ヒップホップmeetsシティポップ
ラップと歌モノが絶妙のバランスで共存する
ニューアルバム『ミスターシティポップ』をリリースした
かせきさいだぁインタビュー&動画コメント!
昨年に13年ぶりとなるアルバム『SOUND BURGER PLANET』を発表したのも束の間、早くもこの9月に新作『ミスターシティポップ』を届けてくれたかせきさいだぁ。近年、彼のバックバンドを務めるハグトーンズによるグルーヴの増した演奏はもちろん、今作では2曲でコーラスにEPOを迎えて、タイトル通りの“シティポップ感”をヒップホップを通過した感覚で見事に体現。歌の比重を増した新境地で、既存のポップスともヒップホップとも似て非なるサウンドを快調に深化させ続ける彼に、その絶妙さのポイントを語ってもらった。
キュートなオトナ、かせきさいだぁからの動画コメント!
――実に13年ぶりとなった昨年のリリース時のインタビューを読み返してみると、“次のアルバムでは自分の考えるシティポップをカタチにしたい”とすでに発言されていましたね。
「あ、言ってるのがありましたか。実は去年13年ぶりに出したアルバム『SOUND BURGER PLANET』を作っている時点でも、最初からシティポップではないですけど全編歌モノでいこうと思っていたところはあって。それで作業を進めていたんですけれど、途中まで出来ていた音を親友であるスチャダラパーのBOSEに聴かせてみたら“いきなりそこ(全編歌モノ)までいくのはいき過ぎだから、もうちょっと1stや2ndの頃のファンのことも考えて作った方がいいんじゃない?”と言われて(笑)。スチャダラパーやソTOKYO No.1 SOUL SETのみんなにも頼んで、ヒップホップっぽいこともやるという方向に途中から切り替えていってたんですよね。なので、今回の『ミスターシティポップ』では完全に全曲歌モノをやろうと作り始めたんですけど、途中で“ポップスをやる人にはないオレの持ち味って何だ?”って考えたら、それがラップだってことに気付いて(笑)。そこでまた、歌だけでなくラップも入れるという作品になりましたね」
――なるほど(笑)。結果的には今回も逆ベクトルで、かせきさんならではのバランスに落ち着いたというか。
「そうですね。ラップの面白さも自分の中で再確認出来たというか。制作の前半は歌ばかり録っていたんですけど、途中からラップが増えましたね」
――とは言え、歌の比率が以前よりもかなり増しているのには、やはり驚かされました。
「去年のアルバムから歌モノが多くなり始めて、歌の表現方法をいろいろ試している、というのはありますね。歌でもラップっぽい発声で、言葉のパンチ力があるような歌い方をしてみるとか。13年の間に、ヒックスヴィルやカジ(ヒデキ)くん、南佳孝さんやブレッド&バターさんなどに歌詞を提供していたんですけど、そのときに言葉の乗せ方のリズム感が良くて歌いやすいと言われたことがあって。今回のアルバムでも、普通のポップスの作詞家さんとは違う言葉の乗せ方や、ヒップホップをやってきた人ならではの歌い方、みたいなところを意識して作っていたかもしれないですね」
――確かに。歌とラップの境目がほとんど分からないような曲も多いですよね。
「自分で今回のアルバムを聴いていても、ラップからサビで歌に変わる曲でも自然と聴こえるなぁと思いますね。ハグトーンズと一番最初にレコーディングしたのは、はっぴいえんどのカバー集『CITY』(’10)に収録された『かくれんば』だったんですけど、そのときにメンバーに“普段にラップしてるときと同じ感じで歌ってますけど、どういう発声法なんですか?”と驚かれたんですよ。僕は分かんなかったんですけど、そういうことが自然と出来ているんだと気付かされましたね」
――海外のメイヤー・ホーソーンやベニー・シングスあたりと同じように、ヒップホップを通過したポップスの感覚がいつの間にか体得出来ていた、と。
「去年のアルバムを作っていた頃は、そんなことは思わずに、みんなが“ベニー・シングスはカッコいいけど目指してもなかなか同じようなことは出来ないんだよね”みたいな話をするのを聞いていたんですけど、彼らがヒップホップ出身と知って、オレも今のやり方をもっと押し進めればいいんだなと気付かされたのは大きかったですね。だから今回のアルバムでは、この曲のイントロはこの曲の感じで、次はあの曲の感じで…とサンプリング的にくっ付けていって、それをハグトーンズが演奏していく中でまた違ったヘンなものが出来上がる、というヒップホップ的な考え方で作っていきましたね」
――なので、全て生演奏なんですけど、70年代後半~80年代初頭あたりのグルーヴィーなシティポップ音源をサンプリングして作ったような質感があって。バックバンドを務めるハグトーンズは、このニュアンスを出すためにかなり試行錯誤を繰り返したんじゃないかと思うんですが。
「そうですね。バンドの子たちはマジメなので、例えば僕の作曲した曲がちょっとラテン調で、“ラテンっぽくアレンジしよう”って伝えると確かにラテンっぽい曲には仕上がるんですけど、僕としては“それなら本物のラテンを聴けばいいじゃん”って思う感じになっちゃうこともあるんですね。そういうときは、何だかうまくいかないなっていうところまで泳がせてから(笑)、iPodとかで全く違う曲を聴かせて、“エ~ッ! そんなの出来るわけないじゃないですか”というようなことを毎回やってもらっているというか」
――なるほど。でも、結果としてDJ/ヒップホップ的な発想の行き届いたバンドサウンドが生まれていると。
「何かね、僕の中では“間違いの中にしか新しいモノはない”と思っているところがあって。だって、正しいということは今までにすでにあるということじゃないですか。だから、僕は常に無茶振りをして、バンドのみんなは“そんなのダメじゃん”とか言いながら始めるんですけど、試していく中で“ココは良かった”という部分が出てきたら、そこをどんどんと広げていくという作り方をしていますね」
――そして、関西でのライブとしては10月13日(土)心斎橋JANUSにて開催される『MINAMI WHEEL 2012 EXTRA -MIDNIGHT EDITION-』への出演が決定しています。
「今回はフルメンバーのバンドで来るので、新しいアルバムの曲を中心にノリノリでやれると思います。ライブのリハーサルでも今作のシテイポップ感がちゃんと再現出来ていたので、楽しみにしていてください!」
Text by 吉本秀純
(2012年10月11日更新)
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