ホーム > インタビュー&レポート > 「愛する者のために、なりふり構わない主人公の姿勢に共感した」 第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞に輝いた 原浩の同名小説を水上恒司主演で映画化 映画『火喰鳥を、喰う』水上恒司インタビュー
──ミステリー要素もありつつ、ホラーの要素もある面白い作品でした。主演でオファーを受けて、脚本を読んで、どのように思われましたか。
主演に対してのこだわりや感慨はなかったです。世の中には様々な作品がありますが、基本的には主人公に何かが起きて、誰かと出会って、その人物や起こった出来事に対しての主人公の心の動きが物語の主軸になっていく。主人公が仕掛ける作品もありますが、大体の主人公は受ける、反応することが多いと思います。
──そうですね。
でも、役者としては仕掛ける方が楽しいし面白いんです。僕もそうですし、きっと世の中の役者はそう答えると思います。かといって、投げ続けて受けることを忘れると、それは芝居ではなくなってしまうので、受けの芝居も大切なんです。僕が演じた雄司は、より繊細な受けの芝居を求められる役なので、それをやれるかどうかが重要でした。その一方で、僕がやれると思ってオファーしてくださったので、その期待にお応えしたいという思いと、こういったカテゴリーの作品をやったことがなかったので、ぜひお受けしたいと思いました。
──特に、前半は相手のお芝居を受けることが多かったと思います。先ほど、仕掛ける方が楽しいとおっしゃいましたが、水上さんとしては、本作での演技はチャレンジでもあったということでしょうか。
役者の性分として、どうしても何かやりたいという気持ちは芽生えてしまいます。その一方で、周りが仕掛ければ仕掛けるほど、受ける人間は何もしなくても反応できてしまう。何も考えずに存在することが芝居だと思ってしまうのは、僕は駄目だと思っているので。だから、雄司はどこまでいくのか常に考えていましたし、受けるべきものの深度と奥行きも含めて考えながら演じるというのは、ある意味では試練でもありました。攻めながら受けることについて、すごく考えながら演じていました。
──攻めながら受けるというのは、ただ受けるだけではなく、どこまで反応できるか、どこまで見せられるかということでしょうか。
例えば、ボールが来ていないのに受けたように見せて、自分の役を魅力的に見せることは、ちょっと危険なんです。そんな風にひとりで芝居しないように、という意味でも油断はできなかったですね。
──本作は群像劇でもあるので、出演されている方も多いですし、それぞれのドラマも描かれているので、雄司の周囲に人がいるシーンも多かったというのもあるのでしょうか。
自分で考えたことが的を得ていない可能性もあるので、自分の中で及第点を見つけながらも、それを常に疑っている状態でした。本番が始まれば迷いを捨ててやっていますし、方向性が違っていれば監督が教えてくださると思いますが、未だに自分がやった久喜雄司が正解かどうかわからないとは、ずっと思っています。
──そうなんですね。水上さんが演じられた雄司は観客が思いを乗せる対象なので、雄司の振る舞いはすごく大事だったと思います。私は、最初から雄司に思いを乗せて入っていけたからこそ、すごく面白かったです。
それは嬉しいですね。ありがとうございます。確かに、雄司は観る方にとって共感の対象だと思います。
──本作はジャンルをまたいでいく映画のように感じましたが、水上さんはどのように捉えてらっしゃったのでしょうか。
撮影中にプロデューサーの方々から、この映画はラブ・ストーリーでもあると聞いて、納得できました。ジャンルをカテゴライズすることは、見てくださるお客さんが、どういった作品なのか判別するためのひとつの情報として大事なものだと思います。でも、この映画はミステリーを主軸に、恋愛もホラーもサスペンスの要素もあるのでカテゴライズしにくい映画かもしれません。
──ミステリーが主軸というところで意識されたことはありましたか。
僕にとっては、ミステリーが主軸の長編映画に出演するのは初めてだったので、どんな芝居の作り方をしないといけないのか、それこそ振り返る演技ひとつにしても、身体をどう動かすのかすごく考えていました。
──特に前半は、ミステリーならではの間があるように感じました。それは、雄司の首の傾げ方や振り返り方が影響していたと思います。
僕は自分の脳内で生み出したものは、たかが知れていると思っているので、少し多用しすぎたように感じています。雄司が恐怖を感じている時の目線や体の動かし方、背骨も首も頭蓋骨も、一辺倒にはならないように、ひとつひとつの動作がグラデーションとして成立するようにやっていたつもりです。ただ、僕もまだ1度しか観ていないので、それがどのように作用していたかは何度か観ないとちゃんと評価できないと思います。
──まだ一度しか観てらっしゃらないとおっしゃいましたが、全編通して観られて、いかがでしたか?
面白かったですね。僕は自分の出演作を観る時は、自分の粗が1番目に入ってくるんです。今回もそうでしたし、年々、自分を見る目が厳しくなっている中で、初めて試写を観た時に面白かったと思えたことは、とても幸せなことだと思います。それは、本木監督の編集力と技術力、スタッフさんたちの技術の結晶だと思うので、観終わった後、試写室の前で一緒に観ていた方々と「面白かったね」という会話ができたのは幸せでした。
──本作はジャンルが多岐に渡っていることに加えて、戦時中と現代と異なる時代が描かれています。また、不可解な出来事が起こることで雄司の周囲はもちろん、雄司自身も変化していきますが、そういう変化を演じることについてはどのように考えてらっしゃったのでしょうか。
僕自身は、それについて全く苦に感じていなかったんですが、取材でよく「大変だったんじゃないですか?」と聞かれることがあって。僕は迷うことも混乱することもありませんでしたし、むしろ、いくらでもやりようがあるからこそ、もっといろんな雄司を作れたんじゃないかという可能性を感じています。
──もう少し雄司の幅を出すことができたんじゃないかということでしょうか。
制限が少ないからこそ、雄司のベースが変わらなければ何をやってもいいというイメージでした。仮に、ベースが変わったとしても、衣装や姿形は同じだから、同じには見えたと思うので、もしかしたら、ベースごと変えても面白かったのかもしれないと思います。
──そんな雄司が変化するきっかけとなる妻の夕里子を演じた山下美月さんとは初共演でしたが、いかがでしたか。
おそらく、舘さん(宮舘涼太)のこともお聞きになると思うんですが、夕里子は東京から久喜家に嫁いできた人間で、舘さん演じる北斗は、東京から来て何かを仕掛けようとする人間です。ふたりとも、久喜家の周りのコミュニティからすると異質な存在です。彼らが異質な存在であることは僕の役作りの上で、ひとつの助けになりました。おふたりともお芝居もされてますが、アーティストとして活躍されてきたという本質的な部分や、形成しているものが僕とは全く違うと思っていましたし、その違いがあるからこそ面白くなったと思います。
──確かに、おふたりはアーティストの経験をお持ちですね。
表現者もクリエイターもたくさんいらっしゃいますが、僕は、アーティストはその中の頂点だと思うんです。声とその身ひとつで人々を魅了するので。そういう意味で異質だと思いますし、普通の人間とはやっぱり違う。そんな魅力を持った方々と作品を作ることができたのは大きな経験になりました。
──宮舘さん演じる北斗と雄司が最初に会う場面は、北斗の印象を観客に植え付けるシーンだったと思います。あのシーンの撮影にはどのような印象が残ってらっしゃいますか。
僕は、舘さんのお芝居を見るのもあのシーンが初めてでした。北斗は胡散臭いし、言ってることも感じ悪いし、完全否定でいていいシーンだったので、あまり自分の中で及第点を決めずに挑んだんです。序盤中の序盤でもないですが、中盤にも差し掛かっていないぐらいの撮影時期だったので、自分の中で北斗に対する感情のベースを見つけるためにも、あまり決めつけずにやりましたが、もう少し、雄司の感情や言葉の出し方を変えてもよかったのかなとは思いました。
──もう少し違う反応ができたんじゃないか、と。
舘さん演じる北斗が、あのシーンは主なので、もう少し立ててもよかったのかなとは思います。
──不可解な出来事が次々と起こって、雄司は翻弄されますが、もし仮に、水上さんが雄司の立場だったら、どのように行動されていたと思いますか。
愛する者のために、なりふり構わない雄司の姿勢には大変共感します。そういうことをおざなりにしてまで、僕はこの世界に生きたいとも思わないです。そこまでして守りたい、なんとかしたいと思うからこそ、一緒にいたい相手だと思うので。もしかすると、雄司ほど理性を失うことはない気がしますが、理性がなくなって本能の赴くまま行動する雄司の姿には、とても共感します。
──今年は、8月に『九龍ジェネリックロマンス』、10月に『火喰鳥を、喰う』、12月に『WIND BREAKER ウィンドブレイカー』、そしてドラマにも出演されて、いろんな役をやってらっしゃいます。たくさんの作品に出てらっしゃいますが、水上さん自身は今の自分をどのように見てらっしゃいますか。
これだけ沢山のオファーを頂ける事はホントにありがたいことですし、今は、カメラの前でやることしか考えてないので、カメラの前に立ちたい、芝居したいという気持ちだけで行動しています。もちろん、好きなことをやっていますが、忙しくなりすぎるとちょっと自分の色が薄くなってきてるように感じていて。それでも必ず、何か得られるものや見えるもの、感じるものがあって、無駄なことはないと思うので、2025年はなんとかうまくいってるなと感じています。
取材・文/華崎陽子
(2025年10月 2日更新)
▼10月3日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開
出演:水上恒司 山下美月 森田望智 吉澤健 豊田裕大 麻生祐未 / 宮舘涼太(Snow Man)
監督:本木克英
脚本:林民夫
原作:原浩「火喰鳥を、喰う」(角川ホラー文庫刊)
主題歌:マカロニえんぴつ「化け物」(トイズファクトリー)
【公式サイト】
https://gaga.ne.jp/hikuidori/
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/406137/index.html
みずかみ・こうし●1999年5月12日生まれ、福岡県出身。2018年、TVドラマ「中学聖日記」で俳優デビュー。19年、「博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?」でTVドラマ初主演。20年、映画『望み』『弥生、三月-君を愛した30年-』などに出演し、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞、第33回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞石原裕次郎新人賞を受賞した。21年にはNHK大河ドラマ「青天を衝け」に出演。22年には初主演映画『死刑にいたる病』が公開(阿部サダヲとW主演)された。23年、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」に出演、また福原遥と共に主演を務めた映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』で第47回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。24年には『八犬伝』『本心』などに出演。2025年は吉岡里帆とW主演を務めた『九龍ジェネリックロマンス』や、主演を務める『WIND BREAKER/ウィンドブレーカー』(12月5日公開)が控えている。