僕の仕事の価値を決めるのは僕じゃない。だから、僕の10年間の
仕事が完全に無駄と評価されることはあり得るんだ。
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■8年にわたり大阪交響楽団の音楽監督・首席指揮者を務めた児玉宏が、今シーズンを最後に退任する。来る2月の定期演奏会と名曲コンサートが最後のステージとなる。児玉宏は桐朋学園大学卒業後、1975年に渡欧。名指揮者、オットマール・スウィトナーの下で研鑽を積み、ドイツの歌劇場で要職を歴任した。2005年1月、大阪交響楽団に初登場し、ブルックナーの交響曲第3番を演奏する。大阪交響楽団のカラーの一翼を担ったブルックナー・ツィクルス(連続演奏)のスタートである。演奏はほぼ年1回のペースで進められ、児玉が音楽監督・首席指揮者に就任した2008年以降は「児玉宏のブルックナー」のシリーズ名が冠せられることとなった。
「第3番」の時は大阪シンフォニカー(当時)という、名前も知らない日本のオケからの依頼だった。僕も25年以上、日本で名前を知られていなかった。だからそれはまったく偶然だった。「第7番」の時は、僕が作品を指定した。ある作品を演奏する時には楽員だけではなくて、事務局や裏方さんの動きもとても重要になる。特に後期の作品ではね。「3」と「7」を演奏したので次は「第5番」。「七五三」て数を揃えようってことになった。その頃になるといろんな話が動き出してきて、それで僕が音楽監督を担うことになったんだ。
最初のうちは弦楽器が小さいという評判が出たみたいだけど、大きくするも何も、僕らの定期は最大14型だ。だから全部14型でやろうと。弦楽器が小さいんだったら弦楽器が余計に弾くか、管楽器を小さく吹けばいい。そして語法を揃える。僕らは堺弁のブルックナーをやろう。
■「児玉宏のブルックナー」は2009年には第6番で、文化庁芸術祭大賞を受賞。番号付きの交響曲をすべて演奏し、2015年9月(第196回定期演奏会)に完結した。巨匠・朝比奈隆が世を去った後、関西で最初に完結したブルックナー・ツィクルスであり、児玉宏のこだわりが随所にうかがえる演奏の数々だった。
ブルックナーには人間離れしていて世俗のことが全然頭にない人っていうイメージがあるらしいけど、そんなのまったく嘘だ、と僕は思う。ブルックナーほど人間味があって、その人間味が直に楽譜に残っている音楽は少ない。例えば3番以降の交響曲には1曲ごとにワーグナーの楽劇が入っているとか「私はあなたのことを先生として尊敬しています」と書いていたりとか、そういうことが彼の交響曲には全部入ってる。ブルックナーの楽譜には「版」がたくさんあって、どの「版」をとるかっていうのはすごく大きな選択。それにはいろんな理由があるんだけど、例えば「8番」ならば一番ゆっくりした楽章で一番大きな音になるクライマックスみたいなところの調性が、何調で書かれているかっていうことに、とっても重要な意味がある。
(2016年1月22日更新)
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