島唄のスペシャリスト・大島保克が挑んだ
初の全曲オリジナル集『島渡る~Across the Islands~』!
5/25(金)梅田AKASOでのワンマンライブを前に
島唄とは、伝統とは、ポップスとは…現在の心境を語るインタビュー
八重山(石垣島)を代表する唄者として、伝統的な島唄を継承しながらオリジナルの楽曲を精力的に発表し、盟友BEGINの比嘉栄昇(vo)との共作による『イラヨイ月夜浜』や、『流星』『赤ゆら』などの名曲を生み出してきた大島保克。4月に発売された5年ぶりのアルバム『島渡る~Across the Islands~』は、代表曲の新録音を含む初の全曲オリジナル作品集。HEATWAVEの山口洋(vo&g)と細海魚(key)もゲストに迎えつつ、伝統的なスタイルから、ギターだけを伴奏にした楽曲やドラムなどが加わったポップなタッチまで。柔軟である一方で伝統に深く根ざした“島唄”が堪能出来る。5月25日(金)には大阪・umeda AKASOでのワンマン公演も控えた大島に話を訊いた。
大島保克からのレアな動画コメントはコチラ!
――5年ぶりのアルバムということで、前作からかなり空いた印象もありますが。
「まぁ僕自身はあまり空いた気はしないんですけどね。それまでは2~3年に1枚くらいのペースで出せてはいましたけど、レーベルもちょっと落ち着いて、“そろそろ次のをやりませんか”と言ってくれたのでいい機会でした。あと、今回は初めてのオリジナル楽曲のみの作品になったので、新たなスタートというか。これまでの集大成でもありますけど、今までに島唄で培ってきたものから新しいモノをどんどんと作り出していこうという。今回のアルバムが、そのスタートになると思います」
――プレス資料を読むと、今作は“40代の代表作になるものを作る”というのもテーマだったそうですが。
「40代になって、来年でもうデビューして20年にもなるんですけど、ここ最近の作品は『島めぐり』(’05)にしても『大島保克 with ジェフリー・キーザー』(’07)にしても、“島唄”やジャズとのコラボといったコンセプトがあったんですよ。でも、今回はとりあえず自分が持っているものをいろいろ録音してみて考えようということで、標準語の歌もあれば伴奏がギターだけの歌もあるし、民謡っぽいのもあればポップスもある。今までに自分がやってきたものを全部出せるアルバムにしようと録っていきましたね」
――サウンドのタッチはかなりシンプルで研ぎ澄まされた感じなんですけど、曲調は多彩ですよね。
「ギターは昔から自分でも弾いていたので、そういう曲は以前から作っていたんですけど、オリジナルとなると民謡調の曲が実は一番難しいんですよね。でも、最近ようやく作れるようになってきたところもあったので、今回は敢えてオリジナル楽曲のみで勝負しました」
――ギターなどが入っている曲の方が作りやすいというのは、ちょっと意外なお話ですね。
「コード的な要素のある洋楽器の方が、やはり曲は作りやすいですよ。三線という楽器は、リズム楽器でありメロディ楽器ですから。コードや和音的な要素はなくて、メロディだけで作っていかなければならないので難しいんですよね。まぁでも、結果としていろんな方向性の多彩な曲が並んだと思います」
――曲のアプローチは多彩なのですが、アルバムとして通して聴くと一貫性があるというか。ポップス調の曲も民謡調の曲も境目なく聴こえるのがまたスゴいですね。
「そうですね。40代になって、ポップな歌も島唄も自分なりの歌い方で歌えるようになってきたというか。以前までは、やっぱり歌うときのスイッチが違っていたんですよね。でも、いろいろと歌ってきて、ようやくどちらも同じテンションで歌えるようになれました。それは、古い歌でも新しい歌でも同じように垣根なしに」
――そういう境地に至れたのは、やはり40代に入ってからですか?
「そうですね。やはり30代は古い島唄を勉強するので精一杯だったので。一番キツい時期で悩むことも多かったですけど、そこをちょっと抜けてきたのはありますね」
――30代の頃の大島さんは、出身地の石垣島(八重山)以外の島唄の大御所にも出来るだけ唄を習いに行くようにしている、と話されていたのが印象的でした。
「まぁ僕は流派もないですし師匠もいないので、好きな歌い手の方のところへいろいろと行って。知名定男さんや登川誠仁さんや大城美佐子さんや…皆さん懐が深いので快く引き受けてくれて。いろいろと教えてもらったり話を聞いてきたりして、ここまでこれましたね」
――『与那岡』(M-7)の早弾きの手の付け方は、登川さんに手ほどきを受けたものを参考にされたそうですね。
「そういうのは、『琉球フェスティバル』の楽屋で習ったりするんですけどね(笑)。だから、僕は琉フェスの楽屋ではいつも先輩の近くに座って、待ち時間の間に教えてもらったり話を聞いたりしているんですよ」
――なるほど。先人たちからより深く学んでこそ、より強い新曲も生まれてくるというか。
「僕は、古いものが伝統じゃなくて、古い歌から学んで新しい歌を作り続けることが、伝統に繋がると思っているので。民謡というのは古いモノだというイメージがあるけど、新しく作る歌もまた民謡だし、その中の何曲かが10年後や20年後にスタンダードになってくれていれば嬉しいし、全部が全部残るわけではないだろうし。だから、僕は何曲作ったかには興味はなくて、10~20年後に何曲残るかが大事だし、僕の手からも離れて他の人が歌ってスタンダードになってこそ、“島唄”になると思っているので。そういう曲を作りたいと常に思っていますね」
――今回も再録が収録された『イラヨイ月夜浜』(M-10)や『流星』(M-5)は、すでにスタンダード的になっていますよね。
「嬉しいことにその辺りの曲や『赤ゆら』は、いろんな方が歌ってくれてそうなりつつありますね」
――そして、5月25日(金)には梅田のAKASOでワンマンライブが行われます。
「もちろん今回のアルバムの曲は全てやりますし、サンデー(島太鼓)と近藤研二(g)さんという今作の核になった2人にも参加してもらいます。この日は前半から『島渡る』には入っていないオリジナル曲もたくさん取り上げて構成しようと思っているので。必ず民謡もやりますけどね。それにAKASOの前身のバナナホールは、僕が’93年にデビューした後に大阪で初めて本格的なライブをさせてもらった(’95年1月)原点のような場所でもあるので。久々に梅田でやれるのを、僕も楽しみにしています」
Text by 吉本秀純
(2012年5月16日更新)
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