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「ずっと一緒にいたことによって、それぞれに何か残るものがある」
姫路と鳥取を結ぶ国道29号線を舞台にした
綾瀬はるか×大沢一菜共演のロード・ムービー
映画『ルート29』森井勇佑監督インタビュー

『こちらあみ子』の森井勇佑監督が、詩人・中尾太一の『ルート29、解放』に着想を得て、姫路と鳥取を結ぶ国道29号線を舞台にしたロード・ムービー『ルート29』が、11月8日(金)より、テアトル梅田ほか全国にて公開される。

他者とのコミュニケーションが苦手な女性・のり子が、風変わりな少女ハルと出会い、トンボと呼ばれながら緩やかに絆を築いていく様を描く。

綾瀬はるかが主演を務め、『こちらあみ子』に続いて大沢一菜が出演している。そんな本作の公開に先立ち、国道29号線で約1ヶ月間の旅を行い、脚本を完成させた森井勇佑監督が作品について語った。

──大沢さんの起用はこの物語を考えた時から決めてらっしゃったんでしょうか。

当て書きです。大沢一菜ともう1回やろうという企画でした。

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──大沢さんありきだったんですね。

『こちらあみ子』が終わった後も、公園で遊んだり、呼び出されたりしてたので、その時の彼女の言動や遊び方から、インスピレーションをもらってます。『こちらあみ子』は今村夏子さんの小説なので、映画の中の出来事は今村さんの創作ですが、今回はオリジナルに近いものです。

──詩集から着想を得てらっしゃるんですよね。

インスピレーション元として、ずっと隣にいてもらったような感覚です。具体的な物語は詩集にはないので、原典を読むような感覚で、そこから派生したお話というか。

──物語はオリジナルなんですね。監督は、詩集のタイトルになっている国道29号線に馴染みはあったのでしょうか。

いや、全く知らなかったです。僕は兵庫県の西宮出身で、どちらかというと大阪方面に遊びに行くので、姫路へ行くこともそんなになくて。

──実際、国道29号線に行かれていかがでしたか。

鳥取へ行くには高速道路があるから、交通網としてメインの通りではなくて、人も車もあまり通らないんです。ちょっと霊的な雰囲気というか、この世のものじゃないような道にできるんじゃないかと思いながら歩いてました。詩集を携えながら、まずひとりで見に行って。ここだったら何ができるかなと考えながら国道29号線をうろうろして、宿に帰って読み直して、掛け合わせていくような感じでした。

──すぐに脚本は書けましたか?

いや、結構大変でした。まずどういうお話にするのかからスタートしたので、どんな話にするべきなのかについては悩みました。

──どの辺りが一番苦労されたのでしょうか。

『こちらあみ子』はひとりの話だったので、2作目ということで、ふたりの話にしてみようと思ったんですが、ふたりの話がまず何なのかを見つけるのに苦労しました。1作目で孤独な人物をあれだけ描いているから、あまり無邪気にふたりっていいよねとは描けない。ひとりとひとりを、ふたりとしてどのように描くのかにはだいぶ気を配ったつもりです。

──だから簡単には寄り添わないふたりになったんですね。

それぞれが孤独を抱えた者同士であることをどう表現するか。依存し合わないというか、それぞれがそれぞれの宇宙を持っていることをどう表現するかというのは考えました。

──今作はある意味、『こちらあみ子』の延長線上にあるという意識があったのでしょうか。

たぶん、あるんだと思います。『こちらあみ子』は、あみ子が結局、誰と関わることができるのかという話で、お客さんに向けてしかできないような関係性を作ったつもりなんです。その延長線上で、具体的に画面の中で、ふたりが関わることが可能だと示そうと思うと気を配らなきゃいけない。無邪気に関われますよとは、映画の中であんまり無責任に描けないというか。

──具体的に言うとどのようなことでしょうか。

それぞれが個体としてそれぞれの宇宙を持って生きていることを描きたいと思いました。というのも、映画やドラマで、2、3人登場人物が出てくると、それぞれが結局、何かを成立させるための役割を担わなきゃいけない存在になってしまっていると僕は常々思っているんです。そういう風にならないようにすごく気をつけました。役割を帯びない状態にしたいと。お互いの間に役割はないけど、ずっと一緒にいたことによって、それぞれに何か残るものがあるという風に描きたいと思いました。

──今作で言うと、トンボが姉や母のようにはならないということでしょうか。

姉もそうですし、子どもと大人の女性だと、母というか母性みたいなものが自動的に出てくるんです。特に、カットバックをすると人間は勝手に変換しちゃうので。それをできないようにというか、母性が出ていると見えないように気をつけました。

──なるほど。

自分が脚本を書いて撮ってるので、そうならないように撮ったつもりでしたが、それでも、そういう風に見えてしまうところもあったのでカットしました。年齢や性別に関係なく、ふたりがそれぞれ存在することをどう実現するのかを意識してました。

──それを映画で実現するのはなかなか難しいですよね。

そうですね。難しいですが、綾瀬さんだからできたところはありました。

──久しぶりに無色の綾瀬さんを見た気がしました。

そうそうそう。人間としても無色というか。

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──綾瀬さんは身体を使ったお芝居やアクションも、すごくお上手なので、どうしても...。

今までは結構、大きな役割を背負う役をやってらっしゃったんですよね。だから今回は、そういう役割を帯びない役をやっていただくのが面白いんじゃないかと思って、お願いしました。

──トンボという役に綾瀬さんはすぐに入り込むことはできたんでしょうか。

初日に綾瀬さんとトンボという役についてお話させてもらったら、2日目に「家にひとりでいる感覚なのかな」とおっしゃって。「トンボという役を感覚として掴むとするとそういうことなのかな」と。僕はひと言もそういうニュアンスのことを言ってないのに、向こうからその言葉を出してもらえたことが、すごく嬉しかったし、すごい人だと思いました。感覚的な人なんだと感じて、そこですごく信頼感が生まれました。

──トンボとハルの物語は理屈ではなく感覚で掴むしかなかったんじゃないかと感じました。

理屈を聞かれても、たぶん答えられない(笑)。たぶん、綾瀬さんが理屈で考えるタイプの人じゃなかったというのもあるかもしれないです。

──映画の中には、想像を膨らませるシーンが多かったと思います。特にカヌーのシーンは彼岸と此岸を可視化したようで、すごく印象的でした。

全部言ってしまうと、この映画の中で描いてる国道29号線の旅自体が、死んだ後がどうなるのかということと、生まれる前がどうなってたのかということを描いているんです。人間は結局、その間にいますよね。それを同時に混ぜたような世界にしたいと思ったんです。カヌーのシーンで言えば、今から死にそうなじいじが、カヌーに乗ってる時に、たぶん生まれる前のようなところからお迎えが来てるというようなニュアンスで考えました。

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──なるほど。生まれる前なんですね。向こうに行っちゃうのではなく。

生まれる前と死んだ後は同じなのかもしれないじゃないですか。僕らが生きてる時間以前に、ものすごく大きな流れがあるので。この映画で、ハルがそれはピンクのモヤモヤだと言ってるんですが、そのピンクのもやもやからちょっと出てる部分が人間の生きてる時間だとすると、結局、生まれる前と死んだ後は同じだと思うんです。だから、ハルはヤギ小屋で「生まれる前に戻った」と言ってます。そういう感覚を全体的に散りばめられたらと思いました。

──国道29号線を歩いて、そういう道に見えたことから生まれたアイデアだったのでしょうか。

そもそも、自分の感覚として死ぬこと自体も怖いですが、生まれる前のことを考えるのは別の怖さというか優しい、穏やかな怖さのような気がしていて。物理的な死を考える時の怖さは、生きてる時の残り時間のことを考える怖さだと思うんです。それは、生きてる方に重心があるからですが、生まれる前のことを考える時の不気味さみたいなものは夢があって好きなんです。そのことを前面に出した映画を作りたいという気持ちはあったかもしれないですね。

──生まれる前に何かしらの恐怖を感じてるかもしれない、と。

恐怖というか、不気味というか。藤子・F・不二雄先生が脚本を書いた『ドラえもん のび太とアニマル惑星』という、僕の心に残ってる映画があって。のび太君が夜中に目を覚まして、トイレに行こうとすると、廊下にピンクのもやもやがあって。そこを通って行くと動物が言葉をしゃべる惑星に行っちゃう話なんです。

──言葉を話す犬と仲良くなる話でしょうか?

そうそう、犬のチッポくんと仲良くなるんです。その映画の中に、そもそも動物たちがどこから来たかみたいなシーンで、月まで長い階段があって、そこから動物たちが降りてくるんです。階段のシーンを見た時に、僕は、物理的な暴力による死ではなく、生まれる前のことを感じる不気味さという怖さを感じて、それが子ども心にずっと残っていて。今作はその映画から影響を受けた部分は多いです。生まれる前の方の、月へ続いてた階段の不気味さみたいなものを映画の中で描きたいと思いました。

──そういうファンタジーのような側面もあってか、次のシーンとの繋がりが絵本のように感じました。

絵本のページをめくるように作りたいと思ったんです。ページをめくる時、こっちの面からこっちの面へ行く時はシーンが飛んでるじゃないですか。感覚的にそういうことをやりたいと思ってました。

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──トンボがお姉さんの家を訪ねていく場面で、お姉さんがトンボに対してずっと支離滅裂なことをおっしゃいますが、それによってトンボのキャラクターが浮かび上がってきたような気がしました。

あのシーンは、トンボ=のり子がどういう人間なのかということを描きたいと思いました。ただふたりで旅してるだけでは彼女の人間性が出てこないので、親族に会わせたいと思って、姉にしてみようかと。姉に会うと、たぶん否定されることになるだろうと。否定された方が、彼女の輪郭が出てくるんじゃないかと思いましたが、ただ彼女を否定してるだけだと、まるで姉が正しい人のようになってしまうというか、あまり面白くないと思ったんです。

──なるほど。

自分でしゃべりながら、もしかしたら彼女はのり子のように生きたいかもしれない。自分の生き方自体に疑問を持っているかもしれないけど、自分で自分を肯定するのを繰り返しながら、自分が言ったことを直後に打ち消すという、混乱した人として描きたいと思いました。ある意味、すごく人間的だと思います。僕もそういうところはありますし。

──この映画を作る上で、監督が最も大事にしたことは何だったのでしょうか。

ふたりのバランスです。僕としてはどちらかに比重を置かず、均等に描いてるつもりです。どちらかに視点がいったり、さっき言ったような母性みたいなものが見えたり、のり子のためにハルがいるように見えたり、ハルのためにのり子がいるように見えたりしないように注意しました。ほんの少しのカットの長さによってバランスが変わってしまうので、そこは1番気をつけたところです。あくまでもひとりひとりとして。どちらかのために存在しているのではないようにしたいと思いました。

取材・文/華崎陽子




(2024年11月 6日更新)


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Movie Data



(C) 2024「ルート 29」製作委員会

『ルート29』

▼11月8日(金)より、テアトル梅田ほか全国にて公開
出演:綾瀬はるか 大沢一菜
伊佐山ひろ子 高良健吾 原田琥之佑 大西力 松浦伸也/河井青葉 渡辺美佐子/市川実日子
監督・脚本:森井勇佑
原作:中尾太一「ルート29、解放」(書肆子午線刊)
主題歌:「Mirror」Bialystocks (PONY CANYON/IRORI Records)

【公式サイト】
https://route29-movie.com/

【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/348401/index.html


Profile

森井勇佑

もりい・ゆうすけ●1985年生まれ、兵庫県出身。日本映画学校 映像学科(現:日本映画大学)を卒業後、映画学校の講師だった長崎俊一監督の『西の魔女が死んだ』(2008)で、演出部として映画業界に入る。以降、主に大森立嗣監督をはじめ、日本映画界を牽引する監督たちの現場で助監督を務める。2022年、芥川賞受賞作家・今村夏子の同名短編小説を映画化した『こちらあみ子』で監督デビュー。同作は全国でロングラン上映されるなど、多くの観客に支持され、第27回新藤兼人賞金賞、第14回TAMA映画賞最優秀新進監督賞、第36回高崎映画祭新進監督グランプリ、第32回日本映画プロフェッショナル大賞作品賞、新人監督賞など多数の賞を受賞。また、第52回ロッテルダム国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭に正式出品され、台北映画祭では台湾映画批評家協会推薦賞、JAPAN CUTSのNEXT GENERATION部門では大林宣彦賞を受賞するなど高い評価を受けた。『ルート29』は『こちらあみ子』と同じく、脚本も自身が手がけた監督2作目となる。