ホーム > インタビュー&レポート > 『日本センチュリー交響楽団 第291回定期演奏会』 ブルガリアの気鋭マエストロ、 デルヤナ・ラザロワスペシャルインタビュー
公演を前に、ラザロワに話を聞いた。
――今回が初来日とお聞きしました。まずは自己紹介をお願いします。
デルヤナ・ラザロワと申します。指揮者であり、ヴァイオリニストでもあります。ブルガリア生まれですが、現在はスイスのチューリッヒに住んでいます。
――日本について、あるいは日本のクラシックマーケットについてどんなイメージを持たれていますか。
物心ついた頃からずっと日本を訪れることを夢見てきました。訪日が決まり、夢が叶いました。この美しい国を訪れ、日本センチュリー交響楽団と読売日本交響楽団という2つの素晴らしいオーケストラと共演する機会をいただけたことは、この上なく光栄なことです。音楽という共通の言語を通して演奏家の方々と出会い、心を通わせることを心待ちにしています。日本について考えるとき、いつも思い浮かべるイメージは、息を呑むほど美しい満開の桜です。象徴的で、穏やかで、深い洞察を与えてくれます。
――今シーズン、日本センチュリー交響楽団の定期演奏会では、音楽監督の久石譲の意向で、プログラムにベートーヴェンの交響曲と、1950年以降の現代音楽を取り上げることがルールとなっています。そのことについて感想を聞かせてください。
クラシック音楽の伝統と現代世界をつなぐという発想は、深淵な意味を持ち、深く美しいものであると感じます。私はあらゆるコンサートで現代音楽が演奏されるべきだと心から信じています。現代音楽こそが、私たちの時代を語り、現代の世界を映し出す音楽なのですから。
――ベートーヴェンについて、ラザロワさんの思いを聞かせてください。交響曲の中で、第4番についての聴きどころを教えてください。
この交響曲を愛する理由はたくさんあります! 私にとってかけがえのない作品であり、まさに傑作です。大阪の聴衆の皆様と分かち合えることを大変嬉しく思っています。ベートーヴェンの交響曲の中でも「古典派」とされることが多いこの曲は、その構成は伝統にしっかりと根ざしており、交響曲第3番「英雄」や交響曲第5番「運命」で聴かれるような大胆な革新とは異なります。しかし、こうした古典的な枠内でも、ベートーヴェンはこの形式を完璧に掌握し、最もむだのない手段を用いて鮮やかな音楽的情景を描き、心を揺さぶる物語を語る並外れた才能を発揮しています。この交響曲は、後世の作曲家たちにインスピレーションを与え、不朽の遺産として残されています。例えば、冒頭部分を例に挙げてみましょう。マーラーの交響曲第1番の冒頭に、この曲の響きを感じずにはいられないでしょう。
――キャロライン・ショウのことも、今回取り上げられる作品のことも、日本ではあまり知られていません。この曲をとりあげられた理由と、聴きどころを教えてください。
この作品は色彩豊かで個性豊かな作品です。弦楽器のみで作曲されたにもかかわらず、作曲家によるテクスチャーと古典的な形式を巧みに用いた想像力豊かな演奏が、真に卓越した作品となっています。構成とコンセプトはハイドンの弦楽四重奏曲作品77-2のメヌエットに着想を得ていますが、結果的に全く新しい作品となっています。独創的な技法と繊細な効果によって、この音楽は私たちを全く新しい、美しく独特な音の世界へと誘います。
――1曲目でラヴェルの組曲「クープランの墓」を取り上げられます。この曲の聴きどころと、今回のプログラムをこの曲から始められた思いをお聞かせください。
形式とスタイルの両面で過去を反映した、もうひとつの作品をご紹介します。プログラムに予定されている3つの作品には、繊細な繋がりがあります。それぞれが当時の音楽史のトレンドを背景にしながらも、同時に新鮮な何かを提示し、聴き手に新たな感情と音楽の平面を解き放ちます。多くの点で、この曲は木管楽器のための協奏曲のように感じられ、豊かな美しいソロが木管楽器の音色を際立たせています。組曲の各楽章がそれぞれ独特の個性を持っているため、私のお気に入りのひとつです。新古典主義の伝統に根ざしながらも、ラヴェル特有の音がはっきりと響き渡ります。特に絶妙な不協和音の瞬間は、彼の作曲の才能だけでなく、オーケストレーションにおける並外れた才能も際立たせています。
――日本でコンサートの指揮以外で、やりたいことや、行きたいところを教えてください。
日本で過ごす時間を最大限に使って、できる限り多くの場所を探索したり美術館を訪れたり景色の良いハイキングに出かけたりするつもりです。そしてもちろん、噂に聞いていた素晴らしい料理を堪能します。
――最後に、ファンのみなさんへメッセージをお願いします。
皆さんにお会いして、この美しい音楽を分かち合えることを心から楽しみにしています。今回がこの素晴らしい日本を、これからも何度も訪れるための始まりとなることを願っています。これこそが、まさに夢見てきたこと。これから何が起こるのか今から待ちきれません!
取材・文:磯島浩彰
(MEG-netより)
(2025年7月 3日更新)