消えないパッションと熟成するロックンロール
ズボンズの6年ぶりのアルバム『THE SWEET PASSION』!
ドン・マツオ(vo&g)のインタビュー&動画コメントが到着
近年は海外でのライブも以前に増して活発化させ、活動歴17年を超えた今も独自のスタンスで“ロック”を深化させ続けるズボンズ。オリジナルアルバムとしては6年ぶりにリリースされた『THE SWEET PASSION』は、そんな彼らの現在位置が音からビシビシと伝わってくる強靭な1枚だ。アルバムの海外発売とワールドツアーを控え、7月には全国ツアーを行うズボンズが示す新たな境地に関して、ドン・マツオ(vo&g)に濃厚に語ってもらった。
シビれるコメント連発! ドン・マツオ(vo&g)からの動画コメント
――オリジナルアルバムとしては6年ぶりという作品になりましたが。
「気付いたら6年空いてたという感じなんですけど、僕らとしては何も出さなかった年はなくて。ソロアルバムを出した年もあれば、ライブ盤、新録のベスト、EPを作った年もあったので、指摘されて6年と気付いたところがありましたね。ライブも、ほとんどボブ・ディランのネバーエンディングツアーみたいな状態で延々と続いてるから(笑)、今回のアルバムに収録されている曲も古いものはもう随分と古いですね。『African Beat Drive』(M-8)とかは、もう4~5年くらい前からライブでやっている曲だし」
――ただ、サウンド的にはこれまでの作品と比べるとかなり生々しい音をしていて。いい状態のライブをアナログ録音でそのまま録音したような感じで、かといってアナクロな音ではないんですが、60年代末のロックのレコードのような高揚感が宿っている印象を受けました。
「実際に半分はアナログ録音なんですよね。昨年の3月の米国ツアーの最後に、向こうで録ってきたものがほとんどで。日程的にミックスダウンも含めて1週間しか時間が取れなくて、そのときに思い付いたものをボンボン入れていくという作り方ではなくて、ある程度もう演奏をしっかりと聴かせられる状態のものをシンプルに録る、という方法しかなかったのもあって。ドアーズやレッド・ツェッペリンの1stアルバムのように、オーバーダビングは最小限にして、4人のいい演奏をいい音で録るしかないというやり方しかなかったし、どの曲も2テイク録ったら終わりという感じで集中して進めていきましたね。その直後に出せていればそのときの録音だけでいくつもりだったんですけど、1年以上リリースが延びてしまったので、その間に出来た新曲などを今年の3月に同じく1週間ほどかけて録音して、両方の音源をミックスしたアルバムになっていますね」
――なるほど。しかし、全体的にライブで充分に血肉化した曲をギミック不要で録音した強靭さを感じます。
「そうですね。ほとんどの曲はライブでやってきた曲だし、オレたちの場合は曲作りもほとんど自然発生的なものに頼っているから。最終的にこうやって演奏を録音して編集をしてミックスをして、という作業をやり終えたところで“あ、コレってこういう曲やったんや”と思うことが多いんですよね。やっている最中にはこういう曲にしようという意識は漠然としか持っていなくて、彫り物師の人が木を見て中に見えるものを彫り出していくのに近いような、出来てみないと分からないところがいつもあるんですよね」
――では、今回のアルバムに関しては、実際に出来上がってみてどうでしたか?
「よく出来ていると思うんだよね。僕自身も、やっとちゃんと曲が書けるようになってきたなと思うくらい(笑)」
――今にして、ですか?(笑)
「そうそうそう(笑)。そう言うとみんなに笑われちゃうんだけど、ホントにそう思うんだよね。今までに10枚もアルバムを作ってきたけど、これまでのは習作だったみたいな感じすらするというか。今回のはちょっと感触が違いますね。自分が考えている“ロック”というものに対して、これまでは“ロックをやるためにロックをやる”みたいなところがあったとすれば、今は“やればロックになるな”という感じで。心持ちが随分と違いますね。これまではどこか“ロックの真似をしている”という意識がベッタリと付いているところがあったんですけど、今は全然思わないですね」
――自分たちが鳴らせばもうロックになる、と。
「オレたちがロックじゃなくて、他の何がロックって言うんだろうと思うくらいだね。でも、それは自覚はしていなくて、今回のアルバムが出来て聴いてみて初めてそう思えたというか。作る前はズボンズも長くやっているからもういいか…みたいな感じもちょっとあったんですけど(笑)、今これだけ普通にちゃんとした曲も書ける状態になれているんだとしたら、このままもう一歩次のステップに進んだらどうなるんだろうな?と思うようになってきましたね」
――今までのファンキーな要素なども溶け込んではいるんですけど、もっとサイケデリックで混沌としていて。新たな境地に突入していますね。
「そうね。そのへんはもっとメルティングポット化しているというか。月並みな言い方だけど、長くやってきて良かったなと思う部分はありますね。こういうものを以前だと作れなかったと思うし。おそらく、僕らはちょっと学習の仕方が遅いんだと思うんだよね。ずっとアルバムとかは作り続けていたんだけど、ズボンズは出足が基本的にオルタナティヴなロックバンドとして始まっているから、ちょっと子供っぽいアイデアというか、ブルースとヒップホップをミックスして…というアイデアを持ってきて出せば別に下手クソでもいいんだ、みたいなうぬぼれた発想からスタートしているわけでしょ? でも、それだけではやっぱり何枚も何枚もは作れなくて、自分もだんだんモノを作ることに対して自覚的になっていろんな問題に直面し始めたときに、もっと内面的な何かを掘り下げる必要性が出てきたりだとか。音楽自体は今は情報量も多いし、世界中のいろんな音楽を聴いたりは出来るんだけど、結局はその情報を自分がどういう風に理解して深いところまで持っていけるかという話になると、リスナーとしてたくさんの音楽を聴いているとかとは違う方向で自分を鍛えなきゃならないところがあって。それは映画や文学、絵画とかも同じで、いわゆるアートと呼ばれているものと向き合いながら、自分の哲学観や感受性を熟成させたうえでアウトプットしていくようならなきゃいけないわけで、そのためにすごく時間がかかった気がしますね。若い頃は本もロクに読もうとしなかったし、何でもとにかくやりゃいいんだ!みたいな安直で小生意気な人間だったと思います(笑)」
――いやいや、初期のズボンズも決して安直なバンドだったとは思わないですが。
「全然エッジも立ってないというか、安全地帯で遊んでる子供みたいなもんだったと思いますよ。でも、今はハッキリとそうじゃないと言えますね。常に“表現する”ということに対してある種の葛藤と取っ組み合いをしながらも、自分の得意な音楽やその表現の仕方がだいぶ分かりかけてきたかな、と。今の時点ではってことだけどね。相変わらずローリング・ストーンズのような成り立ち方やロックスター的な生き方に憧れもするけど、自分はそういうタイプじゃなくて、もうちょっとパーソナルで深く潜っていくような音楽の方が得意だってこともようやく分かってきたし。よく海外で言われるように、音楽を自分の方に呼び込んでくるシャーマンみたいなタイプなんだと思います」
――少し言葉の意味は変わるかもしれないですが、今回のアルバムを聴きながら、実際にシャーマニックな音の凄みに驚かされたというか。ズボンズって本質的にこんなバンドだったのかと改めて思わされたところがありました。
「あまり“ロックバンドはこうあるべし”みたいな意味合いで、無理をすることがなくなったってところなんですかね。無理をする余裕もないほどに、国内外でライブを重ねてきたのも大きいのかもしれないですけど」
――そして、7月13日(金)には大阪の十三ファンダンゴ、22日(日)には京都のnanoでライブがあります。
「出来るだけ新しいアルバムの中の曲とみんなが好きそうな曲を選んでやろうと思っていますけど(笑)、新しい曲が出来たらそれをやるかもしれないし、当日のオレになってみないとホントに分かんないんですよね。オレたちはもう何年もセットリストを決めないでやっていますけど、一応出番の前に今日の1曲目はコレにするからと決めて他のメンバーにも伝えるんですけど、ステージに立ってアンプにシールドを突っ込んでギターを鳴らし始めた瞬間に、まったく違う曲を始めることもあるんですよ(笑)。でも、ライブは楽しいと思いますよ」
Text by 吉本秀純
(2012年7月11日更新)
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