今は亡き親友に捧げた感動の名曲『君と僕の挽歌』
そして、2年ぶりの2ndアルバム『How’s it going?』
喪失から自らの音楽を再構築したさかいゆうの2012年を占う
インタビュー&動画コメントが到着!
耳に残る甘く切ない歌声と緻密なサウンドメイクから繰り出される極上のメロディを武器に、’09年にセンセーショナルなデビューを果たしてから早2年半。さかいゆうが、4月発売のシングル『君と僕の挽歌』に続き、5月23日に2年ぶりの2ndフルアルバム『How’s it going?』を遂にリリースした。日本を襲った未曾有の大震災を通じて、否が応でも生と死に向き合わざるを得なかった’11年。ミニアルバム『ONLY YU』のリリースのみに留まった、そんな沈黙の1年に彼を再び突き動かしたのは、若くして亡くなった親友に捧げた『君と僕の挽歌』だった…。シンガーソングライターとしての転機となったこの名曲を皮切りに、作詞に森雪之丞、ふかわりょう、小谷美紗子ら多彩なメンツを迎え、シンプルなピアノトリオで制作に挑んださかいゆうの新世界とは? 所属事務所オフィスオーガスタのオールスターユニット・福耳の4年ぶりのシングル『LOVE & LIVE LETTER』の作詞作曲プロデュースも手掛けるなど、今年はそのクリエイティビティに磨きをかける彼の、おおらかで懐の深いポップアルバム『How’s it going?』インタビュー。委ねることでより太く暖かくなった彼の音楽は何を乗り越え、どうやって生まれたのだろうか。
さかいゆうからの動画コメントはコチラ!
――このアルバムの内容にもつながってくる話だとは思うんですけど、去年1年は自分にとってどんな年でした?
「去年は…結構いろんなことを考えた1年というか、まぁ震災の影響もありましたし、リリースもミニアルバム1枚だけでしたし、なんかこう…生きるとか死ぬとか、そういうテーマで、ずっと歌詞を書いてましたね」
――そこに向かったのは、震災が一番デカいんですか?
「デカいですね。そこから自分にとっての身近な死や生というところで、先行シングルの『君と僕の挽歌』(M-11)が出来て。そこを軸にアルバムが出来ていった感じですよね」
――言ったら、震災以前は、全然“生と死”とか、そういうムードでもなく?
「なかったですね。なんか面白いもの…もうちょっとエレクトロとか打ち込み系のモノを作ろうかなって思ってましたから」
――去年制作してるミュージシャンはもう全員話には出てくるんですけど、やっぱり震災によって考えさせられることが多かったということですよね。今何か自分が思っても、それを言うことがタブーみたいな空気もありましたし。
「そうなんですよね…。物事にはいろんな側面があって、やっぱり密接に全部がつながってるな~と。特に地震よりも何よりも原発に関しては、やっぱりいちミュージシャンだし発言しづらいことの方が多いから。でも、それをもじって歌った斉藤(和義)さんとかもいるし、う~ん…やっぱりホントはあのときこそ、いろんなことを歌わなきゃなんなかったんですけどね。だから、俺も含めて“何で? 今、言葉尽きてどうすんだよ”みたいな」
――うんうん。
「でもいろんなことがあり過ぎて、あの後にすぐモノをリリースするっていうのが、ちょっと不自然な感じがして。リリースを延期された方とかもいたじゃないですか? アレも心中察しますけど」
――作ってる最中にはまさかそんなことが起こるとは思ってないから、いつものテンションで作って、でも今の時代にそれを放ったときに、まるで違う意味を持つ可能性が出てきた。それで言うと、すごく悶々とする1年というか…何かを言いたい気持ちは確かなのに、それを言葉に出来ないもどかしさがあって…。
「そうなんですよ~! 悶々としてましたね…。でも、ようやく落ち着いて、このアルバムでは4曲詞を書いたんですけど、その4曲中2曲は生き死にをテーマにしていて。今まで悶々としていたことに対する自分の答え?は、書けたかなと。自分にとっては考えるきっかけになった1年でしたね」
――傍から見てても、’09~’10年にかけてのデビューイヤーはリリースも多いしタイアップもあって盛り上がって駆け抜けてっていう、ホントにスピーディーな1年で。’11年はやっぱり震災もありましたけど、さかいさんがグッとペースを落としたように見えて、実際はどんな1年だったんだろうなってすごく気になって。
「ずっと…スタジオに入ってることが多かったですね」
――でも、そこで答えが見つかるわけでもなく…そのトンネルを抜けられたのはいったい何だったんでしょう?
「何だろう…? いろんなことを考えたけど、何だろうな…やっぱ音楽で、答えを出したいじゃないですか。今まで自分で詞を書いてきたけど、今回は作詞を委ねてみたのも、1年間考えてきたことの1つの僕の答えだし。でも、自分の言葉ではないんだけど、自分の気持ちを代弁してくれているような歌詞が届いて、ホントにいろいろ考えました。なぜ人は生まれてきて、なぜ死ぬのか…いろんな本にいろんな答えが載ってるけど、結局は分かんないじゃないですか? ただ、その答えは出せないんだけど、“こうじゃないかな?”って思うことは提案出来る。それをラブソングにして書きたいな~と思って出来たのが『LOVE & LIVE LETTER』(M-4)で。でも、そこにいけたのも、『(君と僕の)挽歌』が書けたから、もう“今言いたいことは全部この曲で言えたな”って思えたからなんです」
感動しましたね、正直(笑)
なんか、ありがとうって感じでした
――『(君と僕の)挽歌』が今回のアルバムの火種になった1曲だと思うんですけど、この曲はさかいさんが音楽を始めるきっかけにもなった、亡くなった親友に捧げられた楽曲ですよね。この曲を書こうと思った具体的なエピソードはありますか?
「生きること、死ぬこと、悲しいこと、淋しいこと、嬉しいこと…そういう1つ1つの言葉を考えたときに、彼が亡くなったときはもちろんすごく悲しくて、世界が真っ暗になって、これからどうしようって…すごく悲しかったんだけど、時間が経つとやっぱ癒されるじゃないですか。ちょっと淋しい言い方をすると“忘れる”というか」
――うんうん。
「彼のことを思い出すと、彼にしか通じないギャグだったり、彼としか話せないことだったり、悩み事だったり…彼にしかやっぱり出来ないことを思い知らされる。そういう意味で、歌い出しでいきなり“淋しさは続くだろう”と言っていて。でも、それは思い出にすがるんじゃなくて、思い出がそのまま残っているという意味で。彼のことを思い出すと、悲しいな~と思うよりちょっと笑っちゃうような思い出の方が多いから。だからその淋しさをポジティブに考えるところからスタートして」
――震災によって生と死のことを考えたのはもちろん1つのきっかけなんですけど、言ってしまえば、親友のことはどのタイミングでも書けたわけじゃないですか? でも、今回曲にしようと思ったのは、曲に出来たのは何でなのかなってずっと思ってたんですよね。
「ホントにね…。でも、曲って書くべきときに書くものだから=書きたくないのに書けないんです。『君と僕の挽歌』は…やっぱり去年、“書きたい”と思ったんですよね」
――ロマンチックに考えると、さかいが思い悩んでる、どうしようって言ってるって、親友が“書かせてくれた”のかもしれない。
「そうですね…。僕が曲を書くときはいつもその感じです。考えて書いているというよりは、ポロポロ生まれてきた通りにやっている感じ。だから、自分から動こうとすると、あんまりいい演奏が出来ないし間違っちゃうんですよね。降りてきたまま、動くままにやる。それは歌詞でも演奏でもメロディを書くときでも全部変わらない。すごく抽象的だけど、“降りてくる”というか」
――でも、メジャーでやっていく中では、降りてくるから書くということだけじゃなく、締切やオーダーがあったりと、“書かなきゃいけない”場面もあるわけじゃないですか。今まで活動してきた中で、その辺は上手く乗り越えられたもんだったんですか?
「去年がまさにそれでしたね…歌詞を書いても3ヵ月ぐらい全部ボツ(苦笑)。書けども書けども、どれもリアリティがなくて。そこで、もう日記のような気持ちで、肩の力を抜いて、書き出したのが『君と僕の挽歌』で。最初はホントに僕と彼にしか分からないような言葉で書いてたぐらいですから。それを歌詞にしていった感じですね」
――この曲が出来たときって、どう思いました?
「感動しましたね、正直(笑)」
――アハハハハ(笑)。
「なんか、ありがとうって感じでした、うん」
自分にしか出来ないことが絶対に1つはあって
それを早く見つける人もいれば、遅く見つける人もいる
人はそれをずっと探していくのかなって
――先ほど話題に挙がった『LOVE & LIVE LETTER』は、所属事務所・オフィスオーガスタのオールスターユニット“福耳”に書き下ろした楽曲のセルフカバーということですが、この曲にまつわるエピソードはありますか?
「『LOVE&LIVE LETTER』は、僕が最初に“福耳の曲、次はさかいでいきたいんだけど”ってミーティングで告げられたときに、書くんだったら今の自分のこのモードを書きたいと思った曲ですね。それと、オーガスタは今年で20周年なんですよ。だから、やっぱりアニバーサリー的なモノにしたかった。社長は“音楽は繰り返しチェーンのように橋渡しされるもんだ”とよく言ってて。例えばモーツァルトはバッハを小さい頃に聴いてたり、いかなる天才、いかなるカリスマでも、周りの人の影響は絶対にあるから、そうやって音楽がまるで子供のように受け継がれていく。要は今生きていても、この体は自分だけのものだと思ったら、自分の命だけが大事になっちゃうじゃないですか。でも半分は親の遺伝子だし人はいろんなもので構成されていて、例えば、どんなにいい曲を書いても、それに影響を与えた誰かがいるわけですよ。そう考えると、その人がいなかったらこの曲は出来てないし、実際僕の亡くなった友達がいなければ、僕は音楽を始められてないから…」
――うんうん。
「物事はすごく不思議なチェーンでつながれていて、それがあまりにも複雑過ぎてつながりが分かんないから、みんな自分勝手になっちゃうのかなって。だから、それを手紙という形で書いたら、ラブソングとして聴かせられるかなって。自分の体は神様か仏様か遺伝子か、何らかのサムシング・グレートが産み落としてくれて、誰かに逢ったり、誰かのことを好きになるためだけでも、十分に生きるモチベーションになる。誰もが自分にしか出来ないことがあって…例えば僕はインタビュアーになれないですから。人の話を聞くのが下手くそなんで(笑)。でもその代わりに僕は歌が歌える。自分にしか出来ないことが絶対に1つはあって、それを早く見つける人もいれば、遅く見つける人もいる。人はそれをずっと探していくのかなって。例えばそれが仕事じゃなくても、誰かを愛することだったり、誰かに逢いに行くことでも良くて。そう考えたら、生きるとか死ぬとかいうテーマは深いけど、すごくロマンティックな曲になるんじゃないかって」
――そう考えたら『君と僕の挽歌』という入口から今回のアルバムは作り始められ、最後には結果『LOVE & LIVE LETTER』たどり着けたというか。どちらも大事な曲ですね。
「『君と僕の挽歌』は、まるで日記のような曲だから、自分で思ってることを綴ってる…ただそれだけのことかもしれない。最後に書いた『LOVE & LIVE LETTER』はいろんな人に聴いて欲しいというか、いろんな人が、もうその人自身が、誰かに届けられるべき手紙みたいなもんなんだよって。『(君と僕の)挽歌』はすごくパーソナルで、1人で聴いて欲しいような曲だけど、『LOVE & LIVE LETTER』はみんなで歌って欲しい曲なんですよね」
自分の音楽はもっとワールドポップスというか
スタンダードな音楽を作っていきたい
――アルバムのサウンド的なテーマはあったんですか?
「ホントはピアノトリオだけで録ろうかなって思っていたぐらい、スタジオに入ってリハーサルしてるぐらいの空気がいいなとは思っていて。それが今回のシンプルな力強さにつながったかなと」
――作詞を人に委ねることで、自分の曲や歌うことにもたらされた発見とか変化はありました?
「選ぶ言葉は違うけど、去年はみんな割と同じことを考えてたのかなっていう発見はありました。森雪之丞さんは、詩集読んだらすごく面白かったんで思い切ってお願いしたら、ホントに素晴らしい詞が届いて。僕が絶対に書かないような歌詞を『ペテン師と臆病者』(M-7)『サンバ☆エロティカ』(M-9)では書いてくれたんで、それはすごく新鮮でしたね」
――『パスポート』(M-3)の作詞がふかわりょうさんっていうのも、ちょっと意外でした。
「でしょう?(笑)」
――かつて、ふかわさんのソロユニット・ROCKETMANにさかいさんが参加した縁ってことですか?
「いや、実はもっと前に一緒にバンドやってるんですよ」
――マジで!?
「お笑いバンドを(笑)。僕まだCDデビューもしてなくて、曲も数曲しかなくてあまりにもお金がないときに、ギャラをくれるって言うんで(笑)」
――アハハハハ!(笑)
「そのときから仲良くなりましたね~」
――じゃあ付き合いは結構長いんですね。それなのにしれっと参加してたから(笑)。
「8年ぐらいかな。3ヵ月ぐらいお笑いライブの稽古を共にしたんで、つながりはすごく深いですよ。なのに、そんなに大きく打ち出すこともなく(笑)」
――他にも『パズル』(M-12)の作詞の小谷美紗子さんは、さかいさんが憧れのアーティストに名前を挙げていたぐらいの人ですから、ちょっと感動的じゃなかったですか?
「そうですね~。去年、2人でグランドピアノ弾き語りライブをやらせてもらったんですよ。リハーサルもたくさんやって、ライブもしっかりやって、打ち上げもやったんですけど、やっぱり謎の人でしたね(笑)」
――アハハハハ(笑)。
「だからもう、音楽でしか会話しなくてもいいぐらい、音楽でたくさんのことを喋ってる人だな~と」
――『Jammin’』(M-1)『サンバ☆エロティカ』では、SOIL & “PIMP”SESSIONSのタブゾンビ(tp)、元晴(bs)さんも参加して。
「もう大好きだから。一緒にやりたいな~って」
――アルバムが出来上がったときはどう思いました?
「すごく…歌が変わったなっていうのがありますね。ただ、サウンドも歌も詞も毎回すごく変わっちゃうんで、なんかまだ分かんないなこの人って感じですよね(笑)。ちょっと自分で自分を楽しんでる感じはあります。降りてきて、出てくるものに正直に作り続けていきたいですね」
――今回のアルバムには『How’s it going?』というタイトルが付いています。
「コレは『(君と僕の)挽歌』のサビの歌詞にもあるんですけど、まぁどこにいても、例え死んでも、ずっと忘れてないからって。だから、自分に関わってくれたみんなに“どうしてるかな~最近どう?”って、僕は聞きたいですね」
――このアルバムが出て、そのリリース日当日からツアーも始まって、その後6月13日(水)には福耳としてのシングル『LOVE & LIVE LETTER』もリリースされると。去年1年間の鬱屈したところを抜けて、今後目指していきたいところとかはあります?
「去年のニューヨークでのライブが楽しかったから、海外ライブをちょっとずつ増やしていきたいですね。ニューヨークでは7泊ぐらいしたのかな? 撮影とリハーサルとライブ以外は1~2日ぐらい空いてたんで、ウロウロしてましたね。(デビュー前に音楽留学していた)LAは田舎ですからね~。それはそれでいいんですけど、遊びに行ったり貰う刺激は、もうニューヨークですよ。なので、会社の経費でどんどんどんどん行きたいと思います(笑)」
――アハハハハ!(笑) 海外でもコンスタントに活動出来るようになったら、コレまた楽しいですね。
「出来たら嬉しいですね~。多分自分の音楽はもっとワールドポップスというか、スタンダードな音楽を作っていきたい。このアルバムは言葉が通じない人でも楽しめると思いますし。日本語を大切にしていきながら、いろんな可能性を探って…僕はもう人生そこにしか興味ないですから。そこだけにフォーカスを当てて、どんどんどんどん音楽を作っていきたいですね」
Text by 奥“ボウイ”昌史
(2012年5月25日更新)
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