ホーム > インタビュー&レポート > ブレンダン・フレイザー主演で、 日本を舞台にレンタル家族を題材に描く人間ドラマ 映画『レンタル・ファミリー』HIKARI監督インタビュー
──本作の発端はレンタル家族事業だと思いますが、どのように脚本を練り込まれたのでしょうか。
レンタル家族事業は、日本人である私でもびっくりする内容のビジネスでした。でも、調べてみたら300社ぐらいあって。それだけこの事業に需要があって、人が人とのコミュニケーションを求めてることに驚きました。そこから脚本を作るにあたって、私がアメリカで経験した、自分だけがアジア人だったことを真逆にして、主人公は日本に住む白人の男性にしました。国が違っても、お互い理解し合って、そこで生まれるラブやフレンドシップを大切にしながら、どんどん要素を足していきました。
──なるほど。
最後のシーンは、私が絶対やりたいところだったので、そこから逆算して、どのタイミングでこのシーンを入れるのか、誰がこの話をするのかを考えました。いろんな役柄の人たちのメッセージや抱えてるものをちゃんと回収する必要があったので、スプレッドシートみたいなものに、どういう順番にするのが一番いいのか、ち密にレイアウトしていきました。
──フィリップ役のブレンダン・フレイザーさんは最初に決まったのでしょうか。
脚本は頭に誰も思い浮かべずに書くので、書き終わってから、誰にしようか考えました。脚本を書く時は30代後半から40代前半を思い描いていたんですが、ブレンダンが脚本を読んで「すごく面白い」と言ってくれていると聞いて、少し年上だけど、面白いかもと思いました。その後で彼が主演を務めた『ザ・ホエール』を観てピンと来たので、もう彼しかないと思いました。お互いに求めていたものがマッチングしたんだと思います。本当に彼に出会えて良かったと思っています。

──電車の座席に窮屈そうに座ってる姿は、彼でないと表現できなかったと思います。
そうですよね。フィリップが日本に住んで7年の設定なので、日本の人たちのスペースを尊重して日本人のように振る舞うことで、日本のコミュニティに属したいという彼の気持ちが、その仕草に現れるように話をしました。隣に座ってる日本人のおじさんの方がどーんとしてて、彼の方が小さくなってるところに彼のキャラクターが現れてますよね。フィリップの意識はどこにあるのか、ブレンダンとしっかり話すことができたからこそだと思います。
──フィリップが記者として派遣されるベテラン俳優の長谷川喜久雄を柄本明さんが演じていました。ブレンダンさんと柄本さん、ふたりの醸し出す空気感が素晴らしいと感じました。監督は、最初からこんなに波長が合うと予想されていたのでしょうか。
そういった予感はなかったですが、長谷川喜久雄役も英語が話せないとダメなので、柄本さんにもオーディションに来ていただきました。結果、柄本さんとブレンダンが、お互いに役者として尊敬し合ってるところが良い方向に向かったんだと思います。
──なるほど。言葉の壁はどのように乗り越えられたのでしょうか。
ブレンダンは日本語、柄本さんは英語をしゃべれません。でも、私はお芝居の基本は全てリスニングだと思っていて。とにかくアクティングは、相手の話を聞いて、それに対してのリアクションによって、会話が続いていく、と思うんです。言葉がしゃべれなくても、相手の言動を100%理解して、それに対して、あたかも理解しているようにリアクションしないと、シーンとしてまとまらなくなる。でも、ふたりは同じ言葉をしゃべれなくても、そこに気持ちがちゃんと入っていたので、撮影中に彼らの姿を見て、ふたりにお願いして本当に良かったと思いました。
──同じ言葉をしゃべれなくても、お互いの真意はちゃんと伝わってるようにしか見えませんでした。英語と日本語で話していても、心で会話しているように感じました。
ブレンダンも柄本さんもそのシーンの中で何が起こっているのかということを深く理解してくれていたからこそ、そういうことができるんですよね。お芝居だけ、台詞を言えばいいというだけでは、この映画は成り立たなかったと思います。

──監督の映す東京の風景が、外国の監督とも日本の監督とも違うように感じました。風景を映す際にどのようなことを意識してらっしゃるのでしょうか。
私はめっちゃこだわる人間なんで、めちゃめちゃ時間はかかりました。シーンの合間に街を描写するにあたって、ふたつのことにフォーカスしました。ひとつめは電車。人々が電車に乗って、A地点からB地点に移動することでシーンを繋げていく。もうひとつは、街の中に映っている建物には何万人もの人が住んでいるということ。一見すると、何でもない風景でも、その何万人の人たちは私たちの一部でもあるということを、観客の方に、少し客観的に見える映像でお見せしたいと思ったので、そういうところにフォーカスして映像を選びました。
──なるほど。だから、部屋の明かりひとつひとつに誰かが存在しているように感じられたんですね。
例えば、最初の方に、富士山の下に街が広がっている描写があるんですが、それは富士山を映したというよりも、日本の象徴の富士山の裾に広がる、末広がりのところに私たちが住んでいるんだということを表現したかったんです。そんな風に、ひとつひとつの絵に、こだわって撮りました。
──東京タワーが映っていても、東京タワーがメインなのではなく、東京タワー以外の夜景の光の中に人がいるということですよね。
そう感じていただいてすごく嬉しいです。私たち人間の存在も夜景の一部なので。
──風景もそうですが、窓からフィリップが向かいのマンションの部屋を見ているシーンも印象的でした。そう思うと、部屋の中にいたカメラが外に出て、外から部屋の中を映すシーンもありました。
窓から見える部屋に住む、その人にも人生があって、ストーリーがあって。その一方で、そこに映ってるのは実は自分でもある。冒頭、フィリップは窓を通して人を見ています。それは、彼が行き詰まっていて、そこから出る勇気がないから。フィリップが、ガラスの箱の中に閉じこもってるイメージを表現したくて窓越しで撮りました。その後も、(レンタル・ファミリーで父親のふりをする)美亜ちゃんと話すために練習している時は外に出るんですが、途中で中に入ってしまうんです。
──確かに、そうでした。
でも、その後、様々な人と出会ったことによって、フィリップは外に出るんですよね。フィリップの心がオープンになっていく姿を、どうやったら表現できるか考えました。
──フィリップの部屋の変化で言うと、最初は部屋にほとんど色がないように感じました。コンビニかスーパーで、安くなってるお弁当を買ってきているのがちらっと映るからこそ、切なかったです。
半額って(笑)。半額のシールを象徴して撮ろうとしたんですが、必要ないと言われてしまって(笑)。これは、日本人にしかわからないので。海外の人はわからない。50%オフって書いてたらわかるかもしれないですが。
──漢字ですもんね。
実は、日本人にしかわからないところが結構あります(笑)。
──それに気づくのも本作の面白さかもしれませんね。その後、美亜ちゃんからもらったある物をきっかけに、彼の世界が色づいていきますが、色の使い方も前半から後半で変えられたのでしょうか。
脚本を書いてる時点でかなり考えました。全体的にはクールなトーンで、プロダクション・デザインの中で青や水色を出してもらいました。だから、最初のお葬式の鯨幕も青なんです。
──確かに、青色でした。
それは、最終的に何を示してるかというと、彼が最終的にたどり着くところが、島や海、山であるということを意味していて。(美亜とフィリップが訪れる)チームラボの廊下や背景にも海が映し出されますが、全部、計算してあの場所を選びました。
──なるほど。最後に繋がるように。
よく見ると、波の上を蝶々が飛んでるんです。波は喜久雄さんを示していて、波形はフィリップの心の荒れ、その上にすごく華やかな色の蝶々が飛んでるんですが、彼の意識の中に美亜ちゃんが入ってきてることをイメージして、背景を選びました。
──そうだったんですね。
でも、チームラボの映像は設定できないので、追いかけるしかないんです。だから、「海が来ました!」とか言い合って。海は来たけど、海の色が違うこともあって。次は蝶々が来たと思ったら、海が来なくて、海は来たけど蝶々が来なくて。そういうのを繰り返して、一晩で撮ったんですが、大変でした(苦笑)。
──チームラボには、監督が元々ご興味をお持ちだったのでしょうか。
チームラボは日本人の素晴らしいクリエイターたちが日本の人たちにあの異次元の世界を体感してもらうことで、ひとつの壁を壊す、ボーダーをなくすという願いで「ボーダレス」を制作されたのですが、私はそんな彼たちが大好きなんです。想像を絶するアイデアと、最新のテクノロジーで出来上がる世界が、今世界中で注目されています。あの素晴らしい総合アートが日本発であることに私自身誇りを感じているので、世界の人にアピールしたいと思い、絶対にチームラボは映画の中にとり入れようと思いました。
──企画の立ち上げから映画が公開される間に、コロナやストライキなど、いろんなことがあったと思いますが、一番大変だったことは何だったのでしょうか。
他の作品や他の脚本にも携わりながらでしたが、とにかくやるしかないし、どんどん前に走らせないといけないので、準備ができたらゴーという感覚でした。その中でも一番辛かったのは、アメリカに比べると日本に今、スタッフが驚くほど欠けていることですね。例えば、アメリカだったら、役者さんのスケジュールさえ空いていれば、翌月に撮影することも可能なんです。でも、日本はスタッフを見つけないといけない。
──そういう苦労もおありだったんですね。
だから、若者をどんどん育てていかないといけないと実感しました。日本の映画会社、観光省や経済省が今、海外のクリエイターに日本で撮影をしてほしいと本気で望んでいるなら、まず若者を育てなければならない。またそうなると、撮影時間、労働時間を再度改めて見直さないといけない。そうじゃないと日本の映画業界は、いろんな意味で持続しないと私は思っています。現状はかなりシビアです。
──なるほど。今回、日本で撮影されて改めて日本の良さを感じることはありましたか?
日本の良さは、スタッフがハートフルなところと、パッションを持ってやってくれるところですね。それは、すごく嬉しかったことです。その一方で、我慢しないといけないこともありました。例えばロケで撮影する時に、ルールがあるのは当たり前のことですが、東京は特にそのルールの意味が理解できない、はっきりしないところが多いと感じました。もし、私が次に日本で撮影する時は、大阪で撮影してみたいです。
──ぜひ、大阪で撮ってほしいです。監督の映す大阪が見たいです。
私が見る大阪を撮るときっと「じゃりン子チエ」になっちゃいますよ(笑)。
取材・文/華崎陽子
(2026年3月 2日更新)
▼TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中
出演:ブレンダン・フレイザー、平 岳大、山本真理、柄本 明、ゴーマン シャノン 眞陽 ほか
監督・共同脚本・プロデュース:HIKARI
【公式サイト】
https://www.searchlightpictures.jp/movies/rentalfamily
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/427277/index.html
ひかり●大阪府大阪市生まれ。ダンサー、ミュージカルアーティスト、歌手、画家、写真家としての経歴を持つ脚本家、監督、プロデューサー。デビュー作『37セカンズ』(2020)が、第69回ベルリン国際映画祭でプレミア上映され、パノラマ観客賞、CICAEアートシネマ賞のW受賞の快挙を成し遂げ、最優秀新人監督賞にもノミネートされた。テレビ作品には、エミー賞受賞シリーズ「BEEF/ビーフ」のパイロット版監督、アンセル・エルゴートと渡辺謙主演、マイケル・マンがエグゼクティブプロデューサーを務めた「TOKYO VICE」がある。戦後日本を舞台にしたヒューマンドラマ「ツヤコ」(USC 卒業制作作品)は、DGA学生賞最優秀女性監督賞を含む50以上の賞を受賞。実写とアニメーションを融合したファンタジー短編「A Better Tomorrow(原題)」、東京在住のインド人科学者が自動販売機に恋をするコメディ作品「Can & Sulochan(原題)」、トライベッカ映画祭最優秀国際短編映画賞にノミネートされたノンバーバルのダンス短編フィルム「Where We Begin(原題)」などがある。