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ジョン・ウィリアムズの魂を伝えるコンサートを開催!
音楽がめくるめく映画の世界へと誘う――
指揮者・原田慶太楼インタビュー

「ジョーズ」、「インディ・ジョーンズ」、「E.T.」、「スター・ウォーズ」etc……。数々の映画音楽を手がける作曲家、ジョン・ウィリアムズ。そんな彼の名曲を堪能できる「The MUSIC OF JOHN WILLIAMS」が9月29日(日)京都にて開催される。そして今回その公演で京都市交響楽団を率いるのが指揮者・原田慶太楼だ。そこで、ジョン・ウィリアムズのサポートを約10年務め、現在世界を舞台に活躍する彼に、ジョン・ウィリアムズの音楽の魅力や同コンサートの見どころ、聴きどころについて話を聞いた。

――「The MUSIC OF JOHN WILLIAMS」はジョン・ウィリアムズが手がけた映画音楽を堪能できるコンサートですね。まずはジョン・ウィリアムズの音楽の素晴らしさを教えてください。
 
「ジョン・ウィリアムズの音楽の素晴らしさは、音楽を聴いた瞬間に映画のシーンが浮かび上がることです。例えば『インディ・ジョーンズ』であれば、“タータラッター”の5音で映画の世界に入り込める。『ジュラシック・パーク』も『スーパーマン』もそう。そこが彼の作曲家としての魅力で、ほかにそういう作曲家はそんなにいないと思う。クラシックの音楽家で言えばワーグナーですかね。ワーグナーはドイツ人のオペラ作曲家なんですけど、オペラの作曲とジョンの作曲はすごく似てる。なぜかというと、オペラではキャラクターごとにテーマ音楽を書くから。ジョンもそうで『スター・ウォーズ』ならルークにはルークの、レイにはレイの、ダース・ベイダーにはダース・ベイダーのテーマがある。そうすると映像にダース・ベイダーがいなくても、テーマ曲が聴こえたら“あ、ダース・ベイダーが来る!”っていうのがわかるんだよね。それが音楽の力で、ジョン・ウィリアムズの作曲の力で、魔法。スティーブン・スピルバーグ監督作品の『ジョーズ』とか、みんな音を消して観たことはないと思うけど、まだCGもない時代の作品だから音を消すと“なんだこれは?”ってなるわけ(笑)。だって作り物のサメが出てきて、人がワーッてなって……。それでも世界で大ヒットして“こんなに怖い映画はない!”ってなった。その理由は音楽。音楽が“怖い”というイメージを映像にくっつけたから、あれだけ怖いんです」
 
――確かに音楽がなかったら「ジョーズ」も怖くなさそう(笑)。ちなみに「The MUSIC OF JOHN WILLIAMS」は過去に東京でも開催されていますね。
 
「このコンサート企画をなぜ僕がやっているかというと、自分が一番ジョン・ウィリアムズと親しい指揮者だから。僕は海外で活動しているんだけど、ジョンとは10年近く前に出会って、彼のプロジェクトに何度も参加してるんです。例えばジョンが“慶太楼、先に行って僕のためにリハーサルをしておいて”って言って、僕がリハーサルをして本番にジョンが来て、スピルバーグもコンサートの司会をしに来てっていう……そういう仲なんです。それでシネマコンサート、つまり映画を上映しながらオーケストラが生演奏するコンサートをやるとなったら、ジョンが映画音楽を収録した時とまったく同じ条件をよみがえらせなきゃいけないから、ジョンが信頼する指揮者でないと(指揮棒を)振れないわけです。そうすると“慶太楼、やってきて”って言ってくれるようになって、先週も『ハリー・ポッター』(のシネマコンサート)をやったばかり。それで“せっかくジョン・ウィリアムズとこれだけ親しいのだから、日本に彼の音世界をプレゼントしたいな”っていうことになり、2年ほど前に初めて東京でやったんです。東京公演はすぐにソールドアウトになって、やっぱりジョン・ウィリアムズ、スピルバーグ、ジョージ・ルーカスの作品は世界にファンが多いなと思いましたね」
 
――人気映画ばかりですもんね。今回はそんな映画の音楽をどんな風に楽しめるんでしょうか?
 
「今回のコンサートは2つのパートに分かれていて、第一幕はみんなが知っている作品……『スーパーマン』、『インディ・ジョーンズ』、『ハリー・ポッター』、『ジョーズ』、『シンドラーのリスト』などの曲が盛りだくさん。そして後半は僕のコンサートでしか聴けない『スター・ウォーズ』のシンフォニーです。『スター・ウォーズ』はエピソード1~8までが公開されていて、今度エピソード9が公開されますが、シンフォニーは公開された8作分の音楽を僕が編集してまとめたものです」
 
――東京公演の音源を拝聴しました。『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーのテーマは、途中からジャズっぽくなっていっておもしろかったです。あれは原田さんがアレンジされたんですか?
 
「いや、ジョン・ウィリアムズの書いたものは一切変えてないです。さすがに僕が彼の音を変えるわけにはいかない。映画でしかダース・ベイダーのテーマを聴いたことがない人は あの音楽を映画で流れる有名な部分だけだと思ってしまうけど、実はあの続きが4分半も残っているわけだよね」
 
――失礼しました! 映画のサウンドトラックを聴いていない人には、今のような驚きがほかにもありそうですね。
 
「いっぱいありますよ。逆にマニアックな『スター・ウォーズ』ファンにとって後半は“あ、ルークのテーマ!”とか“あ、レイア姫のテーマだ!”って映画の物語を思い出せる。それも音楽だけで…。映画だとどうしても映像に集中してしまうけど、コンサートは映像なしの音だけ。音だけで物語に入り込むことができますよね」
 
――ご自身が指揮する時は、映像を思い浮かべながらですか?
 
「僕は完全に入り込むから、もう頭の中に浮かべずにできない。そのシーンに……その世界に入ってしまっている。特に最近も『スター・ウォーズ』の映画を上映しながらのシネマコンサートを海外でやっていたから、もっと(映像との関係性が)親しくて、ここの瞬間はこの音っていうのを感じますね」
 
――映画もジョン・ウィリアムズもよく知る原田さんは、映画の裏側なども知っていたり想像したりすると思うのですが、それも音楽で表現するんですか?
 
「どうだろう? そこまでは考えたことはないかな。でもそれに近いものは一つあるかも。それは『E.T.』で、エリオットがE.T.を自転車に乗せて飛ぶ名シーンの、まさに飛ぶ瞬間の音楽。普通、映画の音楽は最初に映像が作られ、それを作曲家に渡して、作曲家が映像を見て音楽を作る。それからスタジオに入って、オーケストラを前にして映像を流しながら録音する。じゃないとタイミングが合わないからね。で、実際、『E.T.』の名シーンの音楽はジョンが振って、映像を流しながら何度も演奏と録音を繰り返したんだけどタイミングがうまくいかなかった。でも自転車が飛び立つその瞬間に(音楽が)合わなければ鳥肌は立たないでしょ? そうしたらスピルバーグがジョンに“映像を見ないでオーケストラが美しく演奏できるように自由に演奏してください”って言って映像を消しちゃったんだよね。だから音楽を先に録って、後からスピルバーグが音に合わせて映像をつけたという、歴史上初の(通常とは)逆パターン。だからE.T.が飛ぶシーンの音楽を振ってる時は、“そんなこともあったんだな”ってジョンとスピルバーグの信頼関係とかが0. 001秒はよぎっているかも。でも指揮者はそんなこと考えてられないからね。いろんなことを考えてなきゃいけないから(笑)」
 
――そんな裏話が……。映画の音楽ってすごいですね。
 
「そしてジョン・ウィリアムズは作曲家としても指揮者としてもとても有名で、自分が書いた曲を自分で振るからね。やっぱり作曲家が振ってくれると魂の入れ方が違うよね。ほかの邪魔が入らないから、純粋な作曲家の魂がそのまま伝わってくる。本当にそれは素敵! だからそれを再現しなきゃいけないっていうのには責任があるよね。そしてそれだけの楽しみがある。特に、映画が好きだからお客さんはこのコンサートに来るわけで、何度も映画を観ているわけじゃない? 映画で流れた時のテンポ感とか表現とかが身に染みついてる人たちの目の前で僕が振るわけだから、ちょっとでも(映画と)違うと、あっ!って思われるからね。ま、そんなのは絶対ないけどね」
 
――そして、今回の演奏は京都市交響楽団ですね。
 
「今回僕は“京都市交響楽団デビュー”なんですよ。初の顔合わせ。それも初デートみたいな感じですごく楽しみ。どんな風に彼らは僕にこたえてくれるか?とか……ワクワクしますね。僕は世界のいろいろな所で客演してるんだけど、だいたい最初の3分ぐらいでオーケストラと指揮者の空気感がいいものなのかどうかがわかる。僕が歩いて入ってくる瞬間から(オーケストラに)ジャッジされているからね」
 
――それは何で判断されているんですか?
 
「雰囲気。だって僕はまったく音を出さないから。オーラの世界」
 
――観客もそこから注目しているといいかもしれないですね。
 
「それはいいと思う。コンサートっていうのは音がなくても音楽だから。シーンとして指揮者が入ってきてって時点からもう始まってる。そして拍手が終わって一つ目の音が出るまでの“間”。その“間”をどう使うかも指揮者の勝負だと思う。指揮者はコンサート会場の全部を自分でコントロールするからね」
 
――では、その日の会場やお客さんによっても内容は変わりますか?
 
「もう毎回違いますね。時間によっても違う。例えばお昼ならランチを食べ終わってちょっと眠い感じだし、夜ならお腹がすいてる感じじゃない(笑)。それでムードって変わるでしょ? あと季節でも演奏の仕方を変える。クラシックはPA(音響装置)が入らないからアコースティックな音は洋服に吸収される。そうすると冬にセーターとかを着ている人がいっぱいいたら音が小さくなるんですよね。まずオーケストラが音を出したら、それをシャボン玉だと思って、飛んでいくのを監視しながら会場の後ろに当たって戻ってくるのを聴き取って“あ、もうちょっと鳴らさないと後方まで伝わらないな”とか……。そういうのを最初の1、2秒で決めるんですよ」
 
――環境でそれだけ異なるのであれば、指揮者で音楽が変わるのは至極当然ですね。
 
「オーケストラが一緒でも指揮者が違えば“本当に同じ曲?”ってなるよね。やっぱり実際に体験するのが一番いい! ぜひ『The MUSIC OF JOHN WILLIAMS』でそれを体験してみてください」

text by 服田昌子



(2019年8月26日更新)


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原田慶太楼

Profile

はらだ・けいたろう…1985年東京生まれ。17歳で単身渡米。インターラーケン芸術高校音楽科において、指揮をフレデリック・フェネルに師事。20歳でジョージア州メーコン交響楽団アシスタント・コンダクターに就任。また、青少年の音楽活動の場が無かったメーコン市に青少年オーケストラを自ら創設し音楽監督に就任。指揮法をロシアのサンクトペテルブルクで学び、2006年21歳の時にモスクワ交響楽団を指揮してデビュー。2009年、ロリン・マゼール主催の音楽祭「キャッソルトン・フェスティバル」にマゼール氏本人の招待を受けて参加。2010年には音楽監督ジェームズ・レヴァインの招聘を受けてタングルウッド音楽祭に参加。2011年、ノースカロライナ・オペラにおいてオペラ・デビュー。同年は芸術監督、ファビオ・ルイジの招聘によりパシフィック・ミュージック・フェスティバル(PMF)にも参加。これまでに、ロバート・スパノ、マイケル・ティルソン・トーマス、オリバー・ナッセン、ヘルベルト・ブロムシュテット、ステファン・アズベリーなどに師事。2015年にはアメリカのメジャー、シンシナティ交響楽団とシンシナティ・ポップス・オーケストラのアソシエイト・コンダクターという重要なポジションに就任。受賞歴は、2010年タングルウッド音楽祭で小澤征爾フェロー賞、2013年ブルーノ・ワルター指揮者プレビュー賞、2014・2015年米国ショルティ財団キャリア支援賞を連続受賞。現在の活動拠点であるアメリカでは、アリゾナ・オペラのアソシエイト・コンダクターとリッチモンド交響楽団のアソシエイト・コンダクターおよび、同ユースオーケストラ音楽監督、フェニックス・ユース・シンフォニー音楽監督などを務め、2020年シーズンからはジョージア州サヴァンナ・フィルの音楽&芸術監督にも就任予定。また2019年の同フィルのオープニングとクロージング・コンサートにも出演する。このほかにも、青少年オーケストラを通して未来の音楽家達の教育、オーケストラとロックバンドを合体させたプログラムなど幅広いジャンルで活動を続けている。また写真家としての一面も持つ。


Live

『The MUSIC OF JOHN WILLIAMS:
STAR WARS AND BEYOND』

チケット発売中 Pコード:159-162
▼9月29日(日) 15:00
ロームシアター京都 メインホール
S席-6800円 A席-5800円 B席-4800円
[指揮]原田慶太楼
[演奏]京都市交響楽団
[司会]有村昆
※未就学児童は入場不可。
※映像による演出はございません。
※ジョン・ウィリアムズ本人の出演はございません。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888

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