ホーム > インタビュー&レポート > 「観終わった後に、1日1日を大事に生きようと思いました」 馳星周の同名小説を瀬々敬久監督が 高橋文哉と西野七瀬のW主演で映画化したヒューマンドラマ 映画『少年と犬』西野七瀬インタビュー
──最初に脚本を読んだ時は、どのように感じられましたか。
感情が大きく揺れるシーンが多く、これはきっと、体力的にも精神的にも大変そうだなと感じました。
──撮影に入ってからはいかがでしたか。
やはり、大変なことが多かったです。美羽は、抱えているものが多い人物なので難しいところがありました。でも、それを表立って表現するのではなく、普通に生きている人だと思ったので、そういう人物に見えるように意識しました。
──美羽の背景は映画の中では言葉で語られることは少なく、徐々に背景が明らかになっていくような展開でした。だからこそ、感情でしか表現できない部分もあったのではないでしょうか。
そうですね。表情については、監督と細かく微調整をしながら作っていきました。
──映画はバスの中で美羽が女の子に話しかけるシーンから始まりますが、ある意味、西野さんがこの物語の導入部を担ってると言えると思います。
バスの中のシーンは現在ですが、映画は過去のシーンの方が多いので、そこから年月が経っていることを、どう表現できるのかなという不安はありました。
──確かに、2013年から現在なので10年以上経っている設定ですから。今回は、メイクも抑えめというか、ほぼすっぴんに近い時も多かったと思います。
そういう風に見えるように、メイクさんが作ってくださっていました。私は(素顔を)見慣れているので、鏡で見ても、スクリーンで見ても違和感はなかったです。見慣れない方の方が多いかもしれないですが、新たなイメージといいますか、メイクさんの力もお借りして、幅が広がったように感じています。見た方にもそう思っていただけたら嬉しいです。
──西野さんが出てらっしゃらないシーンもあったと思いますが、完成した作品を観られて、どのように感じられましたか。
とても面白くて引き込まれました。もちろん脚本を読んでいるので展開は知っていたのですが、台詞がすごく心に響いて、心が動かされました。和正とお姉さんのシーンが特に印象に残っています。
──すごく切なくなりましたよね。
和正の家族は、決していい雰囲気ではないですし、ちょっといびつですが、それがすごくリアルで。伊原(六花)さんの「地獄の中にいるみたいだった」という台詞が、心にずんと来ました。
──高橋文哉さんも他の作品のイメージとは違って、暗い表情の時はすごく辛くなりました。高橋さんとは初共演でしたが、全てのシーンがすごく重要で、軽めのシーンがない共演だったと思います。共演されていかがでしたか。
現場でもふたりで「(軽めのシーンが)ないね」と言っていました(笑)。高橋さんは、いろいろチャレンジするのがお好きな方だと思います。美羽と出会った時の和正が、ちょっと面倒くさい感じのキャラクターで(笑)。私は、それがすごく素敵だなと感じました。
──ウザいけど、ウザすぎないというか、可愛らしくも見えるキャラクターでしたね。
可愛いらしさもあるので、そのバランスによって、美羽として煙たがる、面倒くさがることができました。その後は、和正との出会いによって美羽が救われる部分も多いので、その対比が表現しやすかったです。
──美羽が妹の結婚式に行くシーンで、気まずい空気を打ち破って和正とふたりで「ヘビーローテーション」を歌う場面がありましたが、あそこに飛び込むのは美羽自身にとってもすごく勇気が必要だったんじゃないかと思いました。
勇気が必要でした。おそらく、美羽は吹っ切れたんだと思います。大事に思っていた妹にも冷たい目を向けられて、来なければよかったと感じていたと思うんです。でも、和正の行動で全部どうでもよくなったんじゃないかなと。もういいや、と(笑)。
──あのシーンの歌は別録りではなく、あの場所で歌った歌がそのまま流れてるとお聞きしました。あのロケーションで歌うのは気持ち良かったんじゃないでしょうか。
すごく気持ちよかったです。絶景の場所でしたし、空が澄んでてすごく綺麗で。シチュエーションとしては美羽にとって辛い時間でしたけど、あの曲がすごくマッチしていたと思います。
──あのシーンは原作にはないので、監督がお選びになったんでしょうか。
あの年にリリースされた曲の中でいくつか候補が上がっていたそうで、その中で選ばれたのが「ヘビーローテーション」だったそうです(笑)。
──琵琶湖の近くで撮ったシーンが多かったと思いますが、西野さんは琵琶湖に馴染みはありましたか?
琵琶湖は小さい時によく行っていました。海にもよく行っていましたが、子どもの頃は海より湖の方がしょっぱくないから好きだったんです。波もあまりないですし。なので、琵琶湖は小さい頃の楽しい思い出が残っています。
──撮影で訪れてみて、いかがでしたか。
琵琶湖沿いにあるキャンプサイトで撮影したのですが、すごく綺麗でした。
──滋賀県といえば、メタセコイア並木でも撮ってらっしゃいましたね。
実は、あれはまださくらとの距離が縮まる前に撮影したんです。滋賀に入ってすぐ、撮影2日目ぐらいで。散歩をするシーンがあったのですが、たくさん引っ張られてしまって(笑)。
──実はそんな苦労もあったんですね。
徐々に慣れてくれましたけど、最初は全然慣れてくれませんでした(笑)。
──多聞役のさくらは、もうひとりの主役のような存在感がありましたが、最初から映画の中ように賢い振る舞いができたのでしょうか。
初めはもしかしたら、現場の雰囲気に戸惑っていたかもしれませんが、後半はもう役者さんのようでした(笑)。本番は集中して、空いた時間はちょっと遊んで発散して。高齢のワンちゃんだったこともあって、現場でも落ち着いている子だったので、現場にワンちゃんがいるような感覚はあまりなくて、いち役者さんのような感じでした。
──そんなに賢い子だったんですね。遠くを見つめる目がすごく印象的でした。
すごく表情豊かでした。
──西野さんは瀬々監督の作品への出演は初めてだったと思いますが、監督とはどのようなコミュニケーションがあったのでしょうか。
監督とは、演出以外ではほとんどお話していないんです。監督の感想を聞く機会もなかったので、はじめはこのシーンどうだったかな?と思うこともありましたが、OKが出たということはOKなんだと思って、振り返ることはしなかったです。でも、私が迷っていた時に改めて話すことはありました。
──演出に特化されてたんですね。
そうですね。演出以外の雑談的な話は全然してないです(笑)。
──では、今日の舞台挨拶で初めて明かされることがありそうですね(笑)。
大丈夫かな(笑)?でも、この間、完成披露でご一緒させていただいた時に面白い方だと思ったので、楽しみでもあります。監督とふたりで登壇できる機会は、なかなかなさそうなので楽しみたいと思います(笑)。貴重な機会です。
──プレスシートでは西野さんのことを「気付けばそのシーンの中にスパッ!といる俳優さん」だとおっしゃってました。
噂では、誰かに私のことを話してくださっていたみたいなんです。
──それを西野さんが人づてに聞く、と。
人づてに聞いて、安心したりしていました。ご本人からは良い悪いはなく、OKだけを聞いていました。
──「今までに経験したことがない感情になる場面が多かった」とコメントされてましたが、撮影を振り返って、今までの映画の撮影とは違うものを感じられましたか。
大きな作品の中で主要人物をやらせていただけたことについて、撮影が終わるまではあまり考えていなくて、とにかく演じることに集中していました。でも、初号試写を観て、ようやく、すごく大きな任務だったんだなと感じて。
──なるほど。
撮影が終わった日も、身体の力が全部抜けるような感覚で。ずっと、心が押しつぶされるといいますか緊張していたので、撮りきれた安心感もあって、涙がでてしまいました。天候が良くない日もすごく多くて、天気に振り回されがちだったので、より現場のスタッフさん達と、チームの団結感みたいなものが生まれていて、一緒に乗り越えたように感じていたので、改めて、皆さんへの感謝の気持ちで感情が溢れてきました。
──今まで経験したことのなかった感情になったということですよね。和正にも美羽にも当てはまることですが、この映画には1度失敗してもそれで終わりじゃないというメッセージを強く感じました。西野さんはどのようなメッセージを受けとめられましたか。
私は観終わった後に、1日1日を大事に生きようと思いました。どうしても、明日がやってくるのが当たり前のように思ってしまうけど、しっかり周りの人に言いたいことや伝えたいことを、今度にしようと思わず、その時に伝えないといけないなと思いました。
撮影/河上良
取材・文/華崎陽子
(2025年3月18日更新)
▼3月20日(木・祝)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開
出演:高橋文哉 西野七瀬
伊藤健太郎 伊原六花 嵐 莉菜 木村優来(子役) / 栁俊太郎 一ノ瀬ワタル 宮内ひとみ
江口のりこ 渋川清彦 美保 純 眞島秀和 手塚理美 益岡 徹
柄本 明 / 斎藤 工
原作:馳星周「少年と犬」(文春文庫)
監督:瀬々敬久
脚本:林 民夫
主題歌:「琥珀」SEKAI NO OWARI(ユニバーサル ミュージック)
【公式サイト】
https://shonentoinu-movie.jp/
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/363407/index.html
にしの・ななせ●1994年5月25日、大阪府生まれ。2011年、アイドルグループ「乃木坂46」に1期生として加入。グループの中心メンバーとして活躍し、映画『あさひなぐ』(17)では映画初主演を務める。18年にグループを卒業、以降俳優として活動中。ドラマ「あなたの番です」(19)で話題を呼び、その後も数々のドラマ・映画に出演。『孤狼の血 LEVEL2』(21)では日本アカデミー賞の優秀助演女優賞および新人俳優賞を受賞、『恋は光』(22)でヨコハマ映画祭の最優秀新人賞を受賞し、その後も『映画 イチケイのカラス』(23)、『シン・仮面ライダー』(23)、『帰ってきた あぶない刑事』(24)といった話題作への出演が続く。2024年は「劇団☆新感線 いのうえ歌舞伎『バサラオ』」に出演、ゲキ×シネ『バサラオ』として6月27日(金)より、全国にて公開される。また、2025年1月にはヒロインを演じた『君の忘れ方』が公開された。