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北海道でインディペンデントな活動を行いながら
常にHIP HOPで訴えかけてくるTHA BLUE HERB
長い沈黙を経て、この混沌とした世の中へ発表された今の言葉
今の音とは… MCのILL-BOSSTINOへの書面インタビューを全公開

 HIP HOPが世間に分かりやすい形で認知され始めた2000年頃、北海道の札幌から強烈なメッセージを投げかけてきたのがTHA BLUE HERBだった。その浮かれきったヒップホップ界の雰囲気を一蹴し、襟を正させ、歩むこと、進むこと、生き抜くことを感じさせてくれた。’10年秋を最後にライブを休止し、長い制作期間を経て、そして今年、遂に動き始め、3月にシングル『STILL RAINING, STILL WINNING』、5月にアルバム『TOTAL』とたたみかけ、今月からは全国各地をライブで廻り出す。

 今回、書面でという形になったが一問一答で取材を行わせてもらった。序曲とも言える『INTO RAW』から始まり、続く『WE CAN…』で感じる力強さ。そして、『EVERYDAY NEW DAWN』におけるリリックでの「ずっと続いてきた物語の真新しい場面を 再び向かい合い 創り上げてこう 集まれた俺等でもう1度上げてこう」。怒り悲しみを乗り越えた上での決意、その決意を出せた…動き出せたことへの喜びを感じた。また、『STAND ON THE WORD』におけるリリックの「では現実の世界 誰も助けちゃくれない あなたがどうするかは あなたが決めることだ」では強い決意や生きる道が伝わりながらも、MCのILL-BOSSTINO(以下BOSS)が持つ特有の温かさを感じることが出来た。

 書面取材に対応してくれたBOSSはリリックやジャケットに関するこちらの感想に関して、「あなたにそう聴こえたならあなたにとっては聴こえたその通りです。歌詞を補足はしません」や「イメージはお客の自由なので、そこにこちらから発想を拘束するような言葉は足したくありません」と真っ直ぐな言葉を返してくれた。あくまでインタビュアーの向こうにいる聴き手へ投げかけることへの徹底さを感じさせてくれた。嘘のない真摯な力強い言葉たちに、返信を読みながら何度も鼓舞され、自身を振り返ることもできた。この取材がレコードを聴くきっかけ、ライブへ向かうきっかけになってもらえたら、何よりも嬉しい。

―― まず、去年の震災後、国民全てが混乱する中、表現者の方の混乱も大変なものだったと思います。すぐにネットなどで言葉だけでなく、音楽をも発信していく人が多い中、BOSSさんが、どのような想いで2011年沈黙を持たれ過ごされたかをお教え頂きたいです。

「戦後からずっとこの国は安定と繁栄を享受してきて、俺自身もそれにどっぷり浸かって生きてきたんですが、その中で培ってきた思想とかが一瞬で根底からひっくり返されるような出来事だったワケで…。やはり反射神経ですぐに何か発表するという考えにはならなかったですね。事実、被害はその間も進んでいましたし、原発なんてどうなっていくのか誰にも分からないようなときに、離れた場所から簡単に結論を出せるようなところには自分の気持ちも至っていなかったというか。実際に行動していた人達にどうとかじゃなくて、自分自身の中での問題ですが…。だから答えを焦らずに、しっかりと現実に起きている事を出来るだけ広い範囲で見つめ、聞き、読み、そして考えることに時間を費やしてきました。それで結果的に沈黙してるように見えたんだと思います」

―― 3月に発表されたシングル『STILL RAINING, STILL WINNING』は想像していた以上の強い趣のある楽曲だと捉えられました。特にPVでの強い雨の降る中でのBOSSさんの強い姿が印象的です。THA BLUE HERB活動第4期への狼煙と考えられる、この楽曲への込められた想いを教えて頂きたいです。

「THA BLUE HERBにとっての活動第3期(’07~'10年)が終わってから、何もメッセージを発信してこなかった中で、初動というか、止まっているものを動かすには、何よりも気持ちでぶつかっていかなくてはならないと思ってました。小手先のテクニックなどじゃなくガチでね。ましてや国難のさなかにある日本に対して、そして今も困難と闘っている人達に対しても、目を逸らさず逸らさせず、真正面から言葉を投げかけていかなくては耳を貸してもらえないと、突破口は開かないと思ってました。そういう気持ちが楽曲のテンションの高さ、表出している気持ちの濃度に繋がっていったのだと思います」

―― 12年前、Quick Japan誌上での「オマエのための時代ならオマエが変えろ」、「必ず時代はかわる」といった言葉には、個人的に大変鼓舞されました。『STILL RAINING, STILL WINNING』でのリリックにおけては、「時代は変わり 相も変わらず」や「時代は様変わり 騙し騙し」など時代への諦観も感じられました。時代への想いで、BOSSさんの中で変わった想い変わらぬ想いを教えて頂きたいです。


「昨年この国で起きた事は相当ハードだった。ある意味ちっぽけな音楽業界の中で自分の居場所を作るという理想への道のりとかよりも(それはそれで人生を賭けるに値する闘争ですが)、もっとずっと大きな次元で時代が大きく変わるきっかけになる年だったと思ってます。自分の小ささ、弱さ、生活の脆さ、儚さというものを学んだとも言えます。それが諦観と取られようが、俺は俺が感じたことをありのままを歌うしか出来ない。人の死、残された者の悲しみ、未曾有の災害、そこからの再生の難しさ、苦難はまだまだ続くわけです。そういう時代に生きていくことになった事実を隠さずに歌っていくことしか俺には出来ないです」

―― アルバム収録曲『UNFORGIVEN』のリリックにおけての「音楽雑誌の表紙を買い取るなんて もうそんな懐かしい段階なんかじゃないの 口だけインタビュアーには口は割らん」という言葉は、音楽のインタビューを日々行う自身に大変突き刺さりました。初期、BOSSさんはインタビューを受けるのが非常に珍しいように思っていました。今、インタビューを昔よりは多く受けられるようになり、改めて雑誌などの媒体にインタビューを受けるということを、どのように思われているか教えて頂きたいです。今回、初めてBOSSさんをインタビューさせて頂くことになったこともあり、活字媒体と音楽との関係性がどのようにあるべきかも教えて頂きたいです。

「活字媒体と音楽との関係性なんて考えたことはないですね。俺には関係ないことです。俺はただ、インタビュアーの向こう側にいる読み手(つまり聴き手)に向かって話すだけなので。自分らの音楽を聴いてほしい、そしてそれは何故なのか、そこに込められているのはどの程度の自信と覚悟なのか、それをインタビュアーを介して伝える。ただそれだけです」

―― アルバム収録曲『SATURDAY NIGHT, SUNDAY MORNING & AFTERNOON』でのリリックにおけて「フジロックにこだまの森 サマソニ チェックアウトに残してきた昨夜の勝利」、同じく収録曲『THE NORTH FACE』のリリックにおけて「RISING SUNの常連 KAIKOOの本命」という言葉がありますが、21世紀に入ってからBOSSさんの言葉、音楽は東京をはじめとする全国各地へ届いたと想います。それでも止まらないBOSSさんのエネルギー、より高く持ち続けられるモチベーションについても教えて頂きたいです。また、追う側、追われる側という言葉は不適切かも知れませんが、40代に突入されて、若手から追われる立場、敬意を持たれる立場になったことへの想いも教えて頂きたいです。

「ライブで47都道府県全て回らせてもらって、その都度訪れた街のお客と数えきれない夜を分け合ってきました。しかもその生活は1回のライブで完結するようなもんじゃないわけです。それはずっと続いていくもので。続いていくからこそ面白いし意味もそこに生まれてくるんです。春、ある街にライブに行って、また会おうと別れて、その年の秋にまた行く。そうなったら前と同じライブをやってても喜んではもらえないんですよ。フレッシュじゃなくなってる。また新しい選曲と順番、アレンジで挑まないと前の夜は越えられない。俺らは10年以上ずっとそうやって生きてきました。その関係が今や47都道府県それぞれに築かれているんです。だから常に今よりも良くなりたい、うまくなりたいって思ってます。そう思わなくてはこの生活は続けられないですよ。若いラッパーに肯定されようが、貶されようが、俺がやるべきことは変わらないんですよ。成り行きで年齢やセールス的に追われるようになったとしても、俺等は俺等で自分等の作品やライブの理想を相変わらず追い続けているんです」

―― アルバム収録曲『LOST IN MUSIC BUSINESS』での「レコード CDから配信 いずれパッケージは減っていく時代の必然」、「音楽が売れない時代なんてのは言い訳さ」というリリック…、ここに込められた決意や想い、今の音楽業界、そしてリスナーとの関係性についても教えて頂きたいです。そして、今、HIP HOPをオワコン(終わりのコンテンツ)などと言う人もいるそうです。そのセンスのない言葉に個人的に悲しく悔しくもあるのですが…、HIP HOPが…音楽がもっともっと強く突き進むために必要な事は何かも教えて頂きたいです。個人的にはクラムボンとの交わりなど、ジャンルを飛び越え強い意思を持った表現者たちが手を組み突き進むという道も、ひとつのやり方であるように想うのですが、その辺りも教えて頂きたいです。

「時代は移ろっていくから、それを追いかけていくことに熱中はしていないですね。どうせ短い人生、終わりはすぐ来るわけですから。自分が楽しめているか、それが第一で、それが本命です。THA BLUE HERBのそもそもの根本部分ですよ。付きまとってくる使命とか役割とか、そんな大それたもんは構っちゃいない。シーンがどうなろうがどうでもいい。良い音楽を創れば、良いライブをやれば、人は自然と集まり、それを継続することで人の輪は形作られていくんです。自分らは自分等の音楽を創り、鳴らしていくだけです。周りがどう変わろうが、景気が良かろうが悪かろうが、俺らは俺らの、THA BLUE HERBの歴史を生きているんです。俺らの音楽を信じてくれる人達のためにベストを尽くす、それだけです。同時にそんな人達には縛られないで、自由に自分等の価値観の中で格好良いと思える曲を創っていくだけです。それで喜んでもらったり、楽しんでもらえれば最高。そんな感じですかね」

―― 収録曲『WE CAN…』のリリックにおけて、「乾いた想いをぶちまけた1枚目」、「心の内側を掘り下げた2枚目」、「人生を讃えた3枚目」とあります。4枚目の今作を創り終えられた今、前述のような言葉でBOSSさんの中でまとめられる言葉がありましたら、どのような想いを込められたかという意も含めて教えて頂きたいです。

「今はアルバムを創り終えはしましたが、発売して、人の手に渡っていって、それぞれの生活の中に溶け込んでいって、そして生身の俺等もライブに出て行って、そこで『TOTAL』に入っている曲達は歌われ、聴かれ、鍛えられ、成長してゆっくりと完成していくわけです。つまり今はまだ過程にいるに過ぎないですね。だから何も始まっても終わってもいないので、このタイミングで『TOTAL』を総括することは出来ないし、したくないです」

――収録曲『RIGHT ON』の中で「タイトル『TOTAL』」というリリックがありますが、改めて『TOTAL』というアルバムタイトルを最後決められた経緯を教えて頂きたいです。

「ゲストも招かずに俺と相棒のO.N.Oの2人だけで創ったから、それだけです。言葉と音、それらは2人の人間から生まれてきました。言葉は俺の全てで、音はO.N.Oの全てです。逆に制作に使ってきた5年間、俺が感じた全てが言葉になったし、O.N.Oの感じた全てが音になったってことです。そういう意味でTHA BLUE HERBの総力戦、が故の『TOTAL』ですね」

――音についても、お伺いしたく思います、1曲目『INTO RAW』をはじめとして、よりTHA BLUE HERBが音への細かさ、探究心を持っていることが、今回のアルバムで改めて教えられ、体感が出来ました。O.N.Oさんへの音の伝え方、O.N.Oさんから音として返ってきたときの想いや感想、印象も教えて頂きたいです。

「O.N.Oもいつものことながら、相当長い時間を費やして今回のビートを創り出しました。長い間、自分の言葉と全く同等の高い質を保ってくる相方の努力には、幸運としか言いようがない満足を感じています。今回の制作中も新しいビートを聴かされる度に驚き、勇気付けられてきました。そんなビートを無駄にしないように常に注意してきたんです。O.N.Oも俺の言葉に対して同じ想いだったと思います。そんなバランスの上にTHA BLUE HERBは、そしてこのアルバムは成り立っているんです」

――また、ライブの時に各ライブハウスと共に音を作っていく姿勢にも感銘を受けております。そこのこだわりや想いも教えて頂きたいです。

「ライブ時における言葉の聴こえは、ある意味THA BLUE HERBのライブの生命線です。言葉が聴き取れないのならライブ自体に何の意味もなくなってしまいます。曖昧な雰囲気なんかじゃないんです。メッセージが全て。だからそれを聴き手に伝えるためには出来るだけの努力を注ぎます。だから、こだわりというよりも普通に基本だと思ってますね」
 

Text by 鈴木淳史
 




(2012年6月22日更新)


Check

Release

Album
『TOTAL』

発売中 3150円
THA BLUE HERB RECORDINGS
TBHR-CD-020

Profile

ザ・ブルーハーブ…ラッパーILL-BOSSTINO、トラックメイカーO.N.O、ライヴDJ DJ DYEの3人からなる一個小隊。'97年札幌で結成。以後も札幌を拠点に自ら運営するレーベルからリリースを重ねてきた。'98年に1stアルバム『STILLING, STILL DREAMING』、'02年に2ndアルバム『SELL OUR SOUL』を、'07年に3rdアルバム『LIFE STORY』を発表。'04年には映画『HEAT』のサウンドトラックを手掛けた他、シングル曲、メンバーそれぞれの客演及びソロ作品も多数。映像作品としては、ホーム北海道以外での最初のライブ『演武』、結成以来8年間の道のりを凝縮した『THAT'S THE WAY HOPE GOES』、'08年秋に敢行されたツアーの模様を収録した『STRAIGHT DAYS』、そして活動第3期('07~'10年)におけるライブの最終完成型を求める最後の日々を収めた作品『PHASE 3.9』を発表している。HIP HOPの精神性を堅持しながらも楽曲においては多種多様な音楽の要素を取り入れ、同時にあらゆるジャンルのアーティストと交流を持つ。巨大フェスから真夜中のクラブまで、47都道府県に渡り繰り広げられたライヴでは、1MC1DJの極限に挑む音と言葉のぶつかり合いから発する情熱が、各地の音楽好きを解放している。そして、'12年4thアルバム『TOTAL』と共にシーンに帰還。傷深き混迷極まる列島ステージ最前線へと再び出立。

THA BLUE HERB  オフィシャルサイト
http://www.tbhr.co.jp/


Live

『2012 LIVE TOUR』

【大阪公演】
チケット発売中 Pコード167-524
▼6月28日(木)19:30
梅田クラブクアトロ
オールスタンディング3500円
梅田クラブクアトロ■06(6311)8111

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【京都公演】
チケット発売中 Pコード169-126
▼7月1日(日)19:00
KYOTO MUSE
3500円
KYOTO MUSE■075(223)0389

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『国生音楽祭』

チケット発売中 Pコード170-916
▼7月15日(日)10:00
サンライズ淡路 特設野外会場
オールスタンディング3800円
[出演]THA BLUE HERB/神門/DANYTIME/他
※雨天決行・荒天中止。6歳以下は無料。16歳未満は保護者同伴に限り入場可(保護者の方もチケットが必要)。
OUTLAND PRODUCTION■0799(52)0130

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