ホーム > インタビュー&レポート > The Symphonyhall プラチナコンサート 世界の巨匠とともに2025 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 大阪公演 チョ・ソンジン(ピアノ)インタビュー
――チェコ・フィルハーモニー管弦楽団とはこれまでにも共演経験があると思いますが、どんな印象をお持ちですか?
チェコ・フィルは、私のお気に入りのオーケストラの一つです。おそらくほとんどの方が覚えていないと思いますが、実はチェコ・フィルとは2011年3月に日本ツアーをしています。
東京でクローズド・コンサートをしたあと、3月10日にザ・シンフォニーホールで大阪公演を行い、翌日、福岡公演当日に東日本大震災が起きました。東北から遠かったので、福岡公演、翌日の広島公演と、コンサートは予定通り行われましたが、3月13日の東京公演は、完売にもかかわらず60%ほどしか客席が埋まっていませんでした。多くのお客様が来られなかったのだそうです。日本のみなさんにとって、とても辛く厳しい時期だったと思います。
その環境の中でも、チェコ・フィルの特別な音色は、私の記憶の中に強く刻まれました。当時まだ16歳で、オーケストラとの共演経験はあまり多くありませんでしたが、それでも彼らの弦楽器の音に何か特別なものを感じたのです。
今や私もオーケストラとの共演経験が増えましたが、その中でもチェコ・フィルは特にユニークで、豊かな伝統が受け継がれていることを感じます。どこかのオーケストラと比較してこちらが優れているということではなく、その特別なキャラクターや音色が私の好みに合っているのだと思います。
――今回はラヴェルのピアノ協奏曲を演奏されます。最近ラヴェルの全ピアノ作品の録音をリリースされたところですが、その視点から、こうしたラヴェル晩年の作品にはどんな印象がありますか?
この協奏曲に加え、左手のための協奏曲も晩年の作品ですが、これらはピアノ・ソロの楽曲と比べるとよりジャズの要素が強いですね。
ラヴェルが人生の終盤に書いた音楽からは、どこかリラックスした雰囲気を感じます。特に2楽章は、すべてのピアノ協奏曲の中で最も美しい楽章の一つだと思います。
ベートーヴェンやブラームスのような大作曲家の晩年の作品は、人々を感心させようとするところがまったくありません。全てを知る経験豊かな老賢者が、ただ音楽が流れるままにしているのに、たくさんの意味のある瞬間が生み出されるといったところでしょうか。
ラヴェルのピアノ協奏曲の2楽章も、まさにそんな音楽です。私はこの楽章を演奏するたびに、優しく微笑んでいるけれど瞳に涙を浮かべている人を想像します。その感情を表現するのはとても難しいですが、何度も演奏する中で、少しずつそれを表現する境地に近づいている気がします。
――それでは最後に、ザ・シンフォニーホールの印象、大阪のお客さまへのメッセージをお願いします。
大阪はこれまで何度も訪れている大好きな街です。ザ・シンフォニーホールは世界屈指のすばらしい音響で、そこでまた演奏できることを心待ちにしています。ぜひみなさん会場へお越しください!
文:高坂はる香
(2025年5月19日更新)