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ムロツヨシ&佐藤二朗のW主演で、
激動の幕末を福田雄一流の斬新な解釈によって描く
映画『新解釈・幕末伝』ムロツヨシインタビュー

数々のコメディ映画を手がけた福田雄一監督が、日本史において大きな転換点となった幕末を、“福田流の解釈”で映画化『新解釈・幕末伝』が、12月19日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開される。

江戸時代末期の日本を舞台に、のちに幕末のヒーローと呼ばれる、坂本龍馬と西郷隆盛が成し遂げた血を流さない戦いと激動の時代の中で生まれた友情を描く。

ムロツヨシが坂本龍馬を、佐藤二朗が西郷隆盛を演じるほか、山田孝之、広瀬アリス、岩田剛典、賀来賢人、松山ケンイチ、市村正親、渡部篤郎らが共演する話題作だ。そんな本作の公開に先立ち、ムロツヨシが作品について語った。

──ムロさんから福田監督に「僕で作品を作りませんか」とお話されたと聞きました。

コロナで家にいなければならなかった時期に、やるべきこと、やりたいことをいろいろ考えていて、その中のひとつに福田監督作品の看板を背負うという目標がありました。それは、夢ではなく成し遂げなければいけないと思ったんです。家から出られるようになってすぐに福田監督に会いに行って「僕で作品を作ること、僕が看板を背負うことはできますか」と聞いたら、監督は「できる」と。さらに「佐藤二朗さんとふたりで作品を背負ってるところが見たい」と。その景色こそ最高だと思ったので、次の日に佐藤二朗さんと会って、「よし、やろう」となった次第です。

──それは、福田監督の作品への思いが強かったということでしょうか。

本作が福田監督の20作目で、僕はその中の19作品に出させてもらってるんです。その中で、作品のスパイスとなるようなお芝居を期待されることはありましたが、自分で作品を背負ったことはなかった。ここからは、一度作品を背負った男でないといけない。現状維持は何も生まないので、今までのような参加の仕方では、いなくてもいいレベルの存在になっていくだろうと思ったんです。だからこそ、自分から動いて変化を作る男にならないと、皆さんの前に立てる男にはなれないと思いました。

──ムロさんは、本作で幕末の偉人のひとりである坂本龍馬を演じていますが、坂本龍馬を演じると初めて聞いた時は、どのように感じられましたか。

『新解釈・幕末伝』の中のワンシーンである薩長同盟は、12年前に「muro式」という舞台で福田監督から提供してもらったショートストーリーの戯曲なんです。もちろん変わっているところはありますが、流れはほとんど同じで。僕は、あの部分の坂本龍馬を舞台で演じたことがあったので、今回の坂本龍馬に驚きはなかったです。坂本龍馬が言ったと言われている「日本の夜明けぜよ」という言葉のように、夜明けの場所まで演じることができて光栄でした。

──劇中、「大政奉還なんて絵空事だと思ってた」という台詞がありましたが、大政奉還を成し遂げた坂本龍馬は、やはりすごい人だったんだと感じました。

絵空事としか思えない人がいたのは事実ですよね。この映画を観始めた時は、大政奉還を成し遂げた方法を誰も想像できなかったと思うんです。坂本龍馬は、全く着地点の見つからなかった薩長同盟を実現しましたが、西郷隆盛も桂小五郎も、決して思い通りにはなってないんですよ。悩みに悩んで、真面目に3人で話して同盟に至ったのかもしれませんし、その一方で、もしかしたら本当に坂本龍馬がああいう動きをしたからこそ同盟が成立したのかもしれないとも思います。

──新解釈とタイトルにも入っていますが、いろんな解釈ができますよね。

龍馬がああいう人だから最初は嫌われたりするけど、龍馬が走り回ってる姿を見ているうちに、あいつの話は聞いておこうという存在になって。対立してた人たちが話を聞くようになって、いろいろなことが成立したのかもしれない。今の時代も、いろんな思想によって争い事が起きていますが、龍馬のように何も知らないふりをしていたり、何もわかってないのに動いてるように見える人がいると、もしかしたら双方がわかり合える着地点が見つかるのではないかとも思えますよね。

──本作で、「まあまあまあ」って言う人と言われている龍馬のキャラクターですが、福田監督と佐藤二朗さんは「ムロくんに似てる」とおっしゃってました。

まず、福田監督はムロツヨシの解釈を間違えてるんですよ。「何もしてないのに、誰かと誰かをひっつけて、やり遂げたみたいな顔してるんだよ、坂本龍馬さんって。それってムロくんじゃん」と言われて。僕はそんなことしてないだろうと思いましたが、「出てない作品の打ち上げに出てさ、あたかも次回作に出るかのような顔でいるじゃん」と言われたら、それは僕ですね、と思いました(笑)。福田監督からは「僕の解釈した坂本龍馬さんはムロツヨシです。だから、役作りしないでください」と言われました。

──そうだったんですね(笑)。

僕は、解釈を間違えてると思ってます。でも、観終わった時は僕がこういう男になれたらいいなとも思いました。いろんな人に笑われて、怒られて、呆れられても、時代が動いた時に初めて「あれ?あいつのやってたことってこういうことだったの?」と思われるかっこよさは、坂本龍馬さんにしか出せない粋だと思いますし、もしかしたら、ひた隠しにした正義があったのかもしれない。そこはかっこいいなと思いました。bakumatsuden_sub2.jpg

──ムロさん演じる坂本龍馬と佐藤二朗さん演じる西郷隆盛、山田孝之さん演じる桂小五郎との薩長同盟のシーンでの「お前、後あるだろ」という、後の予定を気にするかのような龍馬を疑う絡みが、すごく面白くて。飲み会で、たまにそんな人いますよね(笑)。

いますよね(笑)。ソワソワして、その場の話題にも入ってるようで入ってないような。

──スマホばっかり見てたり(笑)。歴史上の話なのに、賀来賢人さん演じる後藤象二郎と龍馬が言い合いしてるシーンも、今の時代にもいそうな人のエピソードを挟み込んでいて。脚本を最初に読んだ時から、これは面白くなるぞという手ごたえがあったのでしょうか。

思いました。薩長同盟のシーンは、準備稿を読んだ時に僕ですらカットすると思っていたら、皆に行き渡る台本にそのまま書かれていて。演劇だったらわかるんですが、映画でおじさん3人が絵変わりなしで、大丈夫なの?と思っていたら、福田監督は「いける」と。正直なところ、不安と恐怖はありました。でも、僕たちは一生懸命やることでしかお返しできないので。福田監督は今回、心に汗をかいて脚本を書いたとおっしゃっていたので、やるしかないと思いました。あのシーンは、面白くなるな、ではなくて、面白くしなければいけないと思いました。

──なるほど。

だから、やれることはなんだろう、できることはなんだろうとたくさん考えました。それに、桂小五郎を山田孝之くんがやることによって、面白くなるのは間違いないと思いました。彼が重しのような存在にもなりつつ、龍馬の全ての振りに必死になって応えていく姿を見ながら、これは面白くなると思いました。

──山田さんと佐藤さんとムロさんの3人の薩長同盟のシーンは、"間"がすごく大事だったと思います。脚本には、"間"のことまで書いてないと思うんですが、あれはその場の...。

書いてませんね。あの場にいる3人に任されていたと思います。それは、福田監督との歴史があるからこそで、ちょっと長い"間"の、ちょっと長いという感覚を、3人がわかってるので。龍馬が居眠りして桂小五郎に頬を叩かれる場面は、全く想像できない"間"で。ためすぎだよと思う時もあるので、演じながら、すごくドキドキしました。予定調和ではないからこその面白さがありました。bakumatsuden_sub3.jpg

──本作は福田監督の作品の常連の方もいらっしゃれば、初めての広瀬アリスさんなど、こんな豪華なキャストになると思ってらっしゃいましたか?

いや、全く想像してなかったです。だから、初めて脚本を読んだ時は、どなたが参加してくださるのか知らなかったので、登場人物多いけど大丈夫かな?と思ってました。こんな豪華なメンバーが大事なポイントにいてくれるから、馬鹿げてるし、面白いですよね。

──特に広瀬アリスさんは衝撃でした。

主演ですよね。ここまでやりきってくれるんだって。最高でした。あそこまでやりきってくれるのは、広瀬アリスしかいないと言っても過言ではないかもしれないです。福田監督の作品に長く関わってるスタッフさんも「すごいのが現れた」って言ってましたから(笑)。尊敬してます、広瀬アリスを。

──山下美月さんのくノ一も面白かったです。

本人は戸惑ってましたからね。「スタスタスタって来て、ここで」と言われて走ってきたら、「違う違う。スタスタスタって言って」って。美月さんは「言うんですか!?」ってだいぶ、驚いてました(笑)。

──ですよね(笑)。

あれが福田監督の演出なので。びっくりしてました(笑)。

──コンセプト茶屋も、架空の話なのかな?と思っていたら...。

あるんですよ。水茶屋という茶屋が史実に残っていて。コンセプトとは書いてないみたいですが。

──こういう解釈もできるという前提の作品ですが、史実を調べて作られてるんですよね。

そうなんです。予告編を見ると、いつもの福田監督の喜劇だというのはわかると思いますが、僕がお伝えしたいのは、誰もが知っている幕末のパロディではなく、存在してる史実を福田監督が解釈して脚本にすると、この作品になったということなんです。元になってる史実はあるんです。

──今回の佐藤二朗さんは、今までの福田監督の作品とは全く違う佐藤さんだと感じました。今までムロさんが一緒に演じてきた佐藤さんとは違う佐藤さんがいたのではないでしょうか。

福田監督の作品では特に、足し算や引き算、いろんなカードを持って現場に行くんです。本番では、どのカードを出そうかな、福田監督を驚かせたいし、笑わせたいから、このカードをきってみようかなと考えるんです。でも、今回は初日に、佐藤二朗さんがいつもは何枚か持ってきているカードを持たずにやってきたんだと気づいて、すごい選択をしたんだなと思いました。その驚きは今でも忘れないですね。

──佐藤さん自身も腹をくくったというか。

そういう表情だったと思います。持ってこなかったんだよ、ではなく、いろんな選択肢がある中で、持ってこないことを選択したんだと感じました。

──それはすごいことですよね。

すごいことだと思います。今回、僕ができることは、ゼロカードでやることを決めた佐藤二朗さんに対して、2枚、3枚、4枚、5枚カードを足すことだと思いました。それが、W主演として隣で歩いていくことだと思いました。bakumatsuden_sub.jpg

──佐藤さんが、「よく取材で「おふたりで主演を背負っていかがですか」と聞かれるけど、感慨深いとは思わないようにしようと思ってる」とおっしゃってたのが印象的でした。

僕も思えないですね。通過点のひとつではあると思います。これは終わりではなく、始まりでもあって。福田監督の作品以外の世界に僕たちは参加し、二朗さんも僕も舞台を作り、二朗さんは映画を作ったりして、そこでの生き様もあります。自分が背負った責任をしっかり果たして初日を迎えて、それ以降も、やれることはやっていこうと思ってます。だから、感慨深いとは言わないかもしれませんが、正直なところはわからないですね。初日を迎えたら感覚は変わるかもしれないので。

──そうですね。

そう思わないようにしてる、というのが正直なところだと思います。でも、完成披露試写会で、ふたりが最初に出てきて真ん中で握手したのは、宣伝部の皆さんやプロデューサーさんの思いが入っていて。僕も感慨深いというか、いろんな感情が巡りましたし、そこで胸を張らなきゃいけないと思いました。

──福田監督の作品で主演を務めるという、ひとつの目標が果たされ、間もなく公開を迎えますが、どのような心境ですか。

やはり、言い出しっぺですから。まず、12月19日にこの作品を映画館で上映してくれることがすごいことだと思ってます。言い出したからといって、それが成立するとは限らないので。もちろん、僕は成立させると言い続けますが、それこそ今回の龍馬さんみたいに誰かに呆れられても、否定されても、結局、僕はやり続けると思います。この目標が、もし叶ってなくても、やり続けたと思うので、まずは言い出して、やり続けられた自分を讃えてあげたいです。

──なるほど。

いろんな人を巻き込んだからこそ、その人たちが笑えるように、次にできることを探さないといけないとも思ってます。初日はもちろん、それ以降も関わってくださった人たちが笑えるようにしたいと思ってます。プロデューサーさんに「当てたい」とはっきり言われてるので。こんなにはっきり言われることはないです(笑)。だったら、当てましょうと。でも結局は、皆さんがどう受け取ってくださるかにかかっているので。

本作は、おちゃらけていたり、人から笑われたり呆れられるような動きをしていた男が、なぜ争いもなく血を流さずに時代を動かすことができたのかということを描いた喜劇です。でも、本作の最後のシーンを観終わると、こんな人たちが今の時代に現れてほしいと思うと同時に、希望を感じると思うんです。それが、この映画のすごさだと思いますし、2025年にこの映画を公開する意味があると思ってます。bakumatsuden_sub4.jpg

取材・文/華崎陽子




(2025年12月17日更新)


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Movie Data




(C) 2025 映画「新解釈・幕末伝」製作委員会

『新解釈・幕末伝』

▼12月19日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中
出演:ムロツヨシ 佐藤二朗
広瀬アリス 岩田剛典 矢本悠馬 / 松山ケンイチ
染谷将太 勝地涼 倉悠貴 山下美月 / 賀来賢人
小手伸也 高橋克実 / 市村正親
渡部篤郎 山田孝之
脚本・監督:福田雄一
主題歌:「龍」福山雅治(アミューズ/Polydor Records)

【公式サイト】
https://new-bakumatsu.jp/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/415512/index.html


Profile

ムロツヨシ

●1976年1月23日生まれ、神奈川県出身。大学在学中に役者を志し、1999年に作・演出を行った独り舞台で活動を開始。2005年、映画『サマータイムマシン・ブルース』への出演をきっかけに映像にも活動を広げる。2009年、『大洗にも星はふるなり』で福田雄一監督作品に初出演。その後、本作まで19作品に出演。その他、映画、ドラマ、舞台とジャンルを問わず活躍中。近年も、映画では『新解釈・三國志』(20)、『マイ・ダディ』(21)、『川っぺりムコリッタ』(22)、『神は見返りを求める』(23)、『身代わり忠臣蔵』(24)などでメインキャストを演じる。