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日本を代表するバレエダンサー・酒井はな、
ラヴェルの名曲『ボレロ』に挑戦
「触れてはいけないような、踊り手にとって特別な演目」

現在の日本を代表するバレエダンサーのひとり、酒井はながラヴェルの『ボレロ』を踊ることでも大きな注目をあつめている、ザ・シンフォニーホール(大阪)で開催される12月31日(土)の『カウントダウンコンサート 2022-2023』と、1月1日(日)の『ニューイヤーコンサート』。クラシック音楽の名曲を、指揮・角田綱亮、ソプラノ・砂川涼子、テノール・樋口達哉、ピアノ・萩原麻未らトップアーティストが集結して披露。そのなかで酒井はどんなパフォーマンスをみせるのか。両公演への意気込みや、2022年の活動について話を訊いた。

――ザ・シンフォニーホールでの『カウントダウンコンサート 2022-2023』『ニューイヤーコンサート 2023』では、酒井さんはラヴェルの『ボレロ』をパフォーマンスされるということですが、お話があったときはどのように感じられましたか。

『ボレロ』を踊るのは今回が初めてなのですが、踊り手にとって特別な演目。ですので「おお、ついに話がきたか」とドキドキ、ワクワクしました。モーリス・ベジャールさんが振付したマスターピースも存在するなど、偉大な作品がすでにあるなかで『ボレロ』に挑戦するのはすごく勇気がいること。しかも『ボレロ』は、儀式のようであり、祈りのようでもあり、また何百と繰り返されるリズムやメロディラインが特徴的で、時を刻んでいくような音楽でもある。すごく難しいものなんです。触れてはいけないような感じがありました。

――酒井さんはこれまでどなたの『ボレロ』の踊りに影響を受けましたか。

やはり、ジョルジュ・ドンですね。彼のために『ボレロ』があったと思えたくらいです。たくさんのすばらしいダンサーが踊ってきましたが、私はそのなかでもやはりジョルジュ・ドンのパフォーマンスが好きです。

――酒井さんは今回、『ボレロ』の振付のなかでどんなメッセージを表現されようとしていますか。

振付、演出は夫の島地保武にお願いして共同で作っています。私たちは2021年から、宮崎県・高千穂町の天岩戸神社でしめ縄の奉納の舞をさせていただいています。それが「お捧げするような踊りって、どういうものなのか」と考えるきっかけになりました。そこでは年末の感謝、新年への安穏と安全の気持ちを込めているのですが、『ボレロ』もそういったテーマで作りたいです。あと楽曲のリズムにあわせて、私たちが日常でおこなっている所作などを組み合わせていきたい。土を掘るときや田植えをするときの身体の使い方などを、クラシックバレエ的な動きでみせることができればと考えています。

――ザ・シンフォニーホールがカウントダウンコンサート、ニューイヤーコンサートを実施するのは3年ぶりとのことですね。クラシック音楽界、クラシックバレエ界としても大きな前進ではないでしょうか。

新型コロナの影響でみなさん、舞台ができない状態を初めて体験しました。あらためて私も、舞台に立たせてもらえること、鑑賞すること、その空間が作り出されること、すべてが奇跡なんだと実感できました。みなさんが同じ空間、空気を共有できることはスペシャルであるとしみじみ思います。コロナを経験したことで、舞台を作ることの貴重さを再確認できました。だからこそ、これからもっと良い舞台ができていくと信じています。

――2017年に紫綬褒章を受賞された際、コメントで「ひとつひとつの舞台を、これで最後だという気持ちで踊っている」とおっしゃっていましたね。コロナ禍では誰もが「これが最後になるかもしれない」という状況に陥ったと思います。

本当に、その通りではないでしょうか。舞台上にいる時間が魔法みたいに感じられます。だからこそ、すべて最高の公演にしたい。日々の過ごし方、準備もより大切にしていきたいです。以前と変わらず「これが最後だ」と思いながらひとつひとつの舞台に賭ける気持ちです。ただそう言いながら私は、なにがあってもずっと、ずっと踊り続ける気持ちです(笑)。

――コロナで公演ができなくなったときも「芸術は自粛できない」「芸術は人の精神には不可欠である」というメッセージの動画などで発信されていましたね。

衣食住と違い、芸術は「なくてはならないもの」とは言い切れない。しかし、精神的な部分や意識をベストな状態にするためには、やはり見るもの、聴くもの、つまりアートが大きな栄養になります。作品を鑑賞して元気をもらったり、逆にショックを受けたり。そうやって心が動くことで奮い立つものがある。それがアートなんです。ダンスだけではなく、写真、絵画などいろんなものがあります。アートは人間にとってやはり必要不可欠。この約3年のあいだで多くの方がそう思ったのではないでしょうか。

――ちなみに酒井さんは、紫綬褒章などさまざまな勲章が増えていくことで、踊り手としての重圧が増えていっているのではないですか。

すばらしい賞をいただくことで、いままでやってきたことに対して「私は正しかったんだ」と幸せになります。バレエ、ダンスを長年やってきたことに対して赦しをもらったというか。だから「さあ、これから!」と気持ちです。日本を代表する踊り手のひとりとして、ひとつひとつしっかり踊っていきたい。一方で、そんなに気張らないようにするというか、柔軟な姿勢でいろいろ挑戦していこうかなって。

――そういった挑戦のひとつとして2022年は島地保武さんとのユニット、altneu(アルトノイ)で芥川龍之介の作品の舞踏化されましたね。そういった文学との連携などもこれからどういった展開をみせていくのか、とても気になります。

私たちとしては10年ぶりに芥川龍之介の『藪の中』を再演し、つづいて『杜子春-Toshishun-』も制作しました。芥川龍之介の文学をダンスにするということをシリーズにしていきたいと考えています。身体を通して、とてもコミカルに、そしておもしろく、ストーリーを作っていくことができたんです。今回のカウントダウンコンサート、ニューイヤーコンサートを、そういった今後の活動につながるようなものにしていきたいです。




(2022年11月28日更新)


Profile

酒井はな Hana Sakai, Ballet

5才よりバレエを始め、畑佐俊明、牧阿佐美、三谷恭三に師事。93年牧阿佐美バレヱ団入団、18才で『くるみ割り人形』主役デビュー。97年開場とともに新国立劇場開場バレエ団に移り、プリンシパルとして数々の初演を含む主演を務める。優れた表現力と高い技術に品格の備わった、日本を代表するバレエダンサーのひとり。クラシックバレエを中心にコンテンポラリーダンスやミュージカルにも出演。2013年島地保武と共にダンス・ユニットAltneu<アルトノイ>を立ち上げる。09年芸術選奨文部科学大臣賞、15年第35回ニムラ舞踊賞、17年紫綬褒章、18年第39回橘秋子賞特別賞、21年東京新聞舞踊芸術賞受賞。


『ザ・シンフォニーホール カウントダウンコンサート 2022-2023』

チケット発売中 Pコード:224-281
▼12月31日(土) 22:00
ザ・シンフォニーホール
S席-7700円 A席-6600円 B席-5500円
[指揮]角田鋼亮
[出演]萩原麻未(p)/砂川涼子(S)/樋口達哉(T)/酒井はな(バレエ)
[演奏]日本センチュリー交響楽団
[司会]堀江政生(朝日放送テレビアナウンサー)
※未就学児童は入場不可。18歳未満の方は保護者の同伴が必要です。やむを得ない事情により、出演者、曲目、曲順が変更になる場合がございます。公演中止・延期の場合を除いて、チケット代金の払い戻しは承りません。
[問]ザ・シンフォニー チケットセンター■06-6453-2333

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『ザ・シンフォニーホール
ニューイヤーコンサート 2023』

チケット発売中 Pコード:224-282
▼2023年1月1日(日・祝) 15:00
ザ・シンフォニーホール
S席-7700円 A席-6600円 B席-5500円
[指揮]角田鋼亮
[出演]萩原麻未(p)/砂川涼子(S)/樋口達哉(T)/酒井はな(バレエ)
[演奏]日本センチュリー交響楽団
[司会]堀江政生(朝日放送テレビアナウンサー)
※未就学児童は入場不可。やむを得ない事情により、出演者、曲目、曲順が変更になる場合がございます。公演中止・延期の場合を除いて、チケット代金の払い戻しは承りません。
[問]ザ・シンフォニー チケットセンター■06-6453-2333

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