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音楽家・加古隆がデビューの地「1973年のパリ」で体験した
若者たちの熱気と文化
「ジャンルにとらわれない自由な気分が蔓延していた」

作曲家、ピアニストの加古隆が、フランス・パリでデビューしてから50周年を迎えることを記念して『加古隆 50thアニヴァーサリーコンサート ソロ&クァルテット~ベスト・セレクション~』を全国6ヶ所で開催する。幼いころはクラシック音楽に親しみ、高校時代にはアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズのコンサートに衝撃を受け、そしてパリにわたってからは現代音楽とジャズを包含。全国公演ではそんな彼のヒストリーを堪能することができそうだ。そこで今回は、あらためてこれまでの経験や音楽との向き合い方について加古に話を訊いた。

――1973年にパリでデビューしてから50年を迎えられましたが、どのようなお気持ちでしょうか。

そんなに長くやってきたのか、という思いがあります。自分にとって一番好きなことが音楽なので、それを元気に続けていたら50年経っていた感覚です。今回のコンサートでは、1973年にデビューから現在までの音楽の流れや変遷を一望できるのではないでしょうか。

――当時のパリは学生運動も盛んでしたし、文化的にも映像面ではポスト・ヌーヴェルヴァーグ、さらにポップスでもフランス・ギャル、シルヴィ・ヴァルタンが世界的にブレークしたあと。さらなるニューウェーブの到来が期待されていた時代ですよね。

ジャンルにとらわれない自由な気分もパリの学生には蔓延していて、僕自身も若者のひとりとして好きなことが自然とできるようになりました。パリのそういう空気がフリージャズをはじめるきっかけになりました。ただ、ジャズのメッセージ性みたいなものにひかれたというよりも、とにかく演奏が格好良かった。一番現代的だったんです。ジャズのリズム感、グルーブ、これらがすごく好きで。そして、それまでずっと学び、興味を持っていた現代音楽を結びつけて、自分らしい音楽を生み出すことができるんじゃないかと考えました。

――当時のパリの若者の熱気を肌で感じることができたのは、大変貴重な体験だったと思います。

確かにものすごい熱気でした。なぜならパリには、アフリカ、アラブ、北欧など世界中の国や地域から来た人たちが集まっていましたから。みんながそこで同じように食事し、話をして、生活していました。ただ、それぞれバックグラウンドが違う。つまり、いろいろな形が同時的にそこにあることで生みだされるエネルギーのすごさが感じられたんです。これはあくまで僕自身の個人的な感じ方ですが、当時の日本はみんなが同じ方向を向いているように思えていました。でもパリは何もかもが違いました。格好はもちろんのこと、考えていることも、日々の習慣もすべてが異なっていました。しかも、それが当たり前だったことが大変刺激的でおもしろかったです。

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――いろんな国の人たちと接するなかで価値観なども変わってきましたか。

価値観というわけではありませんが、パリで生活をして2年目くらいのとき、日本の良さに気づくことができました。日本で暮らしていると当たり前なことでも、ほかの国の人たちにとってはそれが独特のものとして興味深く受け取られることが多かったんです。よそを知ることで逆に自分を知ることができました。これは非常におもしろい経験でしたね。

――今回のコンサートの演目は、どういうところがポイントになりますか。

やはり、「パリは燃えているか」です。NHKのドキュメンタリー番組『映像の世紀』のテーマ曲として1995年に制作しました。たとえば5年前と今聴くのとでは、現実に起きている物事も相まってより重層的に感じられると思います。この曲はもともと、「(映像技術が確立された1895年から数えて)100年という時のうねりを感じさせるような、スケール感の大きな曲を」と言われて作ったものです。なおかつ、日曜夜9時に放送されるので「お茶の間のみなさんが楽しめるメロディで」というオーダーでもありました。スケール感があって印象に残りやすいメロディを意識して作ったんです。

――「パリは燃えているか」は第二次世界大戦時、ナチスがパリから撤退する際、ヒトラーが「パリを燃やし尽くして灰燼に帰せ」と命令したことをきっかけに、口にしたとされる言葉がタイトルになっています。曲の背景にはそういった戦争の記憶がありますね。

『映像の世紀』に合うようなスケール感やメロディで曲を書いたので、その音楽といろいろな戦争の場面が重なるかどうかはまったく意識はしていませんでした。しかしあの曲は、どういう時代の、どういう場所の映像であっても、その映像に説得力をつけることができると考えています。それは第一次世界大戦だろうと、現在のロシアによるウクライナ侵攻の映像だろうと変わらないはず。音楽の力とはそういうものではないかと思うんです。

――なるほど。

僕の役割はまず、聴いた人の心を揺さぶる音楽を届けること。それがどんな時代でも、どんな場所でも、どの国でも、そしてどことどこが戦争しているかも超えて......いや、難しいお話ですねこれは。でもひとつ言えるのは、音楽を通して自分の主義主張を人に聴かせようとは思っていません。別の観点でお話すると、音楽を作る上で僕が大切にしているのは人の優しさです。その優しさを極限まで突き詰めると、愛になります。音楽はその深い愛を表現することができるんです。それを音楽として、さまざまなシチュエーションへと届けたい。非常に抽象的な言い方になりますが、具体的な処方箋として音楽があるわけではないんです。そして、そういったことを計算して作れるものではありません。

――結果として普遍的な音楽が完成するのであって、計算して作るのは難しいわけですね。

計算して作ることはできませんが、しかし思い焦がれ、求め続けて作っていきたい。それが僕の音楽との向き合い方です。音楽を突き詰めるほど大層なことはできませんが、生涯現役だと思ってやり続け、その努力は惜しまないようにしたいです。そして、自分が望まれる機会があればそれに応えていきたいです。

取材・文:田辺ユウキ




(2023年3月29日更新)


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「加古隆
 50thアニヴァーサリーコンサート
 ソロ&クァルテット
 ~ベスト・セレクション~」

【福岡公演】
▼4月15日(土) FFGホール
【兵庫公演】
▼4月15日(土)
三田市総合文化センター 郷の音ホール
【北海道公演】
▼5月13日(土)
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【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:232-671
▼5月20日(土) 15:00
住友生命いずみホール
全席指定-7500円
[共演]相川麻里子(vl)/南かおり(va)/植木昭雄(vc)
※未就学児童は入場不可。
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。チケットの発券は5/6(土)朝10:00以降となります。
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▼5月21日(日) 三井住友海上しらかわホール
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