ホーム > インタビュー&レポート > “名コンビ”の女優ふたりが楽しくナビゲート オペラ初心者必見の「おしゃべりコンサート」が開催!
――おふたりが朗読でお客様にストーリーを伝える上で心がけていることはありますか?
冨士「ドラマの内容がわからないまま聴きに来られている方が多いので、その展開や歌詞の内容を朗読しますと、とってもよくわかってくださって、それからオペラが大好きになるっていうお客様も多いんです。吉行さんは朗読が専門ですから、すごく上手なんですよ。お得意なのよね(笑)」
吉行「それは謙遜で、あなたはあなたのやり方でやってるから」
冨士「そうね。人それぞれなんですけれども、私もオペラが大好きなので、わかっていただこうと思って、一生懸命やります。オペラの世界は非日常ですので、たちまちその雰囲気に引っ張り込むというのがなかなか大変なんです」
――テノールのベー・チェチョルさんは喉の手術をされたとのことですが。
冨士「ベーさんは本当にリリックなテノールで、しかも強いんですね。病気で喉の手術をされて、リハビリから回復するのはとても大変だったと思うんです。でも、ハイツェーというテノールの一番高い音も出るまで戻られたとお聞きしました。汗と涙のリハビリがあったわけなんですけれども、本当に奇跡的なことだと思います。私たちがベーさんを応援するのは、才能もさることながら、本当に人柄が良い人で、応援せずにはいられないよね」
吉行「ベーさんの人柄は本当に素晴らしい。それが繋がっているという感じがしますね。私の場合は、半世紀以上、舞台の生活をしていますけれど、まさかオペラ歌手の方たちと一緒に舞台に出られるなんて思ってもいなかったんです。それが、こういう舞台にも出られるんだと思って、喜びが増えたんです。私はオペラを全く知らなかったもので、冨士眞奈美に「やりましょう」って言われたことが良いきっかけになって、オペラがどんどん好きになっているんですね。曲は聴いたことがあるけれど、歌詞の内容や意味をこの舞台で初めて知ったんです。『蝶々夫人』や『椿姫』のような、有名な作品は大ざっぱには知っていますけれど、この舞台をやることによってきちんと本を読んだりすると、どんどんオペラが好きになってきたんですね。この舞台をきっかけに、本当に楽しみが増えたなって、嬉しく思います」
冨士「オペラが好きになると、お母さんが娘さんに、娘さんがお母さんにチケットをプレゼントして、ふたりで来てくださるんです。オペラには、ご家族を巻き込んで『オペラってすごくいいのよ』と言わずにはいられないような魅力があるんです。同じ演目でも、この人が歌ったらどうなる、あの人が歌ったらどうなるって、声比べみたいな楽しさもありますね。韓国の方や中国の方もゲストにお呼びして歌っていただいたことがあるんですけれども、それぞれ素晴らしくて、回を重ねるごとに楽しみになってきているよね」
吉行「本当のオペラを観るには敷居が高すぎると思われている方たちもたくさんいます。でも私のように、気楽な気持ちでいらして、それでオペラが好きになっちゃったっていう方たちも随分いらっしゃると思うんです。だからこんなに長く続いているんだろうと思うし、こちらが驚くほどにお客様がいらしてくれるので嬉しいですね。(旧)サンケイホールは私にとっては思い出の場所で、劇団民藝にいたときには随分公演をしたので、すばらしく綺麗になったサンケイホールブリーゼに来られて、余計に嬉しいですね。サンケイホールブリーゼ の舞台に立てるのは、私にとってまた別の喜びにもなりますね」
冨士「ソプラノの方もテノールの方も非日常の歌を歌うわけなんですけれど、私たちも全てのことを忘れて、華やかな服とか着ちゃって、時代錯誤になってね(笑)」
吉行「オペラが歌えないのにそんな気分になっちゃいましてね。私が本当に驚いたのは、ベーさんの歌を横で聴いていると、舞台の床が響くんですよ。本当に足から痺れてくるみたいな感じがして、オペラってすごいなって驚きました」
冨士「ソプラノを歌われる関定子さんも、年々声が出てくる。そんな人はあんまり知りませんね。語りもうまいんですけど、声がすごく出てきて、蝶々夫人の『ある晴れた日に』とか、今年67歳だというのに、40代50代の人が歌うようなものをバリバリに歌いますから、驚いてしまいますね。力のある良い声ですよ」
吉行「関さんもすごく明るくて本当に楽しい方なんですよ」
――『歌に生き、恋に生き』というタイトルですが、トークはご自身の恋の経験なども重ねてお話されるんでしょうか?
冨士「『歌に生き、恋に生き』というのはプッチーニ作曲の『トスカ』のいちばん有名なアリアなんですね。これは音楽会の題名に良いですよね、華やかで」
吉行「オペラはだいたい恋のお話ね。本当にうらやましい恋ばかりで。現実はそうはいかないんですけど(笑)。短いんですよ、恋の期間が。あれだけ短いと情熱的にバッといくかなと感じますけれど、そんな燃える恋を作曲家は音にするのかしら。恋が長く続いちゃったらダラダラしちゃうものね(笑)」
冨士「ベーさんは声を聴いているうちにどんどん良い男に見えてきて、最後はうっとりしちゃう」
吉行「観ているうちにその魅力に惹かれていくのが素晴らしいわね」
冨士「最初に声を聴いたときはたまげたわよね。噂は聞いていたんですが、実際稽古場に入って聴くと、あまりにも素晴らしい声で。哀愁があるんですよね。東洋人が持っている独特のものだと思うんです。人を惹きつける歌声をお持ちというか。病気される前は本当にすごいハイツェーを出していましたから。そのハイツェーがアジア人の持っているペーソスのような色気みたいなもので彩られていて、独特なリリックのテナーでしたね。今ももちろん声を取り戻して歌っていますけれど、『アメイジング・グレイス』とかを歌っても、ビビビッと琴線を震えさせるようなムードがあるんですよね。あの質はベーさん独特のものだと思います」
――冨士さんはオペラがきっかけで女優になられたそうですね。
冨士「中学2年の頃からオペラが好きで、オーディションでプッチーニの『蝶々夫人』の『ある晴れた日に』という曲を原語で歌ったんです。田舎から出てきた女の子がいきなりオーディションで『ある晴れた日に』を原語で歌ったってことで女優になれたと思うんですよ。芝居なんて全くしたことがなかったんですから。本当はオペラ歌手になりたかったんですが、音楽学校に行けるような家庭環境ではなくてね。いつも吉行さんの芝居に対する不撓不屈の姿勢を見て感心するんです。この人の根性が私にあったらオペラ歌手になれたのになって思うくらいに頑張り屋さんで。私の影響でオペラが好きになったって言っていますけれども、次にコンサートで歌う曲を教えると、ものすごく勉強してくるんですよ」
吉行「私もオペラのことを何も知らなかったから、良い機会だなと思って。読んでいるといろんな知らない世界がわかるから、面白いなって思います。私たち自身も楽しめるし、お客様も面白いって言ってくださるんで、本当に良いステージに巡り合えたと思って嬉しいですね」
冨士「オペラのコンサートってうきうきするわね。一張羅を着たくなるから。そういう気持ちって大事だと思うんです。自分が決してオペラのドラマのヒロインたちにはなり得ないけれども、聴いている最中はその気になれる。私は特にイタリアオペラが好きなんです。わかりやすいし、入りやすいし。アリアという、聴かせどころがありますから、それを待つ楽しみもありますね。オペラ歌手は身体が楽器ですから、この歌詞をどんなふうに身体で表現してくれるかしら、どんなふうに奏でてくれるかしらと思うと、それが楽しみなんです。今回のコンサートは、選び抜いたものばかりを歌っていただけるので、アリアを聴く楽しみを随分期待させてくれると思いますね」
吉行「先日たまたまドラマで『蝶々夫人』を観たんです。普段オペラを聴いていると、話はわかるんですが、少し物足りなくなりますね(笑)」
冨士「いつ歌うのかしらみたいな」
吉行「別れるときや死ぬときに、もっとやってほしくなっちゃうんです。歌がないと、もうひとつ盛り上がらなくなって(笑)。オペラをほとんど観ていなかった頃はそんなことは全く思わなかったんですが、今はやっぱりそこまでやってもらわないと、『死んでいくんだな』っていう気持ちが伝わりにくいほどになっていまして。だから、普通に観るドラマがオペラと重なると、ちょっと物足りないなって思って、自分で面白くなっちゃったんです(笑)」
――7年ぶりの大阪公演で楽しみにしていることはありますか?
冨士「大阪は食べ物がおいしいイメージがありますので、楽しみですね。食事とオペラという意味でも大阪はピッタリじゃないかしら。サンケイホールブリーゼのある建物(ブリーゼブリーゼ)にはたくさんお料理屋さんがありますし、お客様にも公演の前後にお食事やお茶をしながら、オペラのお話をしていただけたら嬉しいですね」
(取材・文/黒石悦子)
(2012年2月13日更新)