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中野量太監督が10年ぶりのオリジナル脚本を坂口健太郎主演で映画化
『私はあなたを知らない、』坂口健太郎&中野量太監督インタビュー

『湯を沸かすほどの熱い愛』の中野量太監督が10年ぶりにオリジナル脚本を手掛け、坂口健太郎を主演に迎えたヒューマン・サスペンス『私はあなたを知らない、』が、8月28日(金)より、大阪ステーションシティシネマほか全国にて公開される。

日々のルーティンをこなしながら穏やかに暮らしていた天涯孤独の青年・夕平が、職場にやってきた女性・紗月とその娘・朝子と出会ったことをきっかけに、少しずつ心を開き、家族の温もりというしあわせの形を知るが、愛する人を殺めてしまい、13年後に「母を殺した男」と「被害者の娘」として朝子と再会する様を真摯に描く。

坂口健太郎が主演を務め、『この夏の星を見る』の早瀬憩、堀田真由、滝藤賢一、原田美枝子らが共演している。そんな本作の公開を前に、主人公の西山夕平を演じた坂口健太郎と、原案・脚本・監督を務めた中野量太が作品について語った。

──10年ぶりのオリジナル脚本の作品で、中野監督が描き続けてきた家族がテーマでありながら、殺人という要素も入っています。着想のきっかけ、この物語を描こうと思ったきっかけは何だったんでしょうか。

中野量太監督(以下、中野監督):きっかけは、7、8年前に見た小さなウェブの記事です。家族をあまり知らない男が、家族らしきものを知り、それを失いかけたときに相手を殺してしまったという話が、とても僕の胸に残っていたんですが、その時はまだ、人を殺める話を書く勇気がなかったんです。それからだいぶ時間が経って、新しいことをしたいという思いが芽生えてきたのと、世界中でたくさんの人が殺されていて、命が軽んじられる時代になっているように感じたのがきっかけです。

たったひとりの人間が殺されることで、周りの人の人生はもちろん、いろんなものが変わってしまうということを丁寧に描くことが、今、僕がクリエイターとしてできることではないかと思って、この題材にチャレンジしようと思ったのが始まりでした。

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──坂口さんは夕平役のオファーを受けた際に脚本を読まれたと思いますが、中野監督の作品で人を殺めるという要素が入っていることについて、どのように感じられましたか?

坂口健太郎(以下、坂口):監督がオリジナルの脚本を書かれたとお聞きして、この題材を扱うことに監督の覚悟のようなものを感じたのを覚えています。初めて脚本を読んだ時は、すごく繊細な話だと感じましたし、人を殺めることは決して肯定すべきことではないですが、夕平が様々なことを選択していく様を丁寧に表現したいと思いました。それに加えて、僕が監督と初めて打ち合わせをさせていただいた時にもお伝えしたんですが、僕は遊園地のとあるシーンが好きなんです。

──朝子と夕平がふたりだけで遊園地に行った時の、ある場面のことですよね。

坂口:夕平が一瞬、朝子に対してちょっと影があるというか、暗い気持ちになってしまう、あのシーンには生々しさを感じましたし、少し恥ずかしい気持ちになりますよね、夕平は大の大人なのに。そういう意味でも、すごく正直な脚本だなと感じたのは覚えています。だからこそ、本当に難しい役だと思いましたが、初めて脚本を読んだ時に、ぜひご一緒させていただきたいと思いました。

──監督は坂口さんに夕平を演じてもらいたいという思いは、脚本を書いてる中で考えられたのでしょうか?

中野監督:夕平という人物は特別な人ではなくて、そこらにいる市井の人で、きっと今の世の中にはたくさんいて。それと同時に、夕平は寂しさや憂いをまとっている人物ですが、当て書きではなかったので、書いている時は誰も想像せずに書いていました。準備稿ができた頃に、坂口さんがいいんじゃないかという話になり、実際にお会いしてお話をして坂口さんに決まってからは、坂口さんを念頭に置いて脚本を書いていきました。

──坂口さんは先ほど、難しい役だと思ったとおっしゃいましたが、夕平を演じる上で、ここは大切にしたいと思ったのはどういうところだったのでしょうか。

坂口:夕平は天涯孤独で愛情を受けて育ったわけではないですが、僕は最初から寂しい青年というお芝居をしようとは思っていませんでした。僕も父の死は悲しかったですが、普通に生きられているように、夕平も悲しいことはあったと思いますが、ひっそりとではあっても、ちゃんと生きていた。その中で初めて愛情を受け取ってしまって、その幸せに囚われてしまう瞬間もあったはず。満たされて幸せになったけれども、逆にその幸せを知ってしまったから手放せなくなったんだと思うんです。

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──手放せなくなるほど、紗月や朝子に愛情を感じてしまったんですよね。夕平は、感情が顔に出ないのに、表情で想いを伝えるシーンが多かったと思います。

坂口:今回は、聞くことや見ることを重要視して、少ない台詞の中に彼の生活を想像しながら演じていました。夕平が幼少期の朝子と一緒にいるシーンで、彼女の声を聞いて動きを見るうちに、僕の中でもどんどん愛おしさが大きくなっていったので。後半の面会室のシーンでも、夕平は最初、朝子を拒絶するんですよね。でも、本当に拒絶するつもりなら会わなきゃいいと思うんです。

でも、きっと夕平の中には、成長した朝子を一目でも見たい気持ちもあったんですよね。タイトルと同じ、「私はあなたを知らない、」という夕平の言葉も、あれは逆の意味の言葉を言ってるんだと思うんです。だから、夕平としてこういう風にお芝居をしようというよりも、共演者さんや、その場面の空間や環境をちゃんと受け止めることを意識していました。

──監督は坂口さんに夕平を表現してもらうにあたって、どのようなことを伝えられたのでしょうか。

中野監督:最初に、今回はかっこいい坂口健太郎が撮りたいわけではない、と伝えました。かっこ悪いというか、情けないところも僕は撮りますからね、と常々言ってましたね。

──夕平は涙を流すシーンも多くて、その度に夕平の愛情を感じるというか、感情が溢れて泣いているように思いました。では、泣くシーンも、相手の感情や環境を受け止めたからこそ表現できたのでしょうか。

坂口:僕は、いつもお芝居をする時に、相手の想いをもらわないと泣けないと思っていて。そうでないと、自分の中で感情を作って泣くことになる。その一方で、僕は時々もらいすぎてしまう時もあるんですが、それが本作の面会室のシーンでした。若い時の夕平をほぼ撮り切った後に、面会室のシーンの撮影ができたので、自分の中に幼い朝子との時間を育むことができていたから、13年経って大人になった朝子を一目見て泣いてしまったんです。

──そうですよね。成長した朝子を目の前にしたわけですから。

坂口:朝子に「私のことを本当の娘のように可愛がっていたと聞きました」と言われた時も、夕平は無言なんですが、僕は涙が止まらなくなってしまって(苦笑)。監督から「気持ちはとてもわかるんだけど、シーン的にはまだだよ。まだその瞬間じゃないよ」と言われて、その通りだと思いながらも、泣いてしまって。

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それ以外でも、幼い朝子が走る練習をして夕平のところへ戻ってきた場面など、泣かなくてもいいシーンでもグッときてしまう時もあって。保育園の柵のところに朝子が来てくれて話しているシーンも感情が溢れてしまいそうで仕方なかったですし、そういう場面はたくさんありました。今回の作品では共演した方からいろんなものを頂いたように感じています。

──夕平の靴の変化が、彼の心境を現していたように感じましたが、あの撮り方は最初から考えてらっしゃったのでしょうか。

中野監督:最初から決めていました。最初はボロボロのスニーカーで、途中で新しい革靴になって、最後は革靴がボロボロになっているように、靴が彼自身を象徴しているので。靴が彼の心を表現するように撮ることは最初から決めてましたね。

──本作のテーマのひとつは赦しだと感じましたが、監督自身はどのような思いで赦しを描こうと考えられたのでしょうか。

中野監督:殺人を描いているので、必ずその先には赦しがあると思いますが、決して僕は「許せ」なんてことを言いたいわけではないんです。僕としては完全な赦しを描いてるつもりはなくて。というのも、夕平が許されたかと言うと、刑期としては許されましたが、きっと夕平は、紗月を殺したことを許されてはいないと思って、一生背負って生きていくと思うんです。彼が、その中で何をしたかと言ったら、生きることを選んだ、ということなんです。

──殺人を描いている以上、赦しという要素を内包しながらも、監督の答えは生きることだったんですね。

中野監督:そうですね。だから、人は人を許さなきゃいけないなんて、そんなことを言うつもりは全くありません。彼が許されたのか、朝子が夕平を完全に許したのかはわからないですし、それをあえて提示しようとは思わないです。ただ、彼が生きることを選んだということは明確に伝えたいと思っています。それと同じで、母親を殺された朝子が完全に夕平を許したかどうかはわからないですし、僕はそんなことを描くつもりはなかったので。でも、彼女は憎み続けて生きることよりも前向きに生きることを選んでますよね。だから僕は、彼らが粛々と生きる姿は絶対に描きたいと思いましたが、許したり許されたりということについて描くつもりはあまりなかったです。

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──坂口さんは監督の思いをどのように受け止められましたか?

坂口:夕平が朝子と面会して、法的な刑期を終えて出た後、もしかしたら彼は消えてしまうんじゃないかと思っていたんです。夕平はどうなってしまうんだろう?と思っていたので、今の監督のお話はすごく腑に落ちました。朝子とのある会話の中で、彼の中でギリギリ保っていたものが折れた瞬間があったと思うんです。業を背負うという言葉が合っているかわかりませんが、業を背負って生きてきた彼が、朝子が真実を知った時に、改めてそれを背負って生きていかなきゃいけなくなったと思うんです。

──監督の作品はいつもタイトルが印象的ですが、今回は最後に読点がついています。劇中に「私はあなたを知らない」という言葉も2回出てきましたが、どのような意図で「、」を付けられたのでしょうか。

中野監督:観ていただくとわかると思いますが、あの台詞は朝子も夕平も1回ずつ口にしています。でも、その続きもあるんですよね。夕平が「私はあなたを知らない」と言いますが、実は「幼い頃にいっぱい可愛がってて...」と言葉は続いてるはずで。朝子だって「私はあなたを知らない、けど...」と続けていて。まだまだこのふたりの人生は続くので、僕の中では「。」ではなかったですね。まだ続くということを表現したかったので、「、」が必要でした。

──坂口さんは、本作のタイトルをどのように受け止められたのでしょうか。

坂口:自分事ですが、僕の写真集のタイトルが『君と、』だったんです。僕がタイトルを考えたんですが、終わらない、この先もまだまだ続いていくという意味で「、」をつけるという思いは、すごく共感できると思いました。『私はあなたを知らない。』だったら終わりを感じて、先のことを想像しないような気がするんです。夕平は多くを語らないので、観てくださる方に余白を感じてほしいと思いますし、タイトルだけでいろいろなものが伝わってくると思います。

──坂口さんの写真集にも「、」が使われていたんですね。私も、観終わった後で「、」の後を考えてしまうタイトルだと感じました。

坂口:試写が始まってからいろんな方にお話しを聞いていると、この作品は観る方によって捉え方が全く違うんです。特に後半の面会室のシーンは、いろんな解釈をしてくださって。それが、僕はすごく幸せなことだと感じました。これは僕の個人的な映画の趣味ですが、すっきりと観終わった作品は、時間が経つと思い出せなくなっちゃうんです。僕は、観終わった後に、何を言いたかったんだろう?あの時の彼はどんな風に考えていたんだろう?と考える時間がある映画が好きなので。それってすごく豊かな時間だと思うんです。感じ方は人それぞれだと思いますし、その方のタイミングでも感じ方は違ってくると思いますが、そういう問いを観てくださる方に投げかける作品になってすごく良かったと感じています。

──いろんな解釈があるのは嬉しいですよね。

中野監督:今日取材を受けた中だけでも解釈が全く違ってました。

──全く違う解釈というのも面白いですね。

中野監督:僕の中に答えはありますが、それは公開して数ヶ月経った頃に言おうかな?と思ってます(笑)。

坂口:僕もきっと、2年後、3年後に見ると、全く違う夕平が見える気もしていて。夕平を演じた自分でもまだわからない部分に、もしかしたら少し光が差すんじゃないかと思っています。映画は、観てくださったお客さんのものだと考えていて、その時その時の環境や気持ちで解釈が違ってくると思うので、僕自身もすごい作品ができたと感じています。捉え方がたくさんあるということは、それだけ濃密な作品になっている証でもあると思うので。

取材・文/華崎陽子




(2026年8月27日更新)


Movie Data



(C) IDKYPs./Pyramide Productions

『私はあなたを知らない、』

▼8月28日(金)より、大阪ステーションシティシネマほか全国にて公開
出演:坂口健太郎
早瀬憩 堀田真由 倉田瑛茉
稲垣来泉 和田光沙 片山友希 畦田ひとみ 田牧そら
渡辺真起子 足立智充 ⿊田大輔
滝藤賢一 / 原田美枝子
原案・脚本・監督:中野量太
音楽:世武裕子

【公式サイト】
https://watashiramovie.com/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/460244/index.html


Profile

坂口健太郎

さかぐち・けんたろう●1991年7月11日生まれ、東京都出身。2014年に俳優デビューを果たし、『64-ロクヨン-前編/後編』(16)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。2018 年に「シグナル 長期未解決事件捜査班」で連ドラ初主演を果たし、以降多くの映画・ドラマに出演。主な出演作に映画『君と100回目の恋』(17)、『今夜、ロマンス劇場で』(18)、『仮面病棟』(20)、『劇場版シグナル 長期未解決事件捜査班』(21)、『余命10年』(22)、『ヘルドッグス』(22)、『サイド バイ サイド 隣にいる人』(23)、『パレード』(24)、『盤上の向日葵』(25)、NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(21)、「婚姻届に判を捺しただけですが」(21)、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(22)、「ヒル」(22)、「競争の番人」(22)、「Dr.チョコレート」(23)、「CODE―願いの代償―」(23)、Coupang Play オリジナルシリーズ「愛のあとにくるもの」(24)、Netflix シリーズ「さよならのつづき」(24)などがある。待機作として、フジテレビ10月期ドラマ「kiDnap GAME」の放送をひかえている。


中野量太

なかの・りょうた●1973年7月27日生まれ、京都育ち。大学卒業後、日本映画学校(現:日本映画大学)に入学し3年間映画作りの面白さに浸る。卒業制作『バンザイ人生まっ赤っ赤。』(00)が、日本映画学校今村昌平賞、TAMA NEW WAVE グランプリなどを受賞。卒業後、映画の助監督やテレビのディレクターをしながら、6年ぶりに撮った自主短編映画『ロケットパンチを君に!』(06)が、ひろしま映像展グランプリ、福井映画祭グランプリ、水戸短編映像祭準グランプリなどを含む7つの賞に輝く。2008年文化庁若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)に選出され、35ミリフィルムで制作した短編映画『琥珀色のキラキラ』(08)が高い評価を得る。2012年、自主長編映画『チチを撮りに』を制作、SKIP シティ国際 D シネマ映画祭にて日本人初の監督賞を受賞し、ベルリン国際映画祭を皮切りに各国の映画祭に招待され、国内外で14の賞に輝く。2016年、『湯を沸かすほどの熱い愛』で商業長編映画デビュー。本作は日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞・最優秀助演女優賞含む6部⾨を受賞。2020年、浅田政志氏の写真集「浅田家」(赤々舎刊)を原案とした『浅田家!』は日本アカデミー賞で最優秀助演女優賞含む8部⾨を受賞。日本のみならず、フランスでも観客動員25万人を超える大ヒットとなる。2025年、『兄を持ち運べるサイズに』では、日仏共同製作を果たし、再び、フランスで劇場公開されるなど国内外の観客を魅了する。現在も独自の視点と感性で『家族』を描き続けている。