ホーム > インタビュー&レポート > 「もっと続けていてもいいかなと思うぐらい」(岸部) 「僕らの中では永遠に終わることはない」(勝村) 米倉涼子主演の大人気TVシリーズが劇場版で完結! 映画『劇場版ドクターX』岸部一徳&勝村政信インタビュー
──『ドクターX』が映画で完結すると聞いた時はどのように感じられましたか。
岸部一徳(以下、岸部):時々、終わるような話が出てなかった?
勝村政信(以下、勝村):毎回ありました。第1シリーズの時は、続くなんて誰も思ってませんでしたし。だから、僕や(鈴木)浩介は、その時期に舞台の仕事が入ってたので、第2シーズンは出てないんです。
──それで出てらっしゃらなかったんですね。
勝村:どこかに飛ばされていたという設定で、最後に出させてはいただいてるんですが、レギュラーではないんです。それぐらい、こんなに続くとは...
岸部:思ってなかった。
──毎回、これで終わりかな?と思いながらやってらっしゃったんですね。
岸部:軽くですが、そう思ってた時もありましたけど、ずっと続いて。続けば続くほど愛着も出てきますよね。
──そうですよね。本作の脚本を読まれた時はどのように感じられましたか。
岸部:終わるのか、とは思いました。脚本は、ストーリーがうまく繋がってると感じました。
勝村:話の焦点を『ドクターX』の師弟関係に絞ったのが、とてもよかったと思いました。第2シリーズぐらいからは大体、敵になる大御所のお医者さんが出てきて、大きな権力と未知子ちゃんの対決の構図になっていましたが、今回の映画では、初めて師弟の関係を描いて、未知子ちゃんの過去にまで遡って。元々の、ドクターXの話に立ち戻ってますから。
岸部:ドクターXの謎も描いてますし。
──岸部さんは、長いキャリアをお持ちですが、さすがに12年続いたシリーズは...。
岸部:12年は一番長いですね。
──米倉涼子さん演じる大門さんへの思いは、シリーズを重ねるごとに増していくものがありましたか?
岸部:師弟というところから関係は始まってますが、師弟という枠を超えて、親子みたいな距離感もあって。ふたりの日常がずっと続いているので、どの関係も超えてしまってる感じがします。師弟だけでは収まらないですし、親子以上かもしれないですね。
──未知子と晶さんの関係は言葉で言い表せないですね。
岸部:今回の映画で、「1番大事な人」という台詞がありますが、TVシリーズの時は、1番大事な人という表現はあまりなかったと思うんです。喧嘩したり、搾取されてると言われたり、いろんなことがありましたが、そういう日常を経て、未知子が(晶を)1番大事な人という存在にまで膨らませていたからこそ、この映画版に繋がったと思うんです。僕がその役割を少し担うことができたのは嬉しかったです。
──今回、第7シリーズからは約3年経ちましたが、おふたりは『ドクターX』の現場に帰ってくれば、自然と晶さんや加地先生という役柄にスッと入っていけるものなのでしょうか。
岸部:加地先生というか、勝村ですね。僕にとっては。僕はどちらかと言うと、人の輪の中に入るのが苦手なので、少し外れたところにいるんです。勝村は、そういうことをちゃんとわかってくれて、彼に仲間の輪の中に入れてもらってるんです。僕は、LINEグループに入ってないので、時々それを要約して僕に送ってくれたり。僕にとって必要な人なんです。
勝村:(笑)。
──つなぎ役みたいな。
岸部:いろんな意味でね(笑)。そういうポジションにずっといてくれたんです。彼は、それをそれぞれの関係性の中でちゃんとやってるんです。僕だけにそんなことしてるわけじゃなくて。誰かのためにはこうやって、西田(敏行)さんのためにはこうって。
──なるほど。
岸部:役の関係性というよりも、そこから派生した、もう少し違う繋がり、絆のようなものが育ったような気がします。
──勝村さんは自然と加地先生になれるものなのでしょうか。
勝村:もう亡くなってしまったんですが、(第1シリーズの演出を担当した)松田(秀知)監督とは長い付き合いというか、20代の頃からお世話になっていて。松田監督と『ドクターX』が始まった時に、罵り合いながら「やれよ」「やだよ」と言い合って。素手で殴り合うような感覚で作り上げたんです。そういう作り方をしたから、何年経っていても身体の中に入っているので、明日撮影があると言っても、みんな普通にできると思います。
──それぐらい身体に染み付いてるものなんですね。第1シリーズを改めて見たら、加地先生が第1話から「デーモン」とおっしゃっていて驚きました。
勝村:そうでした?
岸部:えっ⁉そんな時から?
勝村:台詞で言ってました?
──台詞で。
岸部:台本に書いてあったかな?そんなことないよね。
勝村:自分たちでもよくわからないんです。最初から台詞に書いてあったのかもしれないし。
──そうなんですね。加地先生が口ではいろいろ言いながらも、大門先生を助けてしまうところがすごく好きでした。加地先生を演じられていかがでしたか。
勝村:最初は、それぞれのお医者さんたちがちゃんと個で戦っていて、それを未知子ちゃんが見て影響を受けたり、この分野では勝てないと実感する流れでしたが、だんだん、彼女が神みたいになっていったので。一応、僕たちもスーパードクターなんですけど、オペをすると必ずミスをするっていう(笑)。
岸部:(笑)。
勝村:もう名物ですね。「あっ」って言ったら、ピーピーピーって警告音が鳴って未知子ちゃんに助けてもらうっていう。
──加地先生は、腹腔鏡の魔術師のはずですもんね(笑)。名医紹介所で麻雀をするシーンは、オペ室や病院とは違う空気が流れてるように感じました。
岸部:あんな感じでわいわいやってましたね。
勝村:医学的な難しい台詞があそこでは出てこないので。手術シーンに比べたら立ち位置も楽だと思います。
岸部:手術シーンを考えれば、他の楽しいところは全然違いますよね。
勝村:僕は卓球のシーンも好きでした。
岸部:ああいうシーンは楽しいですね。誰かの履歴を話しながら麻雀をする時もあったんですが、台詞を言いながら麻雀すると意外と難しいものなんです。
──その時の岸部さんの台詞はすごく長いですもんね。
岸部:よく説明しましたね。普段、麻雀しながらよくしゃべるのに、台詞になると(笑)。
勝村:(笑)。
──(笑)。何でもないことを話してる分には全然問題ないですよね。
岸部:今、こうやって話しながら麻雀しててもおかしくないのに。
──確かに。やっぱり医療用語は大変でしたか。
勝村:大変でしたね。医局の説明の台詞が昔あったんですが、台本をもらった時に、「今週は俺か」って(苦笑)。浩介もそうだし、みんな、「これ、俺が喋るのか」って言ってましたね。あのスピードで医療用語を当たり前のように喋るには1週間以上準備にかかりますから。
──そうですよね。映画が公開されて2週間以上経ちますが、どのような心境ですか?少し寂しさを感じてらっしゃいますか。
岸部:ドラマが終わるということは、違う言い方をすると米倉さんは次へ進んでいくということなので。ただ、会う機会が少なくなるのかな?と思うので、それは寂しいですね。ドラマをやってる時は定期的に会う機会があったので。これからは、誰かが会う働きかけを...。
勝村:大体、最初に声をかけてくださったのが西田さんだったので。「行かね?」「そろそろみんなで会わねえ?」って。そこから、「じゃあいつにしましょうか」という流れになっていくのが常でしたから。
──言い出しっぺがいなくなってしまったんですね。
岸部:僕は言い出しっぺのタイプじゃないので。それを勝村が回してくれるので(笑)。
勝村:今はLINEをやってる人がほとんどなので、グループLINEに西田さんがいい音楽や昔の映像を送ってくれるんです。でも、一徳さんはLINEをやってないから、それを見られないので、僕がショートメールで送って。写真は送れないこともあるので、なんとなく言葉で伝えて。
岸部:LINEではこんな話題になってました、とか。
勝村:一徳さんとは、この作品以外でも原田芳雄さんところでしょっちゅうお会いしてて。僕にとってはとても近しい存在なので、そこは僕の役目だと。一徳さんに連絡するのも楽しいですし。
岸部:連絡くれるのが彼しかいないんですよ。
──そんなことはないと思います。
勝村:LINEしてないですから(苦笑)。温泉も行きましたもんね、西田さんと3人で。西田さんの故郷の温泉に。
──福島の。
勝村:福島駅に降り立ったら、福島の皆さんが西田さんを見つけると「お帰りなさい」って言うんですよ。すごいな、この人はと思いました。街行く人が口々に「おかえりなさい」って西田さんに。
岸部:すごいね。僕が京都に帰ったって誰も(笑)。
勝村:(笑)。
岸部:西田さんはそういうところもすごかったですね。
──西田さんは『ドクターX』のシリーズの中でもすごく特殊な立ち位置でした。西田さんだけは解雇されてもまた戻ってきましたから。
岸部:西田さんの存在は大きかったですね。蛭間重勝。
勝村:オペの時に西田さんが勝手に話し始めたことがあって。話してる間に、重勝は重い病に勝つという意味だと言い始めて。みんな、下向いて笑ってるんですよ。よくそんなこと思いついたなって。自分でもよくあれは思いついたっておっしゃってましたけど(笑)。だから、その名前にしてくれたんだって。
──確か、本名は違うんですよね。ドクターネームだとおっしゃってましたもんね。
勝村:絶対、辻褄合わなくなるんですよ。適当に言ってるので。でも、最終的に合っていくんです。本当にすごい人ですよ。
──本当にすごい方だと思います。『ドクターX』は、コミカルとシリアスのバランスがすごく絶妙だったと感じました。
勝村:松田監督や田村監督は、お客さんに楽しんでもらおうというのが根底にあったので、そういうバランスになっていたんだと思います。手術シーンも第1シーズンの時は、ベニヤみたいなのを置いて、患者さんもずっと寝たままだったんです。
──寝たままだったんですね。
勝村:第1シーズンの院長(伊東四朗)が病気になった時は、伊東さんがずっと寝てらっしゃって。ずっとだから僕らも忘れちゃうんです。撮影がきつくて。当時は、手袋も血だらけになるから脱げないし、手袋の中に汗が溜まって。みんな、疲れてくるから術野のところで休んだりすると、下に伊東さんがいたことに気づいて。そういうことが多々あったんです。
岸部:ずっと寝てたんだ。
勝村:最初はそうだったんです。そのうち、スタッフが本当に精巧に内臓を作ってくれるようになったので、なくなりました。そういうことも含めて、スタッフが僕らにやりやすいように、いろんなことを提供してくださって、それに応えたいと思ってやってました。命を預かってる現場なので、そこはみんな真剣に向き合ってました。だから、バランスが良くなったんじゃないかなと思います。
──手術のシーンはほんとに大変だったと思います。
勝村:今となっては、びっくりするぐらい早いですよ。どんどん慣れてきて、2、3時間は巻いてましたから。
──それはすごいですね。
勝村:松田さんってエムエムって言われてたんです。マツダマジックという意味で。スケジュールが間違ってたんじゃないかと思うぐらい巻いてくださるので、その時間を使ってみんなでご飯に行ったりして。その早さも、僕らが近しくなっていく大きな要素だったような気もします。
──おふたりにとって『ドクターX』はどのような存在でしょうか。
岸部:振り返れば、俳優人生の中のほとんどを占めていた時もありました。もっと続けててもいいかなと思うぐらいでしたし、オーバーに言えば、実生活と逆転しててもいいかな、と。仕事という意識でやってたわけではなくて、みんなと一緒にやってるのが楽しかったですね。後は、医療ドラマとしての役割も。ちょっと面白いところはあるとしても、世の中の人が、こんな先生いてくれればいいなと思えるような医療ドラマにしたい、という意識もありました。
勝村:僕にとって出演者の皆さんは親戚みたいな感覚です。みんなでご飯を食べてる時も、遠い親戚が集まって食べてるようで、会ってない時間も全然気にならなくて。あるいは、本当の家族にも言わないようなことを相談したり。シリーズが終わるとは言っても、僕らの中では永遠に終わることはないと思うんです。大切な家族の一員にさせていただいた作品です。
取材・文/華崎陽子
(2024年12月25日更新)
▼TOHOシネマズ梅田ほか全国にて上映中
出演:米倉涼子 田中圭 内田有紀 今田美桜 勝村政信 鈴木浩介 染谷将太 西畑大吾 綾野剛 遠藤憲一 岸部一徳 西田敏行
脚本:中園ミホ
監督:田村直己
【公式サイト】
https://doctor-x-movie.jp/
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/360076/index.html
きしべ・いっとく●1947年1月9日、京都府生まれ。主なドラマ作品に「相棒」シリーズ(EX/2002~10)、「医龍-Team Medical Dragon-」シリーズ(CX/06~14)、「99.9-刑事専門弁護士-」シリーズ(TBS/16~21)、「昔はおれと同い年だった田中さんとの友情」(NHK/24)がある。主な映画作品に、『死の棘』(小栗康平監督/1990)、『病院で死ぬということ』(市川準監督/93)、『いつか読書する日』(緒方明監督/05)、『大鹿村騒動記』(阪本順治監督/11)、『アウトレイジ 最終章』(北野武監督/17)、『一度も撃ってません』(阪本順治監督/20)など。TVドラマ、映画に欠かすことのできない名優。
かつむら・まさのぶ●1963年7月21日、埼玉県生まれ。主なドラマ作品に「HERO」シリーズ(CX/2001~14)、「大岡越前」シリーズ(NHK BSプレミアム/13~)、「BG~身辺警護人~」(EX/20)などがある。主な映画作品は『ソナチネ』(北野武監督/1993)、『時をかける少女』(谷口正晃監督/10)、『地獄の花園』(関和亮監督/21)、『大名倒産』(前田哲監督/23)、『首』(北野武監督/23)など。TVドラマや映画だけでなく、数多くの舞台にも出演する名バイプレイヤー。