ホーム > インタビュー&レポート > 堤剛、祝80歳! 新たなるスタートを祝う野心的なリサイタルが開催
――ザ・シンフォニーホールといえば、4月にマエストロ外山雄三の90歳をお祝いするコンサートに出演されて、大阪交響楽団との共演でスケールの大きなドヴォルザーク:チェロ協奏曲(第3楽章)を披露されたのが印象的でした。80代になられても、このままずっと第一線でのご活躍に期待しております!
外山先生の90歳にはまだまだ及びませんが、これからも元気で演奏活動ができたらと思います。20代の頃にアメリカ・インディアナ大学に留学してヤーノシュ・シュタルケル先生に師事したときに、身体全体をうまく使って弾く正しい方法を一からたたき込まれたおかげで、この歳になってもステージに立つことができます。加えて先生は「自分にとって演奏者であることと教育者であることは同じくらい重要でどちらが欠けても満足できない」とよく仰っていましたが、私もその哲学に倣って3年目から彼の助手となり、以来、今日までそちらの道も続けております。今後も自分の腕を磨くだけではなく、音楽界にとって自分に何ができるのかを幅広い視点でみつめつつ精進いたします。
――4月のリサイタルで共演される河村さんとは、彼女が芸術選奨新人賞(平成29年度)をとられた 2012年3月に、佐藤俊介さん(ヴァイオリン)を交えたピアノ・トリオでのコンサート(紀尾井ホール)で共演されていますね。
あれから約10年、お互いに沢山のことを経験して円熟度を深めた者同士がぶつかり合って、新しい扉が開けるのではないかと楽しみにしております。プログラムのどの曲も、ピアノとチェロが拮抗する作品ばかりでこちらも気を抜けません。お客さんにもライヴパフォーマンスの醍醐味を感じていただけるはずです。
――共演者の魅力を引き出すピアニストである河村さんとのコラボで、傑作ソナタの新たな魅力が見えてきそうな予感がします。
私にもまだまだいろんなことができるってことを、プログラム全体を通して皆さんにお示ししたいのかもしれませんね(笑)。〈ベートーヴェン:チェロ・ソナタ 第4番〉はシュタルケル先生の手ほどきを受けて、1963年にカザルス国際コンクールで優勝したときにも弾いた想い出の曲ですが、60年の歳月がたって改めて向き合ってみてどうなるか、ご期待ください。〈プロコフィエフ:チェロ・ソナタ ハ長調〉は晩年の作品で、欧米における活躍を経てソ連に帰国した彼の精神的な葛藤を含んだ複雑な面を持っているので、そのあたりを特に表現したい。〈マルティーヌ:ロッシーニの主題による変奏曲〉もテクニック的に難しいところもありますが素晴らしい曲です。
――そして、もちろん権代敦彦さん書き下ろしの新曲も今回の目玉ですね。
海外で本格的に演奏活動を始めた頃、オーソドックスなプログラムだったので「どうして自分の国の曲を弾かないの?」とよく言われました。またシュタルケル先生にも会う度に「何か新しい曲をやっているか?」と訪ねられていたので、先ずはアンコールから日本人の現代作品をとりあげるようになって、いつしかそれが自分の使命のようになりましたが、チェロという楽器の可能性を広げるという意味でもとても大切なことだと思っています。権代さんは高崎芸術劇場で開催した私の「無伴奏チェロ・リサイタル」を聴きに来てくれて演奏のイメージを掴み、それを今回の作品に落とし込んでくださったそうです。タイトルの〈"Z"ゼータ〉が何を意味するのかは、委嘱してくれた家内(※劇作家の堤春恵)も知らないとのことで、私も凄く興味があります(笑)。とにかく、チェリストのチャレンジ精神に火をつけるような作品であることは間違いないので、しっかり初演を務めてお客さまに届けたいと思っています。
――8月にはサントリーホールに、ベテランから若手まで名だたる日本人チェリストたちが駆けつけ、それぞれがソロを受け持ったりアンサンブルを組んだりして"傘寿"をお祝いする、素敵なコンサートも開催されましたが、本当に次世代を中心に日本のチェロ・シーンは凄く層が厚くて、とても充実していますね。
私が桐朋学園で学び始めた頃、日本にはまだ国際的に著名なチェリストはいなくて、齋藤秀雄先生が来日した名手たちを家に招いて、私達の演奏を聴いて頂いたのです。齋藤先生のお父様は辞書や文法書を編纂して明治・大正時代に英語教育の土台を創った英文学者の斎藤秀三郎で、その血が受け継がれているらしく、先生もまた非常にアナティカルな考え方をされる教育者でした。幼少期からきちんと勉強すれば必ず良い結果が出ると信じて指導にあたっておられましたし「日本の音楽界が明るくなるのは、教え子たちが外国で学んで帰国したときだ...」と仰っていましたが、本当にその通りになりましたね。現在のチェロ・シーンの充実ぶりは先生をはじめとする先人たちの尽力の賜物であると思っています。今の若い学生さんたちは音楽大学に限らず、あまり留学をしたがらないという話もよく聞きますが、やはり海外に出て専門分野だけでなく多彩な文化を学び吸収して、様々な経験を積んで欲しい。近年、世界的に見てもチェリストのレベルはどんどん上がっています。私も今回の「80歳記念コンサート」を"到達点"ではなく、新たな"出発点"として、まだまだ演奏活動に励みたいと思っております。
取材・文:東端哲也
(2023年1月 5日更新)
【東京公演】
チケット発売中 Pコード:229-932
▼4月22日(土) 14:00
サントリーホール 大ホール
S席-7000円 A席-5000円
[共演]河村尚子(p)
[曲]ベートーヴェン(チェロ・ソナタ第4番ハ長調)/他
※未就学児童は入場不可。
[問]カジモト・イープラス■050-3185-6728
チケット発売中 Pコード:229-226
▼4月30日(日) 14:00
ザ・シンフォニーホール
S席-7000円 A席-5000円
[共演]河村尚子(p)
[曲]ベートーヴェン(チェロ・ソナタ第4番 ハ長調 Op.102-1)/他
※未就学児童は入場不可。やむを得ぬ事情により内容に変更が生じる場合がございますが、出演者・曲目変更などのために払い戻しはいたしませんのであらかじめご了承願います。
[問]ザ・シンフォニー チケットセンター■06-6453-2333