ホーム > インタビュー&レポート > 『メランコリック』の田中征爾監督による予測不能な物語 映画『死に損なった男』主演・水川かたまりインタビュー
──主演映画の話を聞いた時はどのように感じられましたか。
ドッキリだと思いました。
──いつまで疑ってらっしゃったんですか?
本当に映画だと確信したのは初日に撮影現場へ行った時です。
──さすがにこんな大掛かりなドッキリはないと。
さすがに、僕ひとりのためにこんなにたくさんの方を動員しないだろうと思って、そこで確信しました。
──最初から主演映画というオファーだったのでしょうか。
スケジュールに、「かたまり主演映画(仮)」って書いてあったので、嘘だと思いました(笑)。
──それは嘘だと思いますよね(笑)。初めて脚本を読んだ時はどのように感じられましたか?
脚本を読んだら面白かったので、そこでちょっと本当かもと思いました。僕を騙すためにこんなに面白い台本を作るなんて、ここまで手間暇かけないだろう、と。その後、衣装合わせや本読みもあって、だんだんグラデーション的に信じていった感じです。
──なるほど。演じられた関谷一平は水川さんの近くにいそうなキャラクターだったと思いますが、キャラクターについてはどのように感じられましたか?
普段から構成作家の方と関わることが多いので、どういう仕事をしてるのか、仕事の上でどういう悩みがあるのかイメージしやすくて、すごいやりやすかったです。
──脚本を読んで、1番面白いと思ったポイントはどこでしたか?
冒頭でいいなと思いました。人生に疲れた人間が駅のホームから飛び降りようとしてるところに、隣の駅で人身事故があって、電車が来なくて命を取り留めるというのが、設定としてめちゃくちゃいいなと思いました。
──わかります。
僕も普段、コントを考える時は設定の入口から考えるんですが、僕がこれを思いついていたら、マジでガッツポーズしてたと思います。
──思いついた自分に。
褒めてあげたと思います。
──映画に出演されて、どのように感じられましたか?
撮影というシチュエーションは、再現VTRの撮影など、時々、自分の仕事の中でもあるんです。同じシーンをいろんな角度から撮ることもあるけど、やっぱり規模感が全然違うなと思いつつやってたんですが、完成した映画を観たら、ずっと自分が出てるな、と。
──そうですよね(笑)。
初めて試写で観た時はすごい違和感があって。正直、自分がずっと出てるのが気になって、あんまり話が入ってこなくて楽しめなくて(笑)。その違和感はずっとありました。
──普段からコントで演じることはありますが、映画で演じる感覚は違いましたか?
違いますね。コントでは同じ台詞を何回も言うことや、いろんなアングルから撮ることはないので。基本的にコントは、お客さんが笑うことを目的としてやってるから、舞台で何かやって笑い声があってというのが日常になってるので、ちょっと慣れないというか。
──映画の撮影中に笑い声は絶対起きないですもんね。起きちゃダメですもんね(笑)。
笑い声は絶対起きちゃダメですね(笑)。笑うことを目的にやってるわけじゃないんですけど、ずっとうっすら滑ってるような(苦笑)。芸人がお芝居の仕事をしたら、みんなそういう感覚になるんじゃないかと。
──ずっと滑ってる感覚(笑)。撮影中にお笑いの仕事をされた時はどんな感覚でしたか?
4、5日撮影して、2日はお笑いの仕事やって、また映画に戻るみたいな感じだったので、お笑いの仕事をしてる時は、日常だなとちょっとホッとしてる感覚はあったと思います。
──なるほど。撮影で苦労したところや、しんどいと感じたところはどこでしたか?
駅のホームで涙を流すシーンがあって。ちょうどその前に俳優の皆さんと「泣くシーンってどうやるんですか」という話をしていて。皆さんから方法論をお聞きして、なんかできるような気がして「ちょっとやってみます」って撮影に臨んだんです。そうしたら、1分間、ただ僕がじーっと宙を見つめてるのを見られて、「カット」と言われたのは、めちゃくちゃ恥ずかしかったですね。
──そうですよね(笑)。
「なんなんだこいつ」って、たぶん全員が思ったと思います。
──しかも、その1分間、全員が待ってるというか、見つめてるわけですもんね(笑)。
誰も声を発さず、ただ、僕が涙を流すかどうかにみんな集中してて。すごい恥ずかしかったです(笑)。
──確かに、それはちょっときついですよね(笑)。なんかできる気がしたのに。
きつかったですね。なんかできる気がしただけでした(笑)。
──正名さんとご一緒のシーンが一番多かったと思いますが、共演されてみていかがでしたか。
最初の4、5日間はずっと正名さんとふたりのシーンでしたが、めっちゃ優しい方でした。お会いするのは初めてでしたが、共演にあたって、僕のことを調べてくださってて。「出演されていた番組を以前拝見したんですが...」と言っていただいたり、たくさん話してくださって。正名さんがいなかったら、現場に馴染めなくて僕はとっくに逃亡していたと思いますね(笑)。
──初めての世界ですもんね。
キッザニアの映画主演コースみたいなのに参加してるような感覚でした。何もわからなかったので。
──撮影現場ならではの用語もわからないですもんね。
カメラマンさんがアシスタントの方に、「パンケーキ持ってきて」とおっしゃってて。お腹すいたのかな?と思ってたら、現場にずっといらっしゃったスチール写真のカメラマンの方がよく用語を教えてくれていて。「パンケーキというのは下に引く板のことですよ」と教えてくれたんです。
──正名さんとは撮影中、どのようなお話をされましたか。
今回の映画についてはもちろん、正名さんが好きな映画や僕が好きな映画の話も。ちょうど妻が妊娠中で、次の春に子どもが生まれるんですという話から正名さんのお子さんの話とか。子どもが生まれる前にこういうことをしといた方がいいですよ、というような人生の先輩としての話からスケベな話まで色々話しましたね。
──おふたりの共演シーンがすごく自然に見えましたが、正名さんとのそういう関係性が映画に活きたんですね。
それはあったと思います。
──唐田えりかさんや堀未央奈さんとの共演はいかがでしたか。
おふたりとも女優さんなので身構えてたんですが、唐田さんはちょうど「極悪女王」を撮り終わってすぐぐらいの時期で、ゆりやん(レトリィバァ)さんや、マリーマリーのえびちゃんっていう僕の後輩とすごく仲良くなったみたいで。初めて撮影で一緒になった時に、ディズニーランドに行った話や、えびちゃんのライブを見に行った話を聞いて、お笑い芸人をいじめない人というか(笑)、お笑い芸人を好いてくれてる方だとわかって、すごく安心しました。すごい話しやすかったですね。
──(笑)。最初にそういう風に言ってくださると嬉しいですよね。
唐田さんがいなくても僕は逃亡していたと思います(笑)。
──堀未央奈さんのような同僚が事務所にいたら絶対恋に落ちるなと思いましたが、すごく絶妙なリアルさがありましたよね。
めっちゃリアルでしたね。僕は吉本興業ですが、こういうマネージャーいるなと思いました。堀さんと初めて一緒になったのが、ラスト間際の、電車の中でふたりで楽しく話してるシーンで。
──音楽が流れていて、話している内容は聞こえないシーンですよね。
そうです。「ふたりで楽しそうに話しててください。音はないので」って言われて。初対面だし、何を話そうかと考えて、なんとなく、「動物好きですか」みたいな話になったんです。僕が「動物好きです。犬飼ってて」って言ったら、堀さんが「犬飼ってるんですか。何犬飼ってるんですか」、僕が「チワックスって、チワワとダックスのミックス飼ってます」って言ったら、堀さんが「私もチワックス飼ってます」って。
──そんなことあるんですね。
だから、あのシーンは読唇術ができる方だったら、めっちゃチワックスって言ってるのがわかると思います(笑)。めっちゃチワックスって言ってましたから。
──(笑)。映画の中にはお笑い芸人さんが出てきて、芸人の世界の描写もありましたが、わかるなと感じる描写はありましたか?
マルセイユさんがやってた、メインで出てくるコンビが、僕が事務所に行った時に喧嘩をしてて。ネタで揉めたか何かだったと思うんですが、とにかく自分のことを棚にあげて、相手を罵りまくるのがめっちゃ芸人の喧嘩だなって思いました(笑)。
──(笑)。
ちゃんとした大人の喧嘩じゃないというか、子どもじみてて、最後に「死ね」とか言っちゃう感じが。映画を観た方がどう思うかわからないですけど、すっげえリアルだなと思いました。
──そうなんですね。
僕もコンビで活動してるので。どこにも見せてはいけないような喧嘩をしたこともあります。あのシーンは、マルセイユさんに「芸人っぽい喧嘩してください」って言っても、多分マルセイユさんはできたと思います。
──台本が無くても(笑)。今回、田中監督からは撮影前に、どのようなお話があったのでしょうか。
衣装合わせの時に「このシーンを本読みしてもらえますか」と言われてワンシーンやったら、「言うことないです。イメージぴったりです」と言っていただいて。その時は、映画は初めてだし、すごい不安で怯えてるだろうから、とりあえず優しい言葉をかけて、ちょっと安心させておこうという魂胆なのかな?と疑っていたんですが、本当に監督のイメージに合ってたみたいで。感情の出し方というか、感情のボリュームを調整してもらったという感覚です。
──田中監督の前作の『メランコリック』は観られましたか?
観ました。めっちゃ面白くて。『メランコリック』も設定がすごいですよね。銭湯が実は殺人現場だったっていう設定を思いついたら、僕ははしゃいじゃうと思うので。監督はすごいいいコントを作れると思いますね。
──関谷一平というキャラクターは、水川さんそのものに見えましたが、水川さん自身は、どのように感じられましたか?
似てると思うのは、頑固というか、ピュアなところですね。一平は、お笑いの構成作家をやりたいと思って構成作家になって、たぶん、ある程度お金ももらって。結構いい家に住んでるんですよ。
──確かに。
まだ食えてない構成作家とか、傍から見ると一平は羨ましい状況だと思うんです。でも、一平は自分が志した時にやりたかったこととは違うことを今やってると感じて、自分の中で折り合いがつけられなくなって、疲弊していったんじゃないかと。その感覚はわかるというか。
──なるほど。
僕も8年ぐらいバイトして、お笑いだけで生活できたら最高なのにと思ってやってきて、実際にバイトを辞めて、お笑いだけで生活できるようになってバラエティ番組に出ても、すごい無理してやってるなと客観的に見てしまって、ちょっと憂鬱になることは多々あるので、そういう気持ちはすごいわかると思いました。
──そうだったんですね。
でも、僕はそうなっても割と楽観的なタイプで、ある程度時間が経てば忘れられるので、死のうと思ったことは全然なくて。そこは違うと思います(笑)。
──良かったです(笑)。
義理のお母さんが観てくれたらしいんですが、僕とすごい重なったらしくて。僕のことをかたちゃんって呼ぶんですけど、「かたちゃんが死のうとしてて、可哀想になって泣いちゃった」って言ってました(笑)。
──ちなみに、相方のもぐらさんは観られたのでしょうか。
もぐらさんは観てなくて。基本的に僕が出たドラマとかは見ずに、本当にざっくりした情報からストーリーを考察してくるんです。今回の映画もこのポスターから、「本当は死んでないとかそういうことでしょ」って考察を繰り広げてきて、すごい迷惑でした。
──映画の撮影を経験されて、今後のコントに活かせそうなことはありましたか?
結構、変わった気がします。今まで、がっつり自分の演技について考えることはなかったですが、1ヶ月間映画を撮ってると、ちゃんと考えなきゃいけないので。こういう時はどういう心情なんだろうと考えて、視線はここに置いた方がいいか、こっちは向いてないよなとか、そういうことを考えるようになって。映画の撮影後にコントをやる時は、今まで気を配ってなかった細かいところが気になるようになりました。この台詞はちょっと違うかな、ここはスタスタ歩いてるなとか。何年もやったネタでもちょっと変わったような気がします。
取材・文/華崎陽子
(2025年2月19日更新)
▼2月21日(金)より、T・ジョイ梅田ほか全国にて公開
出演:水川かたまり(空気階段)
唐田えりか 喜矢武豊(ゴールデンボンバー) 堀未央奈
森岡龍 別府貴之(マルセイユ) 津田康平(マルセイユ) 山井祥子(エレガント人生) /正名僕蔵
監督・脚本:田中征爾
【公式サイト】
https://shinizokomovie.com/
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/387554/index.html
みずかわ・かたまり●1990年7月22日、岡山県生まれ。慶応義塾大学中退。NSC東京校17期生として入学し、2012年に空気階段を結成。「キングオブコント」2021王者。2017年から放送しているTBSラジオ「空気階段の踊り場」に出演中。2022年にはドラマ「君のことだけ見ていたい」の脚本を手掛け、「妻、小学生になる。」(22)や「罠の戦争」(23)など数々のドラマにも出演し幅広く活躍中。