ホーム > インタビュー&レポート > 主演・内野聖陽×岡田将生!税務署員と天才詐欺師が 手を組んでチームを結成するクライム・エンタテインメント 映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』 上田慎一郎監督インタビュー
──まずは、本作を監督することになった経緯を教えていただけますでしょうか。
2018年に『カメラを止めるな!』の公開前の試写に来てくださったプロデューサーから、やりたい企画があるとお話をいただいたのがきっかけです。この韓国ドラマを2時間の映画にしたいので一度見てもらえますか、と。見たらめちゃくちゃ面白かったのでやろうと決めました。
──詐欺師ものの映画は洋画も邦画もたくさん作られていますが、詐欺師の映画を作ってみたいという気持ちはあったんでしょうか。
まさにそうですね。詐欺師とか、ケイパームービーと言われる強盗映画、犯罪集団が集まって何かを強奪する映画、スパイ映画みたいなものが大好きだったので、いつか自分も作ってみたいという思いはありました。それにプラスして、公務員と詐欺師が手を組むというところがすごく面白いと思ったのと、自分の資質にも合ってるんじゃないかと思ったんです。それに、この題材はもしかしたら日本人の方がフィットするんじゃないかと思いました。
──主人公が公務員だからでしょうか?
イメージとしては、『オーシャンズ11』のようなフィクションの世界に、そこらへんにいるおっちゃんが紛れ込んでしまったみたいな映画にしたいと思って作りました。
──家族に軽めには扱われることもあるけど、ちゃんと妻と娘に心配されてるという熊沢の描写にリアルを感じました。
その辺は自分の経験と、娘役の河村花さんに聞いた話が影響してると思います。僕も結婚して子どもがふたりいるんですが、熊沢がお風呂掃除をしてる時に、妻から「排水溝の髪の毛忘れないでね」と言われてるのは、僕が実際、妻に言われる言葉なんです。「また排水溝の髪の毛取ってなかったよ」って(笑)。そういうところは自分のリアルな経験からなので、現実と地続きのリアリティが作れてるんじゃないかと思います。
──脚本を作る中で1番大変だったことは何でしたか?
全16話のドラマの最初の6話、大きく言うと3人の権力者を倒す内の、1人目の権力者を倒すまでを下敷きにしていて。大変だったことはいくつかありますが、原作ドラマの邦題が「元カレは天才詐欺師」で、どちらかというとラブ・コメディ寄りなんです。
──タイトルに「元カレ」が入ってますもんね。
今作で言うと、川栄李奈さんと岡田将生さんが元恋人という設定で。その辺りの恋愛要素は完全にカットして登場人物も整理した一方で、家族とのシーンみたいなものは増えてると思います。原作ドラマの方は、マ・ドンソクが主人公を演じてるので、情けない部分もあるけど強くも見えるし、マイホームパパみたいな一面はあんまりなかったんです。だから、日本人がより共感できるように、熊沢を普通の人、事なかれ主義の真面目で平凡なサラリーマンとして書きました。
──確かに、マ・ドンソクはどうしても強く見えてしまいますね。
それに加えて、ドラマなので、大きなクライマックス感みたいなものが5、6話では、映画ほどなかったんです。ドラマはその後も続いていくので。だから、2時間の映画の中で終盤に大きな仕掛けを作るところに1番苦心しました。終盤の展開は完全にオリジナルなので。
──大きな仕掛けと言うと、ターゲットに餌を巻くビリヤードのシーンもなかなかの大仕掛けでした。
ドラマでは、ゴルフなんですよ。しかも、ゲーセンにあるような、ビジョンに向かって打つデジタルゴルフだったので、もうちょっと華やかに、派手にしたいと思ったんです。それと、ビリヤードを描いてる名作はそこまで多くはないので、ビリヤードシーンをしっかり撮ってみたいというのも裏テーマとしてありました。
──ビリヤード映画と言えば、『ハスラー』とか。
アメリカ映画は、バーにビリヤード台が置いてあるので、ビリヤードのシーンも多いですよね。ビリヤードは本作の、最後の最後まで繋がる縦軸のひとつとして重要な要素になっています。
──確かに、日本映画でビリヤードのシーンはあまり見たことがないかもしれないですね。
『ハスラー』で日本でもビリヤードブームが起きたらしいですが、あまりないと思います。でも、ビリヤードを題材にした、深作欣二監督の『道頓堀川』は観て参考にしました。
──『道頓堀川』もナインボールが題材でした。
実は、内野さんはビリヤードの経験がほぼなかったんです。だから、すごい特訓をしてくださって。熊沢もビリヤード経験がなかったけど、練習して上手くなっていく設定なので、熊沢が上手くなっていく過程と内野さんが上手くなっていく過程が重なって、虚実ない混ぜになるようなライブ感があるようなシーンを作りたかったんです。
──なるほど。
だからこそ、ビリヤードのシーンのとあるスーパーショットは、本当に入れてもらわないといけないと思いました。
──あの、めっちゃ難しそうなショットですよね。
一見、どこに入れようとしてるかもわからないような難しいショットです。だから、あれはCGやカット割りで誤魔化してません。実際に内野さんが入れて、熊沢と内野さんの間のような人が喜んでるんですよね。どっちが喜んでるのかわからないような、虚実ない混ぜになったシーンが撮れたと思いました。
──内野さんのキャスティングは、脚本を書いてる時から考えてらっしゃったのでしょうか。
内野さんにお会いしてオファーをしたのは脚本が5、6稿ぐらいまで進んでからでした。
──内野さんのどういった部分が熊沢のイメージに合ったのでしょうか。
内野さんはいろんな作品に出てらっしゃいますが、「スローな武士にしてくれ〜京都 撮影所ラプソディー〜」という、時代劇の撮影所のバックステージもののドラマを見た時に、かっこ悪さとかっこ良さの両方を素晴らしく演じてらっしゃって。この映画にも両方が必要だと感じていたので、これは内野さんしかいないと思いました。
──なるほど。
それに加えて、多くの日本人が共感できる物語にしたかった。内野さんを知ってる人でも、この映画のポスターを見て内野さんだとわからなかったぐらい、内野さんは変わるんです、演じる役によって。
──確かに、本作のポスターを見ても、すぐに内野さんだとわからなかったです。
オーラから変わるんです。スターでも、その人でしかないというタイプの方と、すごく変わるタイプの方がいて、内野さんは変わるタイプの方なんですよね。そうすると、スターそのものが持つパーソナリティみたいなものが見えづらいので、多くの方に共感してもらいやすいんじゃないかと思いました。
──岡田さんは、まさにこの役にピッタリというぐらい、イケメン詐欺師そのものでした(笑)。
岡田さんは満場一致でオファーしました。岡田さんの場合は、良い意味で存在感としての懸念味が強いというか。フィクションの世界の人に見えるんですよね。
──確かに。
だからこそ、リアルな世界の人である熊沢を誘う役としてぴったりじゃないかと。岡田さんは一応、熊沢の味方側なんですが、いつ裏切るかわからない危うさというか、腹の底で何を考えてるかわからない底知れなさがずっと醸し出されてるんです。そこが本当に素晴らしいと思います。
──ターゲットの橘を演じた小澤征悦さんも最高でした。あの役をあそこまでやってくださるのはすごいと思いました。
めちゃくちゃ楽しんでやってくれました。最近は、悪役側にも事情があってみたいな作品が多いじゃないですか。そうじゃなくて、シンプルな悪を描こうと(笑)。
──何も事情はないですもんね、橘には(笑)。
何か事情を描こうかと迷った時期はありましたが最終的にはなくなって、ストレートに悪を演じていただきました。
──税務署が映画の舞台になることは少ないですが、実際に税務署のシーンを描くことで、苦労したことはありましたか?
ありました。まず、税務署の内情はベールに包まれてるんです。だから、本を読んだり、大村大次郎先生という、税務署についての本を出されてる方に監修に入っていただいたりして、かなり勉強して描きました。税務署のオフィスはネット上に一切上がってないんです。
──税務署のオフィスはハードルが高そうですね。
アポなしで税務署に行ったんです。「ちょっと税務署見せてください」と(笑)。
──(笑)。
中野区役所にご協力いただいてたので、区役所のロケハン帰りに区役所の方と一緒に近くにある中野税務署に行って、「中を見せてもらえませんか」とお願いしたら、「後日でしたら」ということで、税務署のオフィスの中に入らせていただいたんです。ただ、普通、ロケハンでは写真を撮るんですが、写真撮影は一切禁止だったので、メモやスケッチでオフィスを記憶して再現しました。
──大変そうですね。
税務署ルールみたいなことも結構あって。例えば、川栄さん演じる望月が熊沢のことを上席と呼んでます。あまり聞き馴染みのない言葉だと思いますが、税務署では上席か、上司の名字のさん付けかで呼ぶらしくて。後は、公の場で自分が税務署員ですとは言えないんです。公務員だとぼやかすしかないんです。
──なるほど。
税務署員の場合は、プライベートでも税務署員とは言えないんです。それは、癒着が生まれやすいから、らしいです。税務署員ですと言うと、「税金負けてえな」みたいなことを言われたり。だから、居酒屋へ行っても、賄賂とみなされるので唐揚げひとつもサービスではもらえないんです。後は地域との癒着を防ぐために転勤が多いとか。
──全くご存知なかった税務署ルールを把握した上で、脚本を書かないといけなかったんですね。
でも、税務署は面白かったです。
──詐欺師の映画で参考にした映画はありましたか?
いっぱいあります。参考にしたというか、昔から好きな映画でイメージしていたものは結構あります。詐欺師ものにはすごく好きな映画が多いんですが、その中でも、やっぱり『スティング』が好きで。
──詐欺師ものの名作ですもんね。
『スティング』はもう参考というか、詐欺師映画の金字塔として、ずっと僕の中にあるので、影響は受けていると思いますね。もうひとつ、『テキサスの五人の仲間たち』という映画があって。これは『スティング』よりも前に作られたんですが、詐欺師映画の名作ですし好きな映画です。後は、『オーシャンズ11』と『ミッション・インポッシブル』ですね。
──大仕掛けというか、仕掛けを作って騙す物語はワクワクしてしまいますよね。
そうですね。「実は、あの人はそうだったのか」みたいな、人間関係のツイストだけじゃなくて、『スパイ大作戦』みたいな、メンバーたちがそれぞれの特技を活かして活躍するチームワークの要素も入れたいと思いました。
取材・文/華崎陽子
(2024年11月19日更新)
▼11月22日(金)より、大阪ステーションシティシネマほか全国にて公開
出演:内野聖陽
岡田将生
川栄李奈 森川葵 後藤剛範 上川周作 鈴木聖奈 / 真矢ミキ
皆川猿時 神野三鈴 吹越満 / 小澤征悦
監督:上田慎一郎
脚本:上田慎一郎 岩下悠子
【公式サイト】
https://angrysquad.jp/
【ぴあアプリ】
https://lp.p.pia.jp/event/movie/356219/index.html
うえだ・しんいちろう●1984年、4月7日生まれ、滋賀県出身。2009年に映画製作団体を結成。『お米とおっぱい。』『恋する小説家』『テイク8』など10本以上を監督し、国内外の映画祭で20のグランプリを含む46冠を獲得。2018年、初の劇場用長編『カメラを止めるな!』が2館から350館へ上映拡大する異例の大ヒットを記録。2019年、『イソップの思うツボ』(共同監督作)と『スペシャルアクターズ』が公開。2020年5月にコロナ禍を受け、監督・スタッフ・キャストが対面せず“完全リモート”で制作された作品『カメラを止めるな!リモート大作戦!』をYouTubeにて無料公開。その後の主な作品に『100日間生きたワニ』(21)、『DIVOC-12』(21)、『ポプラン』(22)がある。2023年、「#TikTokShortFilm コンペティション」にて、短編『レンタル部下』がグランプリを受賞した。