インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 在日コリアンのルーツを持つ14歳の少女の葛藤を瑞々しく活写 是枝裕和監督や西川美和監督の系譜を継ぐ 新鋭・孫明雅監督の長編デビュー作 映画『トロフィー』孫明雅監督インタビュー

在日コリアンのルーツを持つ14歳の少女の葛藤を瑞々しく活写
是枝裕和監督や西川美和監督の系譜を継ぐ
新鋭・孫明雅監督の長編デビュー作
映画『トロフィー』孫明雅監督インタビュー

是枝裕和監督や西川美和監督の監督助手を務めてきた、映像制作集団「分福」の孫明雅監督の長編デビュー作『トロフィー』が、7月10日(金)より、テアトル梅田ほかにて公開される。

監督自身の体験を基に、在日コリアンのルーツを持つ14歳の少女が、日本の学校との交流会をきっかけに外の世界との繋がりを持ち、フリマサイトで家にあった不用品を売ってK-POPアイドルのライブのチケット代を稼ごうとしたことをきっかけに、自分自身や家族のことについて見つめ直すようになる様を描く。

250人のオーディションから選ばれた恒那(はんな)が主人公のソナを演じ、井浦新、市川実和子、ちすん、笠松将らが共演する。そんな本作の公開に合わせ、孫明雅監督が作品について語った。

──自分自身の経験を映画にしようと考えられたきっかけは何だったのでしょうか。

「分福」で1、2ヶ月に1度開催される企画会議にこの題材を出したことがきっかけでした。はじめは勲章を売ることや朝鮮舞踊の要素は全くなく、私が朝鮮学校の頃に抱えていた葛藤を中心に書いていました。その中で、主人公がお金に困って北朝鮮のものを売るシーンを入れていたら、すごく面白いという意見をいただいて。北朝鮮の勲章を売ることをベースに物語を構築することにしました。

──朝鮮学校に通ってた時に、監督自身が抱えていた葛藤というのはどういうものだったのでしょうか。

母親が朝鮮学校の先生をやっていたんですが、激務で帰りも遅かったので、お願いだから早く帰ってきてほしくて。私は辞めて家にいてほしいと思ってるのに、家族より大事な学校って何なんだろう?とずっと思っていたので、朝鮮学校に対する考え方もネガティブになって、距離を置きたいと思うようになりました。だから、最初は朝鮮学校を批判するような脚本になっていたんですが、取材を重ねて、先生の声で母親が考えていたことを聞いて、先生を続けている理由が腑に落ちて。今まで私が朝鮮学校について思っていたこととは全く異なる話を聞けたので、そこから今の形に変化していきました。

──思いもしなかった話を聞いたということでしょうか。

きっと親からも聞いていたと思うんですが、その時は全く受け入れられなかったんだと思います。今回の取材を通して、受け入れられるようになりました。朝鮮学校の先生をしている親に対しての見方が変わりました。

──本作で井浦新さんが演じているソヒの父親よりも、学校に入れ込んでらっしゃったんですね。

何をしてるんだっていう感じでした(笑)。当時は差別があったので、在日のコミュニティにいるしか選択肢がなかったというネガティブな理由だけで朝鮮学校の先生をしていると脚本に書いていたんです。でも、そういう理由だけではなく、ちゃんと意思を持って、もっと広いところを見てやっていることに気づかされて、すごく変わっていきました。

trophy_sub.jpg

──ソヒの父親を井浦新さんが演じてらっしゃいましたが、父親役をどなたに演じていただくかというのは、本作にとってすごく大事だったと思います。なぜ井浦さんだったのでしょうか。

まず、この題材で朝鮮学校の先生役なので、誰が引き受けてくれるだろうかとすごく考えました。日本語を流ちょうに話せなければいけないので、韓国人キャストをキャスティングする考えは全くありませんでした。是枝さんに相談したら、新さんは右も左も関係なく果敢にやる人だと聞いて、井浦さんにオファーしました。

──そうだったんですね。

最初は、すごく陽気な、ウザキャラみたいなキャラクターで書いてたんです。井浦さんが出ている映画を観たら、すごくスマートで、低体温なイメージを受けたんですが、『止められるか、俺たちを』を観た時に、すごく面白い方だと思って、コミカルなキャラクターができる方だと感じました。実際に話してみても、面白い方でした。

──劇中のソヒの弟と父親の絡みも自然で面白かったですよね。

私が常にテンパっていたので、新さんが自然に父と息子の会話を作ってくださって、すごく助かりました。

trophy_sub2.jpg

──では、オーディションで恒那さんがいいと思った部分はどういうところだったのでしょうか。

まずは、舞踊部員に見えることでした。彼女は造形も綺麗ですし、お芝居をしてみても、含みみたいなものがあって、ずっと目が引きつけられるんですよね。

──わかります。あまり考えてることがわからないので、ソヒが今、何を考えているのか想像しながら観ているうちに、自然と物語に入り込んでいました。

あまり感情を外に出さない、アウトプットしないタイプで、文字にするのも言語化するのも得意ではないんですが、ちゃんと考えている子なので、それが表現されているんだと思います。

──先ほど、常にテンパっていたとおっしゃってましたが、初めて長編映画の監督を経験されていかがでしたか。

すごく楽しかったです。取材によって脚本が変わっていくことも楽しかったですし、オーディションも楽しかったです。ロケ地を決めるのも、映画を作ることの全てが楽しかったです。

──孫監督は以前、是枝監督や西川監督の監督助手を務めてらっしゃいましたが、その経験はどのように活かされましたか?

西川さんの時も是枝さんの時も、脚本を書くための取材に同行していたので、その経験が活きました。西川さんの場合は、取材後に次の稿を読むと、この取材の種がここに行ったんだなとか、ここに分散されてるんだという感覚を生で体感することができたので、それを自分の脚本に当てはめて考えていました。是枝さんは手書きで脚本を書くので、それを私がパソコンで入力していました。取材の内容がどのように反映されているのか考えながら入力していたので、すごく勉強になりました。

──なるほど。撮影という部分ではいかがでしたか。

どういうポイントでロケ地を決めて、どこに配置するのかということも是枝さんの現場で勉強させていただきました。例えば、ご飯を食べるシーンで、どこに座ってどこから撮ればいいのかという問題を出されて、私が回答する、というように実地で勉強させていただいたので、すごく鍛えられました。背景は、こっちの方が抜けは綺麗です、とか。主人公はどっちに座った方がいいのか、相手がいるならどう座るのか。ふたりの場合はこっちで3人の場合はこっち、とか。

──その経験によって、本作のロケ地を選ぶ時に、ここだったらこういう風に撮る、というように組み立てられたんですね。今回は東京で撮影されましたが、監督の出身地である大阪で撮ることは考えられなかったのでしょうか。

考えなかったですね(笑)。地方ロケはお金がかかるということが、身体に刷り込まれていたので、企画当初から東京で書いてました。大阪で書いてもいいですが、結局、後から東京になりそうだなと思って(笑)。

──さすが、鍛えられてますね(笑)。東京で撮ってらっしゃいますが、東京だと主張していないというか、地方都市でも、このコミュニティがあれば成立する話のように感じました。

それは、下町を選んだからかもしれません。台詞のノリが関西だと言われて、大阪が舞台なのか?と聞かれることもありました。

──会話のテンポでしょうか。監督の生まれ育ったものが出てしまったのかもしれないですね。

どうしても出てしまうんだと思います(笑)。

──今まで在日コリアンを描いた映画もありましたが、そういう作品を観てどのように感じてらっしゃったのでしょうか。

『パッチギ!』は公開されたのが20年ぐらい前で、さらにその前の時代を描いているので、暴力と犯罪の要素も多かったですが、今はかなり時代が変わって、在日と言うだけで、あからさまな差別を受けることはなくなったと思います。その一方で、南北の差が大きいように感じています。

日本は韓国とは国交が結ばれていて、韓流ブームも起きていますが、北朝鮮への見方はすごく厳しいですよね。朝鮮学校も日本の学校と交流する機会があるので、K-POPをきっかけに仲良くなることはあるのに、朝鮮人や朝鮮学校の問題、北朝鮮の話になるとちょっと話しにくいところはあると思います。

──本作を拝見して、朝鮮学校は朝鮮学校で、問題を抱えているように感じました。

朝鮮学校に通っている子どもたちは、在日韓国人だとは言えるけど、在日朝鮮人だとは言いにくいとか、朝鮮学校に通ってること自体、どう思われるんだろう?と悩んでいたり。

──劇中、新入生が誰も入ってこないかもしれない、という描写にすごく驚きました。

大阪でもそうなんです。北大阪の小学校は一学年ひとりなんです。在校生が少なくなって廃校になったところもあります。ここ20年ぐらいですごく減っています。日本の学校に通っている在日の子もいますが、外国人が少ないところだと、なんで自分だけそういう苗字なんだろう?と思って、日本の苗字が欲しいと思う子もいるみたいです。なんで自分は日本人じゃないんだ、日本人になりたかったと思ってしまう子もいるので、そういう風に思わなくていいように朝鮮学校に通わせる親もいます。

──先ほど撮影が楽しかったとおっしゃってましたが、次の作品について考えてらっしゃいますか。

考えています。在日の話は、これでけりをつけたと思っていますが、移民問題にはすごく興味を持っていて。今年公開された、ケン・ローチ監督の『オールド・オーク』のような作品をやりたくて脚本を書いていたんですが、『オールド・オーク』が素晴らしすぎて。

──わかります。素晴らしい映画でした。

関東にチャイナ団地と言われてる場所があって。日本の住民は高齢者ばかりで、ほとんど中国化されていて、団地の中にある商店も中華料理屋さんなど、ほぼ中国人向けのお店が並んでるんです。そういうところを舞台にした作品を考えています。移民大国の縮図のようになっている場所を舞台に、まさに『オールド・オーク』みたいな話をやりたいと思っていたんです。

──『オールド・オーク』は移民の問題を描いていますが、その一方で、その場所に住んでる住民も困窮して疲弊していることも描いているところに変化を感じました。

どっちが正義かわからないですよね。どちらの気持ちもわかるので。

──チャイナ団地を知ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか。

一瞬だけ住んでいたことがあるんです。私は日本人でもないし、中国人でもないので、客観的に見ることができて、両方の気持ちがすごくわかったんです。

──本作は、ソヒが自分のアイデンティティを見つめて成長する姿を描くことが本作の主軸になっているので、青春映画としての側面もあると思います。

そういう風に観ていただけることがすごく有難いです。朝鮮学校というと、北と繋がってる学校という印象があると思いますが、その学校に通ってる人たちがどんな人たちなのかということを知ってほしいと思って作ったので。政治的信条は違うかもしれませんが、日本にいる人たちと同じように、親と衝突したり、友達と揉めたり、K-POPで遊んだり、そういうことをしている身近な人間だということを知ってほしいと思って、普遍的な物語に落とし込んだつもりです。

取材・文/華崎陽子




(2026年7月 8日更新)


孫明雅監督

Movie Data



(C) 2026 K2 Pictures

『トロフィー』

▼7月10日(金)より、テアトル梅田ほかにて公開
出演:恒那 / 梨里花 原田花埜 禾本珠彩 千就 / ちすん 笠松 将 / 市川実和子 / 井浦 新
監督:孫 明雅

【公式サイト】
https://k2pic.com/film/trophy

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/466327/index.html


Profile

孫 明雅

そん・みょんあ●1989年生まれ、大阪出身。在日コリアン3世。関西大学卒業後、テレビの制作会社に勤務。2017年より分福に所属。西川美和監督の『すばらしき世界』、是枝裕和監督の『ベイビー・ブローカー』で監督助手を務めた。そして初監督作品である短編映画『夢のつづき』がショートショートフィルムフェスティバル&アジア2025秋の国際映画祭で上映された。本作『トロフィー』が長編デビュー作となる。