ホーム > インタビュー&レポート > 極上のサウンドを聴かせるジャズユニット、フライド・プライド 9/19(水)・20(木)ビルボードライブ大阪2DAYSを控える2人が語る ニューアルバム『LIFE-source of energy』と11年目の想い
音楽が“元気の源”であってくれたらいいなあ ―Shiho
もう一度、1枚目のときのような気持ちでアルバムを作りたかった ―横田
■9月にビルボードでライブがありますね。大阪は久しぶりだと思うんですけど、関西にフライド・プライドのファンは多いですよね。
横田:ホントに。ありがとうございます。大阪のお客さんには1枚目のアルバムの頃から支えて頂いて。“もともと大阪発信のアーティストなんでしょ”って、東京で今でも言われますもん。
Shiho:角淳一さんが私のこと、“大阪の子でしょ”って言ってたんでしょ? “えっ? 生まれも育ちも東京だけど”って。でも、関西大好きです(笑)。
■7月にアルバム『LIFE-source of energy』をリリースし、これを引っ提げてのライブということになるわけですが。まず、タイトルの『LIFE』というのは…?
Shiho:実は最初に考えたのは『source of energy』の方なんです。 “元気の源”ですね。やっぱり音楽が元気の源であってくれたらいいな、というのが一番の願いですし。昨年の3.11の震災以降、ミュージシャンはみんな“自分たちの職業って本当にこの世に必要なんだろうか”ってすごく考えたと思うんです。でも私は、被災された方からも、ツイッターとかブログに“早くフライド・プライド聴きに行きたい”とか書いて頂いて。“あ、自分たちでも音楽を続けていっていいんだ”って再確認させて頂いたんですよ。それで最初に“元気の源”っていう言葉を思い付いたんですね。
で、『LIFE』は、自分が今、人生について、特に残りの人生について考えるような時期に来ていることからですね。残りの人生って、ちょっと大げさなんですけど、ここ2、3年で自分が知っているミュージシャンの方がたくさん亡くなってしまったり、自分だってあと何年生きられるか分らないじゃないですか? 例えば大阪に年3回来てるとして、じゃあそれがあと何回来ることが出来るんだろう?って考えると、人生の中の時間が割とリアルに見えてくる。そういう時期にさしかかったという意味において、あとは自分の人生の中で出会った音楽という意味においても『LIFE』だし。というので、このタイトルになりました。だから『LIFE-source of energy』でひとつのアルバムタイトルです。
■生き生きした、力強いタイトルだと思います。ところでいつもフライド・プライドを聴くたびに思うのが、選曲の良さなんですね。特にカバー曲のチョイスは、予想もしないところから曲を引っ張ってきてフライド・プライドの音として聴かせてしまうという見事さがある。今回1曲目はガーシュウィンの『サマータイム』ですが。
横田:これはやっぱり一番フライド・プライドらしい音楽になった、と思います。というのは、今回アルバムを作るに際して、1stアルバムをすごく意識したんですよね。
1枚目のアルバムっていうのは、僕らは作っている頃にはまだデビューしてなかったわけなんです。その時点では、Shihoはまだセミプロでしたし、僕はもう20年くらいプロとして生活はしてましたけど、じゃあこれからフライド・プライドとしてCDを出し続けていけるのか、なんてことは全く分らない。でも、この先どうなるかも分らない状況の中でアルバムを作ったときっていうのは、すごくエネルギーを発散するんですよ。僕らにはフライド・プライドとしてのキャリアはゼロ。あるのはもう、これを伝えたいっていうエネルギーだけだったんで、今もあの1stアルバムがものすごく好きなんです。
もう1回、あのときのような気持ちでアルバムを作りたかった。今はデビューしてから10年のキャリアを僕らは持ってしまっている。10年間積み重ねたこともあるけれど、10年間やってきちゃったからこそ、うまくまとめる能力とか、デフォルメするやり方とかも身に付いちゃってる。それを排除して、出来るだけ素のままの2人の音楽っていうものを聴いてもらいたいなと。だからちょっと雑な部分、ライブっぽい、ワイルドな部分があったりしても、それを含めての僕らの音楽を作りたかったんですね。ですから『サマータイム』はその1曲目という意味もあって、フライド・プライドらしい音楽になったんじゃないかなと思うんです。
■なるほど。ただ私なんかはとてもそこまで考えられずに。いつもながらお洒落だな。フライド・プライド、カバーのセンスいいな、とか思いながら、まるまる聴いちゃったわけなんですが。
横田:ああ、それはもう全くの自由なんです。音楽の聴き方っていうものは僕たちもそうなんですけど、例えば食べ物で言えば、蕎麦つゆをべちゃって付けるのが好きな人がいたとして…。
Shiho:そう! 私は蕎麦つゆにいっぱい付けて食べるのが好きなのに、“とにかくひと口めは、つゆに付けないで食べてくれ”とか言われるのは大っ嫌いなんですよ(笑)。頑固な寿司屋とかも嫌いだし、何でおいしいもの食べるのにいちいち指図されなきゃいけないのかって、思いません?それはもう味わう者の自由、受け手の自由であって、だから音楽だって…。
横田:受け手の自由なんですよ。
Shiho:確かにこちらからいろいろと発信するものはあるけれども、それを面白いと思ってくれても、お洒落だなって思ってくれても、ロックだなって思ってくれても、ジャズだなって思ってくれても、それはもう聴く人の自由だと思ってて。それを、“違うだろっ”なんて言うのはそれこそお門違いな話しだし、誰にもそんな権利はないっ!
■Shihoさんて、ジャケットから受けるクールな印象と全然違うんですね(笑)。
Shiho:あ、それはもう全然。全然っていうかこんな感じ(笑)。なのでライブ来てください、ぜひ。
横田:お洒落ねぇ…お洒落かもね(笑)。
よく言われるんです。フライド・プライドの選曲の変さ ―Shiho
ただ、楽曲として楽しんでもらえれば嬉しい ―横田
■さっきお洒落と言ったことの意味なんですけど、私がフライド・プライドがいいなと思うのは、どこからどんな曲を引っ張ってきても、それがフライド・プライドの音になってるっていうことなんですよ。今回もジャズ・スタンダードの中にスティービー ・ワンダーやシーナ・イーストンが並び、そこにエアロスミスの『ウォーク・ディス・ウェイ』も溶け込み、それが何の違和感もなく、さらに言えば『大漁唄い込み』までが全部フライド・プライドの音楽として成り立っている。
Shiho:自分の中では自然なんですけどね。“それ”と“それ”はあんまり変わらない(笑)。
聴く人の中にも、ジャンルに関係なく聴く人もいらっしゃると思うんです。私の場合ハードロックとかヘビメタばっかり聴いてた時期があったり、でも一番好きだったのはスティービー・ワンダーだったり。でもジャズも大好きで、家にはカントリーのレコードもいっぱいあって、母親はオールディーズが大好きで、って結構雑多な中で育ってきたので(笑)。だから音楽で何をしようかといったときに、その雑多な中から出てくるものが一番自然だったりするんですけど。よく言われるんです、フライド・プライドの選曲の変さ(笑)。
横田:まあ統一感ということで言うと、僕とShihoの2人だけでやってるということで、イヤでも統一しちゃってる部分がありますから。それを楽曲まで何かと統一させてしまうと、僕らからすると聴いてる方が飽きちゃうんじゃないかっていう心配はありますよね。例えば、ピアノトリオにギターとシンセ、バイオリンくらいあれば、まず編成そのもので聴かせるやり方もあると思うんです。でもこっちはギターとボーカルのたった2人の編成(笑)。僕らはこの編成から逃げるつもりはないから、その部分での統一性と、あとは楽曲の意外性。そこがフライド・プライドのバランスとしては面白いところかな。まあ、選曲は全部彼女に任せてるんですよ。何言っても僕の意見は通らない(笑)。
Shiho:何言ってるんですか。そんなことないそんなことない(笑)。
■収録曲を見たとき一番意外だったのが、最後の『大漁唄い込み』なんです。先ほどからタイトルの意味などをうかがっていて、収録された意図は何となく理解出来たんですが…。
横田:いや、意図っていうのは特にないんです。ただ楽曲として聴いて頂ければいい。
■ただ、楽曲として?
横田:そう。そして楽しんでもらえれば嬉しいんです。ただ、何故この曲を入れたかというと、僕自身が自分に対する決意を忘れないためなんです。例えば10年後に自分を振り返ったときに、僕はもう50代半ばなんで、ミュージシャンとして、というよりは、いち社会人としての自覚とか、責任とかを持ってなきゃいけない。子の親でもありますし、そういうことを考えていくと今の日本って、すごく危惧することが多いじゃないですか。そんな中で、僕らにはこうやって発信出来る場所があることを忘れずにいたいなっていうことなんです。
全部言っちゃいますけど、原発の問題とかそういうこととも関わっていかなければいけない年代だし、それは僕だけじゃなくShihoたちもそうかも知れないし、僕の子供もそうかも知れない。そういうことに対してちゃんとモノを言っていくんだってこと…これは決してアナーキーな部分で言ってるんじゃなくて、これから自分たちはそういう風に動いていかなければいけない気持ちを、このトラックに込めたんですね。
■震災後の日本や東北へ向き合おうと。
横田:でもこのトラックを聴いて、東北のことを思い出して義援金を送ってね、とかそんなことでは決してないんです。ただ10年後の自分が生ぬるくなってないか、そのことへの確認の意味がすごく大きいですね。でも、この曲を選んだことについて言えば、アルバムでも弾いてくれた、アコーディオン奏者のcobaさんとの接点がすごく強くて…。
去年『フライド・プライドと仲間たち』っていう、僕ら、日野皓正さん、cobaさん、タップの熊谷和徳、時によってはつのだ☆ひろさんも参加してもらったツアーをして、その中で支援金を集めて…。“支援金”というのは、集めたところから一番最後に人の手に渡るまで全部、必ず自分たちで責任を持ってやる。赤十字とかユニセフとかへ預けて、使い道も任せてしまうのが“義援金”。僕たちはホントに微々たるもの、物資だったりもしたんだけど、みんなで100%渡そうと、支援金というかたちを採ってやったんです。で、去年の10月にまた、cobaさんのコンサートにフライド・プライドと津軽三味線の吉田兄弟がゲストに入ったんですけど、そこで突然cobaさんからの無茶振りがあり、『大漁唄い込み』を歌え、と。何が何でももう歌うんだ!と。で、3組で演奏したんです。
■そこでcobaさんが『大漁唄い込み』を歌おうとしたのは何故なんですか?
横田:cobaさんは震災直後から、宮城県の閖上(ゆりあげ)地区とかに行ってコンサートをやってるんですよ。閖上地区は、まさにこの『大漁唄い込み』の伝統の土地なんですね。cobaさんのコンサートではお客さんもみんな歌うんだけど、この曲は本来はおめでたい歌なんです。だからcobaさんは、震災当初は自分のコンサートのプログラムにこれを入れなかったんですって。けど、ある人がcobaさんに、“何で『大漁唄い込み』をやってくれないんですか?”って聞いたそうなんですよ。cobaさんは、“いや、あれはおめでたい歌だと思ったので、今日は遠慮させて頂きました”って。そしたら、“そんなことないからやってくれ。もう是非やって欲しい” って。実際にそこで演奏したら、お客さんみんなが歌おうとするんだって。コンサートで一番盛り上がったって言ってましたね。その話聞いて、ああ東北人の魂ここにあり、なんだと。歌の中に人生だったり、地域性だったり、文化が込められている。民謡ってそういう宝箱ですよね。
小さい頃、僕も福島に何年か住んでいて東北の血が少し流れてるんだけど、宴会があるとみんなすぐ『大漁唄い込み』を歌う。何かって言うとこれを歌う。大人が宴会でこれを歌ってるときは、子供にとっては一番つまらない時間なんですよ。大人が酔っ払って“おーいぼうず、ほれビール飲むか”なんてね。だから、小さい頃はみんなこの歌が嫌いなんです。子供は全然つまらない(笑)。でも、今になって思うに、やっぱりこれが東北人の魂なんだなあって。魂そのものですよ。
■そういう共感が生まれるのは、やはり震災がきっかけなんでしょうか。それとも一定の年齢になるとみんな自分の血に帰っていくんでしょうか。
横田:ただ、僕らは民謡のネイティブな歌い方をしたわけではないんで、歌詞を聴いてもらって、ただ絵を思い浮かべて頂ければ嬉しいなと。もちろん鎮魂の気持ちもありますし、そんな風に感じて頂いてもありがたい。でも、僕らはそれを押し付ける気持ちはないし、だから、ただ楽曲として楽しんで頂けたら嬉しい、というのが一番素直な気持ちなんです。
私たちみたいな性格は、多分2人でちょうどいい ―Shiho
でも面白さ、スリル、緊張感は必要 ―横田
■デビューから11年目。デュオだから出来たこと、あるいはやってこられたことってありますか?
横田:何て言うのかな…自信が付いたって言い方も出来るんだろうけど。引き出しの整理は楽になりましたね。
Shiho:はて?
■今までに出来たすごい量の引き出しの中で、何が必要で、どれが一番大きな引き出しでっていうようなことが、整理されてきたってことでしょうか?
Shiho:何か今、すごくうまくまとめてもらった(笑)。
2人で何かやるときって、多分1人1人がきちんと成り立っていないと難しいですよね。横田さんは横田さんでソロでライブをやれるくらいの人で、ソロギターで立っている人だし。私は全くのソロをやったことはないんだけど、1人で歌ってもそこにいる人を納得させられるだけのものは、今までで培って来られたんじゃないかと思うし。もし私がピアノがないと歌えない、ベースがないとダメとかだと、2人でやってもきっと頼りない…違いますか?(横田の方を見る)。
横田:いい、そんな感じ(笑)。
Shiho:ていうか、2人とも目立ちたがり屋なんで、他にいないほうがいいんです(笑)。そうするとギターはバッキングになっちゃうし、フライド・プライドって絶対に“歌”と“バッキング”じゃないから。多分2人でちょうどいいくらいなんですよ。私たちみたいな性格は。
■以前のアルバムで『スモーク・オン・ザ・ウォーター』をカバーしてたじゃないですか。最初、あのリフをギターじゃなくてShihoさんが歌って、ギターはリズムをザクザク刻むように弾いて。あの出だしはカッコ良かった。2人だとこういう風になるのかと。
Shiho:こういう考え方はすごく横田さんの影響を受けてるんですけど、“やる人がいないなら、歌でやったらいいじゃん”って。そのリフを実際にギターで弾いちゃうと、私たちには他のサウンドがない。だったらそこを私が歌で歌って、横田さんはリズムを弾くって感じで…他にもいろいろやりましたけどね。変わってますよね、発想が。
横田:まぁ変わってると言うか…プラスワンですごく面白くなるのに、これはこういうもんだからって決め付けちゃうとつまらないですよね。(コーヒーのカップを持ちながら)このカップに取っ手を付けたら他のものにも使えるかも知れないとか、そういう発想が面白いわけじゃないですか。常にそういうところを目指してはいますね。ただあんまり危うい方向へは行かずに、緊張感は持ちつつうまく成り立ってくれれば、と。
Shiho:ただただ不安にさせてしまっては、それは失敗だと思うんで(笑)。
■そんな曲はありませんでしたよ。今まで聴いた曲の中には(笑)。
Shiho:昔はライブでそういうことがよくあったんですよ。お互いに全然別のことをやってたり、1人で勝手に終わったり。もう絶対譲らねえ、みたいな(笑)。それはやっぱりダメだと思うんですよ。お客様の前でやってる以上ね。とは言え、今まで散々やってきたので、これはこの辺までにしとこうとか、さじ加減は落ち着いて考えられるようになりましたね。
横田:やっぱり、いい意味の余裕は常に欲しいんです。一生懸命になり過ぎるとつらいときもあるし。でも、面白さ、スリル、緊張感は必要だし、要は塩梅(あんばい)ですよね。シャウトして、ディストーションかけてドカーンとやったら、僕らは2時間はもたないでしょうしね。だから、その塩梅の中で、劇作家の井上ひさしさんの言葉でね、「難しいことをやさしく。やさしいことを深く。深いことを面白く」。それが理想です。マニアックなジャズじゃなくて、深くて面白いジャズがやりたいですね。
(2012年8月29日更新)
フライド・プライド…'01年デビュー。Shiho(vo、写真左)と横田明紀男(g、同右)によるジャズユニット。デビューアルバム『FRIED PRIDE』は日本人としては初めて、アメリカのコンコード・レーベルからリリースされる。様々なスタイルに対応する、日本人離れしたShihoの歌唱力と、高度な技巧と卓越したポップセンスを備えた横田のギターを持ち味に、以来、ほぼ1年に1枚のペースでアルバムを発表。ジャズからポップスまで、歌心溢れるサウンドで、多くのファンを獲得している。'04年発表の4thアルバム『That's My Way』ではグラミー賞アーティスト、マーカス・ミラー、ギル・ゴールドスタイン、マイク・マイニエリらと共演。現在までにニューヨーク・ブルーノートをはじめとする数多くのワールドワイドな活動も行っている。ジャズ・スタンダードへと回帰した8枚目の『For Your Smile』は、楽曲配信itunesにおいて総合チャート9位を記録。今年7月には最新アルバム『LIFE-source of energy』をリリースした。
チケット発売中 Pコード176-966
▼9月19日(水)18:30/21:30
▼9月20日(木)18:30/21:30
ビルボードライブ大阪
自由席7000円
ビルボードライブ大阪■06(6342)7722
※未就学児童は入場不可。
発売中 3150円
ビクターエンタテインメント
VICJ-61672
<収録曲>
01.サマータイム
02.シーザーズ・ドリーム
03.クライ・ミー・ア・リヴァー
04.イーズ・オン・ダウン・ザ・ロード
05.テイク5
06.ジャスト・フレンズ
07.ドゥ・ユー・ノウ・ホワット・イット・ミーンズ・トゥ・ミス・ニュー・オーリンズ
08.ウォーク・ディス・ウェイ
09.フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
10.悪夢
11.9TO5(モーニング・トレイン)
12.ラ・ヴィダ・ロサ
13.大漁唄い込み