ホーム > インタビュー&レポート > 「誰かを守りたい、大事にしたい、この人と生きていきたい、 そういう愛情で人は突き動かされて、ひとりでは出せない力 を出せる」内田英治監督が北川景子主演で 子どもたちのために犯罪に手を染める母の姿を描く 映画『ナイトフラワー』北川景子インタビュー
──先日、『未来』という映画への出演情報が解禁された時に、北川さんが「貧しいか、やつれてる母親役をずっとやってます」とX(旧Twitter)でおっしゃっていましたが、今回もまさにそういう役でした。本作のオファーを受けられた時はどのように感じられましたか。
オファーを受けたのは、WOWOWの「落日」というドラマの撮影現場で内田監督とご一緒した時でした。「落日」は脚本家の先生が別にいらっしゃって、内田監督は監督だけだったんですが、監督が「僕が脚本も書いて監督もするようなオリジナルの映画でご一緒できたら嬉しいです」と言ってくださって。
──2023年にWOWOWで放送されていた「落日」の撮影現場で、内田監督からオファーを受けてらっしゃったんですね。
その流れで、「北川さんに売人の役を当てたら事務所さんは怒るかな?」とおっしゃって、「役だから大丈夫だと思います」と返すと、「実際に読めるものをお渡しします」と。その後しばらくして、企画書と少し短い台本のようなものをいただきまして、そこで初めて、監督のおっしゃっていた売人というのはこういうことだったのか、と繋がりました。
──思い返すと、「落日」で北川さんが演じられた香という役も、辛い過去を抱え、少し過酷な状況に置かれていたキャラクターでした。
幼い頃に虐待を受けていた役でしたね。確かに、もうずっとそういう役が続いています(苦笑)。
──よくよく考えると『ラーゲリより愛を込めて』もそうでした。
最近はあまりハッピーな役をやってないので、そろそろハッピーな役をやりたいと、ずっと公言しているんですが、今はなかなかヘビーなのが多いですね。私が好きでこういう役ばかりをやっているわけでもないんですが、今は集まってきているので、続々と辛い母親をやってます(笑)。
──母親役ももちろん増えていますが、北川さんが演じる役柄も以前とは変化しているように感じますが、北川さん自身はどのように感じてらっしゃいますか。
5年前に娘を出産してからは、ほとんど母親役しかやっていないと思います。一度、月9で働く女性を演じましたが、それ以外は朝ドラや大河も含めて、娘か息子がいる役をやらせていただいています。年齢的にも私のプライベートの状況を見ても、そういう役をオファーしやすい状況ではあるのかな?と感じています。
──ほとんどが母親役ということは、大きな変化ですよね。
若い頃は、バリバリ仕事をして完全無欠みたいな役や綺麗でおしゃれで仕事ができて、というような役が多かったので、本人も完璧なんだろうみたいなイメージが、どんどんひとり歩きしていく中で、特に20代や30代前半は、もう少し役柄の幅を広げたいと悩んでいたこともありました。だから、結婚して出産したことを機に母親の役がたくさん来ることは、非常に喜ばしいと感じています。
──そんな風に感じてらっしゃったんですね。
母親と一概に言っても、本当にいろんな母親を演じてきました。毎回、全く異なる母親の役をいただいて、若い頃にはできなかった役や、できなかった種類の作品に挑戦させていただいて、今が一番お芝居をしていて楽しい時だなと思っています。
──母親といえば、本作で夜の街に君臨するサトウを演じたSUPER BEAVERの渋谷さんは、すごく恐ろしい人物の役ですが、母親という言葉にこだわりがあるようで、目の奥には優しさが見える気がしましたが、北川さんはどのように感じられましたか。
怖いようにも、優しいようにも、どちらとも取れますよね。本当は話せばわかってくれるような、この人も元々は人間だったんだから、訴えかければ味方してくれるんじゃないかと思えるような人間味が半分、いや、この人には血が通ってないと思う冷酷さというか、温度感のなさが半分、どっちなんだろう?と感じる、どちらもが混在しているような目をされていて、目の力に圧倒されました。
──渋谷さんは、演技は本作が初めてだったそうですが、全くそうとは思えない存在感がありました。
演技が初めてとは思えなかったです。サトウは、きっと母親に対してこだわりがある人物だと思うので、そこがコンプレックスになってるのかな?と思いながら夏希として対峙していました。夏希も、この人だったら、私が母親として苦労していることを言えば、ドラッグもさばかせてくれるんじゃないかという期待を感じていたんじゃないか、この人に賭けてみようと思ったんじゃないかと思いました。
──そんな風に感じながら、サトウとのシーンを演じてらっしゃったんですね。
渋谷さんは表現者でいらっしゃるから、自分をどういう風に見せればいいのかもわかってらっしゃるし、声のトーンや抑揚は、音楽をやっていらっしゃるから魅力的ですし、さらには文章も書かれるそうなんです。映画もお好きだとおっしゃっていたので、演技の素養はたくさんお持ちだったんだと思います。
──本作では、全編通して北川さんが関西弁で演技をしてらっしゃいますが、映画で関西弁を話す役の経験はおありだったでしょうか。
SUPER EIGHTの横山裕くんが主演を務めていた『破門 ふたりのヤクビョーガミ』という作品で、関西弁を話す役はありましたが、全編関西弁で主役を務めるのは初めてです。
──関西弁の要素は、脚本の段階から入っていたのでしょうか。
入っていました。脚本を読んだ時から関西弁でした。監督が大阪に行った時に、道端でお母さんと子どもが「あんた、もっとこうせなあかんやろ」「こう考えてこうしてんねん」と言い合っていて。怒ってるお母さんと怒られてる子どもの掛け合いを見かけたそうで。お母さんは本気で怒ってるし、子どもも本気で言い返してるけど、漫才みたいで面白かったそうなんです。監督はカルチャーショックを受けて、お母さんは本気で怒ってるのか、ギャグなのかがわからなくて。芸人さんじゃなくても、大阪の人はこんなに面白いんだって思ったそうです。
──なるほど。大阪では見かけることのある光景ですが、関西以外の方が見ると、びっくりするかもしれませんね(笑)。
「そういう関西のお母さんと子どもを描きたいと思った」と監督はおっしゃっていました。ちょうど私も関西人なので、元々、監督が持ってらっしゃった企画と合致したのかなと思います。
──本作は全編関西弁ですが、北川さんは今までの撮影で関西弁のイントネーションが出てしまうことはあるのでしょうか。
出さないつもりでやっているんですが、時々直されることはあります。何月何日、何百何十何ページみたいな数字にまつわるものがなまってることがあるみたいです。すごく気を付けながらやっていますが、ドラマの撮影で、音声さんから「ちょっとイントネーションが違うかも」と言われることもあります。
──意識してないところで、イントネーションが染みついているものなんですよね。
そうですね。東京に来てからの方が長いんですが、標準語をしゃべろうと思っても、どうしてもアクセントがズレてることはよくあります。
──今回は関西弁だったので、その心配は一切なかったんですね。
今回は何も心配事はなく(笑)。一応、大阪弁の音源はいただいたんですが、本当にごくごく一般的な、激しすぎない大阪弁だったので、方言の勉強をすることもなく、アドリブもやりやすかったですし、自然体で演じることができました。
──本作には、グッとくるシーンがたくさんありましたが、北川さんが特に心を鷲掴みにされたシーンはどこでしょうか。
たくさんあります。娘の小春が、ある場所でバイオリンを弾いていたところは辛かったですし、息子の小太郎が同じ保育園の男の子の目に怪我させて、その子の母親からある言葉を言われるところは、親としてしんどいなと思いました。夏希が拾ってきたお弁当を子どもに食べさせる場面がありますが、子どもたちが「美味しい」と言って食べているのを見るのも辛かったです。台本を読むよりも、実際にものすごく辛かったのは、あのお弁当を食べさせるシーンですね。あそこは、ちょっとしんどすぎました(苦笑)。
──あのシーンはしんどいですね。
あのシーンは、こみ上げるものがありすぎました。具がないオムライスを娘が作ってくれたところもすごく感動しました。多摩恵ちゃんと佐久間(⼤介)くん演じる海くんのシーンもいいですよね。ラーメンを食べるところも好きだし、このふたりは助け合って、お互いを大事に思いながら暮らしてきたんだなと感じました。海にとっては特にそうだったんだろうなと思いながら見ていました。
──そうですよね。その全てのシーンの根底に愛情を感じるのが、この映画の救いなんじゃないかと思いました。
そう思います。誰かを守りたい、大事にしたい、この人と生きていきたい、そういう愛情で人は突き動かされて、ひとりでは出せない力を出せるんだということを、今回、夏希を演じてすごく感じました。きっと、観てくださる方にもこの映画の根底にある愛情を感じてもらえるんじゃないかと思っています。
撮影/河上 良
取材・文/華崎陽子
(2025年11月27日更新)
▼11月28日(金)より、大阪ステーションシティシネマほか全国にて公開
出演:北川景⼦ 森⽥望智 佐久間⼤介(Snow Man) 渋⾕⿓太 / 渋川清彦 池内博之 / ⽥中麗奈 光⽯研
原案・脚本・監督:内⽥英治
エンディングテーマ:⾓野隼⽃「Spring Lullaby」(Sony Classical International)
【公式サイト】
https://movies.shochiku.co.jp/nightflower/
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/399740/index.html
きたがわ・けいこ●きたがわ・けいこ●1986年生まれ、兵庫県出身。2003年、ドラマ「美少女戦士セーラームーン」で女優デビュー。以降、『パラダイス・キス』(11)、『抱きしめたい‐真実の物語‐』(14)、『君の膵臓をたべたい』(17)、『スマホを落としただけなのに』(18)、『約束のネバーランド』(20)、『ファーストラヴ』(21)、『ラーゲリより愛を込めて』(22)、大河ドラマ「どうする家康」(23)、「あなたを奪ったその日から」(25)など、数々の作品で主演・ヒロイン役を務める。現在、NHK連続テレビ小説「ばけばけ」に出演中。公開待機作に『未来』(2026年5月公開予定)がある。