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『踊る大捜査線』シリーズと室井慎次への思いを生みの親が語る
映画『室井慎次 生き続ける者』
亀山千広プロデューサー&本広克行監督インタビュー

“青島と室井の約束”から27年の時を経て、社会現象となった『踊る大捜査線』シリーズのプロデューサー亀山千広、脚本の君塚良一、監督の本広克行が再集結した、“踊るプロジェクト”映画最新作『室井慎次 生き続ける者』が、TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中。

警察を早期退職して、犯罪加害者・被害者家族を支援している室井慎次が、故郷・秋田で発生した死体遺棄事件に直面し、捜査に協力しながら“家族”を守ろうとする姿を描く。柳葉敏郎が室井慎次を演じ、その他、福本莉子や齋藤潤、松下洸平が出演し、筧利夫と真矢ミキが『踊る大捜査線』シリーズから続投している。

そんな本作の公開に合わせ、亀山千広プロデューサーと本広克行監督が作品について語った。(この記事には本作のネタバレを含みます)

──おふたりの中で『踊る』シリーズは、終わったという感覚だったのでしょうか、それとも、まだどこかで続いている感覚だったのでしょうか。

亀山千広プロデユーサー(以下、亀山):プロデュース側からすると、『踊る3』と『THE FINAL』とテレビドラマの3本を作って、とりあえずそこで幕を降ろそうと思ってました。14年前にもう1度プロジェクトをスタートさせましたが、実は、ファンの方には申し訳ないんですが、『踊る大捜査線』は、『2』の未曾有のヒットによって、プロデューサーとしてはもう大きくなりすぎて持ちきれなくなってたんです。

──確かに『踊る2』は173.5億円の興行収入を記録し、現在も邦画実写映画のトップに君臨しています。

亀山:テレビのレギュラーシリーズは、いわば瞬発力のある駆逐艦で。戦隊を組んで動いていたのが、あれ以降、クルーズをするような、各フロアにいろんなお客さん(出演者)がいるような状況になってきて、これはちょっとこの先やっていくのも辛いなと。本当にファンの皆さんには申し訳ないですが、いい時に終わらせようと思って終わらせたんです。

──そうだったんですね。

亀山:当然、タイトルでファイナルと言ってますから、最後だと思ってやってましたが、今回の室井の話とは全く違う意味で、終わらせてなかったんだと今回すごく思ったんです。

──終わらせてなかったとは?

亀山:『THE FINAL』のラストで室井さんは組織改革委員会の委員長になって、警視庁を改善して組織を回復していくんだろう、青島くんは事件に呼ばれて、夕日の中に走っていって、すみれさんは新しい人生へ向かって。

──そんな終わり方でした。

亀山:その後、僕は完全に現場から外れて、ドラマや映画を作るポジションにはいなかったので、僕の中では終わっていました。それでも、役者さんたちが元気にいろんな作品に出られているのを見て、「今頃、青島は何してるんだろうな」とか、柳葉さんや深津さんのことも、ファンとしてふと考えることはあったんです。そこへ、一昨年の12月に君塚さんからメールが届いて。

──なるほど。

亀山:君塚さんとは、(脚本を手掛けられた)「教場」を見たら「面白かったです」とご連絡をするような関係で。監督ともほとんど会ってもなかったもんね。

本広克行監督(以下、監督):そうですね。

亀山:君塚さんとも監督とも全然会ってなかった時に1本のメールが届いて、「室井を書きたい。もう1回、亀山さんと監督と3人で仕事をしたい」と。実際に君塚さんにお会いしたら、「僕らは自分の都合で終わらせてしまったけど、実は中途半端だったんじゃないか。終わらせるなら、きっちり終わらせましょう」と。

──終わらせることがそもそもの目的だったんですね。

亀山:青島君たち湾岸署の皆さんはファンタジーの世界で動いてるけど、警視庁という組織の中で、どっぷり規則や制度を作ってる人間は、そこからはみ出せられない。そういう意味では、リアルを持ち込んでいるのが室井さんなんです。君塚さんの中では、そんな室井さんをこのまま中途半端にほっといていいのか、と。もうひとつは、柳葉さんはある意味、室井を背負って、縛られていて、室井っぽく見えるもの、スーツを着たりオールバックにしたりという作品は全部断ってるんですね。

──確かに、室井以外ではそういう役をやられているのを見たことはないです。

亀山:君塚さんは「役者さんのポテンシャルを僕らが勝手に縮めちゃってるんじゃないか」と。「僕も(脚本を)書いたけど、あなたはプロデューサーだし、監督も撮ったんだから、その責任はあるんじゃないか」と。ノスタルジーで集まりたいわけではないと聞いて、僕は「わかりました」と。「柳葉さんと本広監督に声をかけます」と答えて、動き始めたんです。

──では、亀山さんはおふたりを説得しないといけなかったんですね。

亀山:君塚さんは、室井慎次に決着をつけてあげたいと。「死ぬんですか?」と聞いたら、「そうしないと僕らはまた室井さんに頼ってしまう」と。柳葉さんに、室井と一緒に生きていく必要はない、柳葉敏郎の役を選んでやってほしい、と。君塚さんは師匠が萩本欽一さんなので、そこからの柳葉さんとの付き合いなんです。

──長いお付き合いなんですね。

亀山:でも、柳葉さんに「室井をやります」と言ったら、「役としては背負ってるかもしれないけど、もう終わってるじゃないか」と。「もうやらないよ、室井は」と事務所を通じて返事が来て。その時点のプロットでは、室井は秋田に帰って、里親をしている以外の要素は全くなくて。農業をしながら、地元のコミュニティと揉めて、そこで何か事件が起こるという話だったんです。そのプロットを見た瞬間に、監督はだんだん血圧が上がって。おおよそ得意じゃないジャンルですから。

監督:誰も得意じゃないですよ(笑)。

亀山:だから、無理矢理打ち合わせに呼んでも、ずっと黙って下向いてるんです。しまいには、「どうしてもこれをやるんだったら日向真奈美もいない方がいい。杏は凶悪犯の娘でいいじゃないですか」とか、ぶち壊そうとするような話ばっかりするんです。

監督:そんな感じでした。

亀山:あまりにも何も言わないから1時間で打ち合わせを終えて、ご飯を食べに行って、なんとか乗ってこさせようと思っていっぱい雑談して。一方、主演の柳葉さんはOKしてないのにプロットを作ってるんですよ。そういう状態だから、とてもじゃないけど映画という意識は僕にはなかったんです。

──始まりの段階では映画ではなかったんですね。

亀山:プロットを作りながら、配信など新しいメディアに挑戦するのも、このメンバーっぽいなと思っていたら、フジテレビさんから「なんか動いてるらしいですね」と。僕はもうフジテレビの人間じゃないので。「『踊る大捜査線』はフジテレビのIPである」と言われて、なんで作ってる張本人たちがやろうと言ってるのに、権利の話を言ってくるんだと。

監督:踏んだり蹴ったりですね(笑)。

亀山:僕と君塚さんの間の男の友情で、「久々に集めてみます」と言いながらも、フジテレビが出てきてくれたおかげで、資金的な問題が解決するので実現の目途が立つんですが、「映画だったらどうですか」と言われた瞬間に、「え!?嘘でしょ、これ映画にするの?」って。だから、監督に「映画だったら乗るだろう」って言ったら、「シネフィルが好きそうな単館系の映画だったらOKです」って。

──無理ですよね(笑)。

亀山:そこから僕自身はプロデューサーのスイッチが入って。監督に逃げられ、柳葉さんは「やらない」と言ってるけど、君塚さんの思いは背負ってる。フジテレビは映画にしてほしいという中で、僕は、座組を作って渡すつもりだったんですが...。

──後はお願いね、と。

亀山:だって僕は、それが本業じゃないですから。社長業がありますから。でも、全員を口説いて、説明しなきゃいけなくなって君塚さんととことん向き合うと、自分の中で、いつになく作品に対してのイメージや理解度が膨らんでいくんです。

──監督の中では『踊る』シリーズは『THE FINAL』で終わりだという感覚だったのでしょうか。

監督:僕はもう終わってると思ってました。ファイナルですから。実は、『THE FINAL』は、元々『踊る4』で動いてたんです。

──そうだったんですか!?

監督:亀山さんが急に『THE FINAL』って言い出して。

──えっ⁉(笑)

監督:皆で「よし『踊る4』だ!」って言ってたのに、急に『THE FINAL』って言いだしたので。そりゃ、もう終わりだと思うじゃないですか。役者さんたちも、これでおしまいなの!?となるじゃないですか。

──そうですよね。

亀山:たしか、『踊る3』と『踊る4』を作って、その辺で終わらせたいという話をしたつもりなんですよ。

──それが伝わってなかったんですね(笑)。

監督:伝わってなかったですね(笑)。

──撮影中にファイナルになったんですか?

監督:途中で急に。役者たちは、終わりだったら「こうしてほしい」「ああしてほしい」って言うんですよ。それをさばきながら、本当に最後だと思って演出しました。テレビで放送してるのを見て「無茶苦茶だな、これ」と思いながらも、面白いんですよ、これが(笑)。

亀山:本当に素晴らしかった。

監督:よくできてるんですよね(笑)。

亀山:湾岸書のコメディは、今やったら馬鹿野郎って言われると思う。青島が何かやってると必ず誰かに声をかけられてる、忙しさの演出とか、うごめいてる感じが監督はすごくうまかったですね。

──あれは『踊る』シリーズならではの演出だったと思います。あれを回収するのがすごいと思いました。なかなかハードですよね。

監督:途中からは、パズルと政治だなと思いました。よくみんな言うこと聞いてくれて、自分もよく演出したなと思います。今作は室井さんとだけ向き合ったので評判がいいんですが、そりゃ良くなりますよね(笑)。湾岸署はわちゃわちゃでしたから(笑)。

:ちょっと待って。すごく積極的に今回の映画を受け入れたみたいな発言してるよね、君は。

監督:今日から変えようと思って(笑)。

亀山:どうしてこの再始動が始まったのかって質問でしょ。

監督:それは亀山さんが存分に話してくださったので(笑)。

──監督はすぐに引き受けられたんですか。

監督:そんなわけないじゃないですか(笑)。柳葉さんも僕も、何を言ってるんだろう?みたいな感じでした。『容疑者 室井慎次』は君塚さんが撮ってますし、僕は、どっちかと言うと青島くんとか真下くんみたいな、ちょっとチャラい感じの(笑)。

──わちゃわちゃしてる感じの方がお得意だと。

監督:そうですね。今回の2作は重たいじゃないですか。だから、「君塚さんが演出すればいいんじゃないですか」と言いましたし、「ファイナルじゃなかったんでしたっけ?」って。なんで亀山さんはこれを僕に言ってきたんだろうって、そんなことを寝ないで考えてたらめちゃくちゃ体調が悪くなっちゃって。僕の入院中、亀山さんたちが「監督はなんで乗ってこないんだろう?」と考えたみたいで。そうしたら、君塚さんが...。

亀山:ヘリコプターが出てこないからだ!って。監督が入院したことが、僕も君塚さんもショックで。監督はなんで乗らないんだろう?と。そこで、ヘリコプターと事件を入れようという話になったんです。

監督:そんなわけないじゃないですか(笑)。

亀山:対岸から死体が発見されて室井さんが捜査に巻き込まれる展開を作ろうと。だから、桜君(松下洸平)が出てくる一連は後から入れたものなんです。新城や沖田さんは元々入ってました。

──なるほど。

亀山:そこまで監督に伝えたら、ようやくやる気になってくれて。要は、ヘリコプターとパトカーの行列と、捜査本部の危機に釣られて。

──(笑)。

監督:そんなわけないでしょ(笑)。子どもか俺は!?と思いました。僕が1番下っ端なんですが、いつも3人でいる時はこうやって、先輩たちが面白がってくれるんです。亀山さんは「事件がないから動かないんだろう」と言って、事件を入れてくださって、後は『踊る』のメンバーをどんどん入れて、過去の作品とも絡めて、だんだん、やりやすい環境になっていきました。

──なるほど。それで、やっとお引き受けになったんですね。

監督:でも、なんでこれをやるんだろう?という疑問は残るんです。

──そうですよね。

監督:そこで、わかったんです。亀山さんの最後の作品なんだと。亀山さんは社長業でずっと忙しいじゃないですか。社長業をしてる人が撮影現場に戻ってきてプロデューサーやるなんて、あまり聞いたことがないんです。だから、最後なんだ、と。

──(笑)。

監督:もしかしたら亀山さんの遺作になるかもしれないと思って、そしたら俄然やる気になって(笑)。そういう流れでした。でも、亀山さんは今回、大活躍だったんです。

亀山:大活躍というか、こんなにどっぷりやろうとは思わなかったんですけど、責任みたいなものを感じて。ファイナルの時、僕は管理職になってたので、現場に関わることは少なくなっていて。まさに室井さんですよね。でも今回は、監督に「俺、ずっと一緒にいるからやろう」って言ったんです。子どもじゃないんだからとも思うんですけど(笑)、寒い秋田から新潟まで取締役会を終えた足で行ったり。

監督:長靴持って(笑)。

亀山:朝6時に新幹線で帰って、長靴のまま役員会に出て、そのまままた帰ったりしてたんです。

監督:大活躍(笑)。

亀山:そう考えると、ちょっと異常な1年でした。ただ、今更ながらすごく勉強になりました。

──まさかそこまでやるとは思ってらっしゃらなかったんですよね。

亀山:全くです。

──柳葉さんが引き受けた理由は何だったんでしょうか。

亀山:君塚さんです。柳葉さんに最初会った時は、けんもほろろでした。柳葉さんの記憶と僕の記憶は違うんですが、喧嘩になって。

監督:喧嘩は寿司屋です。

亀山:その時は「う~ん」と言って、「俺を説得してくれ」と。だから、「1番説得しやすいのはプロットなり台本を作ることだから待ってほしい」と。ようやく監督がやる気になって監督と僕で一緒に会いに行ったら、「なぜやるんだ」と言うので、僕は君塚さんからメールをもらったことを伝えたんです。「室井に決着をつけたい」とその一点を伝えて。つまり、最後にしたいと。

それは、柳葉さんを楽にしてあげたいとか、室井の呪縛みたいな言い方はしたくないですが、室井と一緒に生きてくれる役者人生みたいなのは終わってほしいと思ってたので。でも、それを本人に言うと、ああいう男ですから「そんなの関係ない、俺が考えることだ」と言いそうなのでやめました。

監督:そこでも喧嘩したんです。喧嘩する度に、「これ、なくなるな」って思ってました(笑)。

亀山:柳葉さんは監督にも「なぜやるんだ」って聞くんですよ。そしたら監督が「亀山さんの最後の作品だから」って突然言い出して。柳葉さんも「ほんとに!?」って驚いちゃって。そう言われちゃったら「そうかもしれない」って言わざるを得ないですよね。

──そうですね(笑)。

亀山:そうなるかもしれないですが、最後の作品は人に決められることじゃなくて、自分で決めればいいことで。だけど、「ほんとに!?」って柳葉さんに言われた時に、「うん」って言っといた方がやってくれるかなと。

──(笑)。

亀山:そしたら、「そうか」とやる気になったんですよ。やる気になったものの、秋田で撮るけど室井ハウスは秋田じゃなくて新潟なんだみたいなことを話してるうちに、僕が余計なひと言を言っちゃって、「なに!?」と言われて、「だったらやめようぜ」って言っちゃったんですよ。

──えっ⁉

監督:そうそう。喧嘩買っちゃうんですよ(笑)。その度に「よし!なくなった」って思ってました(笑)。

亀山:あれは、僕が完全に悪かったんです。僕の記憶では座って言ったつもりなんだけど、皆は立ち上がって言ったっていうから、よっぽど腹が立ったんだと思います。柳葉さんも立ち上がって「やめてやるよ。帰ろうぜ」って帰っちゃったんです。マネージャーさんも監督もフジテレビの人間も全員残して。しまった...と思ったら、監督は下向いて笑ってて。「良かった。やらなくて済む」って思ってるのを見てムカついて。結局は、その場から「申し訳ない」って電話しました。飲んでるせいもありましたけど...。

──そうですよね(笑)。

亀山:「明日謝りに行くよ」と言ったら、柳葉さんの事務所の社長さんから「柳葉がやると言ってます。無粋な顔を見せて申し訳ない」と。ショック療法でした(笑)。

──ショック療法(笑)。

監督:でも、まだこれは序の口なんです。

亀山:撮影中に、やっぱり、室井を死なせていいんだろうか、と思うようになって。だけど、君塚さんは「これは柳葉さんを解放してあげるということで納得してくれたはずだ」と。「それはない」ときっぱり言われて。君塚さんの柳葉さんに対する思いはすごく強いんです。ファンの方の思いを無視することになるかもしれないけど、「これは27年付き合ってきた柳葉敏郎に対する僕らの感謝だ」と言うので、僕も納得しました。

──なるほど。

亀山:君塚さんの本には、犬が傍にいる室井さんの死に顔を映す場面があったんですが、監督は「絶対に撮りたくない」と。僕もそれはわかるし、君塚さんの台本の後半が、室井さんが生前いろんな人にやっていたことが回想シーンで出てくるので、やっぱり生きた室井で終わらせたいと。

──室井さんの死というのは、最初から決まってたことだったんですね。

亀山:はい。それ在りきです。一昨年の12月に君塚さんと電話で2、3回話して、年明けに1枚のプロットが来て、まだタイトルが決まってない時の仮タイトルが、『室井慎次その愛と死』でしたから。

──そんなタイトルだったんですね。

亀山:君塚さんの中に確固たる思いがあったんだと思います。『踊る』シリーズを27年やってきて、年齢は僕が1番上ですが、関係性では君塚さんが長男なんです。ちょっと弁が立って、調子に乗って動いて拡大する事業を担うのが次男の僕で、三男の監督が好き勝手やっていくという構図で。だから長男からすれば可愛いわけです三男が。

監督:そんな関係性でした(笑)。

亀山:ただ、長男の君塚さんは監督に言ってないかもしれないけど、「監督もあの年齢になったら、こういう作品を撮らなきゃダメなんだ。コメディが上手いことはわかってるけど、こういう人間ドラマも、きっちり撮れる監督だから、やらなきゃダメなのに、なんでやらないんだろう」って、僕にはずっと言ってたんです。

──なるほど、長男のそういう思いもあったわけですね。

亀山:僕は、あいつ怖がってるんですよって。

監督:そんな話全く興味ないです。だって、笑ってる方がいいじゃないですか。昨日の舞台挨拶だって上映後だったから鼻をすする音が大合唱になってて。これはヤバいと思って、とにかく笑わさなきゃと思ったら、柳葉さんは笑わせるのも上手なので。

亀山:今回、やって良かったなと思うのは、映画の宣伝のために柳葉さんにいろんな番組に出ていただいて。関西では浜田さんと。

──「ごぶごぶ」ですね。

亀山:あのはっちゃけぶりは、僕は想像できないし、よっぽど解放されたんだなと。僕らの前で「Love Somebody」なんて一回も歌ったことないですよ。結構、上手いじゃないですか。

監督:(笑)。

──室井さんから解放されたんですね。

亀山:他のバラエティ番組でも伸び伸びしてて。実は、柳葉さんがバラエティ番組のディレクター陣から引く手あまたになってるんですよ。

──『踊る』シリーズの時は、出てらっしゃらなかったですよね。

亀山:出てないです。全部断ってました。

監督:室井のイメージを崩せないから。

──本当にやった意味がありましたね。

亀山:本人を前にして言いたくないですけど、(監督は)上手かったです。

監督:えっ⁉ 今回の?けなされるかと思った(笑)。実は、室井さんが狭心症で苦しんでるのも、犬が室井さんを見つけて、それが無線から聞こえるのも、全部亀山さんのアイデアなんです。

──そうなんですか?

監督:脚本には書かれてないんです。ふたりで、「これ、文学だよな。動かさなきゃいけないんだよな」って。展開は書いてあるけど、立ってるのか座ってるのか、外なのか中なのかは書かれてないんです。室井ハウスにしても、秋田で農業してるけど、家がどこにあるのかみたいな記述がないんです。普通は、どこにあるのか書いてあるんですが、それがないから、全部イメージを膨らませて。

──おふたりで?

監督:亀山さんが(笑)。僕の家に来て、「昨日、殺し屋の映画を観たんだよ」って言いながら一緒に観て、「こういう家に室井を住ませたい」とか。室井の車も、普通だったら軽トラじゃないですか。

──そうですよね。

監督:軽トラじゃなくてダットラ(ダットサントラック)だと。室井が変なチョッキ着てるじゃないですか。あれも亀山さんが(笑)。

亀山:(笑)。西部劇というか、アメリカの田舎、または、北欧の山の中の雪深いログハウスに見せたいと思ったんです。作るまでにかなりの時間があったので、何回も打ち合わせして。さらに言うと、2日間かかる、2時間の映画2本分の美術打ち合わせも監督の隣に座ってたら「どうなんですか亀山さん」って監督が何回も聞いてきて。俺に聞く!?と思いながらも「こんなイメージなんだよ」って答えて。

監督:全ての打ち合わせに亀山さんは出てました。CGの打ち合わせも、グレーディングという色のトーンを決める打ち合わせも。最後には、僕の代わりに出てくれて(笑)。

──『踊る』シリーズの時もそのくらい出てらっしゃったんですか?

監督:一切やりません。

亀山:やってないです。『踊る』の時は一切出てないです。面倒くさい。出るわけないじゃないですか。

──今回は入りこんでしまったと。

亀山:入りこんだというか、プロデューサーだから。色んなスタッフにイメージを語らなきゃいけないじゃないですか。だから、どこに住んでるのかと聞かれたら、「こんな感じのところでポーチがあって、そこで...」って。

──ウイスキー飲んで。

監督:ウイスキーの銘柄も亀山さんが指定してますから。

亀山:室井は、日本酒ぽいんだけど、僕のイメージの中ではウイスキーなんだよなって。

──あのポーチも確かにアメリカ映画っぽいですね。

監督:イーストウッドの映画ですよね。

亀山:ポーチと桟橋と。あなた、監督でしょ?

監督:監督は全ての素材をまとめる人なんです。

亀山:だんだん、めんどくさいことは全部「亀山さんに聞いて」って監督が言うから、助監督が列なしちゃって。ぼだっこ(秋田の方言で塩辛く漬け込んだ鮭のこと)の持ち方を聞かれるんですよ。「鮭どう持ちますか?」って。「どっちが面白い?」と言いながら、これも俺がやるの?って思ってました。

監督:監督補佐みたいな感じでした(笑)。だからこそ落ち着いて気持ちの流れを組めたので、亀山さんがいてくれなかったら、あそこまでデリケートな作業はできなかったと思います。

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亀山:監督は温かいので、温かさと優しさは絶対出てくると思ってたんです。室井家での子どもたちのカットを見ても、監督の転がし方がうまいと思いました。一番驚いたのは、リクとタカは常に一緒にいるんですけど兄と弟みたいに見えたら嫌だなと思ってたら、全く見えないんですよ。

監督:確かに。

亀山:リクとタカは血が繋がっていないし、別の家族だから、兄と弟のように見えちゃうとまずいなと思ってたら、余分なお兄ちゃんらしいことを一切タカにさせてないんです。リクの人格を認めて、言っても「学校始まるぞ」ぐらいで。

──靴下を履かせたりするなど、そういうのは一切なかったですね。

亀山:それを見た時に、監督はわかってると思ったので、そこからは、ぼだっこの持ち方とか、そういうところの指導に入りました(笑)。

──最後にある方が出てきましたが、今後のシリーズはどうされるのでしょうか。

亀山:当初は、そんなことは考えていませんでした。監督が今回の映画に縦横無尽に過去素材を入れたいと言って、『踊る』シリーズの素材をたくさん使いたいから、キャストの各事務所さんには「映画をやるので素材を使わせてください」と伝えて了解を取りには行きました。当然、織田裕二さんの事務所にも。柳葉さんも最後に「やるけど、織田君は知ってるんだな。了解してるんだな」と確認して、「彼が了解してないものを俺はやりたくない」と。やっぱり、織田と柳葉、青島と室井というのは、どこかで繋がってるんだな、と思いました。

──なるほど。

亀山:その後、実際に織田さんに出演してもらうことにもなり、織田君に「「still continue」って後ろ姿に入れていいかな?」って聞いたら、「でしょ」という感じで、今はなんとなく...という状態です。

──なるほど。織田さんも「still continue」は納得されてるんですね。

亀山:当然です。でも、僕としてはびっくりしました。君塚さんが「終わらないと始められない。いろんなことを考えたらきっちり終わらせましょう」と言ってたんですが、本当にそうだと思いました。結局、終わったから始められるんです。ただ、その先は、また茨の道だよな。

監督:ほんとに(苦笑)。大変ですよ。終わってるはずなのに。

亀山:ここから先はまた次のフェーズにいかなきゃいけないので。

監督:室井さんが残していったものがいっぱいあるので。それが成長していくんじゃないかと僕は読んでます。だから、松下(洸平)君あたりにも「次あったら出てね」と言ってます(笑)。

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──齋藤潤さんも。

監督:そうそう、齋藤君にもね。

亀山:最後に聞きたいんですけど、映画の最後、タカが東大の本を持ってたことで監督と揉めてるんですよ。

監督:(笑)。

──どういうことですか。

亀山:監督は、タカを東大に行かせて、キャリアを充実させると言うんだけど、タカが警視庁に入る頃はもう学閥なんかなくなって、もっと成果主義かもしれない。だから、僕は東北大がいいと。つまり、東北大に行って室井さんと同じ流れを行けと。なぜ東北大かと言ったら、室井ハウスの存在があるからです。未だにそれで揉めてるんです。

──確かに、東大だったら室井ハウスをどうするんだろうと思いました。

監督:杏がいるじゃないですか。

──地元のお店で働いてますもんね。

亀山:地域のコミュニティーが一生懸命助けてくれるとは思うんです。

──では、東大に行きましょう。

監督:ですよね。だって偉くならなきゃいけないんだから東大ですよ。ずっと言ってるんですよ、これ(笑)。

亀山:ありえないですよ。机の上に東大の赤本を置いた瞬間に「東北大はないのか」と聞いたら「ない」って言うんです。そういうことを俺に聞けよって。ぼだっこの持ち方じゃなくて。

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監督:でも、タカは室井さんから「偉くなれ」って言われてるんですよ。室井さんより偉くなるには、東北大より東大ですよ。

亀山:しばらくこの論争は続きますね。

取材・文/華崎陽子




(2024年12月 5日更新)


Check

Movie Data


(C)2024 フジテレビジョン ビーエスフジ 東宝

『室井慎次 生き続ける者』

▼TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中
出演:柳葉敏郎
福本莉子 齋藤潤 前山くうが・前山こうが
松下洸平 矢本悠馬 丹生明里(日向坂46) 松本岳 西村直人 真矢ミキ 筧利夫
飯島直子 小沢仁志 木場勝己 加藤浩次 稲森いずみ いしだあゆみ
プロデュース:亀山千広
脚本:君塚良一
音楽:武部聡志
監督:本広克行

【公式サイト】
https://odoru.com/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/353663/index.html


Profile

亀山千広

かめやま・ちひろ●1956年、静岡県生まれ。株式会社ビーエスフジ代表取締役社長。早稲田大学在学中に、映画監督・五所平之助の書生を務め、映画製作を経験する。1980年フジテレビ入社後、編成部および第一制作部(現在の第一制作室)を経て、編成制作局局長に。代表的なドラマプロデュース作品に、「ロングバケーション」「ビーチボーイズ」「踊る大捜査線」など。2003年よりフジテレビ映画事業局長として、『踊る大捜査線』シリーズをはじめ『海猿』シリーズ、三谷幸喜監督作品、『テルマエ・ロマエ』(12)などの製作を手がける。


本広克行

もとひろ・かつゆき●1965年、香川県生まれ。CM製作会社を経て、共同テレビジョン入社。深夜ドラマで監督デビューを果たし、「NIGHT HEAD」、「お金がない!」などで注目される。自身が演出した人気ドラマの映画化作『踊る大捜査線 THE MOVIE』(1998)が大ヒットを記録、その後も続編やスピンオフ作品『交渉人・真下正義』(2005)などを手がける。主な監督作品に、『サマータイムマシン・ブルース』(05)、『亜人』(17)、『曇天に笑う』(18)など。本作は、『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(12)以来の“踊る”シリーズ作品となる。