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「校則をモチーフにしながら、世代間ギャップの"あるある"を
描いたコメディ映画」中学生教師が校則違反を発端にした騒動に
巻き込まれる様を岩田剛典主演でシニカルに描く
映画『金髪』岩田剛典インタビュー

『決戦は日曜日』など、社会問題に風刺をきかせたコメディ映画を手がけてきた坂下雄一郎監督による、教師を主人公にした人間ドラマ『金髪』が、11月21日(金)より、T・ジョイ梅田ほか全国にて公開される。

30代の中学校教師が受け持つクラスの生徒たちが、校則違反の金髪にしてきたことを皮切りに、マスコミやネット、さらには文部科学省まで巻き込む大騒動が巻き起こり、数々の試練が押し寄せる様をシニカルに描く。

⽇本独特のおかしな校則や教師の職場環境、暴⾛するSNSやマスコミの報道という現代社会の問題を題材に、大人になりきれない主人公が、生徒たちとの会話や騒動をきっかけに変化していく様を描くコメディ映画だ。

岩田剛典が主演を務め、白鳥玉季、門脇麦、山田真歩、田村健太郎、内田慈らが共演する話題作。そんな本作の公開を前に、主人公の市川を演じた岩田剛典が作品について語った。

──正直に言うと、岩田さんが市川を演じられるということに違和感がありましたが、結果的にはすごく面白く拝見しました。ポスターにも書いてあるように、ダサくてイタい市川という役のオファーを受けて脚本読まれた時は、どういう感覚になられたのかお聞かせいただけますでしょうか。

脚本が素晴らしかったので、こんな作品を任せてもらえるんだと思って嬉しかったですね。この作品は、7割ぐらいが市川の台詞で、彼の台詞で物語が進んでいくので、大役だなと思いました。これを僕に任せようと思っていただけたことが僕は嬉しかったです。

──岩田さんならできる、と。面白いものになると思ってくださったということですもんね。

その気持ちが嬉しかったですね。

──脚本を読む中で、どういう部分に驚きや発見がありましたか。

まず、会話劇として見せ場がたくさんある作品だと思いました。校則についての問題提起がモチーフではありますが、実は世代間ギャップを描いてるんですよね。どの業界にもある、"あるある"が描かれたコメディでもあるので共感できるところがたくさんある。そして、すごく身近な映画でもあって、今っぽさもある。SNSが重要な要素のひとつとして描かれていて、まさに今という描写になっているので、今まで僕が携わってきた作品の中になかった作品だと思いました。kinpatsui_sub6.jpg

──大人になりきれず、自分を客観視することもできない市川というキャラクターはどのように捉えられたのでしょうか。

市川は、本当にどこにでもいる人だと思います。本音と建前というのは、特に日本の社会で生きる上では大事な要素ですよね。市川は、現代社会を生きる、この世代の声を全て集約したような存在だと思いました。誰もが心の中で思っていても、人には言えないようなことを彼が代わりに言ってくれてるように感じたので、僕もすごく共感できました。脚本として本当に面白いし、よくできてるなと感じたのが初めて脚本を読んだ時の印象でした。

──市川のそういう発言が面白いところでもありますが、いやいや、それはダメだろうと思う部分はありましたか。

中学生に向かって、大人げないというかむきになったりするので、そこはもう少し大人然としてればいいのに、とは思いました。そこが、まだ子供というか、幼児性が同居してるという描写だと思いますが。もうひとつは、よくわからなくて、監督にも「どういうシーンなんですか?」と確認したんですが、歩道で二次会の店を決める話をしてる若者の集団に...。

──市川が突撃していくシーンですか?

そうです。まっすぐしか歩かない、みたいな(笑)。あの感覚が僕には全くわからなくて。でも、あのシーンは、あの描写のためのシーンなので、本当に変わった作品だなと思いました(笑)。

──私も驚きました(笑)。

クレイジーですよ(笑)。

──監督の中では、"あるある"として描きたいことだったんですよね。

"あるある"と言うか、社会問題になっていた出来事を示唆しているんだと思います。

──もしかしたら、人混みの中で人にぶつかっていく人のことでしょうか。

たぶん、それが元ネタだと思います。監督から、この数年の間に起きた事件や話題を入れ込んで脚本を書いたと聞いて、すごいなと思いました。これはおじさんを象徴するシーンではなく、迷惑な人を象徴するシーンだったと思います。意味不明すぎて面白いですよね(笑)。あのシーンが1番楽しかったかもしれないです。意味がわからなくて笑いをこらえるのが大変でした(笑)。

──1番楽しかったのはあのシーンだったんですね。

楽しかったですね。他のシーンと違って台詞もなかったので、あのシーンは楽しみましたね。基本的にずっとしゃべりっぱなしの役だったので、クランクインしたらもう水の中から上がってこれない感覚でした。ずっと息継ぎなしで泳ぎ続けていたような。撮影中は、家に帰っても台詞のことばかり考える日々でしたね。

──この作品以外に他の仕事が入っているとさらにしんどかったのでは?と想像しますが、ちなみに、撮影中に他のお仕事は入っていたのでしょうか。

台詞が特に多い役だったので、ね。グループのことも、僕のソロの方も綺麗に何もなくて、落ち着いて集中できる期間でした。たまたま、他の作品もなくて、1ヶ月半、この映画に捧げて集中できました。

──市川みたいな役は、この先もないですよね、きっと。

僕もそう思います。ひとつの作品でこんなにしゃべる役はそうそうないですよね。でも、楽しかったです。kinpatsui_sub3.jpg

──ヒリヒリするシーンが多い本作の中でも、田村健太郎さん演じる大学の友人・駒井と話してるシーンは、たぶん市川も一番心が安らいでいたんじゃないかと思います。岩田さん自身は演じてみていかがでしたか。

田村さんとのシーンは、どのシーンもほぼ定点で、ツーショットの引きの一発撮りで。

──そうでしたね。このシーンもそうですが、本作はカットを割らないシーンが多かったですよね。

そうなんです。今回は特にそうしたと監督が言ってました。僕の良くない癖なんですが、自分の今までの経験で、脚本を読みながらカット割りを想像しちゃうんです。田村さんとのシーン以外でも、例えば、(白鳥玉季演じる)生徒の板緑とのシーンだったら廊下で引っ張りだな、とか。想像しながら脚本を読んじゃう癖がついちゃってて。田村さんとのシーンだったら、何か飲んだり食べたりしながらかな?と想像しながら、だったらどこで食べようかな、と。そういうことを家で考えてしまうんです。

──脚本を読んで様々なことを想像しながら撮影に臨まれてるんですね。

田村さんとのシーンは、段取りを1回やってすぐに撮ったので、常に緊張感がありました。段取りで芝居を合わせられなかったので、本番をやりながらどんどんペースアップして。ふたりとも頭の中をフル回転させながら撮ってるので、ひとつ先の台詞の後に言うべき台詞を先に言ってしまって。おかしいと思いながらも芝居を止めずにやったものの、ボタンが掛け違ってしまってるので、もう1回最初からやることになったたことはありました(笑)。

──確かに、台詞量の多い会話劇のシーンでしたから。

ふたりともヒリヒリしながら、緊張感のある現場でした。と言いつつも、確か、2日で撮り終わったと思います。同じシチュエーションなので。

──そんなに集中して撮ってらっしゃったんですね。板緑とのシーンは校内でも違う場所だったり、映画館のシーンもあったので、さすがにそこまで短いことはないと思いますが...。

確か、学校のシーンの撮影は4日ぐらいだったと思います。

──そうなんですか?

学校をふたつ使って撮影したんですが、校内の撮影は4日ぐらいだったはずです。だから、その期間が終わるまでは生きた心地がしなくて大変でした。やっとひとつのシーンが終わったと思っても、同じぐらいの台詞の分量が3シーン残ってたりして。とにかく、市川はずっとしゃべってるので。kinpatsui_sub5.jpg

──板緑役の白鳥さんは、本作はもちろん、他の作品でも目力がすごく印象的でした。見抜かれてると感じるような目だと思うのですが、岩田さんはどのように感じられましたか。

役としては、やっぱり可愛くない子どもなので(笑)。いい塩梅の板緑を作ってきてくださったおかげで、僕も気持ちが乗りました。板緑の言ってることは全部、純粋な疑問と、ド正論なので。彼女が芯に持ってる凛とした部分が、板緑のキャラクターをより魅力的にしていたと思います。彼女は透明感があるので金髪も似合ってましたし、全く違和感はなかったですね。

──金髪の生徒に囲まれるシーンはいかがでしたか。

SF映画を撮ってるみたいな気持ちになりました。不思議な異空間にいるような感覚でした。kinpatsui_sub2.jpg

──金髪の生徒に囲まれた後は、ヒリヒリする、門脇さん演じる⾚坂とのシーンが待ってました。キツめのことを言われるシーンもあって、探り合いのような会話が続くので、こちらも緊張感があったんじゃないかと思います。

赤坂とのシーンも面白いですよね。部屋のシーンといい、外のシーンといい、ね(笑)。部屋のシーンの麦ちゃんの台詞量の瞬間風速はぶっちぎりで1位でしたね。

──本作の中で一番の長台詞だったかもしれません(笑)。

よく言えるな、さすがだなと思いながら撮影してました。

──そう思いながらも、頭の中では次のことを考えてらっしゃるんですもんね。

麦ちゃんが終わった瞬間に、また僕の番が始まるので。

──そうですよね(笑)。

何の勝負をしてるのかわからない感覚でしたね(笑)。心の中では、どうぞ、やってくださいと思いながら、代わりばんこに長台詞を早口でしゃべってました。

──門脇さんとの共演は?

今回が初めてでした。撮影は2日か3日だったと思います。僕は現場にずっといるんですけど、皆、撮影してぱっと帰っちゃうので、あんまり皆さんとの思い出がないんですよね。

──(笑)。撮影中はバチバチし合ってるのに...。

皆、芝居だけして帰っていくんです。(山田)真歩さんもそうでしたし。

──岩田さんはずっと出ずっぱりでしたが...。

そうですね。だから、この現場はほぼひとりでしたね (笑)。たまに(白鳥)⽟季ちゃんが来てくれてました。

──では、完成した作品を通して観た時はどのように感じられましたか。

なかなか、自分の作品は客観的な視点では観られないんですが、初号試写が終わった後、関係者の方が皆いい顔をしてたので、ほっとしました。kinpatsui_sub7.jpg

──ちなみに、岩田さんが市川と同じ30歳の時は、どんな感覚だったか覚えてらっしゃいますか。

30歳になるのがめっちゃ嫌でしたね。こういう風に表に出る仕事をしてると、毎回ワイドショーで(30)って年齢を出されるので。マジで営業妨害だと思ってました(笑)。今も思ってますけど。

──確かに、そうですね。

年齢をわざわざ出さなくていいんじゃない?と思っちゃいますね。先入観を持たれてしまうし、イメージが作られてしまう気がして。30歳は大台だとよく言われますが、中身は変わらなかったですね。ただ、やってきたことを変わらずにやるだけでした、29も30も31も。35歳ぐらいからは変わってきて、人生について考えることが増えました。

──岩田さんのフィルモグラフィーを見ていると、いろんなジャンルのものに出てらっしゃって、ユニークだなと感じています。岩田さんからイメージされるスマートな役ばかりではなく、特に、福田監督の作品はちょっとイレギュラーですが(笑)、どのように作品を選んでらっしゃるのでしょうか。

いただいたオファーを受けてるだけです。『HiGH&LOW』だけですよ、自社制作でやってるのは。だから、僕はそんな風に思われてるんだと、オファーを受けるたびに思ってます。不思議だなって。今回もすごく嬉しかったです。白石和彌監督『死刑にいたる病』も、この役を僕に?と思いましたし、白石さんとはいつかご一緒したいと思ってたので嬉しかったです。この役できたか、みたいな感覚でした。そんな風に僕のキャリアは作られているので、僕が思い描いてるという感覚は全くないですし、キャリアはそんな風には築けないです。

──あくまでも出会いということでしょうか。

選び続けたらできるかもしれませんが、たぶん、仕事はなくなっちゃいますね。例えば、恋愛ものの主役しかやりませんって言ってたら、もう俳優をやってないと思います(笑)。俳優として作品に参加することによって、想像力や知的好奇心など様々な刺激をもらってます。俳優の仕事は、全く異なる人物の人生を演じるので、好き勝手にやれるという魅力もあって、毎回何もかもが違うことが面白いんです。アーティストは、ずっと僕の人生なので、ちょっと違う感覚ですね。kinpatsui_sub8.jpg

──岩田さんの中にアーティストと俳優とふたつの側面があるからこそ、より面白いということでしょうか。

つくづく、俳優とアーティストは違う職業だと思います。今は、自分を形作る要素がふたつあるので、俳優とアーティスト、どちらもないと自分ではないという感覚になっていて、そういうキャリアになってきたんだと実感しています。

──最後に、岩田さんが30歳の市川にアドバイスするとしたら、どんなアドバイスをされますか。

素直になれよ、と言いたいですね(笑)。

撮影/河上 良
取材・文/華崎陽子




(2025年11月21日更新)


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Movie Data



(C) 2025「⾦髪」製作委員会

『金髪』

▼11月21日(金)より、T・ジョイ梅田ほか全国にて公開
出演:岩⽥剛典
⽩⿃⽟季、⾨脇⻨、⼭⽥真歩、⽥村健太郎、内⽥慈
監督・脚本:坂下雄⼀郎
音楽:世武裕⼦

【公式サイト】
https://kinpatsumovie.com/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/416118/index.html


Profile

岩⽥剛典

いわた・たかのり●1989年3⽉6⽇⽣まれ、愛知県出⾝。2014年『クローズ EXPLODE』で映画デビュー。 『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(16)で映画初主演を飾り第41回報知映画賞新⼈賞、第40回⽇本アカデミー賞新⼈賞俳優・話題賞、第26回⽇本映画批評家⼤賞新⼈男優賞を受賞した。2018年には、映画初単独主演作『去年の冬、きみと別れ』などで第31回⽇刊スポーツ映画⼤賞・⽯原裕次郎賞⽯原裕次郎新⼈賞を受賞。同年、「崖っぷちホテル!」でドラマ初主演を務めた。その後も「シャーロック」(19)、『名も無き世界のエンドロール』(21)、『バスカヴィル家の⽝ シャーロック劇場版』(22)といった話題作への出演を重ねる。近年では、NHK 連続テレビ⼩説「⻁に翼」(24)や「アンチヒーロー」(24)、「フォレスト」(25)、『パリピ孔明 THE MOVIE』(25)、「DOCTOR PRICE」(25)に出演。そのほかの主な出演作に 『AI崩壊』(20)、「⾦⿂妻」(22)、『ウェディング・ハイ』(22)、『死刑にいたる病』(22)、「あなたがしてくれなくても」(23)、『⾚ずきん、旅の途中で死体と出会う』(23)、『聖☆おにいさん THE MOVIE ホーリーメン VS 悪魔軍団』(24)など。 アーティスト業においては三代目 J SOUL BROTHERSとして活動しながら、2021年にはソロアーティストとしても歌⼿デビュー。11⽉から⾃⾝初となるアジアツアーも開催が決定しており、ソロアーティストとしても活躍の場を広げている。