ホーム > インタビュー&レポート > 田口トモロヲ監督が峯田和伸&若葉竜也のW主演で 日本のロックに革命を起こした 若者たちの伝説的なムーヴメントを描く 映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』 田口トモロヲ監督インタビュー
──まずは、原作の「ストリート・キングダム」を基に、1970年代後半の日本のインディーズ音楽シーンを映画化したいと思われた理由は何だったのでしょうか。
地引さんの「ストリート・キングダム」を読んで、僕にとって尊敬する大好きな先人たちのことを書いた本だったので、これだ、と。僕は、この人たちの背中を見ながら様々な活動を始めたんですが、あまりにもこの人たちのことが語られてないなと思ったのが始まりです。今、日本ではロック・フェスが大隆盛時代じゃないですか。ひとつのイベントで何万人も集めるような。SNSやネットで調べようと思えば何でも調べられる時代なのに、この人たちのことは全く知られてないことが解せなかった。
──なるほど。
パンクのニューウェーブが日本に入ってきた時にいち早く自分たちの引き金にして、いろんなことを開拓した人たちなのに知られてない、これは自分が作るしかないと思いました。とにかくこれを世の中に出したい、自分が世に出せる形はなんだと考えて、映画だ、と。よし、映画にしようというのが始まりでした。
──1978年と言えば、ピンク・レディーの全盛期だったんですよね。約50年前を舞台にしながらも今と繋がっているような、今も彼らはどこかにいるように感じる物語になっていました。それでいて、ノスタルジックに感じなかったのですが、ノスタルジーに寄りすぎないように気を付けてらっしゃったのでしょうか。
この頃の彼らのパンク精神は今に繋がっていて、その上、今の人たちが演じるわけだから、過去の世界観を描きながらも昔を回顧するのではなく、今に向けて開いている映画にしようというのは最初から考えていました。
──1978年が舞台の作品を撮られたことで、特に苦労した部分はどういうところだったのでしょうか。
苦労したのは立ち上げですね。2015年に「ストリート・キングダム」を映画化しようと思って、撮影は2024年だったので、結果的に10年近くかかってしまいました。最初は原作寄りのドキュメントタッチの作品で、プロデューサーを通して様々な方に読んでもらいましたが、全くわからない、理解ができないと言われて、今の形になるまで試行錯誤と変更と迷走期も含めて、皆が観たいと思う作品に仕上げるのに時間がかかってしまいました。
──では、撮影する中で楽しいと感じたことはどういうところでしたか。
自分の好きな世界観を映像化できるのは楽しかったですね。喜びでしかなかったです。
──特にライブハウスのシーンは、すごく熱量が高かったように感じました。
ライブハウスに関しては全く残ってないので、全部セットを作ったんです。
──そうだったんですね。どうやって撮ったのかな?と思いながら観ていました。
僕の監督1作目の『アイデン&ティティ』から組んでいる美術の丸尾(知行)さんが「ないのは全部作るから」と言ってくれたので嬉しかったですね。
──全部作ってくださるというのはすごいですが、改めて考えると、いろんなものがなくなってるということですよね。六本木の風景も全然違っていましたから。50年の間にすごく変わりましたね。
50年も経ってたことにも驚きました。
──この映画の中にも、峯田さん演じるユーイチの「たった1年前だよ」という台詞がありますが、たった1年でこんなにいろいろなことが変わったんだと思って驚きました。
そうですね。そのくらい濃密な1年だったんだと思うんです。物語として立ち上げて、自分でも改めて考えて1年なんだと驚きました。
──本作でミュージシャン役を演じてらっしゃるのは、ほとんど俳優さんですが、ミュージシャンではなく、俳優さんに演じてほしいと思われたのでしょうか。
逆に、はまけん(浜野謙太)さんや(渡辺)大知くんなど、ミュージシャンの方にはミュージシャンではない役をお願いして、俳優さんにミュージシャンをやってもらうという天邪鬼なキャスティングにしました。

──もうひとりの主役であるモモを若葉竜也さんが演じてらっしゃいますが、ご本人の写真を見ると、佇まいが似てるように感じました。
映画を観た方によく「似てますね」と言われるんですが、それはやっぱり俳優さんの力だと思います。できる限りの音源や資料をお渡しして学習してもらって、俳優さんが感じたもので役を作ってほしかったので、似させることに苦心してほしくはなかったんです。過去にいた実際の人たちのスピリットを演じてほしかったので。逆に、僕からすると、似てなくても良いと思っていて、映画マジックなのか、パンクマジックなのか、ロックマジックなのかわかりませんが、似てると思ってくださるんだとしたら嬉しいです。
──特に、後半の若葉さんとモモは同一化しているんじゃないかと思うくらい、シンクロしているように見えました。
若葉くんには「東京ロッカーズ」のムーヴメントが終わった後は、自分の心情とシンクロさせてくれという演出をしたんです。他の人にも何人か同じように演出したことを今、思い出しました(笑)。誰かを演じることよりも、その人たちの資料を見て自分がどう思ったかということを表現してほしいと。後半は特に、大きな祭りが終わって、若葉くんのモモだったらどうする?どう思う?という演出をしました。
──だから、彼ら自身がそこに存在しているように感じたんですね。
今回の撮影で、改めて俳優ってすごいなと思いましたね。
──そんな中、異彩を放っていたのが「解剖室」の未知ヲを演じた仲野太賀さんだったと思います。文化祭の事務局の人との「なんで普通に歌えないの?」という噛みあわないやり取りがすごく面白かったです。映画の流れとして、冒頭に仲野さんのシーンを持ってくることで、こういう映画だと示すような意図はあったのでしょうか。
やはり、最初に強烈なパンチを出してもらいたいと思いました。わかりやすく言うと掴みですね。

──あのシーンで、この映画は絶対面白いと思いました。
あの話も事実ベースですから。「ザ・スターリン」といくつかのバンドが富山大学の学園祭に行った時の。
──冷静に考えると、すごい話ですよね(笑)。
そうなんですよ。それがピンク・レディーと同じ時代に行われていたんです。この当時は、メジャーかマイナーしかなかったんです。レコードを出すにはメジャーデビューするという考え方しかなかったのに、この映画のコピーにありますが、彼らはなければ自分たちで作ればいい、と。日本に入ってきたパンクの思想を引き金にして活動を始めた彼らこそが開拓者だと僕は思っています。
──確かに、インディーズやオールスタンディングという概念を生み出すなど、彼らこそが先駆者だったんだと感じました。それで言うと、監督がプレスに『24アワー・パーティー・ピープル』について書かれていたので、本作を観てから拝見しましたが、うねりのようにムーヴメントが起こっていく描写が似てるように感じました。
僕の大好きな映画です。ちょうど『アイデン&ティティ』の頃、2003年に日本で公開されて、日本でどうしてこういう映画が撮れないんだろう、作られないんだろうと思っていて。じゃあ、僕が作ればいいんだという結論に至りました。
──それが、この映画に結実したんですね。『24アワー・パーティー・ピープル』のマンチェスターの空気感と、本作の東京の空気感が似てると感じるのもすごく面白いと思いました。
あれもムーヴメントの最初、マッドチェスターと呼ばれていたシーンの勃興の部分を描いているので、その昔、1978年の日本では...というのを描いたのがこの映画です。
──峯田さんはもちろんですが、大森南朋さん、中村獅童さん、マギーさんも本作には出てらっしゃるので、『アイデン&ティティ』との繋がりも感じる作品でした。監督にとって監督デビュー作である『アイデン&ティティ』はやはり特別な存在なのでしょうか。
そうですね。みうらじゅんさんと知り合って、みうらさんの作品を読むようになって、みうらさんが「大島渚」というバンドを組んでイカ天に出た時の話を実話ベースで書かれた「アイデン&ティティ」を読んで、純粋に感動したんです。これは面白い、と。そして、最後の「やらなきゃならないことをやるだけさ。だからうまくいくんだよ」というディランの言葉にとても感動して撮った映画だったので、好きなのはもちろんですが、自分しか撮れないだろうという作品だったと思います。
──『アイデン&ティティ』を撮る前から、映画を撮りたいという思いはお持ちだったんですか。
チャンスがあれば監督もやってみたいなとは思ってました。
──こんなに作ることになると思ってらっしゃいましたか。
こんなにって言っても、まだ4作ですから。自分しか撮らない、自分しか撮れない映画を見つけたいという思いで「ストリート・キング」を映画化したので、この後もそうかもしれないですね。これは自分しか撮らないだろうというテーマをまた見つけて撮るのかな、という気はしてます。
──『アイデン&ティティ』でも峯田さんが主演を務めてらっしゃいましたが、その当時、演技経験のなかった峯田さんに主人公を演じてもらった理由はどのようなことだったのでしょうか。
ミュージシャンの方に主役をやってほしかったので、いろんな方のライブを観に行って探したんですが、なかなか見つからなくて。後10日でクランクインしないと映画の制作が流れてしまうタイミングで「GOING STEADY」の「若者たち」というPVを見て、度肝を抜いて面白いと思って。口とアクションがシンクロしてないPVで、それに加えてプロレスのごとく大暴れしてて。その頃の峯田くんが、おばちゃんのパーマが伸びたような髪型で、これはストレンジでいいかもしれないと。たまたま、事務所が僕の家の近くだったので、知り合いを通じて会って、どんな人なんだろうと思ったら、すごく礼儀正しくて。
──イメージできる気がします。
そのギャップと、峯田くんが「アイデン&ティティ」を好きだと言っていて。役者をやるなんてことは考えてないけれども、もしやるなら「アイデン&ティティ」だったらやりたいと言ってくれて、そこで即決しました。
──そうだったんですね。峯田さんは監督の作品全てに出てらっしゃって、今回もすごく重要なユーイチという役を演じてらっしゃいますが、監督は峯田さんのどういうところに一番魅力を感じてらっしゃるのでしょうか。
やっぱり人間力ですね。『アイデン&ティティ』からもう20年以上経ってるんですが、未だに青春の尻尾みたいなものが見え隠れしていて。峯田くんには常に僕の作品に出てほしいと思ってます。
──『色即ぜねれいしょん』の主役は「黒猫チェルシー」の渡辺大知さんでしたが、監督の中で、主役の決め手になるポイントはどういうところにあるのでしょうか。
僕が選ぶというよりも、やっぱり作品に選ばれるというか。なんだかんだ言っても最終的には僕が選んでるんですが(笑)、作品に選ばれる必然性を持ってる人という感覚です。だから、常に峯田くんが主役かというと、そうではなくて。その作品や脚本が持ってる必然性があると思うんです、配役には。それを見逃さないように心がけています。

──ハマケンさん演じる音楽ライターと「東京ロッカーズ」のメンバーが、売れる売れない、ロックじゃないなど、噛みあわないやり取りをするシーンがすごく面白く感じました。あのシーンにパンクとはこうなんだ、みたいなものが詰まってたと思いますが、あのシーンはどのような思いで撮られたのでしょうか。
あそこは、この物語の全体性、「東京ロッカーズ」の人たちの思想と、一般の人たちが考えるメジャーな音楽との対比をきちっと説明しないといけないと思って撮ったので、物語の中ですごく大切なシーンですね。
──レッテルを貼ろうとするメジャーと、そうではない彼らの対比が、あのシーンで表現されていたように感じました。
そうですね。当時の世間の大人からしたら、すごくわかりづらい人たちだったんだと思うんです。じゃあ、どうしたいの?って。
──そうですよね。
お金欲しくないの?いい車乗りたくないの?と思われてたと思います。そんな風に、すごくわかりづらいことを真っ先にやってるからかっこいいという価値観が、まだ世間では薄かったんだと思います。よくわかんねえんだよ、あいつらみたいな感じだったと思うんです。
──なるほど。
それこそが今に繋がっている。ある意味、彼らはオルタナの走りですよね。そういうものを日本で初めて作った存在だったと思います。
──今の時代だからこそ通じるというか、こういう生き方いいよねと思えるような気もします。50年経ったからこそ。
時代が彼らに追いついたんですね。
──そうですね!
僕がこの映画を発表する時期もちょうど良かったかもしれない。
──確かに。もしかしたら、10年前だったら全く違う受け取り方になっていたかもしれませんね。
そうですね。全然キャストも違ったでしょうし。この時間が必要だったのかもしれないですね。
──彼らがSNSも何もない時代に活動していたことを思うと、今だからこそ余計に彼らのすごさがわかるのかもしれません。やっと彼らに追いついたんですね、時代が。監督が映画化まで10年かかった意味もそこにあったのかもしれないですね(笑)。
そうだったんですね。僕も今、そうだったのかと思いました(笑)。
取材・文/華崎陽子
(2026年3月24日更新)
▼3月27日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開
出演:峯田和伸 若葉竜也
吉岡里帆 仲野太賀 間宮祥太朗 中島セナ
神野三鈴 浜野謙太 森岡龍 山岸門人
マギー 米村亮太朗 松浦祐也 渡辺大知
大森南朋 中村獅童
監督:田口トモロヲ
原作:地引雄一「ストリート・キングダム」
脚本:宮藤官九郎
音楽:大友良英
エンディング曲:「宣戦布告」峯田和伸/若葉竜也
【公式サイト】
https://happinet-phantom.com/streetkingdom/
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/451539/index.html
たぐち・ともろを●1957年生まれ、東京都出身。
俳優歴:1978年「発見の会」で演劇デビュー。映画『俗物図鑑』(82/内藤誠監督)で映画デビュー。89年『鉄男』(塚本晋也監督)で主演。以降、映画・ドラマ・舞台と幅広い作品に出演。近年の出演作に「サンクチュアリ-聖域-」(23/Netflix)、「忍びの家 House of Ninjas」(24/Netflix)、『嗤う蟲』(25/城定秀夫監督)、『片思い世界』(25/土井裕泰監督)等。「新プロジェクトX〜挑戦者たち〜」、「洋楽主義」でナレーションを担当中。
音楽歴:1982年「ガガーリン」を経て、84年「ばちかぶり」を主宰。
監督歴:『アイデン&ティティ』(03)でデビュー、『色即ぜねれいしょん』(09)で新藤兼人賞銀賞を受賞、『ピース オブ ケイク』(15)を手がける。