ホーム > インタビュー&レポート > 新たな“キャプテン・アメリカ” サム・ウィルソン役の日本版声優を務める 映画『キャプテン・アメリカ: ブレイブ・ニュー・ワールド』溝端淳平インタビュー
──初めて本作の話を聞かれた時は、まさかの主役という感覚だったのでしょうか。
『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』でサム・ウィルソン役声優のお話をいただいた時から、原作ではサムがキャプテン・アメリカを受け継ぐことは知っていたので、もしかしたらあるかな?とは思っていました。
──サム・ウィルソン役の声優に決まった時はどのように感じましたか?
嬉しかったです。竹中直人さんとアベンジャーズ入隊式と銘打って記者会見したのを覚えています。
──本作では、どのように考えながら声をあてられましたか?
今までのファルコンは、キャプテン・アメリカのサポート役で、場を和ませる役割が多かったのですが、今回は先頭を切ってシリアスな場面と対峙しているので、今までよりも言葉の重みや重厚感を出さなきゃいけないというのは、すごく意識していました。でも、自分ではそう思っているのに、なんでできないんだろう?と葛藤の毎日でした。
──ど真ん中にいるからこそ、ですね。
監督さんからOKをいただいても、時間の許す限り自分から録り直させてくださいとお願いすることもありました。ほぼ2時間ずっと僕の声を聞きながら映画を観ることになるので、それに対する責任はすごく感じていました。もし、僕の声が作品の良さを損なうことになったらどうしようというプレッシャーは、今までの何十倍もありました。
──ほぼ2時間出ずっぱりの方の声優を務めるのは大変だと思います。
普段お芝居している感覚とは全然違うので。台本を見ながら絵を見て、秒数を見て。そこに感情も込めなきゃいけない。普段、お芝居している時は動きがあって、感情が動いて、言葉が出てくるのですが、吹き替えでは言葉だけをアンソニー・マッキーさんのお芝居に合わせて瞬発力で出す必要があるので。改めて、吹き替えは難しいと感じました。
──ディズニープラスで日本語吹替版で見る時に、字幕版の字幕が出ますが、吹き替えの言葉と全然違うんですよね。
俳優の台詞の時間内に日本語が収まらないんです。ただ翻訳してるわけではないんですよね。早口というのもありますが、英語は短い時間でたくさんのことを伝えられるので。
──日本語吹き替え版の声優というのは、観客と映画を近づける存在だと思いますが、声優を務める時に溝端さんが大事にしていることは何でしょうか。
とにかく英語版の雰囲気を感じて、それと完全に同じにすることは難しいですが、どこまで近づけられるかということだと思います。もうひとつは、ちょっとコミカルなシーンなどで、アメリカではきっと言葉のニュアンスでわかることでも、日本で文字だけ見ると、ここって面白いのかな?と、一瞬で理解できない時もありますよね。
──ありますね。
それを吹き替え版の場合は、よりリアルに日本の皆さんに伝わるようにしたいと思ってます。後は、なるべく口語体で吹き替えをしたいですね。吹き替え版の台本を読んで文語体のように感じたので、口語体に変えさせてくださいと言ったところもあります。
──なるほど。堅苦しくならないように意識してらっしゃるんですね。アンソニー・マッキーさんのことはどのように感じてらっしゃいますか。
とにかく、お芝居が細かいですね。ちょっとしたことなんですが、何度も言いかけたりするシーンの吐息だったり。実際にお芝居するよりも、ちゃんと声を意識しながらやらないと吹き替えでは画に負けてしまうんです。お芝居してる声をそのまま当ててしまうと、言葉だけが浮いてしまうのです。きちんと声をはめるには、声優さんがやられるような発声法でやらなきゃいけないんですよね。なるべくリアルに近いような、生々しい吹き替えができるように意識してます。
──息も吹き込んでらっしゃるんですよね。
息どころか、唇を開閉させる音とか。「ちゃんと鳴ってますか?」と何度も確認しながら収録してます。アクションシーンだと、誰の息かわからなくなるんです。1度収録を止めて、「誰の息かな?」とみんなで検証することもありました。吹き替え版の日本のスタッフさんは、一言一句すごく細かくやってらっしゃいます。一言一句というか、ひと息ですね。微かな音も絶対に入れようと努力されているので。
──声をあてる時に、溝端さんはほとんどのシーンを見られたのでしょうか。
完璧な画は見てないですが、全シーン見てます。ほとんど誰も内容を知らないので、ちょっと優越感もありますね(笑)。
──ですよね。数人しかご存知ないんじゃないでしょうか。
ディズニーのスタッフの方もまだ見てないんじゃないかな。僕だけが(笑)。
──すごく羨ましいです。言える範囲で構いませんので、一番心が動いた部分を教えていただけますか。
個人的には、ハリソン・フォードさんがやられているロス大統領の物語がすごくいいんですよね。これまではロス大統領に対して「なんだ、あいつは!」と思っていた方も多いと思うんです。
──ソコヴィア協定を作った方ですから。
今まではリアリストな部分が目立っていたと思いますが、リアリストなりの彼の葛藤というか、家族や娘も出てくるので、違う一面も見られると思います。大きなものを背負っているサムと、また違うものを背負っているロス大統領という、ふたりの男の物語だと言えるかもしれません。ドラマ版で出てきた、イザイアという黒人のキャプテン・アメリカがいますが、彼のお芝居も素敵で、サムとの息子と父親みのような関係性もぐっとくるんです。
──なるほど。
もうひとつは、日本の総理大臣役で平岳大さんが出演されてますが、日本が今回のテーマでもあるんです。あるライターさんが「キャプテン・アメリカシリーズは今を現している」とおっしゃっていましたが、そういう意味で言うと、今回も、ちょっとヒヤッとするようなところがあって。映画とはいえ、もしかしたら、そんなことあり得るかも...と思う方もいるかもしれません。そういうサスペンスの要素も見どころだと思います。
──聞けば聞くほど期待が高まりますね。
誰が敵なのかは最後までわからないので、サム自身もどう倒していいのかと考える姿が描かれます。そういうミステリーの要素もキャプテン・アメリカシリーズならではだと思います。
──『シビル・ウォー』は、その後に続く物語の布石になっていましたが、今回は今後のシリーズに繋がる予感のようなものは感じられましたか?
大まかに言うと、今回の戦いの終わりは、今後のMCUはこういう雰囲気なのかなと予感させてくれるものでしたし、意外性があるものでした。もうひとつは、サムが新しいキャプテン・アメリカ像を見せてくれた気がします。サムはサムのままでキャプテン・アメリカを貫いてほしいと応援したくなると思います。
──サム・ウィルソンの次に好きなキャラクターをお聞きできますでしょうか。
これは本当に忖度抜きで、僕はスティーブ・ロジャースが好きです。サムほどではないですが、どちらかというと普通の人間に近いですよね。アベンジャーズの時のユニフォームのダサさと、みんながピュンピュン飛んで戦っている中、地上で戦っていて。でも、すごくリーダーシップがあって。衣装もアイアンマンに比べると昔の感じのフォルムですし、1940年代からタイムスリップしてきたから感覚もちょっと古いんですよね。
──そうですね。
それでも彼は、リーダーシップを発揮して、どんなことにも打ち負けないというぐらい、ずっと前に進み続けるんです。『ウィンター・ソルジャー』の時に、かっこいいと思うようになって、『シビル・ウォー』でたくましいと感じるようになりました。ある種、危険な思想だと思いますが、自分の正義だけを信じてアイアンマン達と対立しますよね。一本気に自分の信念を曲げずにいく、ある種の危うさみたいなところがキャプテンの好きなところです。
──わかる気がします。
キャプテンは支えたくなる存在なんです。『シビル・ウォー』でもホークアイとか、キャプテンにつくヒーローも多かったですよね。なんでキャプテンにつくの?と思う方もいると思うんです。どう考えても、ソコヴィア協定にサインした方がいいんだから(笑)。でも、キャプテンは国にずっと裏切られてきて、時代によって国が変わることを痛感してるんです。彼には人徳があると思いますが、それはサムも受け継いでいると思います。
──なるほど。
キャプテンとはまた違う人間味というか、脆さもあるので。キャプテン・アメリカのいいところはそこだと思います。リーダーシップを取るんだけど、ひとりにできないというか、ほっとけないところが、キャプテン・アメリカという存在に通じる魅力なんじゃないかと思います。
取材・文/華崎陽子
(2025年2月14日更新)
▼2月14日(金)より、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて公開
出演:アンソニー・マッキー/ダニー・ラミレス/リヴ・タイラー/ジャンカルロ・エスポジート/ハリソン・フォード 他
日本版声優:溝端淳平
監督:ジュリアス・オナー
【公式サイト】
https://marvel.disney.co.jp/movie/captain-america-bnw
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/248214/index.html
みぞばた・じゅんぺい●1989年6月14日、和歌山県生まれ。2007年、TVドラマ「生徒諸君!」で俳優デビューし、2008年「ハチワンダイバー」でドラマ初主演を果たす。同年、映画『ダイブ!!』で映画初出演、『赤い糸』の映画版で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その他、『君が踊る、夏』(10)、『高校デビュー』(11)、『麒麟の翼 劇場版・新参者』(11)、『祈りの幕が下りるとき』(18)などに出演。NHK連続テレビ小説「スカーレット」(19)、NHK大河ドラマ「どうする家康」(23)などに出演し、舞台作品でも活躍中。