったんです。でも(震災があった)’11年の終わりに『My Lost City』っていうのもな、っていう感じで結局なしになったけど、引っかかりのある言葉だったのでどっかに使いたいなっていう想いも残ってて。今回のアルバムのタイトルを考えるときに、今そこにある曲を網羅する言葉として最適なんじゃないかなって。物語のピリオドのひとつになるんじゃないかなって」
 
――都市の持つ“享楽”と“空虚”をテーマにしたとのことですが。
 
「『わたしのすがた』(M-11)でも、“シティポップが鳴らすその空虚、フィクションの在り方を変えてもいいだろ?”って歌ってたりするんですけど。1stが出たとき、自分たちの音楽をシティポップっていう言葉で称されたけど、自分たちではそんなイメージはしてなかったので意外で。むしろこれが“シティポップっていうのか”って。(80年代当時の)シティポップと呼ばれるものを改めて聴き直してみて思ったのは、シティポップと呼ばれるものにおけるシティ=都市っていうのは、存在しない世界というか、バブルのときもあったのかっていうと怪しいもんで。一種のリゾートミュージックなんだなって思ったんですね。実際にはない架空の都市、ただただ遊園地のように楽しい都市を完全に描き切って、嘘を完全に突き通している。それは素晴らしいことだなと思ったんですね。空虚なんだけど、享楽的な世界を立ち上げるのに成功してるなって。自分たちにそういうことが出来てるのかって言ったら、そこまで嘘をつき続けることは難しいなと。『My Lost City』ってアルバムは都市のことを歌ってるし、パラレルワールド的な世界を歌ってるけど、結局現実の世界の不穏さや不気味さが入り込んでるというか」
 
――ceroの音楽は、都会だからこそ生まれる、アーバンな音楽だなと感じます。
 
「僕らの住んでる阿佐ヶ谷あたりは、西東京の外れののどかなところで。でも、キラキラした新宿のビルを遠巻きに見ることも出来る。いつでもアクセス出来るし、いつでもエスケープ出来る、その両方の安心感がある立地で育ったので。そういう距離感で見てますね。都市への憧れみたいなものもあるけど、渦中に入っても空洞で。どこの都市も同じだと思うんですよ」
 
――ちょっと離れているくらいがいい、と。
 
「その方がキレイに見えますよね。摩天楼みたいな感じが小さい頃から絵的に好きで。渦中にいたら見上げるばっかりだけど」
 
――歌詞は1人称が多いですよね。アルバムタイトル含め、個人的な視線のパラレルワールド、という感覚ですか?
 
「作詞は僕と荒内(key&b)くんの2人がそれぞれしてるんですけど。2人で書く曲も増えて、お互いの曲に干渉し合うようになってきた。一緒に考えたりする機会もあったり、お互いの物語を交ぜてるというか。聴く人にもそれぞれ自分たちの都市像があるわけで、そのそれぞれに没頭して彷徨って欲しい」
 
――共通の世界を彷徨うのではなく?
 
「このアルバムはあくまでceroの持ってる世界を、ceroのみんなで彷徨った結果。自分だけの世界とも言えるんですけど、『Contemporary Tokyo Cruise』(M-8)では“わたしたちはここにいます”って歌っていて、そういう部分では相互に影響し合ってるというか。1人1人の中で全員が入ってもいる、っていう構造になってるのかなって」
 
――個々だけど、共有してもいる、と。
 
「個人的無意識と集合的無意識だったり、仏教の末那識と阿頼耶識だったりの考えなんですけど、個人的な思考や行動が、結局は共有してもいる、っていうのがロマンチックでいいなって。1stの『WORLD RECORD』はそういうところから出発して作ったんですけど」
 
 
ceroは誰かが中心になる音楽とは違って、真ん中は空洞というか
輪になって、歌とか曲が中心にあるべき、という考えをみんなが持っている
 
 
――『船上パーティー』(M-6)に顕著なんですけど、アレンジが凝っているというか、例えば歌詞を追っていなくても、音の感触と展開で世界観を感じられるというか。曲のアレンジをする中でどういったことを心がけましたか?
 
「ライブで洗練させてきたっていうのは大きくて。お客さんの反応を見て、ずっとアレンジを変え続けていくバンドなので、人前に出しながら形を整えていって。僕が好きなNYのZE Recordsっていうレーベルの連中とかは、レコードサンプルをまず作って、クラブでかけてフロアがガン踊りをするのを見てからプレス枚数を決めたりアレンジを変えたりしてたらしくて。そんな感じで、生の現場で制作していきましたね」
 
――ラストの曲の『わたしのすがた』だけは、フィクションの世界ではなくて、現実の視点で描かれていますよね。で、2分40秒くらいのところで一瞬、音の空白があって、そこを起点に現実とパラレルワールドが交ざるというか絡まっていくような印象を受けました。
 
「まさにそんな感じですね。この曲だけ、パラレルワールドから逃れて、夢から醒めて、現実の世界で頭が重たいまんま街をうろついてるようなイメージなんです。ボーナストラック的というか。でも、その空白の部分の間奏で、デジャヴ的に船の上にまだいるような錯覚というか疑惑を感じ出して、そのままフェードアウトしていってアルバムが終わる。そうすることでおもしろくも不気味というか、楽しい遊園地でありつつも、不穏な今の都市の感じも入れ込めるかなって」
 
――今作は柳智之さんの脱退を受けて、“特殊サポーター”としてMC.sirafu、あだち麗三郎の2人を迎えての制作でした。作業はどうでしたか?
 
「2人とも付き合いは長いんで、そういう点ではスムーズですよね。ほとんどメンバーと言って差し支えない。音楽的なところでも信頼してるし、作ってる現場でも意見をあーだこーだ言ってくれました。みんなで作ってる、っていう感じは強いですね」
 
――コーラスにも50人くらい参加してもらったり、七尾旅人や口口口(クチロロ)にしても、不特定多数の人とのやりとりの中から音楽を作り出していたりと、今の音楽シーンで“大人数”というキーワードも見逃せないなと感じます。
 
「共通してあるかもしれないですね。口口口のアルバム『マンパワー』('12)なんて、もう崩壊寸前というか(笑)、個がないじゃないですか。フィールドワークとかで街々のラッパーにラップさせたものを繋いで1つにしていたり…全然アイデンティティがないのに、でもやっぱり口口口、っていう。コーラス隊を入れるのは前回から続いてることで、前回は表現(Hyogen)とceroで合同録音をしたんですけど。一定の場所に集まった人が合唱する、っていうだけで素晴らしいというか、声って楽器の中でも相当おもしろいので。今回もやりたいと思ってたんですね。1stのときに比べてサークルが広がったというか、大阪なり京都、金沢、札幌とか、どこを思い描いても土地土地に友だちの顔が浮かぶようになってきていて。それを入れこみたいなと思って。僕が阿佐ヶ谷でやってるrojiってお店で録音したんですけど、常連さんやツイッターで呼びかけたりして50人くらい来てもらったんです。ceroは誰かが中心になる音楽とは違って、土地のあり方と同じで、真ん中は空洞というか。輪になって、歌とか曲が中心にあるべき、という考えをみんなが持っている。ロックスターが真ん中にいて“よしいくぞー!”っていうのもかっこいいし憧れるんですけど、ceroはそうじゃないので」
 
――では最後に、ワンマンライブに向けてメッセージをお願いします。
 
「東京以外でワンマンをやったことないんで、すごい楽しみですね。ワンマンでしか出来ないことっていっぱいあるので、おもしろいことが出来たらいいなって思います。ceroの音楽は物語的なところがあるので、演劇的というか視覚的というか、そういう演出もやれたらいいなって。ceroの音楽で個人的に楽しくてやってるのは、アルバムはひと続きの物語として並べるけど、ライブでは1stの曲も交ぜながらバラバラの曲順でやる、でも改編可能の物語というか。こういう繋がりもあるのか、って気付くこともある。詩編が連なって1つの物語になってるから、順番をぐちゃぐちゃにしても、また違った話になる。それは小説にも映画にも出来ない、音楽を通じてやる物語でしか出来ないことの1つなのかなって」
 
 
Text by 中谷琢弥



(2013年1月19日更新)


Check

Release

ソングライティングの才を爆発させた
圧倒的で新しいポップミュージック

Album
『My Lost City』
発売中 2500円
カクバリズム
DDCK-1030

<収録曲>
01. 水平線のバラード
02. マウンテン・マウンテン
03. マイ・ロスト・シティー
04. cloud nine
05. 大洪水時代
06. 船上パーティー
07. スマイル
08. Contemporary Tokyo Cruise
09. roof
10. さん!
11.わたしのすがた

Profile

セロ…写真左より、橋本翼(g&cl)、高城晶平(vo&b&g)、荒内佑(key&b)。’04年に高城、荒内、柳智之(ds)で結成。’06年頃からジオラマシーンとして活動する橋本が加入。様々な感情、情景を広く“エキゾチカ”と捉え、ポップミュージックへと昇華させる。’07年、ムーンライダースの鈴木慶一の耳にとまり、その後、坂本龍一のレーベルcommmonsより発売された『細野晴臣 strange song book -tribute to haromi hosono 2-』収録の鈴木慶一『東京シャイネスボーイ』に参加。同レーベルのコンピ盤『にほんのうた 第二集』に唱歌『青い眼の人形』のカバーを担当するなど、精力的に活動。’11年、初の流通音源『WORLD RECORD』をカクバリズムより発売。本秀康による印象的なジャケットのイラストも相まって好評を得る。リリース後、柳が絵描きとしての活動に専念するため脱退。現在は、MC.sirafu(tp& steel pan&DSetc)、あだち麗三郎(ds)を特殊サポーターに迎えた編成でライブを行っている。’12年10月、2ndアルバム『My Lost City』を発表。バンド名はContemporary Exotica Rock Orchestraの略。

cero オフィシャルサイト
http://www.geocities.jp/cerofan/


Live

各地でソールドアウト続出!
レコ発ツアーも残りわずかに

 
『cero 2nd album ''My Lost City''
 発売記念ワンマンツアー』

【大阪公演】
Thank you, Sold Out!!
▼1月20日(日)18:00
梅田Shangri-La
スタンディング2800円
当日券その他のお問い合わせは…
SMASH WEST■06(6535)5569

 
【仙台公演】
▼1月27日(日)18:00
仙台CLUBJUNKBOX
スタンディング2800円
[共演]yumbo
隠空■022(268)2998
※隠空/MILLSにてアルバムをご購入された方は、それを照明出来るもの(レシート・現物等)をご呈示頂ければ店頭でのみ特別価格2,500円にて販売。


【札幌公演】
チケット発売中 Pコード186-919
▼2月1日(金)19:00
札幌cube garden
スタンディング2500円
[ゲスト]カラスは真っ白/Alfred Beach Sandal
スマッシュ・イースト■011(261)5569

チケットの購入はコチラ!
チケット情報はこちら

 
 
【東京公演】
Thank you, Sold Out!!
▼2月3日(日)19:00
CLUB QUATTRO
オールスタンディング2800円
当日券その他のお問い合わせは…
スマッシュ■03(3444)6751

魅惑の組み合わせが実現!
春には東京でNabowaのツアーに参加

【東京公演】
『Nabowa Spring Tour 2013
 Nabowa×cero』 New!!
一般発売2月2日(土)
Pコード190-561
▼4月5日(金)19:00
CLUB QUATTRO
オールスタンディング3500円
[共演]Nabowa
ホットスタッフ・プロモーション■03(5720)9999

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