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世界一のベルリンフィルのメンバーたちとエンターテイメント
としての楽しいクリスマス・コンサートを作り上げたい
恒例の『ベルリン・フィルハーモニック ストリングス
~愛のクリスマス~2023』開催
古澤巖インタビュー

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の選ばれた最高弦楽奏者たちによる5名の室内楽団、ベルリン・フィル・ハーモニック ストリングスとのクリスマスコンサート 『ベルリン・フィルハーモニック ストリングス~愛のクリスマス~2023』 。同公演では古澤巖が奏でる1718年製のストラディヴァリウス=サン・ロレンツォの至福の音色と共に、気品あふれるクリスマスを演出する。 今回、ぴあ関西版WEBでは、「自分のヴァイオリンに対する感覚がガラッと変わった」という2023年の“大事件”についても言及しつつ、弦楽六重奏によるクリスマスコンサートに向けての意気込み、2024年1月から開催される俳優・山本耕史とのコンサートツアー『DANDYSM BANQUET II 』 の見どころなど存分に語ってもらった。

鳴らすのに何年もかかった
スーパー・ストラディヴァリウス
今年は去年より倍ぐらい音量が出るようになった



――古澤さんにとって2023年はどんな一年でしたか。5月にはベルリンフィル・ハーモニックストリングスをはじめ世界中のヴィルトゥオーゾたちと共演した新作『炎のヴァイオリン』がリリースされました。

「そうですね。来月からベルリン・フィル(ハーモニックストリングス)とのツアーに入りますが、自分の中では(昨年も開催している)ベルリンフィルのメンバーとのツアーが終わってからが今年という感じなんです。(『炎のヴァイオリン』のジャケットを指して)この写真を見ていただくと、気が付く方は気が付くかもしれないんですけど、(ヴァイオリンの)弓はバロック棒というバロック専用の弓を使ってるんです。普通のヴァイオリニストが使ってる弓はモダン棒というもので、 実は200年前ぐらいに現在の形に変わったと言われてるんです」

――そうなんですね。

「はい。300年前のいわゆるバロックの時代はみんなバロック棒を使っていたんです。要するに、(現在のモダン棒とは弓の)反りが全く逆なんです。そういう話は聞いていましたが、実際に見る機会もなかったんです。それがある時、僕がやっている栃木県のCOCO FARM WINERY(今年40周年!)の収穫祭にバロックを弾きに来た人がたまたまいたんですよ。その人が今の自分の師匠になったわけなんです。まだお若い男性でしたが、バロックを教えてほしいと弟子入りしたんです。それが4年ぐらい前のことです。僕が使っているストラディヴァリウスは1718年制のサン・ロレンツォという楽器を使わせていただいてるんですけど、ストラディヴァリウスの中でも相当サイズが大きいスーパーストラディヴァリウスなんです。これを鳴らすのに何年もかかりました。ストラディヴァリウスみたいな300年も前の楽器っていうのは、ちょっとやそっとじゃ鳴らせないっていうのは、知ってはいましたが、本当に鳴らなくてね(苦笑)。 で、今年を振り返ってということで言えば、2月ぐらいにやっと開眼したんです。(4年前に出会ったバロックの師匠に)ずっとバロックを習ってきて、やっと鳴るようになりましたっていう話をしたかったんです(笑)」

――そうだったんですね。

「今年の2月ぐらいから、やっと自分で使いこなせるようになってきました。その後、ゴールデンウィークぐらいにイタリアから、ジョバンニ・ソッリマという知る人ぞ知るチェリストが来日したんです。僕と同じぐらいの世代の人で、あのヨーヨー・マに"自分は彼の前では子猫同然だ"と言わしめた人なんですよ。とにかく神がかったすごい人なんです。 その人が初めて日本ツアーをやったんです。本当は3年前にやる予定だったのが、コロナ禍でキャンセルが続きまして。今回やっと観に行くことができたんです。20年前にたまたま東京の夏の音楽祭で彼を見かけた時から、その弾き方がずっと気になっていました。世の中にはすごい人がいるもんだと思って、ずっと自分の中に残ってたんですよ。死ぬまでにもう一度あの人に会いたい!と。そしたら、今年ようやく来日することなったので、客として毎日観たんです」

――全公演観られたんですか?

「そうです、10日間ぐらいかかりましたね。今日は右手だけ、今日は左手だけというふうに観ました。すごく難しい曲をいとも簡単に、それも楽しそうに聞かせてくれるので、"できるよ、あんたもやれよ"みたいな感じで背中を押されるような演奏だったんですよ。彼はステージでもそんな綺麗な格好もしてないし、とにかく何にも構えない人で、エネルギッシュでね。 そうやって自分のことを全部見せてくれる人なんです。ずっと憧れていた彼の演奏を生で観れたので、また背中を押されて、自分も前に進まなきゃなって思いましたね」

――ヴァイオリンとチェロという違いはあっても、同じ弦楽器ということで、古澤さんにとってすごく大きな体験だったと?

「はい、すごく勉強になりました。弦楽器奏者として例えばヨーヨー・マとか観ても参考にならないんですよ。ヴァイオリンを自分より上手くちゃんと弾いてるひとはいっぱいいるけど、なんかもっとぶっ飛んだ、誰とも違う、何これ!? ぐらいのインパクトがないと。それを自分がやってみようという気持ちにはならない。(ジョバンニ・ソッリマは)これは一体なんだ?と、もう宇宙から来た生物に出会ったぐらいの衝撃でしたからね。今年の最大の大事件でした。弾き方に関するベーシックなことだから、それが全てに影響する。自分のヴァイオリンに対する感覚がガラッと変わったんですよね」

――前回のインタビューでも古澤さんは「音楽の力は計り知れない。新しい創造をこれからも続けて行きたい!と意欲的に話されていたのが印象的です。

「今は64歳になりましたが、今年の正月にNHKのラジオ番組の収録で脳科学者の方に、"63歳という歳はものすごく脳が活性化する最後のチャンスなんだ"と言われました。それでちょっとやる気になっちゃったんですけどね(笑)」

――では、12月に開催されます『ベルリン・フィルハーモニック ストリングス~愛のクリスマス~2023』についてお聞きします。演奏予定曲として、『ツィゴイネルワイゼン』(サラサーテ)、『コンチェルト第8番』(ロベルト・ディ・マリーノ)、『四季』より『冬』(ヴィヴァルディ)他と発表されていますが、これ以外にもクリスマスにちなんだ曲というのは演奏されますか。

「はい。みんながよく聞いてるような、『ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス』とか、(ロベルト・ディ・)マリーノさんに弦楽合奏用にアレンジしてもらってる僕の大好きなレパートリーは元々持っています。あと、 ベルリンフィルのサウンドだけで弾いてもらう曲としては、『くるみ割人形』のメドレーをやってもらったり、今回はドビュッシーの『月の光』とか組曲系のものも6人でやります。例年、マリーノさんの曲と、あとはクラシックの名曲をいくつか選んでたんですけど、昨年から(ベルリン・フィルハーモニック ストリングスの)メンバーも新しくなってすごくいい感じだなと思います。それまでおじいちゃんたちとやってて、一世代前のカラヤンをギリギリ知ってるような人たちだったんだけど、今のメンバーはカラヤンなんて誰かわかんないぐらいの感じですけどね(笑)」

――このクリスマスコンサートは12月恒例になっていますが、演目は毎年変わりますか。

「けっこう違います。90パーセント以上違うと思うんですよ。毎年クリスマスにちなんだ曲は入ってますが、定番では『ミスター・ロンリー』っていう曲があって。5年前に50周年を迎えた『ジェット・ストリーム』という夜中のラジオ番組のテーマ曲です。この曲は1960年代のベトナム戦争の頃の曲で、行きたくもない戦争に送られる兵隊さんの寂しい気持ちを歌った曲なんですよ。 今も戦争だらけですよね...。まさかこんなにも世界中で戦争や紛争が起こるとは思いませんでしたけど」

――そうですよね...。そういう定番曲もありつつ、また新しい曲も演奏されるんですね。

「そうですね。それから何よりも(先に話したように)今年は色々な学びがあったので、僕のストラディヴァリウスが去年より倍ぐらい音量が出るので、それもちょっと聞いてもらえたらなと思います。弦楽器だけなのでホールが変わると、あからさまに音が変わるんですよね。僕はエンターテインメントとしてのクラシックで、世界一のベルリンフィルのメンバーたちと一緒に楽しいクリスマスのコンサートを作り上げたいと思ってますので。ぜひ。聞いていただけたら嬉しいです」


映画を見てるような芝居感満載の音楽会
『DANDYSM BANQUET』が1月から開催


――楽しみですね! そして、来年1月から『DANDYSM BANQUET II』が開催されます。

「去年プロトタイプが立ち上がって、次が第二回目になります。俳優の山本耕史さんに参加してもらってミュージシャンとステージを作り上げるんです。山本耕史さんって、あの笑顔であの雰囲気で、歌も歌って、もうそれだけで十分。とにかく音楽の中で何かキャラを演じてもらうんだったら、この人が最適だなって思いますね。彼がいるからこそ、音楽だけじゃないものがそこで出来上がる。 山本耕史さんとこんなステージをやれて良かったなと思います。ミュージシャンは僕も入れて5人で、なんでもできるベテランばっかりです。大儀見 元さんというパーカッションの人はオルケスタデラルスを作った人で、そこにいたピアニストの塩谷 哲が音楽監督なので。僕の夢として、これはスパーラテンバンドなんです。どんな名曲でも、このバンドでやればなんでもできるんです。耕史さんは妖精のような存在として動き回ります。それが音楽とどうコラボしていくのか。耕史さんがいることでミュージャンだけでは作り上げられない何かがそこで起こるんです。ミュージシャンたちもこんな風に音楽会をやったことがないので、僕らも全員楽しみにしています。プロトタイプの曲作りは夏から始まっていて、すごく時間をかけて作り込んでいきます」

――では、この『DANDYSM BANQUET II』を未だ体験したことがないお客様に向けて、改めて見どころを教えてください。

「基本的に山本耕史さん見に来てもらえばそれでいいと思います。ただし、僕らが生で演奏してるので、いろんなファンタジーの中でそれが目に見えるのがいいですよね。去年、激しく実験をして、公演を重ねるごとに良い意味で"こんなの観たことない!"というステージになりました。もう本当に映画を見てるような、そんな世界が繰り広げれたらいいなと。ほぼほぼ芝居感満載の音楽会だと思います。楽しみにしていてください」

Text by. エイミー野中




(2023年12月 7日更新)


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Profile

ふるさわいわお…3才半よりヴァイオリンを始め、内外のコンクール優勝後、文化庁給費留学生としてアメリカ・フィラデルフィアのカーティス音楽院卒業(1983-1985年)オーストリア・ザルツブルクのモーツァルテウム音楽院(1985-1987年)で学ぶ。ナタン・ミルシテイン、シャンドール・ヴェーグ、イヴリー・ギトリス、レナード・バーンスタイン、セルジュ・チェリビダッケ氏等に師事。都響世界ツアーの為、月1のコンサートマスターとソロを兼任(988-1991)今までに、ヨーヨー・マ、ペーター・ダム、ミハイル・プレトニョフ、高橋悠治、フィギュアスケーター等と共演。1987年、葉加瀬太郎と新しいステージ創りを始め、現在に至る。90年年代、ジプシー&ピアノ四重奏バンドのタイフーン、ジャズバイオリンの神ステファン・グラッペリ、世界最高のギターデュオのアサド兄弟等とアルバム制作後、活動停止。2006年HATSレーベルに移籍、POPSを始める。洗足学園音楽大学客員教授、オーケストラ九州ミュージックパートナー、日向へべす大使、観音寺ふるさと応援特別アンバサダー、足利輝き大使、COCO FARM WINERY取締役、テラモス・レーシングチームで年間10戦ほどレース参戦中。8月には3日間、日向ミュージック&サーフィンキャンプを行っている。2022年より、俳優の山本耕史とのコンサートツアー『DANDYSM BANQUET』をスタートさせた。2023年5月10日に最新アルバム『炎のヴァイオリン』をリリース。

オフィシャルHP
https://www.iwaofurusawa.com/


『愛のクリスマス 2023』

古澤巖×ベルリン・フィルハーモニック ストリングス

[演奏予定曲]
ツィゴイネルワイゼン(サラサーテ)
コンチェルト第8番(ロベルト・ディ・マリーノ)
ヴァイオリン協奏曲集「四季」より「冬」(ヴィヴァルディ)
「小組曲」全曲(ドビュッシー)
Have yourself a Merry Little Christmas 他

【横浜公演】
▼12月8日(金) 横浜みなとみらいホール 大ホール
【東京公演】
▼12月10日(日) 東京オペラシティ コンサートホール:タケミツメモリアル

PICK UP!!

【大阪公演】
▼12月12日(火) 18:30
ザ・シンフォニーホール
S席-8000円
A席-6500円
U25席-2500円(当日座席指定引換券、年齢確認できる身分証明書要持参)
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

【兵庫公演】
▼12月13日(水) 14:00
神戸朝日ホール
全席指定-10000円
※未就学児童は入場不可。

【福岡公演】
▼12月15日(金) アクロス福岡 福岡シンフォニーホール
【愛知公演】
▼12月17日(日) 三井住友海上しらかわホール
【東京公演】
▼12月18日(月) 二十五世観世左近記念観世能楽堂

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愛のクリスマス2023 HP
https://furusawa-berlinphil.jp/