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田村茜の同名漫画を桜田ひよりと木戸大聖のW主演で映画化
映画『モブ子の恋』風間太樹監督インタビュー

田村茜の同名漫画を、「silent」や『バジーノイズ』の風間太樹監督が桜田ひよりと木戸大聖のW主演で映画化した『モブ子の恋』が、6月5日(金)より、テアトル梅田ほかにて公開される。

人見知りで積極的な行動が苦手な主人公・田中信子が、同じスーパーでアルバイトをしている入江への初めての恋の芽生えをきっかけに、相手との距離を縮めようと少しずつ努力する姿と、恋愛や就職活動を通して自分を見つめ直す様を描く。

W主演の桜田ひよりと木戸大聖に加え、早瀬憩、唐田えりか、草川拓弥、荒木飛羽、古舘寛治らが共演している。そんな本作の公開に合わせ、風間太樹監督が作品について語った。

──風間監督は原作のどういうところに魅力を感じられたのでしょうか。

対人関係もそうですが、恋愛においても、信子が切実に人のことをちゃんと見て、思いやり、心を配って、心を尽くして、ひとつひとつの言葉を届けている姿を、不器用とも、逞しいとも思いました。そして、信子が自分を律して胸を張り、歩みを進めていく姿を、すごく応援したくなりました。今、応援したくなったと客観的に言いましたが、信子の気持ちがよくわかったということが大きかったですね。

──監督自身が信子に共感できた、と。

そうですね。人に対して足踏みしてしまった時に、自分の頭の中で巡ってるモヤモヤを言語化してもらった感覚もありましたし、自問自答しながら、結局安全な場所から声を発してしまうことは自分も経験があると思いました。そんな彼女が一歩踏み込んで恋愛感情を伝えようとするときの淀みやいじらしさ、就活の様子も描きながら、信子が自己を表現する言葉を獲得していく姿に視点を集めていきたいと思いました。

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──『バジーノイズ』でも主演を務めていた桜田ひよりさんが主人公の信子を演じていますが、信子役を桜田さんにと思われた決め手は何だったのでしょうか。

どういった方に信子を演じていただきたいか考えながら本作のシナリオと向き合う中で、信子役のキャスティングは、この作品の全てを左右するくらい大きな選択になると感じていました。演じ手の性質と、信子の内省がイコールになり得るかーー要点を絞って考えるとひよりさんに委ねることに迷いはありませんでしたが、ひよりさんのお芝居やひよりさん自身と向き合っていく中で、僕自身が、まだ見たことのない「桜田ひより」を本作で見てみたいと思えたことも大きかったと思います。

──なるほど。

『バジーノイズ』の宣伝活動を通して、ひよりさんの多面性に触れる時間がありました。あるラジオの収録の時に、自分たちの性格の話になって、僕自身は自信よりも不安の方を強く抱いてしまうという話をしたんです。

その不安に共感しながらも、ひよりさんの言葉からは人間関係の様々なプロセスのなかで、しっかりしなきゃいけない、とか、いつも他者に気を配るべし、という自分への厳しさのようなものと、自己表現をものすごく慎重に選びながらも、内面にはしゃんとした答えを持っている人、という印象を持ちました。人をよく見て、慮る。とでもいいますか。それも田中信子という主人公を描く際に必要な要素だと感じたので、そういう裏付けに背中を押されながら、期待感を持ってキャスティングしました。

──前作の宣伝期間中に、信子と桜田さんに近しいものを感じられたんですね。

根本的な性質の近さみたいなものは漠然と感じたかもしれません。

──原作はモノローグというか、心情語りが饒舌でしたが、本作は信子の表情から、いろんなものを感じ取る映画だったので、すごく意外でした。

原作を読んで、心で唱えている自問自答こそ、信子を信子たらしめている不器用で誠実な魅力だと感じていました。モノローグがあることで信子の迷いも想いも、読み手のこちらに痛いほどの共感を伴いながら届いてくる。ただ、せっかく映画にするのであれば、その心でうごめく感情を映像として可視化する方向に変換しなければいけないとも思ったんですよね。

──心の声を映像で表現しようと思われたんですね。

もうひとつは、恋愛においても就職活動においても信子が"自己表現する"ということが物語にとって大きな意味を持つ映画になるので、心のうちにある言葉、表情から見えてくる感情に想像性を持っていただくことも、映画としては重要と考えました。信子はあらゆる局面で立ち止まり、都度"沈黙"、"葛藤"しますが、その脳内世界にカメラが入ることで、原作にあるモノローグの気分を映像に昇華させようと試みた、という感じです。

──『モブ子の恋』というタイトルもあって、ラブストーリーがメインなのかなと思いましたが、就活のシーンにも重きが置かれていました。

本作の企画が始まった当初、ラブストーリーの内側でどんなテーマを据えるべきかを考えて、信子が自己受容に向かう物語をテーマに据えよう、と。それは自己理解でもあり、自己肯定に向かう話とも言えるかもしれません。恋愛と就活は異なるもののようですが、自分はどんな人間で、どんな言葉を持っていて、何を伝えたいのか。自己を表現するという行為の近さ、自分という人間の素顔を差し出さなければならない困難が似ていると感じます。縦の大きなテーマとして"自己受容の物語"を据え、恋愛も就活も縫い合わせるように物語を作っていきました。

──では、就活を描く上で、どのようなことをイメージしながら描かれたのでしょうか。

就活というのは、逃れられない場所というか、ある意味では、自分という人間が物差しで測られてしまう状況ですよね。裁かれると言ってもいい。あなたは面白いとか、良くないとか、そういった言葉で裁かれてしまう場所でもあると僕は思っていて。そういったものに向かっていく中で、信子は自分自身を理解しようとする。そのドラマを際立たせるためには、厳しさも必要だと思いながら描きました。

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──信子が自分自身を理解するためには厳しさも必要だったんですね。その信子が恋をする入江くんを演じたのが木戸大聖さんでした。観る前は、原作の入江くんの印象とは少し違うように感じましたが、観始めると木戸さんが入江くんにしか見えなくなりました。

木戸くんは、原作の入江の輪郭と完全一致しているわけではないと思います。原作の入江は、もっとぶっきらぼうで、クールで、何を考えてるかもちょっと読みづらい人だと思います。木戸くんが入江を演じたことで、柔らかな存在になったといいますか、ちょっと丸みを帯びたというか。その輪郭同士がぶつかり合うことも面白いんじゃないかと思っていたところもありましたし、相対的に「入江博基」という人を魅力的に演じ抜いてくれたと思っています。

──そうですよね。

木戸くんも当然のように情熱を秘めていますが、人をよく見ていて、言葉遣いやコミュニケーションの方法は軽やかで誠実です。そして大前提として、人に圧力を感じさせない人なので。この作品の柔らかさや、ポカポカしたノスタルジックな雰囲気にも、かなり親和性はあるんじゃないかと想像していました。

──木戸さんと桜田さんの相性がすごく良かったと思いましたが、おふたりの相性が合うという予感はあったのでしょうか。

そればかりは顔を合わせてみないとわからないなと思いながらも、どこかで、このふたりが並んだら心地良い空間が生まれるだろうなという予感はありました。ふたりを中心にふわっと空気が広がるような、柔くなるようなイメージは感じていたかもしれません。

──桜田さんと木戸さん、おふたりとも笑顔の素晴らしい役者さんだと思います。でも、本作ではある意味、笑顔を封印したというか、木戸さんが口角をあげたのは1回あるかないかぐらいでした。監督の中には、感情表現を抑えてもらっても、ふたりなら大丈夫だという確信をお持ちだったのでしょうか。

普段よりも感情を表に出すことをセーブしてもらった感覚はありました。というのも、ふたりの感情表現が豊かなので、ちょっとしたニュアンス雄弁になり過ぎてしまうと言いますか。要するに、大きな感情として観客に届いてしまう。そうすると"らしくない"が始まってしまう。1センチではなく、1ミリの表出でしか伝えられない種類の機微がたくさんあるので、そこは堪えてもらいつつ。ただふたりの笑顔は、僕も大好きですよ。

──そうですよね。

抑制した温度でお芝居を考えることで、感情が表情や手足などに現れる意味を保ちながら、物語の点を打っていきましょうと伝えました。特に木戸くんは、感情を出したいはずなのに我慢してもらう撮影が多かったので、その我慢に意味を持たせることは難しかったと思います。作劇として、というよりも、感情の部分で嘘をつかずに演じることの方が大切です。ただ、堪えるということが、シーツに溜まった空気みたいに、キュッと押したら他のところがポンと弾けるような感じで、引き算した分だけ"素顔"の威力があがったりして。木戸くんも面白がって自分に取り入れてくれたので。その貪欲さに救われました。

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──信子も入江も言葉が多いわけではないので、 "間"が、すごく大事だったと思います。信子や入江ならではの、他の人とは違う"間"については、どのように演出されたのでしょうか。

今おっしゃったように、信子も入江もそれぞれの"間"を持っています。彼らの背景に広がっている経験や理由を思い浮かべることで、共通の"間"、独自の"間"について掴んでいってもらった感じでした。入江は、信子のように誰かの前で足踏みをした過去があること、積極的に人と深く関われなかった沈黙の時期があったこと、そういった経験があるからこそ、自分の頭の中でよく考えて、間違えないように言葉を探す"間"があること。頭の中で高感度なセンサーを潜り抜けた言葉は入江を表す結晶のようなものと捉えています。

一方で信子には、自分が他者に向ける言動を一度脳内シュミレーションする、という癖があったり、感受性豊かであるために自己の心象風景の中で激しい感情がうごめいていたり。この辺は映像表現の工夫として、川や嵐などのイメージシーンを組み込んでいます。とにかく頭の中で自問自答を繰り返してしまう"間"。それぞれに個性のある"間"、沈黙とも言うのかもしれないですが、があるんです。今、"間"が大事だと言っていただいたのでお話すると、僕は『コット、はじまりの夏』という映画が好きで。

──2024年の1月に劇場公開されていた、9歳の寡黙な少女が過ごすひと夏を描いた映画ですよね。私もすごく好きな映画です。

この映画も、主人公の少女コットがあらゆる状況を前に言葉少なに佇む時間が長く描かれていて。コットが親戚の家で過ごす夏休みを描いた物語でしたが、彼女が沈黙の中で、親戚夫婦の優しさと感傷に静かに寄り添い、心をあたためていく姿にこそ映画の魅力があって。コットが沈黙を貫いて、その沈黙の中で自分の心に向き合っていく部分に本作との近さを感じて、個人的に理想の映画だなと思いながら観ていた作品です。

──『コット、はじまりの夏』は、すごく派手な出来事が起こる物語ではありませんでしたが、ラストシーンのコットが自分の家に帰っていく場面は、確か、ほとんど言葉はなかったと思いますが、コットの感情が爆発してるように感じました。

言葉はなくとも、彼女の中で揺れている感情が手にとるようにわかった。情景の使い方も非常にうまく、表現に対する勇気をもらった作品でもあります。

──映像で感情を表現するのは、やはりチャレンジングなことだと思います。それでも、本作では信子の言葉が少ない分、背景や照明などで感情が表現されていたように感じました。特に、信子にいいことがあった時に、最初は暗い道を走っていたのに、徐々にライトが点いていく演出は印象的でした。

ありがとうございます。信子の心象が現れるような光の使い方や情景的な開放感など各所に散りばめたつもりです。先ほどおっしゃった、うどん屋さんで入江と連絡先を交換した、神社の帰り道では...。

──最初は真っ暗でした。

鳥居をくぐったあたりから温かなライトが差し込んで。流れ星が流れたり。信子の心象が、妄想と現実の間にあるように、それだけ恋をすることの多幸感を込めて描こうと思ったシーンでした。実は、ああいった映像ギミックが随所にあるので。ただ、さり気ない妄想もあるので、全てを発見していただけるかはわかりませんが、知らず知らず信子の気分として受け取ってもらえたら良いな、くらいの気持ちで映像の工夫を凝らしています。表現に気づいてほしいというよりは、信子の気持ちの温度となって観客に届けばいいなと思って試みています。

──今思うと『バジーノイズ』でも、監督は光の使い方にすごくこだわってらっしゃったような気がします。序盤の、桜田さん演じる潮が、川西拓実さん演じる清澄の部屋の窓ガラスを割るシーンは、桜田さんの後ろから光が差していたのを、写真のように記憶しています。監督は光で心情を表現するのがお好きなのでしょうか。

『バジーノイズ』は、閉じこもった部屋に新たな兆しというか、風が吹き込むという、空間と光への意識が常にありました。今回は、信子にとっての理想や遠い存在を表現する"光"と、自分のいる場所"影"というモチーフが全編を通して変化していく物語になります。そういう光のギミックを心象風景として溶け込ませるのは、多分好きですね。「silent」でもやってました。

──監督は「silent」や「海のはじまり」など、ドラマも撮ってらっしゃいますが、ドラマと映画で表現を変えることはあるのでしょうか。あるとすれば、映画の時はどのようなことを意識してらっしゃるのでしょうか。

特段、意識しないようにはしています。描かれる尺も違いますし、映画の場合は映画館というひとつの箱に閉じこもって観てもらうので環境が全く違います。そういうところに使い分けという部分はあると思いますが、基本的には同じ心意気でやっている感覚です。

特に「silent」では、プライム帯のドラマという気負いもありましたが、たくさんの声援をいただいたこともあって、かなり自由に、いろんな表現をさせていただくことができたと思っていて。どれだけ映画的に画面を切り取ったとしても、面白がって見てもらえた実感があったので、そういった体験が、映画とドラマを隔てることなく挑戦できている理由かもしれないです。

──なるほど。タイトルに「恋」という言葉が入っていますが、信子と入江の成長を描く物語のように感じました。『バジーノイズ』もそうでしたが、恋愛だけを描くのではなく、成長を描く方が共感する方も多いように感じています。物語の中の恋愛の分量について、監督はどのように意識されていたのでしょうか。

『モブ子の恋』と、タイトルに「恋」がある以上、ラブストーリーに実直に向き合おうと思いました。でも、現代を生きる皆さんにとって、男女関係において恋愛というものが必ずしも大きな意味を持っているかどうかといえば、そうではないこともあると思うんです。人と人が繋がる中で、思いを持ったり言葉で伝え合ったりすることで、いい関係を紡いでいくことはもちろんあるし、さまざまな在り方があって然るべきです。だから本作も、信子と入江、ふたりなりの歩み寄りをしっかり描くことができればと思いました。恋愛だからこういう関係になれたというよりも、ふたりが自分らしく生きるために歩を進めた。その一歩を、大切なものとして見つめる映画するために"自己受容の物語"という縦糸を縫ったのだと思います。

取材・文/華崎陽子




(2026年6月 3日更新)


風間太樹監督

Movie Data




(C) 映画「モブ子の恋」製作委員会

『モブ子の恋』

▼6月5日(金)より、テアトル梅田ほかにて公開
出演:桜田ひより 木戸大聖
早瀬 憩 唐田えりか 草川拓弥 荒木飛羽
蒼戸虹子 占部房子 吉田ウーロン太 TheWorthless
中村優子 古舘寛治
主題歌:にしな「クローバー」(ワーナーミュージック・ジャパン)
原作:田村茜『モブ子の恋』(ゼノンコミックス/コアミックス)
監督:風間太樹

【公式サイト】
https://mobukoi-movie.jp/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/411250/index.html


Profile

風間太樹

かざま・ひろき●1991年生まれ、山形県出身。東北芸術工科大学映像学科卒業。東北芸術工科大学映像学科卒業。AOI Pro.所属。大学在学中は映画監督の根岸吉太郎・前田哲に学ぶ。2014年、AOI Pro.入社。監督助手を経て『チア男子!!』(19)で長編デビュー。その後、ドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(20)が好評を博し、アジアを始め全世界に配信され、映画化も果たす。22年放送のドラマ「silent」は社会現象とも言える広がりを見せ、最年少で大山勝美賞を含む各賞を受賞した。そのほかの作品に映画『バジーノイズ』(24)、ドラマ「うきわ−友達以上、不倫未満−」(21)、「海のはじまり」(24)など。NETFLIX映画『余命一年、男をかう』の公開も控えている。