遅れてきた大型新人誕生!?
RIP SLYMEのPESがソロデビュー!
心地よい裏切りと音楽の幸福に溢れたグッドヴァイブな
1stアルバム『素敵なこと』インタビュー&動画コメント
RIP SLYMEのPESの1stアルバム『素敵なこと』が素晴らしい。堺雅人・新垣結衣主演の人気テレビドラマ『リーガル・ハイ』主題歌に起用されたデビューシングル『女神のKISS』、2ndシングル『シーサイドラバーズ/真夜中のレインボー』を含む同作は、ヒップホップ畑のイメージを持っていざ聴き出せば、プリミティブなロックチューンにスカありファンクありボッサありetc、その先入観を軽やかに裏切り、彼のソングライティングの妙と歌心に気付かされる、幸福な56分間の音楽旅行へとナビゲート。そして彼の人徳が成せる業か、核となる楽曲でプロデュースを手掛けた寺岡呼人との意外な接点や、気心知れたWISEとTarantula(from Spontania)との本領発揮のパーティーチューン、俳優の松田龍平を迎えたカントリーなど(中には盟友RYO-Zのために書いた曲も!)、幅広い交友関係もピリリと隠し味を利かせた、ジャンルレスでフリースタイルな1枚に仕上がっている。そこで、PESにソロ活動へと至ったいきさつやアルバム制作を阻んだとある出来事(!?)、彼の音楽的バックグラウンドなどなど、『素敵なこと』にまつわるエトセトラを、たっぷりとインタビュー。喜ぶべき大型新人の誕生と、彼の人柄が随所に滲み出たトークセッションを、ぜひご賞味アレ!
PESからの動画コメントはコチラ!
――ソロ活動を始めて、それこそこういうインタビューも含め1人で動くことも多くなったと思いますが。
「えーっと…まぁ、お恥ずかしい、限り…ですねぇ(笑)」
――(笑)。
「自分が何のロジックもないまま制作していたことが、インタビューを重ねていく内に徐々に明るみになり(笑)」
――聞かれて“そう言えばどうだっけ?”って考えてみて、考えてなかったことに気付く(笑)。
「そう(笑)。結構そういうところはありましたね。聞いてもらって、話をさせてもらって、自分でもそういうことかと、段々分かってきたかなっていうところです」
――そもそも最初に聞いておきたいのは、ソロをやろうと思ったきっかけなんですけど。
「RIP SLYMEでも毎回1~2曲作らせてもらってるんですけど、そのときも元々は10曲ぐらい作ってみんなに聴かせて、選んでもらってアルバムに入る形だったんで、余った曲が結構ありまして。もったいないから、それをどうにか世に出せないかなぁ、いつか形に出来たらなぁとは思ってて。2年くらい前からフリーダウンロードを視野に入れて、そういう曲を聴いてもらえるWEBでも作ろうかとは思ってたんですけど、それよりも先にRIP SLYMEにちょっと空き時間が出来て、そこでドラマの主題歌のお話を頂いて。そういうことならその考えは1回置いといて、イチからドラマに合うような曲を提供出来たらなぁと」
――当初自分がやりたかったことと、そこまで方向性を変えることなく出来た感じですか?
「そうですね。具体的にどういうモノをどういう風に世に表現していきたいみたいなことは、あまりなかったんで。逆にスゴくいいキッカケをもらったなぁって。ドラマの曲ということで台本を読ませてもらったりとかすることで、自分1人だと到達出来ないカテゴリというか、楽曲の制作方に考えが向いていったり。プロデュースを寺岡呼人さんにお願いすることになったのもそうだし、自分の枠の中じゃ出来なかったことが出来るようになったので、スゴくよかったなと思ってます。ありがたいなと」
――それこそもうちょっと早いタイミングで、ソロアーティストとして活動したいみたいな想いはあったんですか?
「まぁうっすら。ホントにバケツの水に醤油1滴ぐらいの薄さで(笑)」
――相当うっすらだけど、ないことはないぞと(笑)。
「せっかく音楽に携わってこれたんで、いつかやりたいなっていうのは。まぁ大河の1滴ですけど」
――サウンド的にもギターがメインであったり、PESさんと呼人さんというのも意外な組み合わせだなぁと。
「友達とかもみんな“ラップしろよ”というか、そういうPESのアルバムをいつか聴きたいっていうのは昔から言ってくれてて。でもいざやるにあたって、さっき言ったドラマの曲があって、ストーリーの邪魔にならないように、ストーリーに沿った雰囲気の楽曲を作りたいと思ったときに、ラップって結構メッセージ性が強いんで、やっぱりそれありきで考えない方がいいなって。あとは自分が弾ける楽器がギターだけだったのもあったし、アルバムでもギターをメインでやりたい。呼人さんに関しては、僕が元々JUN SKY WALKER(S)の大ファンで、何年か前にフェスで知り合っていたので、直接お願いしましたね。まぁ飲みに連れて行ってもらったりしていた先輩だったんで、制作上のニュアンスはあ・うんで分かってもらえたんで、よかったなぁと」
――自分が昔聴いていたアーティストと飲むようになることも光栄なことですけど、さらに一緒に仕事が出来るっていうのも、何だか不思議なものですね。
「そうですね、スゴく。中学生の頃の自分に教えてあげたいような教えてあげたくないような(笑)」
――まさか一緒に音楽を作るようになるとはって。そもそも弾ける楽器がギターだけみたいな話がありましたけど、ギターはいつどんなきっかけで始めたんですか?
「もうやっぱり当時のバンドブームですね。それこそ最初に買ったのが(森)純太さんのレスポール、ギブソンじゃなくてグレコのレスポールですよ(笑)。あとはLINDBERGの『今すぐKiss Me』('90)を弾いたりしてましたね(笑)」
――世代ね(笑)。めちゃ分かります。でも結局は、ギタリストとかバンドとかではなく、RIP SLYMEとしてメジャーデビューして。
「割と周りの仲間がヒップホップも聴いてたし、アシッドジャズとかも流行ってたし、もちろんロックも聴いてたし。MTV世代というか、ごちゃ混ぜな感じでいろいろ聴いてたんで、何の抵抗もなくラップもやってて。EAST ENDとかRHYMESTERとかMELLOW YELLOWとかのイベントに遊びに行かせてもらってる内にね、やっぱりものスゴく感化されましたよ。楽しいし。ラップやって、CD出させてもらって、いつの間にか今みたいなことになっていって。Dragon Ashとかと出会ってからは、楽器を弾いて歌うのっていいなって思ってましたけどね。ACIDMANとかもそうですけど、楽しそうだなぁって。まぁ僕らは僕らで楽しいんですけどね」
――楽曲のクレジットを見ても、全編ギターを弾いてますもんね。あと、他誌のインタビューを読んでいて、それこそ“『女神のKISS』の原型は今年の1月7日に出来ました”とか、ハッキリ日付も覚えていたようだったんですけど、それには何か具体的なエピソードがあるんですか?
「いや、僕は曲を作るときにタイトルを考えないんで、とりあえず日付をタイトルに付けるんです。『LOVE』(M-3)はたしか12月28日だったんですよね」
――よく覚えてますね。じゃあ仮タイトルは20111228とか? タイトルだけでは曲のイメージが全く湧かない(笑)。
「そんな感じ(笑)。後からフォルダの名前を変えるのちょっと嫌だなぁって。でも、自分でも“あれ? 何日だったっけ?とか分かんなくなったりするんですけど(笑)。どうやっていったらいいのかなぁ…整理の仕方をちょっと考えないと」
“こうじゃなきゃいけない”みたいなところがあんまりないんですよね
――ラップではなく“歌う”という行為は、自分的に感じるところはありました?
「別に元々上手いわけじゃないんですけど、最初はやっぱり上手く歌おうとしていて。でも周りのエンジニアさんやスタッフに、“そういうこと、あんま気にしないでいいよ”みたいに言われて、それで結構気が楽になりましたね。あとは総意というか、みんなの“いいんじゃない?”を着地点にして。どうしてもっていうところは歌い直させてもらったりもしますけど、基本的には“楽しく”っていうところですかね」
――他のインタビューを見ていても思ったんですけど、PESさんの口から何度も“説得力”っていう言葉が出て来るのがスゴく印象的だなって。やっぱりグループで話し合いをするときに、説得力とか根拠、意見に対する代案がないと、ちゃんとディスカッション出来ないというか。その辺の目線は特徴的だと思ったんですけど。
「まぁソロって言ってもね、やっぱり周りの皆さんがいないと何も出来ないところはあるんで。総意で“いいな”ってなった方が、多分いいだろうっていうところで(笑)」
――とは言え、ソロアーティストとして活動していく上では、PESさんがどうしたいのか、どうするのかも求められるというか。グループとは違う決定権があるオモシロさだったり、難しさがあると思うんですけど。
「でも、そんなに変わらないところではあるんですけどね。RIP SLYMEのときも、楽曲を作って、いろんな意見を取り入れて、結果が伴わないことがあっても、いろいろと意見を交わしてそこに辿り着いたんだから、それはそれでよかったんじゃないか?って。何かあったら別に自分で責任を取ればいいんだし。まぁ…そこまで考えてないですけどね、実は(笑)。でもディスカッションして出来たモノの方が、実際いいんですよね。意見がそれぞれ入ってる方が」
――逆に言うと、それだけPESさんにも受け入れ態勢があるというか、俺が俺がじゃなくて冷静に、客観的に自分を見られる目線があるんですね。
「逆に“こうじゃなきゃいけない”みたいなところがあんまりないんですよね。こうしたいな~ぐらいの趣味感はあるんですけど、仕事をするときはみんなで考えて脳みそをたくさん使って、ドンドンアイディアを出し合って、精査していった方がいいと思ってて。客観的というよりは、自分の考えがあんまりないっていうことですね(笑)」
――でも今回は、その“こうじゃなきゃいけない”がないことが、アルバムを作る上でスゴく活きているというか。
「あ~そうですね。『interlude』(M-4)に至っては、俺自身もよく分かんなかったですから(笑)」
――アハハハハ!(笑) どういうことですか?
「WISEくんとかみんながスタジオ来て、“とりあえず寸劇やろうよ”とか言ってきて。“え!? えっ!?”って言いながらもうマイクの前に立ってて…。“何だ!? 自分の限界を遥かに超えているこの作業”って、もうよく分からないまんま録ってました(笑)」
――巻き込まれてる(笑)。そういう意味ではソロアルバムではあるんですけど、PESさんを巻き込んでくれる仲間がいっぱい参加してくれてるのは嬉しいですよね。
「そうですね。ありがたいことですね」
――レコーディングの作業自体はやっぱり大変だったんですか?
「そうですね。申し訳ないことに、僕が間に引っ越しを挟みまして…」
(一同爆笑)
――この一大プロジェクトの間に(笑)。
「今でもそのね、後遺症というか、引っ越しによる精神的なトラウマを皆さん抱えたまま(笑)」
――まあまあスケジュールに支障をきたしたっていう(笑)。
「ハイ(笑)。大変皆さんにご迷惑をお掛けしつつ…やって参りました(苦笑)」
――レコーディングの期間中なのは分かってたけど、スケジュール的にこのタイミングでしか引っ越し出来なかったのか、それとも先に引っ越しが決まってたんで仕方なかったとかですか?
「えーっと、“いけっかな?”っていう感じでしたね(笑)」
――アハハハハ!(笑) 大丈夫かな?と思ったら、思いのほか大変だったと。
「でもまぁ『素敵なこと』(M-1)『Change』(M-2)『シーサイドラバーズ』(M-7)『真夜中レインボー』(M-8)『女神のKISS』『Sunday』(M-13)とかは、早い段階で結構アレンジが固まってまして。クオリティ的にはもう全部が表題曲というか、呼人さんとか奥野(信哉)さんに携わってもらってたんで、そこの品質は保証されてるところがあったんで。クオリティの高いシングル的な楽曲と、スタジオで2~3人とかで作業したミニマムな『君のような誰か』(M-9)『あなた』(M-10)とのコントラストが生まれて、逆によかったなって間に引っ越し入れちゃった僕が言うのも何ですけど(笑)。これでね、残りの曲もシングルみたいに徹底的にやるって言ってたら、みんなの髪の毛が白くなっていくんでしょうけど(笑)」
――それこそ呼人さんがプロデュースに関わった曲とかは、結構キッチリ作り込んだ感じなんですか?
「そうですね。何回かトラックダウンさせてもらったりとか。それでもご迷惑をおかけしましたね(笑)。もうみんな、トラックダウンが終わった後は携帯の電源切っとこうって(笑)」
――またやるって言いかねない(笑)。トラックダウンまでした後に“やっぱり…”ってなるんですね。
「なるんですね、これが。ならないようになるにはどうしたらいいんだ?(笑) やっぱりいろんな方と作業する、音を入れてもらってエディットするっていうことに、ちょっと不慣れだったというか。“あれ? これちょっとベース大きいなぁとか、ドラム強いなぁ”とか、家に帰って思ったりして。まぁホントは事前の準備が大事というか、家でイメージしてこいよっていう話なんですけど。RIP SLYMEとかもずっとやってもらってる距離の近いエンジニアさんだったんですけど、それでも結構ピリピリ来てましたけどね」
――アハハハハ!(笑)
「メールしても返って来ないっていう(笑)」
(一同笑)
「さすがになぁ…って(笑)。こりゃ直接電話した方がいいなとか、いろいろありましたね」
――これだけキャリアを重ねて来たけれど、改めて今になって学ぶこともあったわけですね。
「全然そうですね。だって何も勉強しないでここまで来ましたから(笑)」
――それで行くにはスゴいところまで行ってますけど(笑)。
「もう勘でここまで来ましたね。申し訳ない(笑)」
軽やかに軽く聴けるっていうところは目指してやってました
――今回のレコーディング上で、印象的なエピソードってあります?
「さっきの話じゃないですけど、『女神のKISS』のベースのボリューム決めはもう、何回も何回もやりましたね」
――もう正解がどれだか、何が正しいか分からなくなってくる。
「正直『女神のKISS』に関しては、もうよく分からないところに辿り着いてます(笑)」
――まぁでもこの曲はデビューシングルで、このチームでPESのソロを作った最初の1曲ですから、みんな手探りですよね。だからこそシングルでこれだけ大変だったら、アルバムは地獄だろうっていうのが(笑)。
「そう!(笑) まぁでもよくよく考えたらドラマの主題歌のために何曲か作ってるし、『素敵なこと』『真夜中のレインボー』『Change』とかも結構初期に出来てたんで。あとはミニマムに作ってきゃ何とかなるんじゃないかと思っていたところに、引っ越しが入ってきたという感じですね(笑)」
――このアルバムはホントに独特の世界感を持っているというか、都会的でもあり、あたたかみもあり…このワイド感というか、アルバムの持つ広さは何なんだろうなぁって。
「確かに。どの楽曲にも土着感というかプリミティブな感じはあると思うんですけど、コード進行とか詞の感じとかは軽いので。強いフラストレーションを世の中にぶちまける、とかじゃないので、軽やかに軽く聴けるっていうところは目指してやってましたね」
――今みたいな混迷した時代だからこそ、音楽に強いメッセージを込める人もいるだろうし、それこそ社会への憤りを歌う人もいるだろうし。いろんな意図がそれぞれにあると思うんですけど、PESさんにとって音楽を表現することというか、音楽の効用ってどういうところだと思います?
「僕は音楽を聴いてないときにこそ、ふとフレーズが鼻歌で出て来て、フッと気持ちが切り替わるときがあって。例えば海に向かう車で音楽を聴いてて、波がよくないなぁと思いながら海に入って、その車で聴いてた曲のフレーズが頭の中でずっとループしてることによって少し楽しくなってきたり…何かそういう感じで音楽と付き合ってるので。僕の音楽もそういう風に聴いてもらえたらというか、長く付き合えるモノであって欲しいなと思いますけどね」
――人生を揺さぶる感動をとかいうよりは、生活のふとしたときに“あ、ちょっといいな”みたいな。
「そんぐらいでいいって思います。そういうちょっとしたことがたくさん入ったアルバムが作れたらいいなっていうところで、『素敵なこと』となったわけですけども(笑)」
――それめっちゃキレイな流れですね(笑)。タイトルは『素敵なこと』にしようと最初から思ってたんですか?
「『素敵なこと』は『女神のKISS』と同じぐらい皆さんが手を掛けてくれたので、シングルでもよかったし、アルバムに入るならリード曲になって欲しいなと思ってたんで。何で結局シングルじゃなかったのかっていうと、ちょっとり…ちょっとりって!(笑)」
(一同笑)
「やっぱり、です(笑)」
――ちょっと+やっぱり=ちょっとり(笑)。
「ちょっとりあの…(笑)ざっくりとしたタイトルだったんで、シングルとかには向いてなかったのかなって。でもアルバムのタイトルと考えると、幾つかあるモノをまとめて言うのには、とてもいい言葉だなって。結構サクッと決まっちゃいました」
歌は誰でも歌ってもいいモノだと思う
――あと、今作では『OK! MEXICO』(M-12)に俳優の松田龍平さんがボーカルで参加されてますけど、これはどういう経緯で?
「龍平くんと仲良くてですね、一緒に旅行にも行ったりしてて。今度アルバム作るんだよねって話をしたときに、“いいねぇ~”とか言ってたんで、“歌う?”って聞いたら“歌う”って言うから(笑)。龍平くんの家とかに行くと、妹さんがギター弾きながら歌ったりしてて、何か即興で歌わされたりとかもするんですけど(笑)、そういう歌のある家族っていう印象もあったし。僕自身も別に研ぎ澄まされた声がどうとかじゃないし、やっぱり歌は誰でも歌ってもいいモノだと思うんで。龍平が歌いたいと思うなら歌ってもらいたいしっていうところで、曲を作ってみたらカントリーになっちゃったっていう(笑)」
――そういった意味でも、やっぱり“こうでなきゃいけない”っていう概念がないアルバムですよね。歌うのはボーカリストじゃなきゃいけないとか、方向性はこうじゃなきゃいけないとか、メッセージがなきゃいけないとか…“しなければならない”というのがない。でも、何かイメージで、“こうしなきゃいけないんじゃないか”って勝手に思ってることって、日々にいっぱいあるでしょうね。別に誰からも言われてないのにね。
「うん。そういうことはPVを作る上でも結構あったりして。そこはスゴくディスカッションしましたね。ある程度の先入観というか落としどころで、ある程度のクオリティを求めるときには、定型のところに何かをハメていくというのは大事なことだとも思うんですけど。今回はスタイリングもそうだし、ジャケットにもそれぞれの色を、個性を出してもらってね」
――具体的にどういったことがあったんですか?
「まぁ『シーサイドラバーズ』のPVだと、普通に録るんだったら、海辺で、男女がいて、みたいなことなんですけど、やっぱり僕は、“猫とギターとオカマと私”(笑)」
――どんなディスカッションなんだろう?(笑) オカマがそこにいることの必要性を説く、みたいな?
「そうそうそう(笑)。佇まいの素晴らしさとか、みんなで呑みながらいろんなPVをYouTubeで見たりして、あーだこーだ言って。結局『女神のKISS』のPVもそうですけど、やっぱり人力で、身体を動かしてやってることが絵に出たらいいよねっていうところに落ち着いて。『真夜中のレインボー』も含めてああいう3本になりましたけど」
――どれもオモシロいですよね。ちゃんとそれぞれに物語の世界感があって。
「そうなんですよね。だからまぁちょっと“ウザイなぁ~”って思われたかもしれないですけど(笑)、PVを作る際は何回も話はさせてもらいましたね」
――それだけ個々にちゃんと話が出来るのは、PESさんのキャラクターもあるかもしれないですね。
「ホンットに持ち前のキャラをフルに活かしてですね…時間を選ばず電話をさせてもらい(笑)、忙しい中“ちょっと呑みに行きませんか?”って誘って会って。そういうことにも皆さん対応して頂いて」
――それはやっぱり、PESさんが人の意見を聞くから、相手も聞く耳を持つんでしょうね。これが自分の想いだけを伝えたい人だったら、相手もそうはならないかもしれない。
「それはやっぱり自分があまりないっていうことと(笑)、あとはRIP SLYMEをずっとやってきて…RIPってそういうグループだったりするんですよ。1曲作るのも結構大変だったり。出来上がったモノはシンプルなんですけど、実は裏では結構アレやコレや言ってたりして。まぁそこでこういう人間性が形成されていきましたね(笑)、ホントに」
――でも“話す”ってことはいいですよね。単純に。
「そうですね。早めに話す(笑)。MIXも早めに頼む。やり直しも早めに頼む(笑)」
――思ってるなら、早く言う(笑)。言わないっていう選択肢はないんですね。
「RIP SLYMEのときは言わないことも結構多いんですけどね。我慢とはまた違うんですけど、みんながみんな自分の意見を言い出すと、キリがなくなっちゃう。今回はソロプロジェクトなので、それなりに言わせてもらったかな」
あんまり考え過ぎてもいいことになんないっていうのは
RIP SLYMEのときにずーっと学んでることなんで(笑)
――これからはソロでパフォーマンスする場もドンドン増えてくると思いますけど、ライブに関してはどうです?
「自分に期待していないからか(笑)、やっぱ楽しいですね。楽器がある分説得力があるというか。弾けてないのに(笑)」
(一同笑)
「やっぱラップだと、喋りとか、盛り上げるとかも、結構重要な要素だったりするじゃないですか。でも、ギターを弾いて歌ってると、お客さんも何か普通にノッてくれる。それは素晴らしいなと思いますね。楽でいいな、っていうんじゃないんだけど(笑)」
――余分な味付けがなくても、曲をやることでちゃんと伝わるというか。
「そうですね。まぁソロとしてはドアは開いたばっかりですけど、非常に楽しいなぁ~と思ってます」
――今まで一連の話を聞いてたら、やっぱりPESさんの周りには楽しいことが集まってくる感じはしますね。参加する人たちも、もしかしたら他の仕事より“PESの現場は楽しむとこだ”、みたいな感覚もあるんじゃないかなぁって。
「まぁゆるいっていうのもあるけど、そういうところはあるかもしれない。あんまり根を詰めたり考え過ぎてもいいことになんないっていうのはもう、RIP SLYMEのときにずーっと学んでることなんで(笑)」
(一同笑)
「元がバカなんだからあんま考えちゃダメっていうのはある。それは身に付いてるかなって感じですね」
――今後はソロとして何かビジョンはありますか?
「具体的にはやっぱないんですけどぉ~(笑)」
――やっぱって(笑)。
「ちょっとりないんですけどぉ~(笑)。まぁ続けていこうよって周りの人も言ってくれてて。今回のアルバムに入らなかった曲もあるし、どういう形かは分からないですけど、また出せたらいいなぁとは思ってますね。あと今度ソロツアーをやらせてもらうんですけど、やっぱりアルバム1枚分だと短けぇなっていうのは…(笑)。もう1枚くらいはいつか出して、曲を選べる立場になりたい。今回は全曲やるんで(笑)。まぁギターを弾いて歌ってるのは楽しいので、そういう感じが表現出来たらいいなぁと。あんまり無理に盛り上げようとか、ライブのテンションを作るとかじゃなくて、その場の雰囲気で楽しく出来たらいいなぁって」
――今はRIPがちょっとお休みしてますけど、これがバリバリに動いてたら、このアルバムが生まれるのはもう何年後かになってて、もしくは世に出ることすらなかったのかもしれない、聴く機会がなかったのかもしれないと思うと、それはそれでよかったなぁって思ったところは正直あります。
「そう思って頂けるなら嬉しいですね、うん。年齢的にもこういう表現はちょっとギリギリだったかもしれないですね。猫のぬいぐるみをかぶったり、いろんな人に教えてもらうこともね。歳をとっちゃうとやっぱりね、自分でやんなさいよってことになってたと思うから。YouTubeのコメントかTwitterか何かで、“36歳でソロデビューって夢があるよね”って誰かが書いててあって、すげぇウケた(笑)。ホントだ!って(笑)」
――アハハハハ!(笑) でも、PESさんの背中を見てそう思ってくれる人がいたらそれだけでもね、やった甲斐がありますよ。
「ありがたいです、ホント」
――11月15日(木)梅田クラブクアトロをはじめ東名阪ツアーもありますが、いずれ2枚のアルバムから曲を選べる状態になるのを今後は期待しつつ(笑)。
「アハハハハ!(笑) そうですね」
――今後ともよろしくお願いします。ありがとうございました!
「ありがとうございました!」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2012年11月14日更新)
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