インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 奈良県御所市を舞台に、渡辺大知演じる主人公が 町の人々と交流する様をモノクロームの映像で描く 映画『道行き』中尾広道監督インタビュー

奈良県御所市を舞台に、渡辺大知演じる主人公が
町の人々と交流する様をモノクロームの映像で描く
映画『道行き』中尾広道監督インタビュー

2019年に『おばけ』でPFF(ぴあフィルムフェスティバル)アワード グランプリを受賞した中尾広道監督の、第28回PFFスカラシップ作品『道行き』が、2月20日(金)より、シネ・リーブル神戸、2月27日(金)より、テアトル梅田にて公開される。

奈良県御所市を舞台に、購入した古民家の改修を進める青年・駒井が、度々様子を見に訪れる元所有者の老人・梅本と様々なことを語り合う姿をモノクロームの美しい映像とともに描く。

『アフター・ザ・クエイク』の渡辺大知が主人公の駒井を演じ、人形浄瑠璃文楽の人形遣い・人間国宝の桐竹勘十郎が梅本を演じるほか、細馬宏通、田村塁希、大塚まさじ、上田隆平らが共演。そんな本作の公開に合わせ、中尾広道監督が作品について語った。

──まずは、なぜモノクロ映像で綴ることにしたのか、その理由をお聞かせください。

静かな旅の話をしたいと思ったのが始まりで、それは空間的な広がりの中を移動する旅ではなく、同じ場所に山積されている時間の層みたいなものを、一枚ずつめくっていくような、つまり縦移動の旅にしたいと思ったんです。そういう縦移動の旅をイメージした時に、カラーで見せるよりも、モノクロの階調の豊かさで表現したいと思って、カメラマンさんに相談しました。

──カラーの可能性もあったということでしょうか。

最初は、一部をカラーにしようかと思っていました。それもモノクロにした理由に繋がってくるんですが、パートカラーにすると、モノクロの部分がどうしても廃れて見えてしまって、モノクロパートがノスタルジックに見えてしまうんじゃないかと。

──過去のシーンだと思われる可能性もありますよね。

おっしゃったように、昭和20年代、30年代のモノクロの写真が劇中で登場するので、あれがモノクロで、それ以外がカラーだったとしたら、あの部分が過去として切り離されてしまうので、あそこを基準にして、そのままモノクロにしました。過去を切り離さず、過去と現在が地続きで続いていて、息づいている様を捉えたいと思ったので、モノクロで統一しました。過去と現在と未来の分断ではなく繋がりを見せたかったので、必然的にパートカラーの案もなくなりました。

──時間の移り変わりを見せたいからこそ、モノクロになったというのもあるのでしょうか。同じ場所での時間の移り変わりを見せようと思うと、カラーにしてしまうと過去と現在がはっきりしてしまう気がします。

そこはそんなに意識してなかったんですが、おっしゃる通り、カラーにすると時期がはっきりしてしまうので、そこをちょっと曖昧にしたい部分もあって、境界を曖昧にするためにもモノクロが必要だったと思います。昭和30年代の街角の風景の写真と、現在の街角を同じ場所で映すところも、カラーとモノクロになると、そこに必要のない時間が発生してしまうというか。スムーズに繋いだとしても、きっと隔たりが出てくるんじゃないかと。そこの垣根は曖昧にしたいと思ったので、モノクロにしました。

──舞台が奈良県の御所市だったことも影響しているのでしょうか。劇中で、今も400年前の地図で歩けるという台詞がありましたが、過去と地続きのまま、その場所で時間が積み重なっている場所だったのも理由でしょうか。

そうですね。いいロケーションというか、暮らすにしても映すにしても、いい町やなと思いました。

michiyuki_sub.jpg

──御所市にお引越しされてからどのくらい経っているのでしょうか。

2021年の10月ぐらいだったので、たぶん4年ぐらいだと思います。古い時計店の話をしたいと思って、2020年ぐらいから映画のロケーションを探していて。江戸、明治、大正、昭和の時計を買ってきて、それを元にどういう話が書けるのか考えたんですが、大阪のマンションの一室に古時計を並べても味気なくて、想像力も広がらなかったんです。これを全て飲み込めるロケーションとして説得力のある建物を考えて、古い日本の家、古い時計店、大名屋敷のようなイメージが浮かんで、古民家を本州の一番北から探し始めたんです。

──青森から。

青森からインターネットで探し始めて、長野でいい物件があったんですが、移住するにしても、通いで撮影するにしても、あまり現実的ではなかったので探し続けて、奈良であの家が見つかったんです。写真で見た時に、一目惚れして。内見に行った時に、映画のロケーション、セットとしても、これ以上のものに絶対出会えないと確信しました。それは、家屋の特徴的なからくり要素と作りだけではなく、隣に梅本さんという、歴史を語ってくださる方がいることも全部含めて。ああいう方の隣で自分が暮らすことを考えると、楽しく安心して暮らすことができると思って移り住みました。

──実際に移住されて、どのように感じられましたか。

まだ、その状態まで到達できてない状況なんです。というのも、2021年の秋に向こうへ行って、半年ぐらいで大まかな改修工事をひとりでやって、その後で家族が来て2年間暮らしながらも、僕は工事を続けたり、映画のことをずっとやっていて。映画を撮り終えて、一旦落ち着きましたが、今は宣伝やいろんな制作物で奔走しているので、落ち着いてゆっくり暮らしている実感がまだないんです。この春以降はゆっくりしたいと思っています。今は生活の部分がおざなりになってしまっているので、あの町でちゃんと暮らしたいと思っています。

──まだゆっくり暮らしている感覚がないんですね。

緩やかな時間の流れみたいなものを捉えたいと思いながらも、自分がその対局にいる状態が続いていて、ずっと時間に追われているので。

──こんなに緩やかに時間が過ぎる映画を撮ってるのに(笑)。

映画が完全に僕の手から離れたら、ようやく落ち着いて暮らせるんじゃないかと。もうちょっと町の人たちとも交流したいですね。小さい区画ですが、町内会長をやっているので、もっと界隈の人が暮らしやすいようにしたいと思っています。

──駒井が監督の代わりに御所でゆっくりしてくれてるような感じですね(笑)。駒井を演じてらっしゃった渡辺大知さんとはPFFで出会われたとお聞きしましたが、グランプリを獲られた『おばけ』の上映の時でしょうか?

大知さんは審査員ではなかったんですが、その時に観てくださったんです。上映が終わって出てきた時に声をかけてくれはったんです。それが出会いですね。

michiyuki_sub2.jpg

──渡辺さんのどういうところに魅力を感じて、駒井役をオファーされたのでしょうか。

駒井自身が、強い何かを持って行動していく、選択して進んでいくような役割ではないんですよね。駒井の見ているものや聞いているもの、集めている風景を、そのまま観客にダイレクトに伝えるような役割を担っていただきたかったんです。

もうひとつは、お芝居の経験のない方々と接していただいた時に、その人たちの生き生きとした自然な佇まいを引き出せる人がいいと思っていて、実はそれが一番重要でした。特に、80年、85年生きてこられて、お芝居したことがない方々と駒井が会った時に、初対面でも、ずっとこういう日常があったように見せられる方がいいと思って、僕がPFFで初めてお会いした時の渡辺さんの印象を思い出したんです。

──なるほど。

あの時の大知さんの、ぐっと懐に入ってきて気持ち良く話せる距離感が心地よかったことを思い出して、大知さんが出演された作品を拝見して、この方なら、意図的に作っている部分と持ち前の部分とで、あの町に入ってきて、仕事で鉄道会社の人に取材している駒井をやってもらえると思いました。だから、大知さんでどうしても撮影させてもらいたいと思いました。

──渡辺さんは相手に緊張感を与えない印象があります。

実際、そうでしたね。鉄道会社の清水さんと話してはる時も、カメラが回ってない時にずっとコミュニケーションを取ってくれていて。さっと本番に入れるような雰囲気を作ってくれてはったんやなと思いました。

michiyuki_sub3.jpg

──その渡辺さん演じる駒井の家の隣に住む梅本役を桐竹勘十郎さんにお願いした理由は何だったのでしょうか。

勘十郎さんは普段、台詞を発してお芝居される方ではないんですが、講演会などでお話されている様子を拝見しておりました。勘十郎さんに限らず、文楽の方々は、過去から受け継いでいる伝統や歴史の重みを丁寧に後世に伝えていく役割を担っておられるからだと思いますが、めちゃくちゃ謙虚に、丁寧に過去のお話をされるんです。そういう佇まいや語り口がこの映画の梅本に必要な要素だと感じたんです。

──なるほど。

この映画の梅本は普段、過去の話をしてないんですが、御所の町にやってきた駒井という男の存在によって、遠い過去をゆっくり丁寧に手繰り寄せて話していく役割と、勘十郎さんの普段の佇まいが重なったのでオファーさせていただきました。

──監督は以前から文楽をお好きだったのでしょうか。

大阪の谷町六丁目に12年ぐらい住んでいたので、文楽劇場まで歩いて通っていました。文楽の舞台となった高津宮や生國魂神社も近くて、マンションを降りてすぐのところには近松門左衛門のお墓があって。谷町へ引っ越してきた時に、近所のパーキングに車を停めたら、その横に近松門左衛門のお墓があったので、めちゃくちゃ嬉しかったのを覚えています。あの近松門左衛門のお墓の横に住めるんだと思って。そこで手を合わせてから「曾根崎心中」を観に行ったり。こういう環境に暮らしながら文楽を観に行くのは幸せなことだと思いました。そこから、ちょこちょこ観に行くようになりました。

──文楽を好きになったきっかけはあったのでしょうか。

初めて観た時にハマりました。谷崎潤一郎さんの「蓼喰ふ虫」を10代の頃に読んだ時に、文楽の描写が結構あるんですが、観たことがないから全然イメージがわかなかったんです。文楽は大阪伝統だと書いているけど、わからへんなと思いながら、10年ぐらい経ってしまったんですが、大阪発祥の伝統芸能やし、大阪で生まれて育っているので、1回観とこうと思ったんです。ある程度の予備知識があって、さらに型を分かった上で、技を楽しむものだと思って観劇したんですが、何よりも物語にすごく惹きつけられたんです。

──文楽の物語に夢中になったんですね。

こんな数百年前の武士の心情が、今生きている自分の胸をなんでこんなに打つんだろうと思って、めちゃくちゃ心に響いて、普遍的な部分に感動しました。伝統芸能というと、格調高くて近寄りがたい印象でしたが、大衆娯楽として今も存在していることも含めて、とにかくいろんなことに感動したんです。そこから、全シーズン、年4回通うようになって。

文楽を観に行くようになって、舞台になった奈良の明日香村や吉野を訪れたり、壺坂観音に行ったりするのが楽しくて。谷町に住みだした頃から文楽によく通うようになって、その頃から奈良をよく訪れるようになったので、そういう思いが、今回の『道行き』を撮る時の移住で繋がったように感じています。

──ある意味、本作は監督の人生の積み重ねでもあるんですね。

パーソナルな部分が出てしまうと興味が削がれてしまう側面もあるので、あまりそういうことを前面に押し出したくはないんです。ただ、僕のこれまでの作品は全部そうなんですが、自分の身の回りの物事で関心のあることをまず映して、そこから見えてくるものを繋いでいく作り方なので。メッセージや語りたいことがあるのではなく、まず、気になったものを撮りためて、それを繋いで、編集でどう見せるか考えていくので、話は後付けだったりするんです。

──なるほど。

今回も僕が移り住んで出会った人や、入ってくる情報、時計や時間学について本で読んだことなどが、自分にとっての興味対象であり続けたから、この4年間なんとか走り抜けることができました。先ほど、僕の歴史とおっしゃったように、僕が興味を持って、対象と向き合えるものじゃないと題材にならないんです。僕が映画として構築できないので、否が応でも自分の歴史や思いが出てしまうんだと思います。

──映画の中で、時計屋さんが12時に花火を打ち上げて、家の時計を合わせるという話に驚きました。考えてみると、昔は日時計でしたし、子の刻、丑の刻という時の概念だったので、何分何秒という感覚はなかったんだと気づいたことが、すごく新鮮でした。

御所の町で大正5年創業の時計屋さんに取材に行ったら、創業当時の資料、昔のチラシや新聞の切り抜きがいろいろ残っていて、それを見ながら取材させてもらったんです。そこで、12時きっかりに花火あげるから、それで時間を合わせてという粋な計らいがあったことを知ったんです。

──すごいですよね。

当時はまだ時報もなくて、ラジオも始まる少し前で、テレビはもちろんないので、時間を合わせる基準がないんですよね。時報として花火を打ち上げる時計店があの町にあったというのは、ちょっとロマンチックだなと感じました。

取材・文/華崎陽子




(2026年2月19日更新)


中尾広道監督

Movie Data



(C) 2025 ぴあ、ホリプロ、日活、電通、博報堂、一般社団法人 PFF

『道行き』

▼2月20日(金)より、シネ・リーブル神戸、2月27日(金)より、テアトル梅田にて公開
出演:渡辺大知 桐竹勘十郎 細馬宏通 田村塁希 大塚まさじ
上田隆平 梅本 修 清水弘樹 中井将一郎 中山和美 ちょび
監督・脚本・編集:中尾広道

【公式サイト】
https://www.michiyuki-movie.com/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/365184/index.html


Profile

中尾広道

なかお・ひろみち●1979年、大阪市住吉区生まれ。2013年に友人の映画撮影を手伝ったことがきっかけで、自身でも映画制作を始める。2015年、『船』で「ぴあフィルムフェスティバル/PFFアワード」入選。2017年、『風船』でPFFアワード入選、オーバーハウゼン国際短編映画祭出品(ドイツ)。2019年、『おばけ』でPFFアワード グランプリ受賞、フィルマドリッド最優秀賞受賞(スペイン)、全州国際映画祭(韓国)出品など。本作『道行き』ではJAPAN CUTS大林賞(最優秀作品賞)を受賞。2022年に奈良県御所市に移り住み、暮らしの中で見えてくる映画を、探るように制作している。