ホーム > インタビュー&レポート > 気鋭のクラリネット奏者と 独自のスタイルを貫くボイス・パーカッショニストの ジャンルを超えた共演がビルボードライブ大阪で! 演奏さながら、まさに“息の合った”インタビューを公開
──今回、ビルボードライブ大阪で行われる「Classic×BEAT」のお話を聞かせて頂く前に、稲本さん、MaLさんそれぞれのお話を伺わせてください。まずは、ボイス・パーカッショニストのMaLさんに、その道を極めようと思われたきっかけを。
MaL(Voice Percussions)「きっかけは、大学のアカペラサークルです。その頃は「ボイス・パーカッションでやっていくんだ!」という気持ちだったわけではなくて、なんとなく始めたんですがどんどん面白くなっていって。一日何時間やっていても飽きなかったので、きっとパートとの相性がすごく良かったんだと思います。ほら、周囲の人間がイライラしていてもずっと鼻歌を歌っている人っているじゃないですか(笑)。たぶんそれと似たような感じだったんですよね。いつの間にかそれが習慣になり、起きている間はずっとやっているということが毎日続いたんですよ。芸事・・・というと大げさですが、もともとそういうことが好きだったので、ずっと続けるにあたって一番相性がいいのは何かと考えるようになっていきました。他にもね好きで楽器をよく触っていたりしていましたが、ボイス・パーカッションが、一番スムーズにやりたいことができる、自分との距離が近い楽器(パート)だと思いましたので始めた。ドラムとすごく音が似てると言われることもありますが、やはり人の体から出ている音なので、体にもすっと入りやすい音なんじゃないかなと思いますね。だから僕は、人間と楽器との距離感としては民族楽器より手前にある楽器であり、歌と同じぐらいだと思っています。人それぞれだと思うんですが、僕にとってはドラムよりも距離が近く感じられ、やればやるほど面白くて表現をするのにストレスを感じない。そういった相性の良さで14年続けていますが、今でも本当にそう感じます」
──なるほど。相性の良さですか。実際、ボイス・パーカッションを極められている方も他の楽器のプロの方よりも少ないイメージがありますね。
MaL「バラエティ番組でアカペラを披露する機会ができて、ここ10年でかなり増えましたしアカペラというスタイルは流行りましたが、グループを飛び出してソロでやるということに関しては、まだまだプレイヤーは数えるほどしかいないんじゃないかな」
──確かに。ソロだと、より幅広い表現ができる実力がないと成り立ちませんからね。でもそんなソロを14年も続けられているモチベーションは何ですか?
MaL「これはシーンにとって微妙な発言になるかも知れないですが・・・アカペラシーンは音楽的水準としてはどうしても低いと思います。というのも、アカペラの良さの一つに、カラオケや歌うことが好きならみんなで集まってすぐにハモったり簡単に始められることがあるんですよね。その気軽さが受けていることもあり、長年楽器を演奏しているという人達に比べると、実際やっていることは音楽的背景が無いことがほとんどなんですよ。気づいている方もいると思いますが、ボイス・パーカッションはテンポの安定感やグルーヴがカッコいいのは稀。音を出せるのは技術としてすごいことなんだけど、音楽の演奏になかなかなりえないと思うんです。だから、アカペラシーンの外に出たときに、まずはみんな恥をかいちゃうんですよね(苦笑)。「それでパーカッションっていっちゃっていいの?」「中学生のドラムの方がたたけるよ」と大概は言われちゃう。僕に関してもアカペラシーンですごいと言われていた時期がありましたが、いざ外に出てみたらプロのジャズミュージシャンの方たちに「君、それじゃグルーヴしないよ」と言われた経験があります。その最初の衝撃があって、「これはなんとかドラムを越えるパートにしてやらないと気がすまない」と思って続けている。今はね、それが14年やっているモチベーションになっていますので、とても感謝しているんですよ。どこまでやれたらドラマーやパーカッショニストに届くのか、さらに届くだけじゃなくて楽器を使うよりいい音楽をやってみせると思いながら実践しているうちに、共演する方もどんどん上手い人になり、すごい方になっていきますからやらなきゃいけないことも増えていって」
──そうですね。要求されることは高くなっていきますからね。
MaL「はい。まだまだ追いかけている最中です。僕は屈辱から這い上がれるタイプなんで、そういった様々な経験が頑張れるモチベーションにはなっていますけどね」
稲本(Clarinet)「めっちゃいい話じゃないですか(怒)」
MaL「(笑)なんで、僕がいい話をするとちょっと怒るの(笑)?」
一同笑
稲本「(笑)いや、初めて聞いたなと思って」
──(笑)では、稲本さんにはクラリネットの魅力や志されたきっかけを。ピアノやバイオリンのソロはコンサートでもよく聞きますが、クラリネットを単体で演奏されているのを聴く機会もあまりないと思われます。どうしてクラリネットを選ばれたんですか?
稲本「僕の場合は、父親もクラリネットを演奏していまして、兄は今はピアニスト兼作曲家なんですが昔はクラリネットを演奏していて。家の中で普通にクラリネットが鳴っていたんですよ。だから普通に男の人は大きくなったらクラリネットを吹くものだと思っていました」
──え!?
稲本「いや、母親はやっていなかったんでね(笑)。僕は5歳の時から始めましたので、他の男の人より少し早く始めただけ・・・という感じで何の違和感もなかったです。クラリネットは音を鳴らすのが難しいんだけど、音が鳴って当たり前で。楽器を始めて一週間でステージに立たされ、わけも分からないままコンサートを行ってたという・・・(苦笑)」
MaL「一週間で!?」
稲本「うん。そのかわり2つか3つぐらいの単音しか吹けないので父親が上手く編曲してくれたんですけどね。クラリネットの魅力は、一番人間の声に近い楽器だといれていることですかね。専門的に言うと一番「倍音」が多い楽器だと言われていて、コンピューターで音を出すのが一番難しい楽器なんですね。倍音の例えとしては・・・時報の「プ・プ・プ・プー」というのが倍音が無い音と言えば分かりやすいかな? バイオリンやフルートの音は機械で出せてもクラリネットの音は作るのがすごく難しく複雑な音形で出来ている楽器だからこそ、人の体にも入りやすいと言われているんです」
──確かに耳なじみが良いですよね。響きも気持ちがいいし。
稲本「そうですね。響きも多く優しい音ですしね」
──他の楽器を演奏されたこともあるんですか?
稲本「ピアノやバイオリンも演奏したことはありますが、それこそMaLさんの話のようにクラリネットが一番相性が良かったんだと思います」
──やはり2人ともコレだ!という出会いを早い時期にされているんですね。
MaL「運もあるでしょうね。僕は、ピアノもギターもベースも全部挫折してきていますのでね」
稲本「やりたかったけど?」
MaL「うん。ピアノも持っていたし、ギターは今でもたまに弾くんですが、全然上手くならなくて。でもボイス・パーカッションはすごいスピードで上達出来ましたので自分でもびっくりした。合ってるわ~ってね」
──なるほど。では、お二人が出会われた経緯を教えてください。
稲本「東京で一緒の音楽劇に出演したのが音の共演をした最初ですね」
MaL「常に楽団がステージの上にいて、ストーリーに合わせて音楽の演奏をしていくという音楽劇で。役者さんも歌われるし、歌っていないときもBGMのように楽団が演奏している劇があって、そこのメンバーとしてお互いが呼ばれ一緒になったのが出会いですね」
── 一緒に音を出された時の最初の印象は?
稲本「・・・怖い(笑)」
MaL「(笑)音を出したときの印象だよ!? 見た目の話じゃないよ(笑)」
稲本「(笑)クラリネットも息で演奏する楽器ですが、MaLさんも息を操る人なので、お互い吹奏楽器ということもあり僕はすごく共通点を感じましたね。他にピアノやチェロの方もいましたが息でというのは僕たち2人だけだったので、そこがお互いに息が合った・・・」
一同笑
MaL「(笑)なんかうまいこと言ったね」
稲本「今ね、ヤバイッて思ったけど止まんなかった(笑)」
──MaLさんからみると?
MaL「僕からしたら経歴も聞いていましたし、バリバリのクラシックの方が来たという感じでした。だからさっきお話したように、僕はパートのコンプレックスもありましたので、この人とちゃんとした演奏ができるかというのがその時の僕の目標でしたね。さすがに上手な方はたくさんいらっしゃいましたが、稲本さんは僕の中での大ボスでした(笑)。唯一のリード楽器がクラリネットだけだったということもありますし、クラリネットってリズムもちゃんと聞こえる楽器ですしね。上手いな~と何度も思いましたね、やっぱり」
稲本「なんか痒いな(笑)」
MaL「まあ、一緒にいる時間が長かったのでどうしようもないエピーソードも色々あったけど(笑)。音は感心・・・と言うと偉そうになりますが、さすがに「はあ~」とため息が出るほどでしたね。完成していくスピードも早いですしね。本当に音楽の人なんだなと思いましたよ」
稲本「・・・ありがとう(照)」
MaL「いやいやお礼を言われたかったわけじゃないからね(笑)」
稲本「(笑)僕はクラシック畑の人間でしたので、小さいころからそれが当たり前という環境で敷居が高い人と思われがちなんですよね。MaLさんはジャンルで言うと「ストリート」になるので別々ですが、お互いやりたいこととか伝えたいことは一緒なんだなと共演した時にあらためて思って。一緒に出来ることが楽しかったですね」
──ジャンルも違いますし見た印象も正直言うと両極端な感じがしますが、通じるものがあって・・・その異色の感じが面白いですよね。
稲本「でも僕はそんなにコラボ感はないんですよね。すごく共感していて、お互いがいいミュージシャンだと認め合っているからか、今度、チェロと一緒にやるというぐらいの感覚なんですよね」
──お~。本当の意味でジャンルを超えたということなんでしょうか。
稲本「はい。だからクロスオーバーという表現の方が違和感がないですね」
MaL「なるほど~。でも僕は正直、結構意識していますよ。例えば、僕がDJやダンサーと一緒にやりますと言ってもあまり企画として面白みがないじゃないですか!? もちろんいいステージは見せますけど、「今回、ラッパーと一緒にやります!」と言ったところで、周りの反応としては「そうでしょうね」と終わると思うんです。その中で、管弦楽団をバックにクラリネット奏者とコンサートをやりますというのは、すごく僕にとってサプライズでありチャレンジだと思うんです。ひょっとしたら、「それいいの?」って思う人もいるかもしれないですが、単純にクラシックの人とやるのではなく稲本さんとだから出来るんだろうなとは思いますね。お互いに距離を感じないというのはそういうところかもしれないですが、僕はやはりそのジャンルとやるというのはすごく意識します。どうしたら面白くなるのかや、ストリートで見てくれていた方が見に来てくれた時に「クラシックって面白いじゃん」とどうやったら言ってくれるかなって」
──なるほど。クラシックの楽しさを伝えるいい機会になりますものね。
MaL「みんな知っていますからね、クラシックの楽曲って」
──そうですね。選曲はどのようにされるんですか?
稲本「耳なじみのある楽曲というので選んでいますね。どうしてもクラシックの楽曲の中からになるんですけど、よく考えてみるとクラシックも300年前はポップスだったんですよね。「今度ショパンが新しい曲を出したぜ」みたいな(笑)。だから、僕にとっては懐メロをカバーしてるような感じで・・・言うなればリミックスだよね」
MaL「昭和の時代の楽曲をDJがリミックスして出す・・・みたいな。それのダイナミックな話かな」
稲本「本当にクラシックってこうじゃなきゃいけないというのも無いんですよ。運動会や学校でかかっていた楽曲を選曲し、アプローチは変えつつも分かりやすく楽しみやすく演奏したいですね」
──きちんとしたホールで聴くクラシックより、どこかで聴いたことがあるなという懐かしさを感じるクラシックの楽曲の方が楽に聴けますしね。
MaL「ポップスでも演歌でもクラシックでも、流れてきた瞬間に「あ、これ知ってる」という嬉しさってあるじゃないですか? 上手さというよりは、聴いたことがあるだけで嬉しくなる感じ。それがね、現代の一般の人たちが感じるクラシックの魅力だと思うんですよ。誰の楽曲、何の曲ということはあまり知らないと思うし、知っていなきゃいけないことでもないと思う。学校のスピーカーで流れてたのがクラシックじゃなくて、正装してホールに行ききちんと聴いた場合だけが「クラシックを聴いた」ことになると言うのは、きっと違うんじゃないかな」
稲本「うん。僕もそういうのは行かない(笑)。もっとカジュアルに聴いてほしいですね」
MaL「僕はもともとクラシックの人間ではないですが、チャレンジして良い意味で「こんな感じで楽しんじゃえばいい音楽なんだ」と思ったんですよね。すごく敷居が高いイメージがあったからなんだけど、だからお客さんにもそんな感じで楽しんでもらえたら。・・・といいながらものすごい正装でやってたりしてね(笑)」
稲本「面白いけどね(笑)。すごい裏切りだよね」
──何回も共演されていますが、今回の会場は初のビルボードライブ大阪ですね。もうイメージされているものはありますか?
稲本「ビルボードライブ大阪の一番の特徴は、みなさんお酒を飲んで食事をしながら聴いてもらえるという環境だと思う。そうやってリラックスして観てくれると心もオープンになるしね。今までコンサートホールやイベントホールでは演奏したことがありますが、ライブハウスでは初ですのですごく楽しみなんですよね」
MaL「僕はビルボードライブ大阪のスケジュール表を見ていて、色々なミュージシャンが居られてワールド・ミュージックが並ぶ中に、クラシックビートがあることが嬉しくて。だからこれを同じラインナップで様々の人に見てもらいたいなと思ったんですよね。いつも見に来てくれるストリートファンが来てくれるのももちろん嬉しいんですけど、それと同じぐらいビルボードライブが好きな音楽ファンの方に、純粋にジャンルは関係なく「前の日のジャズのライブと同じくらい楽しかった」と言ってもらえるような音楽のライブがしたいんで。それは今回の場所でしか出来ないことだと思いますね」
──確かにそうですね。では、今回の公演を一言でお客さんにイメージしてもらうとすると?
MaL「クラシックでライブをするので観に来てくださいという感じ」
──言葉に躍動感がありますね。
MaL「クラシックコンサートというのはお客さんのテンションは関係ないものじゃないかと僕は勝手に思っているんですよ。お客さんが今日どんな感じかを特別考慮するわけではなく、晴れの日に向けて一生懸命練習し、トレーニングしてきたものをきちんとその日に披露出来き、感動を与えられるかどうか。もちろん、それも大変なことで素晴らしいと思います。でもライブとかエンタテインメントというのはその日のやりとりなので、お客さんとの距離感が大事ですよね」
稲本「なるほど~。僕は、コンサートとライブと両方言ってきていた人間なので、確かにそうだとあらためて思いましたね。それぞれ凄さはありますが、じゃあ、今回はライブをしましょ!」
MaL「僕らがやっている「Classic×BEAT」は、これまでも楽曲中にお客さんに手拍子をして頂いたりとか、こちらからリズムをどんどん指定してお客さんに遊んでもらったりしています。以前、東北のチャリティで子供たちの前で演奏したこともありますが、その時は叩いたら音がでるものを子供たちに家から持ってきてもらい、コンサートの最中、感じるままに好きに叩いていいよというライブをしたことがあって。叩くのに夢中でズレズレだったけどそれでもいいかなってね(笑)」
稲本「でも、「崖の上のポニョ」を演奏したときは、「♪ポ~ニョポ~ニョポニョ魚の子~」の「魚の子」の後でだけはきちんと止まるんですよね(笑) やっぱり知っているからブレイクがちゃんとキマッてる(笑)」
──お客さんを巻き込んでされるパフォーマンスは一体感があって、ライブといわれるに相応しいですね。では、最後に読者に向けて一言メッセージを。
稲本「クラシックですが、やはり気軽に遊びに来てほしいです。今度のビルボードライブ大阪のライブはオーケストラの管弦楽団のメンバーも一緒のステージに立ちますので、これまでの「Classic×BEAT」より豪華にもなりますし、きっとたくさんの方が楽しんでもらえると思います」
── 楽しみにしてますね! ありがとうございました!!
(2012年1月19日更新)
音楽一家での音楽活動の中で育ち、5歳でステージ・デビュー。吹奏楽の名門、大阪府立淀川工業高等学校を卒業後、オーストリア国立グラーツ音楽大学に入学。同音楽大学を満場一致の最優秀で卒業。オーストリア国立放送にソリストとして出演、オーストリア・グラーツ国際音楽院講師も務める。活動の場を日本に移し、08年から佐渡裕が世界オーディションで集めたメンバーで構成される兵庫芸術文化センター管弦楽団クラリネット奏者として活躍、11年8月に卒団。一方、京都御苑での奉納演奏、村治佳織、藤原道山らとも共演し、多方面で活躍している。
1977年千葉県出身。99年にアカペラグループ「ChuChuChufamily」のボイス・パーカッショニストとして本格的に活動を開始。他にもアカペラグループ「RAGFAIR」、アメリカのコーラスグループ「ロッカペラ」などと共演。04年にはロッカペラのメンバーが立ち上げたユニット「SWANK」のメンバーとして召集される。バイオリニスト古澤厳氏やピアニスト稲本響氏のコンサートツアーに参加、また音楽朗読劇「HYPNAGOGIA」でも声優・山寺宏一氏、落語家・柳家花録氏と共に声の表現者として出演するなど、劇場型ボイスパフォーマーとしても本数を重ねている。CIRCUS、弘田美恵子を始めとするアルバムレコーディングやCM、映画音楽などにも数多く参加し、ジャンルを超えた音楽の新しいマテリアルとしてのパート『Breath』を提示し続けている。
『Classic×BEAT 稲本渡/MaL
with 兵庫芸術文化センター管弦楽団Strings』
チケット発売中 Pコード157-329
▼2月3日(金)16:30/19:30
ビルボードライブ大阪
自由席6500円
ビルボードライブ大阪■06(6342)7722
※カジュアル エリアは取り扱いなし。未就学児童は入場不可。
ビルボードライブ大阪の整理番号をお持ちでないお客様は開場時間の30分後のご案内となります。
ビルボードライブ大阪の整理番号をご希望の場合はお問い合わせ先まで。