昨年、結成10年目を迎えたLOSTAGEは自らのレーベル・THROAT RECORDSを設立。地元奈良のホームグラウンドであるライブハウス、NEVERLANDにてレコーディングされた初のアイテム『CONTEXT』は、彼らのその予感を確信に変えるに十分な結果を生むと同時に、ネットへの違法アップロード問題、アーティスト活動とレーベル運営の共存が生む痛みと喜びなど、多くの波紋をシーンに投げかけることになった…。あれから1年――。天国に一番近いフェス『FUJI ROCK FESTIVAL’12』への念願の初出演、そして通産5枚目にして自主レーベル初のフルアルバム『ECHOES』で魅せた、3ピースのロックバンドとしての美しいまでの叫びとサウンドスケープ、そして今までにはなかった確かな光…。大阪はミナミのアメリカ村digmeout ART & DINERで、1年前と同じ席、同じ目線で行った今回のインタビュー。だが、五味岳久(vo&b)の見た景色は、決して同じには映らなかったはずだ。アーティストとして、フロントマンとして、レーベルオーナーとして、そして日々を生きる人として。変わったもの、変わらないもの。叶った願い、届かなかった想い。揺れ動くその心情をとめどなく吐露したロングインタビュー。こんな男たちの鳴らす音楽が、人の心を動かさないはずがない。
――そして、実際のレコーディングに関しては、今回も地元奈良のライブハウス、NEVERLANDでやって。それこそ前回を踏まえて、またNEVERLANDでやった手応えとか、工夫みたいなものはあった?
「いや、録りは特に新しいことは試してないし、分かってる範囲でそれに沿ってやった感じですね。緊張感は前より減ってるし、スムーズと言えばスムーズなんですけど、それにちょっと物足りなさも感じながらやりました(笑)」
――ホンマ正直やな(笑)。
「でも、レーベル側としてはその方がいいんですよ。スケジュール通り進行して、思った通りのクオリティのモノが出来てっていう方が。けど、作ってる側としては刺激が足りてない」
――ある種絵に描いた通りのモノが作られてるという。
「だから特にビックリするようなこともなく始まって終わったんで(笑)。それは自分の中の立場の違う別の人格が葛藤するって言うたらアレですけど、思うところはあります。だから次はちょっと別のところで録りたいなぁって」
――前作では3.11があって急遽そこからインスパイアされて生まれた曲『NEVERLAND』を入れて、しかもそれがアルバムにとっても大事な曲になったし、ソングライターとしての五味くんにとっても1つ新しい経験になったと思うけど。今回はやっぱりそういうことが…。
「ない。予定調和が多かったです(笑)」
――アハハハハ!(笑) それはやっぱりバランスを取れるようになってきたのかもね。
「まぁ悪い意味じゃなくてね(笑)。まあまあ冷静にそう思ってましたから」
――2人は変わらずで?
「やっぱりね~僕がレーベル的な動きをやることに慣れてきてるから。例えば第三者がスケジューリングしてたら、何時にどこどこに集合とかそういうことに関して、ある程度ちゃんと行こうってなるじゃないですか。そこがやっぱ僕なんで、ちょっとゆるくなってきてますね」
――まぁケンカになる程のゆるさじゃないけど。
「もぉ~みたいな感じなんすけど(笑)。その辺はタイミングを見て、ゆるんでるネジを締めるのは僕の仕事かなぁとは思うんで、事あるごとに言ってますけど。俺がやってるからナメてるやろ?みたいなところは、やっぱ節々に感じますし。別にアイツらも子供じゃないから分かってるとは思うんですけど、やっぱ絶対にゆるんでくるから。僕もそういう意味ではメチャクチャなことを言ってるかもしれない。自分もメンバーなんでね。まぁそれは自覚的にやろうと思ってますね、ちょっと嫌がられても」
――でも結果ね、今回のアルバム自体は、ホンマにいいアルバムやと思います。
「ありがとうございます!」
――俺が個人的に好きなのは『真夜中を』(M-2)『BLUE』(M-3)『NAGISA』(M-5)。『瘡蓋』(M-8)もいいなぁ、何か色気みたいなモノもあるし。俺はグランジ/オルタナティヴとかはモロ世代やけど、ちゃんと気持ちのいいところでガツッ!とクる感覚、そのLOSTAGE節みたいなところもあるし。アルバムとしてのバランスもいいし、やっぱ精神状態がいいといいモノが出来るんかな。
「冷静に見れますからね。バランスも取れるし、自分の好きな音楽に対して心も開いてるから、そういう曲が作れるようになるし」
――でもそれだけでは物足りなくなるのも、人の性というかミュージシャンの性というか。
「そうなんですよ。今メンバーでスタジオに入ってるときに、次どうする?みたいな話もするんですけど、あんま分からないんですよ。だいたいのことはやった感覚が毎回あるんですけど、次に何がやりたいかはちょっと見えてへん。だからちょっとリリースの間を空けようか、みたいな話も始まってますね」
続きモンのドラマの最終回を観に来てるみたいな感覚はあったと思う
――あと、今年のトピックスとしてはやっぱり『FUJI ROCK FESTIVAL’12』の出演があって。俺もあの場で観てたけど、あれはすばらしい光景やったね。
「あれはね、僕も感動しました。用意された感動って言うたら何かちょっと嫌な言い方になるけど、全体がそこに向かっていくドラマみたいなものを、僕も観せてもらったなぁという感じはありましたね」
――LOSTAGEの何が特別なのか、他のバンドと何が違うのかって、Twitterから始まったことやとは思うんやけど、バンドのストーリーをみんなが一緒に追いかけてくれているというか。みんながLOSTAGEの行く末のドラマを観に来て、一緒に楽しんでくれて、一緒に感動してくれるようなところがあるのは、このバンドの特別なところやなぁって。俺はFUJIでのライブを観てるときにそう思ったね。
「僕も思いました。やっぱこう、続きモンのドラマの最終回を観に来てるみたいな感覚はあったと思うんですよ。感情移入してくれてる。だからあんな早い時間でも集まってくれた。それはすごい嬉しいことやし。でも、自分はバンドのメンバーやから、そのドラマに出てる人であり、同時に毎回欠かさず観てる人じゃないですか。だからよかったのはよかったんですけど、何か一段落した感覚はやっぱあったから、“終わってしまう!!”っていう不安はやる前から感じてたんですけどね」
――そもそもさかのぼって、出演の経緯はどんな感じ?
「僕も詳しくは知らないんですけど、僕らのライブによく来てくれるFUJIの関係者の方がいて、その人から結構早い段階で“スケジュール空けといてください”っていう連絡がまずあって。去年まではそんなの一切なかったから(笑)、一応空けてて。また何ヵ月かして“時間もステージも決まってないからまだ確定じゃないし、オフィシャルにもまだ出てないけど、行くつもりではいてください”みたいな連絡が来て、そこからさらに何ヵ月かして時間とステージ決まって…だから結局、FUJIのオフィシャルホームページに僕らの名前が出るまでは、信じてなかったです(笑)。結構ドキドキしながら待ってました」
――じゃあ今回の『ECHOES』は、別にFUJIに出ることを想定したリリースではないというか、決まればいいなくらいの感じ?
「でもFUJIを目標にもしてたし、ホンマに出たいとも思ってたから、そこに合わせてのリリースっていうのは実は考えてましたけど。結果出れんくても別にいいし」
――前回のインタビューでも話したけど、去年初めてFUJIに行って感動してさ、今年はステージに立てるって、筋書き通りと言えば筋書き通りやけど、ドラマよね。
「まぁホンマによかったなって。それは、さっきも言ってたようにトピックがなかったから。今年は何も流出してないし(笑)、似顔絵も書いてない。だからFUJIがなかったら、このアルバムも多分違う広がり方をしたと思うんで。それはホンマにありがたかったし、嬉しかったなぁ」
――去年は事件だらけやったからね(笑)。それで言うと、今回のセールスは実際のところ…?
「これがね、また今までで一番初動がよかったんです」
――また!? スゲェなぁ!
「そうなんですよ。このご時世ね。もはや僕もよく分からないんですけど(笑)。まぁでもFUJI効果ももちろんあったと思うし、フルアルバムっていうサイズもあると思うんですけど」
――そうかそうか。何かビジネスセンスがある気がしてくるね(笑)。あと、今後はレーベルで違うアーティストをプロデュースしたり、作品として出していくみたいなことも。
「そうなんですよ。普通のレーベルとやり方は違うと思うんですけど、東京にZっていう知り合いのバンドがいて」
――それこそ今回のアルバムにも参加してくれてますね。
「そうそう。弟(=g・拓人)がZのアルバム『絶塔』にゲスト参加してるんで、録音に着いて行ったりマスタリングを見に行ったりして、“これ、めちゃくちゃいいアルバムやけど、レコード作らないんですか?”っていう話になって。僕らは自主になってから毎回アナログも作ってたんで、内容もスゴくいいし自分でも欲しいと思ったから、“一応レーベルっぽいこともやってるからちょっと手伝いたい”ってメンバーに言って。Zも自主でやってるから特に権利とかややこしいこともないし、“じゃあやりましょう!”って」
――ホントに、レーベルの人としても動いていってるね。
「自分らではない誰かをもっと出したいなって、最近は思ってます。面倒くさいですけど、オモシロい。権利とか法的なことを僕が勉強するのか、誰かに頼むのかは分からないですけど、そういう関わり方も出来たらなって、今は漠然と思ってますね」
結局僕にも答えがないんですよね
僕がやりたいのはその問題提起の部分だけで
みんながちょっと考えるキッカケになっただけでいい
――今はTwitterやその似顔絵アイコンで種を撒いて、いろんな入口からLOSTAGEに気付いてくれた人に、ようやく音楽でそれを返せてる状況というか。
「そうですね、実行段階に入ったというか(笑)。まぁでもその入口作り自体は、去年1年に限定したことじゃなくて常にやっておかないとダメやし、そのバランスはちょっと変わってきてるけど、今でも大事なことやと思ってますね。でも、今は音楽に打ち込めるというか、そういう感じにはなってきてます」
――Twitter上での、一時の熱狂的なというか、にわかな感じはちょっと落ち着いたもんね。
「やっぱ一瞬“アイツ何者や!?”みたいな感じになってたから。それはそれで違和感もあったけど(笑)。そこからバンドにフィードバックさせれればいいやと思ってたから、それがちょっと出来てきたかなっていうのはあります」
――あと、去年は流出問題とかでだいぶダメージを受けてたけど、さっきの話だと今年は流出はなかったんよね?
「なかったと思います。もしかしたらあるかもしれないですけど、もう調べてもないです(笑)。前回は、こういうことが起きてる現状をみんなに分からせた方がいい、精神的にダメージを受けますっていうのを、何も考えずにそういうことに接してるようなヤツに気付かせた方がいいと思って、ある程度自覚的に過剰に反応したっていう。これはもう逆プロモーションやと腹を括って、こういう問題が起きてることを気付かせようと」
――なるほどね。それでもあのときはめちゃくちゃグロッキーになってたけど(笑)。
「そう思いながらやったけど、結局バランスが取れなくなったんですよ。分かっててもダメージ受けますやん(笑)」
――転んではタダでは起きないと思ってやったけど、やっぱり痛い。
「でも、それがあったから、今回はもし流出していてもそんなにダメージを受けなかったと思います。だから経験としてはよかった。免疫が付いたというか」
――去年はホンマにいろんなことを経験してるもんね。
「ヤバかったっす(笑)。ホンマにライブが出来ひんくらいまでになったから。だからもう今回は、発売までの雑務をやりながら、ライブの日はそういう仕事の締切がちょっと過ぎてもとりあえず置いといて、ライブに集中しようっていう風になりました」
――去年の痛みを、ちゃんと今年に活かしてる。
「出番直前までパソコン持って…みたいなのはやめました。割り切ってやれるというか、ごっちゃになってたところがちょっとクリアになったんでしょうね。まぁそれで迷惑かけた人もいますけどね、締切飛ばして(苦笑)。そこはちょっと申し訳ないけど、やっぱ求められてることって全部は出来ないと思うんですよね。それをある種自分で認めないと、パンクしてしまう」
――それこそ流出問題はある種業界の闇だと思うけど、LOSTAGEやからこそみんなに考える機会を与えられたというか。最近で言うと、音楽プロモーションにおける雑誌広告の存在意義に関してTwitter上での論議があったけど、あれもなかなか答えの出せない議題で。
「流出したときもそうなんですけど、結局僕にも答えがないんですよね。僕がやりたいのはその問題提起の部分だけで、その後に議論したり広がっていったりして、どこに着地するのかは僕も分からない。みんながちょっと考えるキッカケになっただけでいいというか、そこで僕の中ではある意味目的を果たしてるんです。作った作品に対しての取材に広告料=お金は払いたくないと思う。でも、広告料を貰ってでも、ちゃんとその作品に誠意を持って、その文章にプライド持ってるんやったら、それはそれでいいと思う。ただ、別にそれを俺に言ってこんでええやん!って感じはしました(笑)」
――アハハハハ!(笑) まぁでもあの流れだと言われるでしょうな。でも、そういう載り方だったとしても、それが新しい音楽と出会うきっかけになって、CDを買って…なら結果的にはどっちのためにもいいやんっていうのもあるし。ホンマに答えは人それぞれというか、なかなかどちらが正しいとはひと括りには言い難いもん。
「答えがないからタブー視されてたり、あんまり話題にしなかったと思うんですよね」
――じゃあ今回は展開的なところで、レーベルとして何かやり方を変えたことはあるんかな?
「基本的には変わってないですね。広告云々は抜きにして、興味を持ってくれた媒体にだけ取材してもらって。最初は純粋にお金がなかったから出せなかったんですけど、今回は前作の売り上げがちょっと使えたけど、あっても払わないでいく感じ」
――払わないという強い意志(笑)。お店での展開は?
「いや、逆にタワーレコードの展開にはお金を使ってます」
――じゃあそこは自分の中で投資すべきやと。
「もう数字で分かってるから。アルバム全体の売り上げの中でこれくらいタワーは売ってるとか、実際にスペースも使ってもらってるわけですから。だからそれには抵抗なく払えました」
――難しいね。言うたら雑誌もページという場所を割いてるわけやから。
「音楽雑誌って、広告のスペースとインタビューとか読み物の部分があるじゃないですか。純広告のスペースにお金を払うのは、実は全然いいんですよ。そこに載せたいと思える雑誌で、読んだ人の興味が湧くものであれば。要は、その抱き合わせ=バーターが嫌なんです。広告だけ載っててもいいし、逆にインタビューだけ載っててもしかるべきやと思う。じゃなくて広告入れたら取材するとか、取材されるから広告入れるとか、それがセットになってるのはやっぱオカシイと思うんで」
――あと俺は取材するとき、他の人はどんなこと聞いてるんやろう?って、結構他のインタビューを読む方なんやけど、今年は去年より少なかったよね?
「少ないですね。僕も去年は多いなって思ってたんです。けどそれは初めて自主でやったとか、その前に似顔絵の本を出したりとかトピックがあって、周りの音楽関係者の人も巻き込んでオモシロがられてたから。でも、これは絶対に今だけやろうなぁ…って思ってたから、今の方が普通やと思います。減ったのは何でかって言うと、まぁ僕らに飽きたんでしょうね(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「それでいいと思うんですよ。そのときにみんながオモシロいと思ってるモンが取り上げられる。まぁいろんな事情があるとは思いますけどね…」
自分らで全部やることの限界みたいなものを感じたんですよ
――そうは言っても、何やかんやと毎年初体験はしていけてるね。
「そうですね。経験は積み重ねていけてるなぁって。そこで何かガッカリすることもありますけど」
――知ってしまうことで。いったい何にガッカリしたん?
「何かやっぱりこう…自分らで全部やることの限界みたいなものを感じたんですよ。やっぱ大手のレコード会社には勝てへんなとか、あるじゃないですか? もちろん資金力も違うし規模も関わってる人数も違うから、当たり前なんですけど。今一線でやってる…って言い方もヘンですけど、僕らも一線でやってるつもりやから。でもやっぱりそういう世の中に認知された大っきいレコード会社に所属してるような人らと俺らはそもそもやり方が違うし、やれることも違うから…僕らには出来ないことがやっぱあるんで。その差を感じました。これは無理やなって。これって何か分らないですけど(笑)」
――(笑)。圧倒的な差、みたいな。ボクシングで言う階級が違うじゃないけど。
「そうですそうです。もう土俵が違うよみたいな」
――自分でいろいろ経験したからこそ、今まで気付かなかった、意識するまでもなかった差を、逆に感じてしまう。
「そうでなんですよ。それを感じてしまったのは、少なからず同じ音楽に関わってることを考えると、やっぱちょっと寂しい気がして。分かってはいるんですけどね。やっぱ僕の方から見ると羨ましいなというか、いろいろと思うところはありますね。何か仲間に…その輪の中に入りたかったって思うときもあるし。俺らは俺らやから、お前らは来んなみたいなときもあるし。何か…うっすら境界線が見えたというか」
――それは何か具体的な事象があったのか、何となく日々の活動の中でちょっとずつ感じてきたことなのか。
「例えばですよ。まぁ今ここにみんなで集まって飲んでると。僕みたいなヤツもいて、大手レコード会社のマネジメントに所属してる人もいる。そこで“みんなで写真撮ろうぜ、ブログとかにあげようぜ”ってなっても、僕らはそれを撮ってすぐに出せるんですけど、その人は1回マネジメントに確認しなアカンとか。そういう細かいことですけど、そういうのを見てるとやっぱ違うなってなるじゃないですか? まぁ別にいいんですけど、そういうアーティストを守る仕事の人がいるわけから。でも…やっぱちょっと寂しいんですよ。そういう積み重ねみたいなものはあります」
――まぁでも仕方ないし、分かる。そういう1つ1つの小さいことで感じていくんよね。それこそ今まで意識してなかったラインが、ふとしたことであることに気付く。
「いろいろありますよね、そういうの。言い始めたらキリないですけど(笑)。例えばYouTubeの動画を紹介するあるイベントに毎回呼んでもらってるんですけど、そこにゲストが来ますと。その人が所属してるレーベルはYouTubeに動画を上げてないんです。アウトなんです。そういうわけでその人の動画は上がってないから紹介出来へん。じゃあ代わりにPVをDVDで流そうと。そこで俺は“あれ…? それって何かおかしいよな”って思ってしまった」
――“そういう事情があるから、まぁYouTubeではないけど…”じゃなくて。
「別に本人は全く悪くないんですよ。その会社もそれはそれでそういう方針でやってるから、別に誰も悪くない。けど、僕はやっぱちょっと考えてまうから…そこで対等に話も出来へんし、。それで僕が“今日のところはまぁええか”みたいな感じになっても、僕のこれまでのやり方に嘘をつくことになるから」
――確かに。それをやったらもう五味くんじゃなくなるもんね。
「アイデンティティを守るために、それを日々感じてます(笑)。もう1度気になったらめっちゃ気になってしまうんですよね。それまでどうでもよかったことが」
――でも今の話を聞いてたら、また向こう側に行っても楽しまれへん気はするけどね。ない物ねだりで楽しそうとは感じながら、実際にそこに行って満たされるかというと、そうじゃない気がする。っていうのも自分でも分かってんねんけど、みたいな(笑)。
「そうなんですよ(笑)。例えばそういう会社に所属してても、めっちゃ音楽が好きで意気投合したりすることがあるわけじゃないですか? そういうことがあるから音楽なんですけど、やのにちょっと違うところに住んでるみたいな寂しさはやっぱあります。ずっとそれはあるけど」
――どこまで人間臭いねん!(笑) にしても“らしい”感じやなぁ。まぁでもその反面、自分たちでやるよさも、今まで以上に感じることがあるはず。
「ありますね。逆にそういう大手にいる人は、僕らみたいなやり方を自由でいいなって思ってるかもしれない」
『生活』は普段のライブの感じというか、週末に飲みに行く感覚
年に1回やけどもうちょっと日常と地続きの感じでやりたい
――今年もリリースツアーをやっていて、ブログにも書いてたけど、“フジでの経験をこのツアーや今後の活動にどうフィードバックさせていくか、またLOSTAGEはそれが出来るバンドなのかどうか。それを確かめ実践していくことが今の俺らのやるべきことなのかな”と。それをまさに今、ライブの中で解明してるところはあると思うんやけど。
「FUJI後に初めて、8ottoのイベントでライブをやったんですね。それが結構よかったんですよ。あのライブがあったおかげで、不安とかは今はちょっとなくなりましたね」
――燃え尽き症候群にならずに(笑)。
「ならずに(笑)。やっぱFUJIはドラマの最終回だったわけじゃないですか。楽しみにしてた部分はすごいあったけど、終わったことで思ったより解放されたのもあったんですよね。不安もプレッシャーもなくなってるし、今は次に何か大きなイベントやフェスを狙わなアカンみたいなのもない。だから、その解放された感じが今は結構…」
――いい風に作用してる。
「そう。あと、やっぱライブハウスっていいなって思いました」
――逆にデカいステージに立ったからこそ感じると。そういう意味では、主催イベントの『生活』は、今年は例年の会場であった名村造船所跡地の諸事情もあり、10月27日(土)に梅田クラブクアトロでやりますと。
「今までの『生活』は結構…ヤラシイ言い方になると、ちょっと規模が大っきめのバンドを呼んで、そうじゃない僕らみたいなバンドとか、いろいろと混ぜてやるのがテーマというか、みんなでワイワイやりたいのがあって。でも、今回はそういうドン!と抜けてるバンドじゃなくて、LOSTAGEがやる意味を考えると、例えばイベンターならまずやらないようなブッキングにはしたいなと」
――『生活』っていうイベント自体の、LOSTAGEにとって、五味くんにとっての位置付けは変わっていってる?
「去年も結局めっちゃ儲かったわけでもなく、特に赤字やったわけでもなく、まぁ何とかトントンちょいくらいで。やっぱ年に1回やし、ちょっと大きめのところでやるから、祭感、フェス感を出したいとは思ってたんですけど、自分が出たり観に行ったりして…今はまだ模索してますけど、普段のライブの感じというか、週末に飲みに行く感覚、年に1回やけどもうちょっと日常と地続きの感じでやりたいなって思ってます。もちろん、規模を小さくしたいとかじゃないですよ。ただ、もっとLOSTAGEらしさを出せる場所にしたいなって」
――でもまぁ地に足着いてきたというか、ある程度光も見えてきたやろうし。反面1つ1つ初体験は減ってくるから、これからのLOSTAGEどうなるんでしょうかね。
「それが…分からないんですよね(笑)。例えば毎年フルアルバムを1枚出して、ちょっとずつ売り上げが伸びていったら、何年後かにはメンバーみんな仕事を辞めて…っていうことも見えるけど、フルアルバムを出してツアーを廻るっていうサーキットを、延々と続けていくことに成りかねないじゃないですか。それはそれで“仕事”っぽいというか」
――そうやね。ドリームはないかもね。
「そうそう。それも何か嫌やなって。まぁそうなったら気持ちは楽でもあるんですけど、何かロックじゃない(笑)」
――ロックをやってるはずなのに、活動はある種会社みたいにルーティンになっていく(笑)。今後ぶっ壊したくなることがあるかもしれないね。
「そうなんですよね。それはどうなんやろ?っていうのはちょっと思ってます。何か刺激を…まぁ例えばですけどメンバーが増えるとか、変わるとか、そういうことも有り得るじゃないですか。次のアルバムはじゃあ5人編成で録ってみようとか考えてないと、今はやっぱオモシロくないと思うから。何かちょっとオモシロいことを、アイディアを、考えようっていう風には日々、思ってます」
――こういう言い方もあれやけど、五味くんは満たされない方が良さそうやね。
「今ちょっと満たされつつありますからね」
――リア充バンドになってんちゃう?(笑)
「アハハハハ(笑)。何か安定期に入りそうなところにいるから、ちょっと嫌なんですよね」
――かと言って別に左うちわの安定とかじゃないくせに、妙に安定するみたいな、謎の安定感(笑)。
「そうそう(笑)。すごい低いラインで安定してるっていう、よく分からないことになるじゃないですか(笑)。それはちょっとマズいなって思い始めてるところですね。年に1回リリースするっていうペースを今まで崩したことがないし、そういうところからまず根本的に考え直したい。いいものがあれば出そうみたいな。例えばソロでやってみるとか、メンバーが別のプロジェクトをやり始めるとか、何でもいいんすけど、やらなあかんことが決まってるわけじゃないはずなんですよ、ロックバンドは」
――しかもさっき言ったみたいな、デカい会社に所属してるわけじゃない。
「まずそもそも、セールスのことなんてそんなに考えんでもいいはずなんですよ。今アルバムを作ったらヘンな安定感が作品に出てしまうと思うし、そういうものは作りたくないから」
――満たされないで欲しいね、いつまでも。
「性格的にそれはないと思うんですけど…多分そうなったらもう解散すると思うんですよ。自分のコピー&ペーストみたいになったらオモシロくないし。そうはならないと思うんですけど、その打開策を今考えてるところですね」
――どうせならね、今の3人で違う景色が見えるところまで行って欲しいよね。まぁまた来年なのか、もしかしたら年をまたぐかもしれないけど、またこの席でね、こうやって話が出来たらなと。
「いやもう、その際はよろしくお願いします!」
――まぁでもとりあえずとしては開催が迫った『生活』というところで。また何かドラマを感じることがあればいいね。本日はありがとうございました!
「ありがとうございました!」