インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「痛みを伴うものであったとしても、 恋愛に一喜一憂していることさえ羨ましいと思いました」 ジャルジャル・福徳秀介の恋愛小説を 主演・萩原利久×ヒロイン・河合優実で映画化したラブストーリー 『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』萩原利久インタビュー


「痛みを伴うものであったとしても、
恋愛に一喜一憂していることさえ羨ましいと思いました」
ジャルジャル・福徳秀介の恋愛小説を
主演・萩原利久×ヒロイン・河合優実で映画化したラブストーリー
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』萩原利久インタビュー

ジャルジャル・福徳秀介による恋愛小説を、『勝手にふるえてろ』の大九明子監督が萩原利久主演で映画化した『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』が、テアトル梅田ほか全国にて上映中。

理想とはほど遠い、冴えない大学生活を送っていた小西が、一目惚れした同じ大学に通う女性と意気投合したことをきっかけに、喜びと悲しみを重ねていく様を描く。

萩原利久が主人公の小西徹を演じ、河合優実がヒロインの桜田花を演じるほか、伊東蒼、黒崎煌代、安齋肇、浅香航大、松本穂香、古田新太らが出演し、関西大学をはじめ、関西各地でロケを行った話題作だ。そんな本作の公開を前に、主演を務めた萩原利久が作品について語った。

──大九監督とは、以前ドラマでご一緒されていましたが、映画の主演として大九監督に向き合って、どのような印象を持たれましたか。

僕がいいなと思っていた部分は、初めて出会った時から全く変わっていませんでした。エネルギーがあって、チーム全体が大九監督を中心に、いいものを作るという目的に向かって進んでいる監督の現場が僕はすごく好きなんです。初めて監督にお会いしてから10年近く経っていると思いますが、撮影しながら、改めて、すごくいい現場だなと思いましたし、またこういう現場に出会いたいと思いました。お芝居をする、ものを作る、演じるという中で、とてもありがたい、いい環境を作っていただいたと感じています。

──大九監督の作品には共通する独特の間というか、テンポがあるように感じています。監督とは、それぞれの登場人物との向き合い方についてどのようなお話をされたのでしょうか。

具体的なお話はなかったと思います。ただ、ほとんどの方がそうだと思いますが、誰と接するかによって小西の立ち位置は違うので、それぞれに向ける顔については明確にお話しました。その一方で、お芝居に制約をつけるようなことはあまりなくて。間や台詞の言い方について、もっとテンションを上げてほしいというような演出は、そのシーンごとにありましたが、大九監督は、違うものは違うとはっきり言ってくださるので、すごく信頼しています。何事にも臆することなく、現場に立てる安心感がありました。

kyosorai_sub.jpg

──小西は、繊細な面もあれば、ちょっと鈍感な面もあるキャラクターでしたが、萩原さん自身は小西のキャラクターをどのように考えて演じようと思われたのでしょうか。

おっしゃるように、小西は繊細で鈍感ですし、キャラクターっぽい要素が結構ある人物なんです。冴えない大学生だったり、傘をずっとさしてるとか。そういう要素はありつつ、小西を外側の要素だけで判断するのは、良くないと思いました。そこだけをフォーカスしなくていいんじゃないかと。

──なるほど。

事実は見せるだけで十分じゃないかと思ったんです。それが小西を見る上でのフィルターになって、キャラっぽくなってしまうと、この作品が丁寧に描いている人と人との関わりや、言葉のやり取りなど、心というものに合わないんじゃないかと思って。そういう外側の要素はありつつ、そこを意識しないというのが、今回の小西の演じ方でした。

──萩原さんの出演作を観ると、今おっしゃったように、少しキャラっぽい登場人物であったとしても、地に足がついてるというか、現実に存在してる人物に見えると感じていました。今までも、小西を演じる上で大事にしてたようなことを考えながら演じてこられたのでしょうか。

時にはキャラっぽい方が作品にはまる場合もあるので、一概に全てで同じやり方はないですが、ただ、今回の場合は明確にキャラっぽくしたくなかったので、そこは意識していました。

──では、萩原さんはいつも、どのようなことを大事にして演じてらっしゃるのでしょうか。

基本的に自分と同じ人間を演じることがない以上、想像したり、イメージしたり、考えたりすることでしか補えないことはたくさんあります。経験から引っ張ってこられるものもありますが、全てのことを経験できるわけではないので、経験がない中で役を作っていく過程が楽しいのかもしれないです。

kyosorai_sub4.jpg

──本作で、特に印象に残るのが長台詞ですが、伊東蒼さん演じるさっちゃんの長台詞は、様々な感情を揺さぶられました。萩原さんはあのシーンをどのように受け止めてらっしゃいましたか。

本作の取材の中で、あのシーンについて問われることがとても多くて。はい、小西が悪いです。

──小西が悪いというわけではなく...。

僕の中では、小西は決して、あれを聞いてなかったわけではないと思うんです。

──私もそう思います。

彼なりに一生懸命、考えていたと思うんです。でも、頭と心と体が繋がってない状態だったのかなと思います。

──なるほど。

声は聞こえているし、頭では理解しているんだけど、体は全然違うことを欲していたり、心は全く違うものを気にしていたり。かと思えば、体はそっちに向いていても心は向いていなかったり。心を向けてみたら頭が違うところに行っていたり。きっと、彼の中では自分では処理しきれない状況に対してバグを起こしていたような気がします。

──わかる気がします。

聞こえているんだけど...みたいな状態だったんじゃないかなと思うんです。悪意を持って何かを振りかざすつもりはなかったんじゃないかと。彼は、ベストな答えを探していたと思うけど、残念ながら当時の彼には探すことができず、何もできないという結果にはなってしまったんだと思います。

──やはり、この話題について取材で聞かれることが多いんですね。

現場でも言われました。「小西、何やってるんだよ」って。みんなさっちゃんの味方だったので。

──萩原さん自身はどう思ってらっしゃったんですか。

小西が悪いかな。悪いというか、もうちょっと何かできたんじゃないかとは思います。

──そうですね(笑)。

せめてまっすぐ前を向いて聞くとか。もうちょっと聞き方はなんとかなると思うんです。結果的には何もできないと思いますが...。

──ある意味、あれも小西らしいと言えば小西らしいと思いました。

あそこで何かできるなら、あんな風にはなってないですから。決して彼はふざけているわけじゃなくて、彼も一生懸命ではあったと思うんです。だから、僕だけは小西の味方になってあげようと思っていました。

kyosorai_sub3.jpg

──黒崎煌代さん演じる山根と小西のシーンは、絶妙のつかず離れず感というか、大学時代の友達の空気が出ていたように感じました。黒崎さんとはどのようなコミュニケーションをとってらっしゃったんでしょうか。

雑談ばっかりしてました。

──ほんとに大学の友達みたいな。

ああいう山根と小西みたいな関係が、一生の友達になるんだろうなと思います。だから小西には、ほら、めっちゃいい友達いるじゃんって思うんです。

──そうですね。

だから、ひとりだって彼が言うほど、ひとりじゃないというか。1番近いところにいる存在に気づいてないので、そういうもどかしさは感じていました。

kyosorai_sub5.jpg

──確かに、小西にはもどかしさを感じる部分はありますよね。本作では、そんな小西の恋の始まりのときめきも描きながら、ある意味で恋の残酷さみたいなものも描いているように感じました。萩原さんは、完成した作品を観てどのように感じられましたか。

10代はすごいなと思います。あの年齢でないと成立しない物語だと思うので。

──確かに。

大人になると、経験から考えて避けることを覚えるので、ここまでの恋愛にならない気がするんです。だから、すごくキラキラして見えますよね、彼らの日常が。

──キラキラしてますね。

露骨に浮かれていて。痛みを伴うものであったとしても、恋愛に一喜一憂していることさえ、ちょっと羨ましいと思っちゃいます。小西にとっては桜田さんとの出会いがそれだったと思うんです。彼の日常の全てが180度変わったので、そこはキラキラどころか衝撃を受けたんじゃないかと思います。

kyosorai_sub2.jpg

写真/河上良
取材・文/華崎陽子

スタイリスト:TOKITA
ヘアメイク:Emiy(Three Gateee LLC.)




(2025年5月 1日更新)


Check

Movie Data




(C) 2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』

▼テアトル梅田ほか全国にて上映中
出演:萩原利久 河合優実 伊東蒼 黒崎煌代 安齋肇 / 浅香航大 松本穂香 /古田新太
監督・脚本:大九明子
原作:福徳秀介『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(小学館刊)

【公式サイト】
https://kyosora-movie.jp/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/372607/index.html


Profile

萩原利久

はぎわら・りく●1999年2月28日生まれ、埼玉県出身。2008年にデビュー。ドラマ「美しい彼」(21)で注目を集め、以降、映画・ドラマに多数出演。近年の主な出演作に、映画『劇場版 美しい彼~eternal~』(23)、『ミステリと言う勿れ』(23)、『朽ちないサクラ』(24)、『キングダム 大将軍の帰還』(24)、ドラマ「真夏のシンデレラ」(23)、「たとえあなたを忘れても」(23)、「めぐる未来」(24)、「降り積もれ孤独な死よ」(24) 、「リラの花咲くけものみち」(25)など。 今後の待機作に、劇場アニメ『花緑青が明ける日に』がある。