ショパン、フォーレ、チャイコフスキー
繊細な翳りを帯びた色鮮やかな響き
横坂源 チェロ・リサイタル2022《Elegy》
(2/2)
死ぬまでに憧れの巨匠たちのような景色を見ることができたら。
■ミュンヘンでの入賞によって変わったことはありますか?またこの先、どんなチェリストを目指したいですか?
横坂:コンクールによって変わったというよりも、その前後から変わっていったという感じです。コンクールそのものが目標ではなくなったというか。もちろんコンクールはそこで力を発揮することで自分が活動の場に出ていくことのできる大切なものではあるんですが、当時は自分が将来1人の演奏家としていろいろなことを決めながらやっていくんだということを考えた時に、コンクールにしかフォーカスできない自分自身に違和感を覚えていました。それが2008年、09年頃だったと思います。ただそうした葛藤みたいなものは実は2006年に留学した頃からあって、それまでは桐朋の友達と和気あいあいとやっていたのがドイツで1人になってみるとやはり考える時間が増える。そうなってくると音楽にも今までなかった迷いとか、いろんな影のようなものが入ってきて考え込んでしまったわけです。
その頃、たまたま楽譜屋さんかどこかで買ったピエール・フルニエ(※②)のDVDを観たんです。シューマンのチェロ協奏曲やサン=サーンスの協奏曲を演奏しているモノクロ映像を。それを観た時に頭が冴え渡って行くような衝撃を受けて、終わりまでどんどんどんどん次が聴きたくなる勢いのようなものを感じたんですね。それはそれまで感じたことのなかったような衝撃だったから、フルニエはどうしてこんなことができるんだろうという興味からその時代の巨匠たちの演奏を集中的に聴くようになっていったんです。あの頃、1940年、50年、60年頃のプレイヤーの中には怪物級の人たちが山のようにいて-ロストロポーヴィチ(※③)やピアティゴルスキー(※④)、フォイヤマン(※⑤)、シャフラン(※⑥)-本当に素敵な人たちがたくさんいた時代で、こういう世界があるんだということを僕はフルニエの映像によって知ったんです。
■新しい世界が広がった。憧れが生まれたという感じですか?
横坂:そうですね。あの世界への憧れはすごくありますね。死ぬまでに、いや欲を言えばもう少し早い段階で彼らのような景色を見ることができたらもう何でもいいやっていうくらい、すごい魅力を感じています。時代遅れと言われるかも知れないけれど、僕はどうしても元がそこに、根っこはそこにあるような気がします。

■貴重なお話をありがとうございます。ではお客さまにメッセージをいただければ思います。
横坂:今回のリサイタルではソナタはショパンの1つだけにして、後は小品という流れでプログラムを作りました。ショパンは少し重めですが、聴きごたえの十分ある曲。その後は全体にすごくリラックスして聴ける曲が並んでいます。チェロが初めての方でもご存知の美しい曲を選んでいますので、ぜひ、いろんな方にこのコンサートを聴いていただければうれしいと思います。これからも回を重ねていけるように、充実した演奏をお届けしたいと思っています。
■2022年1月27日 Zoomにてインタビュー。
(2022年3月 1日更新)
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