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毎年恒例、ベルリン・フィルハーモニック ストリングスとの
クリスマスコンサートがまもなく開催!
古澤巖インタビュー

クラシックだけでなくラテンやポップスなど、さまざまなスタイルで活躍しているヴァイオリニストの古澤巖。毎年恒例になったベルリン・フィルのメンバーで構成された「ベルリン・フィルハーモニック ストリングス」とのクリスマルコンサートが今年も開催される。ボロディンやフォーレ、ドビュッシー、そのほかクリスマス・ソングなどを披露する予定。来たる公演に向けて、古澤の現在の活動への想いも併せて話を聞いた。

――今年も恒例のベルリン・フィルハーモニック ストリングスとのクリスマスコンサートが開催されますね。その前に、5月に発売されたアルバム『サン・ロレンツォのヴァイオリン~月の光』についてもお話を伺えますでしょうか。R.シュトラウスの『ツァラトゥストラはかく語りき』やヴィオッティのコンツェルトだけでなく、滝廉太郎の『荒城の月』や平原まことさんの作品も収録していて、古澤さんならではのレパートリーの広さがうかがえます。

そうですね。そもそも僕は、デビュー当初にお世話になったレコード会社の時代から、プロデューサーの意向もあって、当時は少なかったクラシックの小品集やポップス的な切り口のアルバムをよく出していたんです。2006年に葉加瀬太郎さんが主宰しているHATS UNLIMITEDに移籍したのですが、「ここではクラシックではやらなくていいし、もしやるならアレンジしてポップスの音楽で演奏してください」と言われて。

そこからは、たとえばラテンをやることになったら、「ならばステップくらい踏めなきゃダメですね」と言われて、ダンス教室に通ったこともあった。ガラス張りの教室に初心者一人で放り込まれて、あんなに恥ずかしいことはなかった(笑)。

――ラテン・ダンスの教室にも通われていたのですね。さまざまなものから影響を受けながら、こんにちの幅広いレパートリーや活動に表れているのではないかと感じましたが、いかがでしょうか。

確かにそうですね。たとえば、来年来日するチェリストのジョヴァンニ・ソッリマもその一人です。以前、彼が来日したときの公演に行ったのですが、人間とは思えない技を繰り出して、それでいとも簡単に演奏しているのを見て、「自分にはできない」と思いつつ背中を押されましたね。ものすごく難しいことを簡単そうに、楽しそうにやるのが最高にかっこいいんですよ。

また、近年コラボレーションしている俳優の山本耕史さんもそうです。彼は僕より若いのですが、共演する中で、彼のステージでのあり方やお客さまへの愛情の注ぎ方などを見ていると、自分の中で曇っていたものが晴れた気すらしました。そういった経験や出会いが、自分の音楽や活動にも活きていると思います。

――なるほど。

それに、僕は葉加瀬くんに出会うまで、モーツァルトやベートーヴェン、シューベルトなど、古典のクラシックばかりやっていたんですよ。でも、今ではジャズやラテンもやって、クリスマスコンサートでも作品を取り上げるロベルト・ディ・マリーノの作品にも取り組んでいる。もはや、クラシックとかジャズとか、ジャンルで音楽を語っている場合ではないと思います。

――ジャンルで語っている場合ではない。その真意を教えてください。

そもそも音楽というのは、革命や戦争が訪れると大きな変化を遂げていて、たとえば革命直後に前衛的な音楽がたくさん登場するようになったのもその一つです。

昭和生まれの僕からしたら、ドイツの壁が崩壊したのも驚きだったのですが、それからは世界のあちこちの壁が消えて、ロックが栄えたり、いろんな国に移動できるようになったり。でも、今を生きる若い皆さんは、そんな社会を何てことなく生きていて、スマホ一つでいろんな壁を乗り越えていますよね。今や、保守的だと思われたベルリン・フィルが映画音楽の巨匠であるジョン・ウィリアムズの音楽を演奏する時代です。

僕はといえば、若いときはクラシック以外の音楽を聴いては「あっちの音楽は楽しそうだな」なんて指をくわえて見ていて。そうしているとHATSが「じゃあ、やればいいじゃん」と背中を押してくれたから、今がある。

いま、海外でも僕のCDを聴いて育った演奏者が多いみたいなんですよ。お手本のようなCDはすでに世界に溢れていますが、ベルリン・フィルがジョン・ウィリアムズを演奏するようになった時代になったからこそ、間口や心を開いてくれるような演奏家の存在が必要なのかもしれないですね。

――そうやって紆余曲折があって今があるわけですね。そして、今回のベルリン・フィルハーモニックストリングスは、まさにオールドで伝統的なベルリン・フィルの演奏者たちと共演されます。彼らとの共演で、どんな化学反応が生まれそうでしょうか。

やっぱり、ベルリン・フィルは「神聖」という感じです。でも、伝統的な楽団とはいえ、実は最近のベルリン・フィルってメンバーがグローバルですし、今回の公演に出演するメンバーも若手ばかりなんです。彼らはベルリン・フィルの看板を背負っていてかなりの実力の持ち主ではあるんですが、やはりフレキシブルな人ばかりですね。

たとえば、チェリストのダーヴィット・リニカーは、ベルリン・フィルの12人のチェリストで構成されているグループのメンバーの一人なんですが、彼は作曲家としての力があり、「俺も曲、作ってみたんだけど」と持ち込んでくれたんですよ。その作品は今回演奏する予定です。

――古澤さんとの信頼関係がうかがえます。

僕と一緒に演奏してくださる方は、トラディショナルなものだけでなく、自分たちにできる音楽はなんだろうと追究したり、楽しい音楽がやりたいと思っていたりする人が多いんです。だから、公演の選曲の段階からジャンルやスタイルにこだわることなく相談しますし、そうしていくうちにお互いが言いたいことを言い合って、各々が思い思いに演奏できるようになってきたと思います。

――それは今回のプログラムにも表れているのでしょうか?

今回に関しては、やはりマリーノさんの新曲を軸に選曲を進めました。あと、チェリストのダヴィッドくんの曲も。休憩明けにはベルリン・フィルのメンバーだけで演奏する予定もあります。

どの作品も、「ソロと伴奏」といったものではなく、全員がよってたかって弾くようなアレンジや作品です。みんなで旋律を回し合ったり、協奏し合ったり。それが楽しいのか、みんないつも日本でのコンサートを楽しみにしてくれています。

――今回も大阪だけでなくさまざまな都市を回られるそうですが、街によって演奏の感触やお客さまの反応など、違いはありますか?

大阪の皆さんは、いいクオリティを求めてくださる方が多いですよね。もちろん東京はマーケットが大きいのですが、大阪は文化の中心地であり、その歴史も深い。だからこそ、「一層丁寧に演奏したい」という気持ちが引き締まります。

一緒に演奏するメンバーはオープンマインドなので、どの街に行っても一緒に楽しんでくれます。旅行気分で、日本にしかない安い居酒屋にも一緒に行ったり(笑)。その土地でしか出会えない人や食べられないものに触れて、一緒に過ごすのは楽しいです。

また、ホールも会場によってまったく異なります。楽器をうまく鳴らすのに適した舞台の立ち位置って、ホールによって全然違うんです。ザ・シンフォニーホールはすばらしいホールで「よく響くホール」とも言われていますが、それを本当の意味で響かせるホールなのだとお客さまに納得させられるだけの演奏とこだわりが必要だと思っています。これまで何度も立ち位置は試行錯誤してきたので、今年ようやくベストの立ち位置が見つけられるんじゃないかと思います。

――最後に、お客さまにメッセージをお願いします。

僕はサーフィンが好きなのですが、音楽と一緒で、どこか非現実的なところがあって、僕はそれを大切にしたいと思っているんです。

サーフィンをしているとき、人は普段は見せないような楽しい顔を見せるんですが、僕も演奏会では音で大きな波を起こして、お客さまの楽しい表情を引き出すことが自分の役目だと思っています。作品に詰まっている価値を、そのままお客さまにお渡ししておもてなしできたらと思います。

Text by 桒田 萌




(2024年12月 9日更新)


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Live

古澤巖×ベルリン・フィルハーモニック ストリングス ~愛のクリスマス2024~

<弦楽六重奏によるChristmasコンサート>
当日引換券発売中 Pコード:287-696
▼12月11日(水) 19:00
ザ・シンフォニーホール
S席(当日引換券)-8800円
※未就学児童は入場不可。
※公演当日、開場時間より当日券窓口にて座席指定券と引換え致します。お渡しするチケットは先着順ではございません。お席が離れる場合がございます。予めご了承下さい。
※販売期間中は1人4枚まで。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

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